日本最高峰のスキルを持つラッパーであるBESとISSUGIによるコラボ作『VIRIDIAN SHOOT』。2月末にリリースされた本作は、GWOP SULLIVANやGradis Nice、Scrtach Nice、Budamunkなどによるループが基調となった力強いトラックの上で、多くの経験を積んできた2人のラッパーによる力強くもグルーヴィーなラップを楽しめる作品になっている。
今回のインタビューでは同作の制作過程はもちろんのこと、2人にとってのかっこいいラップとは何かということや、自身が愛聴してきたコラボ作品についても話を聞いた。
取材・構成 : 和田哲郎
写真 : 横山純
- 以前ISSUGIさんとのインタビューで、今BESと作っているんですよと言っていて、その時はミックステープとしてリリースするということだったんですが、どのようにアルバムになったのでしょうか?
ISSUGI - 最初はビートジャック的にインストを使って、ミックステープとしてリリースする予定だったんですけどその形が難しいということになって、アカペラだけが6~7曲残ってたんですよね。それを使って何かリリースできるようにオリジナルのビートに乗せかえて、さらに新しい曲も追加してアルバムにしようという流れになりました。
- レコーディングは順調に進みましたか?
ISSUGI - そうですね、めちゃくちゃ短い期間で作れたんでスムースに出来たって印象ですね。
- スピード感が出ているノリが聴いていてもわかりますよね。
ISSUGI - 最初はミックステープを作るノリで始まっているから、いい意味でミックステープ的な感覚が入ってると思うんですよ。その後アルバムとしてまとめようとしたから両方の良い面が感じれるような内容になったのかなと。
- 曲のテーマなどはどうやって決めたんですか?
BES - トラックを聴いて、「ヨーイドン」で書いて、出来た人が先に録ってそれに合わせてフックを書いて、もう1人はそれに近い内容に寄せていくとか、そういう感じですね。速く録った方に合わせる(笑)。それか合わせなくても、なんとなくフックが決まれば締まるので。
ISSUGI - そうですね、間違いないです。
- ISSUGIさんはBESさんはめちゃくちゃ書くのが速いと言ってましたよね。
ISSUGI - そうですね、ずっと速かったですね。だから作る期間も短くなったと思うんですよね。基本的に1日に3曲ずつくらい録ってたんですよ。全部でスタジオも5回くらいで。自分でも何も用意しないでスタジオ行って1日で3曲くらい出来るときってそんなになくて。だからびっくりしながらできちゃったなみたいな。ははは、そういう感じでした(笑)
- BESさんにとっては普通のペース?
BES - そうですね、前に別のレーベルからリリースしたEPのために3曲レコーディングしたんですけど、2日で全部仕上げましたね。MVも一晩で2本撮ったし。でもそれくらいのペースでやった方が気持ちよかったです。取りあえず録って、ダメなところは直すんですけど、全部仕上げてからレコーディングするんじゃなくて、仕上げはレコーディングのときにして、書くのはバーっと書いちゃうんですよね。あとリリックを足したり消したりはレコーディングのときに調整しながらやる。
ISSUGI - 何も言わなくてもそういう細かい調整はお互い自然にやってましたね。
- フックの部分はどちらが作った?
ISSUGI - 今回9割くらいBES君にお願いしました。曲によってはこの曲のフックはスクラッチにしたいです、とか各曲ごとに提案しつつ。自分の中でフックはBES中心でいきたいのは決まってましたね。
BES - "We Shine"はISSUGIが。
ISSUGI - そうっすね、"We Shine"に関しては、フレーズとかフロウは自分が作ったんですけど、そのままオレの声質1本で行くというよりBESの声質をそこに足したいと思っていたので上から重ねてもらいました。オレの声質とBESの声質は似てないから、楽器に例えると違う音が出せる2種類の声なんですよね、"We Shine"は自分でこういうフックをって考えたんですけど、曲全体で見た時BESの声がフックに自分的に必要だったので「フック作ったんで、こうやって歌ってくれませんか?」って頼んだ感じです。他の曲ではBES君が考えたフックを普通にハメたいっていうのも沢山あったんで、「これBES君がフック作ってくれませんか?」って言ったりしながら1曲ずつ作っていきましたね。
- フックのノリがすごいパワフルで、コラボらしさが出ているなと思いましたね。
ISSUGI - ありがとうございます。おれもパワフルだと思いますね。
- 曲のテイストについてなどは、話さなくても伝わるという感じですか?
ISSUGI - そうですね、ほとんどスタジオでも細かいテーマとか話してないですよね。どっちかがRECして、もう1人がRECして内容が定まって行くみたいな感じで。
BES - 黙々と書いて録ってを繰り返して、ちょっと談笑してって感じでしたね。
ISSUGI - おれもBES君もいい意味でせっかちというか、ヤバいビート聴いたら「すぐ録っちゃおうぜ」って感じですよね。お互いのスピード感が結構近いというか、1曲に集中できる時間も近いのかなって。
- スタジオの中で印象的なことはありましたか?
BES - 俺的に面白かったのは、MICHINOちゃんが最初に書いてきたバースをISSUGIが、「これじゃダメだ」って言ったところですね。俺はあんまりハッキリ言うタイプでもないんで、それは面白かったですね。でも結果書き直してよくなったし、本人も喜んでましたね。
ISSUGI - オレはやっぱり、一緒に曲を作るんだったら100%自分の意見を言いたいし、相手にも言ってほしいんですよね。それは自分の思い通りにならないと嫌だとかじゃなくて、1曲として良いもの、完成度が高いものを常に作りたいからそこに向かってのディスカッションじゃないけど、曲を作る上でお互いの意見を言ったりするのは大事だと思います。それによって自分の中になかったアイディアを貰う時もあるし。曲が出来た時、作った皆で「良いの出来た!」てなりたいので。勿論なにも話さず、最後までうまくいく曲もいっぱいありますけどね。MICHINOに関しては、今まで聴いたMICHINOのラップで1番良いと思いました。
ISSUGI - あと面白かったのはKOJOE君のJ.STUDIOでレコーディングさせてもらってた時に、丁度良い肉があるみたいな感じで、いきなりKOJOE君が料理してステーキを振る舞ってくれた事ですね。うまかったです。しかも feat 仙人掌,Mr.PUG の曲を作ってる日で、自分のバースを録り終えないと、食べちゃダメみたいなルールになっていて。皆が食べてる時、まだPUGがリリック書いててわざと「うめー」って言ったり、KOJOE君が熱々のフライパンを水につけてジューって音をPUGに聞かせるっていう悪ふざけが笑えました。
- トラックメイカーはGWOP SULLIVANが多いですがこれは?
ISSUGI - 元々ソロで使うためにGWOPのビートを10数曲キープしてたんですよね、そのビートを使うのが自分の頭の中で3つ先くらいのプロジェクトになっちゃうと思ったんですよ。3つ先なら、その時になったら他のGWOPのが欲しくなるかなと思ってたら、アカペラが6~7曲空いたってことになった時に、ここで自分が持ってるGWOPのビートを突っ込みたいなと思ったんですよね。
- アカペラが先にあって、そこにビートをはめていくパターンは珍しいと思うんですが、そこは問題なかった?
ISSUGI - そうですね、去年出した”16FLIP VS BES” もそうっすけど 普段からリミックスを作ったりもしてるので、それの延長線上で、それを自分の声でやっているというか。最初の5~6曲はそうやってまとめていきましたね。それでアルバムにするにあたって、オリジナルのビートで書いた曲がある程度ないとまとまらないと思ったんで、曲を追加していった感じですね。特にできた順番を意識した訳ではないんですが、後半に追加して作った曲が多いかもです。
- 別の記事でBESさんは違う視点を持ってると言ってましたが、設明するとどういう面になるでしょうか?
ISSUGI - うーん、フロウをとってもリズムの作り方とか、言葉のチョイスとかもお互い違うと思うし、なんだろうな。生きてきて見てきたものもお互いあると思います。
BES - 俺が思うに、お互いにないものがあるのが一緒にやっていく上での条件で、自然と汲み取ってやっているというのはあると思うんですよね。自分でいうのもなんですけど、個々にスタイルはあると思うので、だからこそやれているというのもあると思う。
- ちなみにBESさんから見て、ISSUGIさんはどういうラッパーだと思いますか?
BES - もうかっこいいですよね。トラックは強くてラップはフレッシュだし、そこらへんは凄いなって。おれは書き続けたらわけわからなくなっちゃう時もあるんですけど(笑)ISSUGIはブレないというか。
- トラックについて戻りたいんですけど、いい意味でノリが出ているワンループのものが多いと思うんですが。
ISSUGI - そうですね、BES君はまた別かもしれないですけど、おれが好きなのはやっぱループがメインになっているやつで、展開があってもまた強烈なメインのループに戻ってそこでぶち上がりみたいな。Budaくんも、Gradis NiceもScrtach Niceもそうだし、おれのビートもそういうタイプだと思いますね。GWOP SULLIVANも似たスタイルだから、そういうまとまりはアルバムにあるかもですね。
- BESさんは今はポジティブなことしか歌いたくないと言ってましたけど、それは今回も意識しましたか?
BES - その方が書きやすいですね。今はそういう生活をしているし、結構すんなりポジティブなリリックが出たかなって感じはありますけど。でも詰まるときは詰まりますね。ネガティブなことを書いちゃったりとか。
ISSUGI - でもそれはそれで曲として違う面のよさがでると思うし。
BES - ISSUGIもポジティブじゃないですか、それでかっこいいなと感化されてる部分もあると思いますね。
- 一緒に曲を作っていて、影響されちゃう部分とかはありますか?
BES - (即答で)ここまでくるとないですよ(笑)インスピレーションをもらうことはあるかもしれないですけど、影響を受けるのとはまた違うんで、それはないですね。今は誰かを勘ぐってとかもないし、こういうのが気に食わないとかもないし、全部納得できる。
ISSUGI - 「BESがこういう風に乗せるなら、おれはこういう風に乗せよう」とかを考えたりはありましたね。どのラッパーが乗ったとしても1バース目と2バース目が両方フレッシュに聴こえた方がいいじゃないですか、そういうのは考えてます。
- リリックはポジティブな中にも今のシーンに対する怒りがあったかなと思うんですが。
ISSUGI - 日本のシーンという事ですか? 多分今シーンていう言葉ひとつで纏められるような全体像はだいぶ昔からもう無いと思うんですよね。とっくに壊れてると思っています。だから怒りというよりは、オレが好きな、信じてるHIP HOPはコレだよって感じですね。自分は世界全体で見た時に、HIP HOPの一部で在りたいし、その歴史をこれからも更新する一員でいたいんですよね。それに自分たちの周りにはまだ小さいかもしれないけど、全国中にそういったシンパシーを感じる奴らが作っている新しいシーン、流れはあると思ってます。それこそ日本語ラップ(?)的な中ではBudamunkとかCramは認知度が低いのかもしれないっすけど、2人は海外からの注目も高いしHIP HOPってワールドワイドなものなんだって思わせてくれる存在で、若いビートメーカーの憧れでもあると思うんですよ。
BES - どこまでがワックで、どこからが違うものなのかって考えるんですけど、人それぞれじゃないですか。おれもたまにワックとか言っちゃいますけど、それは俺たちみたいなことが、やりたくてもできないとか、それはしょうがないことなんですよ。そういう人に対して「バーカ」っていう感じでたまに言いますけど、全然違うことやってる人にはなんとも。
ISSUGI - そうですね、あとラップはスキルとリズム感が重要だと思います。そこが成長しないと日本のHIP HOP、聴覚的にずっとなめられると思いますね。
BES - それは言葉選び、韻の使い方、あとフロウのつけ方、スピットの仕方、ブレスの置き方、抑揚のつけ方ですね。
ISSUGI - かなり細かくなった、ははは(笑)
BES - これをどこまでやるか。リズム感の問題でもあるし、どれだけヒップホップを聴き込んだかだよね。
ISSUGI - おれがBES君から「指で追えないとそいつのフロウをわかっているとはいえない」と聞いて、ちょうどMethod Manの話をしてたんですよ。Method Manのフロウの特徴が小節の頭からじゃなくて前から入ってくるって話をしてて。それでBES君が声を出しながら、指を動かしてたんですけど、ちゃんとMethodmanのフロウになってたんですよね。「あ、確かにそうだな」と思って。そこまでわかってないと理解してるっていえないなって。
BES - いかに色んな人のを聴くか。おれが一番追えなかったのはJeru The Damajaで、フロウが流れてるようで流れてないんだよね。完璧に指で追えないのはHeltah SkeltahのRock。新しいのを出すと全然わけがわからない曲とかあって。「まだ息してないの、まだ言い続けるのか」って思う。その上で抑揚もついてるし。
- そういう聴き方をしてるんですね。
BES - やるんだったら違うものだとしても、同じものを理解できるくらいはアピールしたいじゃないですか。
ISSUGI - たしかにまず理解しないとっすね。日本人の盆踊りとか、五七五みたいな、表とオンしか知らないようなリズムだけで、ラップされても全然ノれないんですよね、自分は。J.dillaのラップみたいに分かっててポイントで表とか使ってくるのはイケてると思うっすけど。あっちのものを理解した上でスキルを磨けば、アジア人だし勝手にアジア人のオリジナリティも出てくると思うんですよね。
BES - トラックを活かしきれてないし、遊びきれてない。(言語は)違うけど、そこをわかった上で自分のスタイルを作って、それを変化させていくことの繰り返しだと思うんですよ。ラッパーとしてはリズム感は絶対に養ったほうがいいと思うんですよね。
- 天性のものだけじゃなくてリズム感を養うためにはやれることは?
ISSUGI - 常に音楽にノってる事じゃないですか? 日本人って踊るの恥ずかしい人多いじゃないですか? その壁がないほうが自然とそうなるのかなと思います。あとは超好きで色々聴きまくってたら、段々わかってくるというか。あとは意外とダンスやっている人とかが、かなりフロウとか理解してたりしますね。
BES - 『Duckdown Visuals』とかあるじゃないですか、擦り切れるほど観ましたもん。Buckshotすげーみたいな
ISSUGI - BootCampClick面白いし、カッコいいですよね。2枚目すぎないで、ギャグぽっさ入れれる所に親近感あるし全員ラップ上手すぎ。
- 今回は2人に好きなコラボものを選んできてもらっているんですが。
BES
Method Man & Redman
Fat Joe & Big Pun
ISSUGI
Evidence & The Alchemist (STEP BROTHERS)
Easy Money & Termanology
Talib Kweli & Styles P
Snoop Dogg & Dr.Dre
Nas & AZ
Talib & Hi-Tek (Reflection Eternal)
Freddie Gibbs & Madlib
J.Dilla & Madlib (JAYLIB)
Mos Def & Talib (BlackStar)
ISSUGI - BES君はMethod Man & Red ManとFat Joe & Big Punを選んでて、Fat Joe & Big PunにBESのオリジナリティーを感じましたね。
BES - 2組とも相性がいいんですよね。MVとかを見ててもFat JoeとBig Punの動きとかが面白いんですよ、ちょっと茶目っ気を出しているところが。
- お互い個性が違うのにハマってる。
BES - そうですね。2人とも全然違うけど超ハマってる。Method Man & Redmanも全然違うじゃないですか、レゲエ2人とも好きだと思うし。
- 他はISSUGIさんチョイスということで、例えばStep Brothersとかは?
ISSUGI - Step Brothersは元々2人とも好きなんですけど、EvidenceのラップのあとにAlchemistのラップが出てくると、おれは結構あがるっていう。黒人じゃないという点で共通してるところもあるけど、ラップの仕方とか声も違うし。Easy Money & Termanologyもそんな感じですね。1枚Lee Bannonのプロデュースでミックステープを1枚出して、それ聴いてやべえなって単純に思って。
- あとTalib Kweliが結構出てきますね。
ISSUGI - そうなんですよ。おれの中でTalibがコラボレーションの名手ですね。名手っていうかTalib自身が誰かと一緒にやるのが好きなんだろうなって。Black smithっていうレーベルもやってたし。おれの中で今回の作品(『VIRIDIAN SHOOT』)はTalibとHi-TekがやっていたReflection Eternalに、自分の役割が近いなと思ってて。Reflection EternalはHi-Tekがプロダクションを中心にやってると思うんですけど、ラップはTalibの方が多くて。Hi-Tekは右後ろくらいから自分の仕事を的確にやって1曲を完璧にする。それを今回はやりたいって思ってましたね。Snoop & Dreも好きなんすけど、DreとやるときのSnoopはよりバリっとしてるというかDreのコントロールを感じますね。Nas & AZも順番にでてくるとめちゃかっこよくて2人のコンビネーションすきですね。
- 並びの順番も重要なんですね。
ISSUGI - 違うフロウを持ってて、順番に出てくるんだったら、変わったタイミングで曲に変化を起こせるから、そのときに気持ちいいなとかかっこいいなって感じさせるのがラップの面白さだと思うんで、自然とそこに耳はいきますね。
- ちなみに日本人で自分たち以外のタッグで誰か一緒にやってみたら面白そうって人はいますか?
BES - 誰だろうな、最近でいうとJJJくんとStickyとか。
ISSUGI - ああ、そうですね1曲あったし、良かったもんな。
- 今取り組んでいるプロジェクトはありますか?
ISSUGI - 7INCTREEの今年出した12曲を1枚にまとめるのと、RODDY RODってプロデューサーとEPを作るっていうのが決まっていて、あとはMONJUのアルバムをやります。あとは最近やってるBAND SETでのレコーディングも進めたいですね。
- BESさんは以前のインタビューで「自分は早く辞めたほうがいい」と言ってましたけど、今作を聞くともったいないなと思いましたが。
BES - 予定よりちょっと延ばしましたね(笑)まだやりきれなかったです。もうちょっとこうしたいなってのもありますし、まだ完璧じゃないからちょっと延びちゃったなって。そんな感じです。
- 2人でのライブの予定は?
ISSUGI - 5/5にBEDでリリースパーティーが決まっているのと、あとは4/28北見、4/29旭川が決まってます。是非遊びにきてほしいっす。
BES - ライブは前から3on3とか出てたし、一緒にもやったことあるからそこまでやりこまなくてもね。
ISSUGI - そうですね、大丈夫だと思います。
- ありがとうございます。
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