フィンランド独立100周年とフィンランドが生んだ名監督アキ・カウリスマキの最新作『希望のかなた』公開を記念し、カウリスマキ監督が選んだフィンランド映画の傑作6本を紹介する特集上映『アキ・カウリスマキが愛するフィンランドの映画』が11/25から東京・渋谷のユーロスペースで開催される。
日本でも高い人気をほこるアキそして兄のミカのカウリスマキ兄弟。また近年では毎年恒例のフィンランド映画祭でも最新のフィンランド映画が紹介されるようになってきている。
しかし意外にも、フィンランド映画史を彩る名作の数々に日本でふれる機会は、これまで多くなかった。そんな状況の中フィンランド独立100周年という記念すべき年に、アキ・カウリスマキ監督が日本の観客のために、選りすぐりのフィンランド映画6本を選定してくれた。
日本からのリクエストに応えるかたちで選ばれた上映作品は、フィンランド古典映画の名作やカンヌ映画祭で受賞した吸血鬼映画、カウリスマキが敬愛する監督の作品やカウリスマキの盟友・故マッティ・ペロンパーの主演作などバラエティ豊かな6本。
今回の6本はほとんどが日本未公開で、ユーロスペース以外の会場への巡回の予定はない。この機会に知られざるフィンランド映画の世界に触れてみてはどうだろうか?
上映作品詳細
『夏の夜の人々』 Ihmiset suviyössä/People in the Summer Night監督:ヴァレンティン・ヴァーラ 出演:エイラ・ペコネン、マルッティ・カタイスト1948年 66分 DCP モノクロ 日本語・英語字幕付き美しい田園が広がる田舎町、夜でも陽の沈まない白夜の一日に、様々な人々の愛と死、そして 誕生の物語が交差する。フィンランド唯一のノーベル文学賞作家フランス・エーミル・シラン ペーの原作を、ヴァーラ監督がエイノ・ヘイノのカメラとタネリ・クーシストの音楽によって 透明な美しさをたたえた映像詩に昇華させた。フィンランド映画初のホモセクシュアルの役と 言われるノキアを演じたマルッティ・カタイストが本作でユッシ賞主演男優賞を受賞した。監督:ヴァレンティン・ヴァーラ Valentin Vaala(1909-1976)当時最大の撮影所スオミ・フィルムで、コメディから文芸メロドラマまで数多くの作品を手が け、民衆にも人気のあったフィンランド映画の巨匠。撮影所以降の世代にも大きな影響を与え ている。
『白いトナカイ』 Valkoinen peura/The White Reindeer
監督:エーリック・ブロンベリ 出演:ミリヤミ・クオスマネン、カレルヴォ・ニッシラ1952年 68分 DCP モノクロ 日本語・英語字幕付きトナカイ飼いの妻が、不在がちな夫の愛を取り戻そうとシャーマンの元を訪れるが、呪いによ って白いトナカイの吸血鬼にされてしまう。ラップランドの神話を表現主義的手法で描き、カ ンヌ映画祭でジャン・コクトーからベスト・フェアリーテール賞を授与され、ゴールデングロ ーブ外国語映画賞を獲得した。主演のミリヤミ・クオスマネンの魅惑が強烈な印象を残す。監督:エーリック・ブロンベリ Erik Blomberg(1913-1996) ユッシ賞(フィンランドのアカデミー賞)の撮影賞を3度受賞した撮影監督、プロデューサー、 映画監督。数々のドキュメンタリーや映画を制作している。妻は『白いトナカイ』のミリヤミ・ クオスマネン。『少年たち』 Pojat/The Boys監督:ミッコ・ニスカネン 出演:ペンッティ・タルキアイネン、ヴェサ・マッティ・ロイリ1962年 100分 DCP モノクロ 日本語・英語字幕付きパーヴィ・リンタラの小説が原作。第二次大戦後期、ドイツ軍が駐留する北部の街オウ ルで兵士に憧れる少年たちの日常。ソ連との継続戦争がフィンランドに残した傷を少年 の視点から描き、後のフィンランド映画に多大な影響を与えたニスカネン監督の第一 作。有名ミュージシャン俳優ヴェサ・マッティ・ロイリが本作でデビューした。監督:ミッコ・ニスカネン Mikko Niskanen(1929-1990) ユッシ賞監督賞 6 度受賞したフィンランド映画界の巨匠。特に子供や素人の演出を得 意とした。カウリスマキは最も好きなフィンランド映画として彼のテレビ映画『死に至 る8つの銃弾』(72)をあげている。『労働者の日記』 Työmiehen Päiväkirja/The Diary of Worker監督:リスト・ヤルヴァ 出演:パウル・オシポヴ、エリナ・サロ1967年 87分 35mm モノクロ 日本語・英語字幕付きリスト・ヤルヴァ監督の1960年代の作品の中で最も重要な作品。溶接工の男とブルジ ョワジーの女が結婚するが、家族や社会との関わりの中でふと現れる格差にやがて二人 の心はすれ違い、結婚生活にもひずみが入り始める。フィンランド初のプロレタリア映 画と言われ、公開当時、格差社会に対する議論を生みだした。監督:リスト・ヤルヴァ Risto Jarva(1943-1977) フィンランド映画史上最も重要な監督の一人。60年代ニューウ・ウェーヴの映画作家と してフィンランド映画界に新風をもたらした。ドキュメンタリー的手法を取り入れなが ら社会問題を描き、カウリスマキも敬愛する監督である。 『ラプシーとドリー』 Räpsy ja Dolly/Dolly and Her Lover監督:マッティ・イヤス 出演:マッティ・ペロンパー、ライヤ・パーラネン1990年 101分 35mm モノクロ 日本語字幕付き刑務所から出所したばかりの元セールスマンのラプシーと、パリを夢見るアルコール依 存症の元ダンサー、ドリーのほろ苦い恋物語。カウリスマキの盟友であったマッティ・ ペロンパーがこざかしくも憎めないラプシーを演じている。テレビと映画の両方で、社 会の片隅に生きるエキセントリックな人々を描いてきたマッティ・イヤス監督の作品。監督:マッティ・イヤス Matti Ijäs(1950-) ヘルシンキ生まれ。タンペレ大学でジャーナリズムを学ぶが、在学中にフィンランド国 営放送で働き始める。日本ではNHKBSで『レスラー』 (85)が放映、フィンランド映画 祭で『すべては愛のために』(2013)が上映されている。『僕はラスト・カウボーイ』 Skavabölen pojat/Last Cowboy Standing監督:ザイダ・バリルート 出演:イルマリ・ヤルヴェンパー、オニ・トンミラ2009年 123分 35㎜ カラー 日本語字幕付アンッティ・ライヴィオの戯曲が原作。1970年代、息子が見つけたある手紙によって、 絵に描いたように理想的な家庭が崩壊してゆく。両親の離婚、引っ越し、父の再婚、そして暴力。二人の息子は親の事情にふりまわされながら大人になるが…。近年のフィン ランド映画界において最も有望な女性監督の一人ザイダ・バリルートの初長編作品。監督:ザイダ・バリルート Zaida Bergroth(1977-) ヘルシンキ芸術デザイン大学で映画制作を学ぶ。期待の若手監督の一人であり、手がけ た長編『僕はラスト・カウボーイ』、『グッド・サン』(2011)、『マイアミ』(2017)はい ずれも世界の映画祭で高い評価を得ている
Info
会期:2017年11月25日(土)~12月1日(金)
会場:ユーロスペース 渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 3F tel.03-3461-0211 www.eurospace.co.jp
料金:一般1500円/大学生1200円/会員・シニア1100円/高校生800円/中学生以下500円
上映作品:
『夏の夜の人々』 監督:ヴァレンティン・ヴァーラ 1948年/66分/モノクロ/DCP
『白いトナカイ』 監督:エーリック・ブロンベリ 1952年/68分/モノクロ/DCP
『少年たち』 監督:ミッコ・ニスカネン 1962年/100分/モノクロ/DCP
『労働者の日記』 監督:リスト・ヤルヴァ 1967年/87分/モノクロ/35mm
『ラプシーとドリー』 監督:マッティ・イヤス 1990年/101分/モノクロ/35mm
『僕はラスト・カウボーイ』 監督:ザイダ・バリルート 2009年/123分/カラー/35㎜
主催:ユーロスペース 共催:Finland 100 Program、Midnight Sun Film Festival 協賛:フィンランド大使館、フィンランドセンター 協力:トーキョーノーザンライツフェスティバル実行委員会、フィッカ
アキ・カウリスマキ監督最新作『希望のかなた』
12/2(土)よりユーロスペース、新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
監督・脚本:アキ・カウリスマキ/出演:シェルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン
2017年/フィンランド/98分/配給:ユーロスペース
© SPUTNIK OY, 2017 kibou-film. com
内戦が激化する故郷シリアを逃れた青年カーリドは、生き別れた妹を探して、偶然にも北欧フィンラン ドの首都ヘルシンキに流れつく。彼の唯一の望みは妹を見つけだすこと。この街でも差別や暴力にさ らされるカーリドに、レストランのオーナーのヴィクストロムは救いの手を差しのべ、自身のレストラン に雇い入れる。そんなヴィクストロムもまた人生をやり直そうとしていた。それぞれの未来を探す2人 はやがて“家族”となり、彼らの人生には希望の光がさし始める…。