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【インタビュー】Miss Red 『K.O.』 | NOを突きつける者を全てK.O.する

イスラエル出身のアーティストMiss Redはレゲエ・ダンスホールを自身のバックグラウンドとして持ちながらも、現行のダンスホールやダブのシーンとは一線を画した活動を行っている。The BugやMark Pritchardらのトラック上で、変幻自在のスタイルと強烈なリリックで輝きを放つ。

2015年末にリリースされたミックステープ『Murder』は多くのメディアやラジオで取り上げられ、彼女の類まれなスキルが広く認知されたきっかけとなった。その後も決してセルアウトする事なく作品を創り続け、自身の才能を見いだしたUKの重鎮The Bugの全面プロデュースのもと、1stアルバムとなる『K.O.』リリースしたMiss Redに話を訊いた。

取材・構成 : 高倉宏司

写真 : Nick Sayers

- 出身地について教えて下さい。

Miss Red - イスラエル南部のハイファの出身で、山も海もある小さな町。コミュニティが小さいからみんな仲良くて、アートやってる人間も音楽やってる人間もみな仲良くやってる感じ。私は同じ面子と小さな場所で10年も20年も過ごすのは自分のサイズを小さくすると思ってたから、新しい世界を見たかったから出て行ったけど。

- どんな音楽を聴いて育ちましたか?

Miss Red - 音楽はずっと幅広く聴いている。ダンスホールしか聴いていない時期も一時あったけど、それ以外はレゲエも古いものから最新のバッシュメントから、ドラムンベースやジャングル、ダブステップ、ジャズ、メタル、ドローンとかも全部聴いていたから今の自分があると思ってる。

- MCを始めたきっかけは?

Miss Red - 今から10年以上前、15歳くらいの時に地元のEasy Riderサウンドのダンスによく遊びに行ってたんだけど、ある日飛び込みでMCをやってみたら彼らが気に入ってくれてクルーに入る事になった。それが15歳くらいだったかな。そこからレゲエ・ダンスホールのレコードを買うようになってダンスホールに夢中になっていった。

- ジャンル問わず好きなアーティスト、影響を受けたアーティストは誰ですか?

Miss Red - Scientistは私にとって魔術師で、彼が手掛けたDubは原曲とは全く別のアートフォームになる。King TubbyやKing Jammyも同じように好き。PortisheadやGonjasufi、Lady Ann、Sister Nancyもそれぞれジャンルは違うけど、自分のスタイルを持っていてすごく影響を受けた。Grace JonesやLady Sawもそう。小さい時にはLauryn Hillからも影響を受けた。地中海の音楽からも、カリブからもUKからもヨーロッパからも影響を受けたけど、私のメインの音楽はいつもダンスホールとラバダブになるわ。

- ミュージシャン以外で好きなアーティストは?

Miss Red - バスキアからはいつもインスパイアされている。佐伯俊男もずっと好きなアーティスト。ジャマイカのレコードカバーを描いていたLimoniusも大好きでベルリンでのエキシビジョンも見に行ったの。

- プロデューサーのKevin Martin( The Bug )とはどうやって知り合いましたか?

Miss Red - 6年前くらいにThe Bugがイスラエルのフェスでプレイした後、何日かイスラエルに滞在していたんだけど、彼が40人くらいの規模の小さなクラブでシークレットライブをするって聞いの。それを観に行って彼のセットの途中でマイクを掴んだの。ショーの後、ケヴィンから「明日の17時の飛行機で帰るから、12時からスタジオに来て何かレコーディングしないか?」と言われた。まだ当時の私はスタジオに入った事は無かった。スタジオに入って、ケヴィンがトラックをかけて、「昨日、このトラックをかけた時に歌った歌、アーミーをDissした歌覚えてるか?あれを録ろう。」って言われた。覚えてた歌詞に、何ヴァース分か書き足してできたのが「Diss Me Army 」って曲なの。レコーディングの後、「2週間後にロンドンでギグがあるからMCをやりに来ないか?」って言われたわ。

- 今注目している女性MCはいるか?

Miss Red - Lady Channのライブは強烈だった。ただ現行の女性MCで印象を受けたMCはちょっと考えつかないわ。

- あなたはダンスホール出身ですが、ライブする時はThe Bugとのステージが中心で、現行のジャマイカ産ダンスホールやダブのシーンとは距離を置いているようにも見えます。そういったシーンについてはどう思いますか?

Miss Red - 自分らしく人とは全く違う曲をやりたいからね。レゲエの曲を書くのも好きだからBim OneやDub Stuyとコラボレーションしたけど、Miss Redとして曲を出すときは自分を進化させる為にも進歩的なプロダクションでやりたいの。そういった現行の音楽とやりたくないとかできないとかではなくて、常に自分に、自分の耳に、自分のリスナーに対して挑戦していきたいから。

- 今まででコラボレーションを断った相手を差し支えなければ教えてもらえますか?

Miss Red - Skaziっていうトランスのプロデューサー知ってる?イスラエルでは大物なんだけど。彼から曲送られてきて「こんなBPMでは歌えない。」って断ったら「何だと?オレはDamian Marley達とも仕事してるんだぞ!」って怒ってたの(笑)。「だからこのテンポではできないって」ってもう一回言っといたわ(笑)。

- ファースト・アルバムの『K.O.』がリリースされましたね。

Miss Red - かなり気に入っているし、以前よりも自分を表現できるようになった事を実感できたからすごくハッピーよ。Kevin Martin( The Bug )とスタジオで作業してる時は二人とも好き放題やってるから、最終的にどんな曲に仕上がるか分からず作業していたんだけど、幅広い曲調の曲が入りながらも音楽的なアプローチや言語は統一できたと思う。

-『K.O.』のコンセプトは?

Miss Red - 自分に「NO」という答えを突きつける者全てをKOするっていうのがコンセプト。「お前はこの国には住んではいけない」「お前はこれをしてはいけない」といった事を言ってくる奴らをKOするの。製作期間中に祖父が死んだから彼の写真をアートワークに使った。私の祖父達はホロコーストを逃れてイスラエルに逃げてきた世代で、何もなかったハイファの町に電気を通したのが私の祖父なの。私はポーランドとモロッコのハーフなんだけどポーランド側の家族は大家族だったけどほとんどホロコーストで殺された。このアルバムでは周りが突きつけてくる固定観念に反して、自分はユニヴァーサルな存在であるという事を表現できたから、自分にとって過去の作品とは違う大事な作品になった。地球の逆側に住んでる人と一緒に音楽を作ったりする事で、自分が生まれ育ったカルチャーとは全く違う事ができる。例えばThe Bugとは出身も年齢も違うけど完全に2人で1つになって作品を作れているの。

- アルバムの制作過程はどのようなものでしたか?

Miss Red - Kevinが準備した曲もあれば2人で1からどんなビートにするかを話合って組み立てた曲もある。声を録った後にトラックをアレンジしたり、ヴォーカルとトラックを行ったり来たりする感じね。The Bugと私はお互いが違う視点を持っているから違う事に気付く。まさか私が選ぶわけがないと思っていたトラックを私が選んでケヴィンをびっくりさせた事もあった。

- 収録曲のリリックについて簡単に教えて下さい。

Miss Red - "Shock Out"のリリックは気に入っていて、ショックを与えるって意味、全てをチョップしてミックスしてっていうのはレゲエのヴァイブにも通じる事ね。安定を求めて機械のような人間になるなっていう事や、バッドマインドは捨てろといった自分の哲学的な内容を歌ってる。悪いヴァイブを捨て去って自分らしく楽しんでって事。"One Shot Killer"は正しいタイミングで正しい状態であれば、殺すのに何発も必要ない、ワンショットで十分よっていう事。私がダンスに出る時、どんなヴァイブでどんなリディムであろうと正しい状態にいればワンショットでフロアは爆発するわって事。"Dagga"はダンスの1つで、「お前とはDaggaを踊れない」っていう内容のリリック。私はホットで可愛いって事はわかってるから見てもいけど近寄るなよっていう内容。女性の事を人格を持っていない、セックスの対象としての「肉」のように思って寄ってくる男が多いから、そいういう男に「ノー」を突きつけるっていう曲なの。そういう男は目を覚ませよっていう事。

女性の見方だけでなく物事を1つの側面しか見ない人間が多いと思う。確かに1つに決めつけてしまったほうが簡単なんだけど実際の現象はもっと深い。ダンスホールの世界でも普通に体を触ってきて「ベイビー」的な事を平気で言ってくるプロデューサーもいるけど、そういう奴らに警告を送ってる。セクシーな格好でステージで踊るのは、自分が音楽を、エンターテインメントを自分の好きなようにやっているだけで、大物でバックステージにいるからってケツを触っていいって事じゃないから。色々な国のカルチャーがあるからワイルドに遊ぶ事がクールとされる時もあるかもしれないけど、世界中でそれが通じる訳じゃないわ。クールとクールじゃない事は紙一重なの。私はそういう一元性しかない人間とは違って、音楽からもアートからも宗教からも全てのカルチャーからも学んだ上で、それらを言語として翻訳して表現する存在なの。

- 日本で好きなアーティストはいますか?

Miss Red - にせんねんもんだい、灰野敬二はすごく好き。坂本龍一の 去年出たアルバムは今でも聞いてる。あと自分とThe BugのライブのサウンドをやってくれてるGorgon( Ghengis )は世界一のサウンド・エンジニアでお気に入りのアーティスト。もっと日本の音楽を知りたいから良いのがあったら送ってね。

- 将来一緒に曲を作りたいプロデューサーはいますか?

Miss Red - 無数にいるけど、Mark Pritchardとはまた曲をやりたい。いつかPharrellとも曲をやりたい。良いコンビネーションだと思う。KraftwerkやWard 21ともやってみたい。Dave Kellyもそう。

- 1年後死ぬって決まったら何する?

Miss Red - みんなにさよならを言って、速攻でジャマイカに行って子作りをする。そこから船で旅してキューバやブラジルに行く。ずっと旅してると思う。

- 今後の予定を教えて下さい。

Miss Red - リリースイベントやツアー、The Bugとのショーの予定が入っている。以前よりも自身のMCのスキルも上がったし、ケヴィンとのコンビネーションも良くシェイプされて、私たちのステージは戦場みたいに激しくなったからチェックしてね。

 

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