4月にリリースした4枚目のスタジオ・アルバム『DAMN.』のプロモーションのため、全米をツアー中のKendrick Lamar。同アルバムはダブル・プラチナムを達成し、発売から約4ヶ月後にもビルボード1位に返り咲いている。
まさに今、最もホットなラッパーと言っても過言でないKendrickは8月9日(水)にステイプルズ・センターにて、同ツアーで3回目となる地元LAでの公演を行った。オープニング・アクトのTravis ScottとD.R.A.M.の他に数名のサプライズ・ゲストを招いたステージは、観客を熱狂の渦に巻き込んだ。その様子を写真とレポートで振り返る。
午後7時30分頃、D.R.A.M.によるオープニング・アクトは、バックDJがかけるPlayboi Cartiの“Magnolia”で、ほぼ定刻に幕を開けた。この時点での観客の入りは7割といったところだろうか。その後にステージを控えているTravis Scottや、この日のメインであるKendrick Lamarのために余力を残しておきたいのか、比較的大人しめな反応を示す観客たち。
しかし、D.R.A.M.はおかまいなしに、“Cute”や“Cash Machine”といった、昨年リリースしたデビュー・アルバム『Big Baby D.R.A.M.』からのヒット曲を中心に披露していく。バラードのようなアレンジを加えながらシームレスに曲を繋いだステージは、観客を惹きつけ、頭の振り幅を徐々に大きくしていく。そして、そんな観客たちをいきなり総立ちにさせたのが、今をときめくXXXTENTACIONのサプライズ登場であった。
ヒット曲“Look At Me”で登場した彼は、ステージ上にてD.R.A.M.と握手を交わすと、ほとんどラップすることなく観客席に乱入し、そのまま歩き回る。気付けばほぼ満員となっているステイプルズ・センターの雰囲気を満喫したのか、曲が終わるのを待たずして、足早にステージ裏へと去っていった。場内の興奮が覚めやらぬなか、D.R.A.M.が最後にパフォームしたのは“Broccoli”。彼もまた観客席に入り、お決まりの「ビヨ~ン」大合唱が起こり、オープニング・アクトとしては十分すぎるほどに会場を温めてステージを締め括った。
その後を引き継いだのが現在、3枚目のスタジオ・アルバムとなる『Astroworld』や、Quavoとのコラボ・アルバムの制作に取りかかっているというTravis Scottだ。最新作『Birds in the Trap Sing McKnight』から“the ends”を披露し始めると、場内からは早くも大きな歓声が起こる。その後も同アルバムからの曲を中心にパフォーム。ステージ中盤で巨大な鳥を模したセットが天井から登場すると、Travisはその上に乗り、Kanye Westよろしく空中を浮遊しながら“Father Stretch My Hands, Pt. 1”を含む10曲程度を披露した。
観客が灯した携帯電話のライトの中で“90210”を披露するなど、エモーショナルな場面も見られたが、それ以外は、椅子の上に立つよう観客に指示するなど、場内を大きく盛り上げるようなTravisのパフォーマンス。
中でも“Butterfly Effect”では自然とフックの合唱が起こり、ビートが鳴り止んでも止まらないほどであった。また、“3500”では、遠路はるばるステイプルズ・センターまでやってきたという熱狂的な少年のファンにマイクを渡し、“Only trill ni**as I know”のフックを歌わせるサービスも見せた。会場前方左側からは“Travis”コールが起こり、思わず笑みをこぼす。
「今日はLAでの最終日なだけじゃなくて、俺にとっての『DAMN.』ツアー最終日なんだ」と客席に言葉を投げかけるTravis自身が、鳥の背中で飛び跳ねながら、誰よりもステージを楽しんでいるようであった。最後には、鳥のセットから降りながら大ヒット曲“Antidote”を披露し、Kendrick Lamarとのコラボ曲である“goosebumps”を口ずさみながらステージ裏へと消えていった。
そして午後9時30分頃、待ちに待ったKendrick Lamarの登場である。4月に行われたコーチェラ・フェスティバルと同様に「カンフー・ケニー」をテーマにした映像が流れると、白煙の中に黄色いジャンプスーツ姿のKendrickが佇んでいる。地元LAでの最終公演は、大きな爆発音とともに、『DAMN.』からのヒット・シングル“DNA.”で幕を開けた。
続けざまに“ELEMENT.”が始まると、観客はフックだけでなく“I don’t do it for the ‘Gram, I do it for Compton”のパンチラインを被せる。Kendrickは手を緩めることなく“King Kunta”など過去作からのヒット・シングルや、“Collard Greens”や“Mask Off (Remix)”といった曲での客演ヴァースを披露。Rihannaとのコラボ曲“LOYALTY.”が終わると、“FEEL.”のインストが流れるなか、会場中央付近の上下するステージに移動した。
無数の豆電球のようなライトに囲まれながら上下するステージで、Kendrickは“LUST.”と“Money Trees”をラップするが、ここで今回最大の山場の一つが訪れる。後者の2ヴァース目が終わると、前方のステージから力強く3ヴァース目をスピットする声が聞こえる。そこに立っていたのは、他ならぬJay Rockだった。何も言わずに1ヴァースを蹴り、ステージを去っていくその姿はまさに仕事人。『good kid, m.A.A.d city』時代からの多くのファンを熱狂させた。
さて、前方のステージに戻ったKendrickは赤のセットアップ・ジャージに衣装替え。“XXX.”と“m.A.A.d city”を披露すると、前者のステージに登場したダンサーとともに宙吊りになり、最新作『DAMN.』で最も内省的な曲の一つである“PRIDE.”をパフォーム。Kendrickの声に応えてステイプルズ・センターに詰め掛けた2万人以上が一斉に携帯電話のライトを点灯する様子は壮観だ。
その後はメロウな雰囲気そのままに、“LOVE.”と“Bitch, Don't Kill My Vibe (Remix)”の2曲を披露。ショウも終盤に差し掛かり、いつものように「会場の温度を確認させてくれ」と観客にKendrickが呼びかけると、後ろからやってきたのはこの日のオープニングを飾ったD.R.A.M.であった。彼はここでも“Broccoli”を披露して観客を合唱の渦に巻き込み、ハッピーなヴァイブを充満させた。
D.R.A.M.に続き、6月にデビュー・アルバム『Ctrl』をリリースしたSZAが姿を見せる。彼女はここで“Love Galore”をパフォーム。残念ながら客演のTravis Scottは姿を見せなかったものの、歓声の大きさが、彼女が早くも年間ベスト・アーティスト候補の一人であることを物語っていた。
「もう1人呼んでいいかな?」とKendrickがクラウドに呼びかけると、ScHoolboy Qが。QはKendrickと共にジャンプしながら、昨年のアルバム『Blank Face LP』からのヒット曲“THat Part”をパフォームし、息の合ったところを見せた。
今やブラック・ライヴズ・マターのアンセムとなった“Alright”が終わると、いよいよビルボード最高1位を記録した“HUMBLE.”である。おなじみの“My left stroke just went viral”の後は、観客のアカペラ・タイム。曲が終わると何度も頷くKendrickの姿が前方のスクリーンに映し出される。会場から車で15分程度のコンプトンで生まれ育った30歳のラッパーは、それよりもはるかに長い自分の来し方を見つめ返しているかのようであった。歓声に応えて2回目の“HUMBLE.”をパフォームしたKendrickはステージから姿を消すが、当然これで終わりではない。ステージに戻ったKendrickは「アルバムで気に入ってる曲の一つを演らせてくれ」という言葉の後に、“GOD.”を披露してステージを終えた。
総じて、人口10万人にも満たないコンプトンが生んだ、Kendrick Lamarという一人のラッパーの影響力が、今やどれだけ大きなものになったか、窺い知ることのできる一日となった。もちろんそこにはTravis ScottやD.R.A.M.をはじめとした他のアーティストも寄与したことも忘れてはならない。日本で同規模のショウを実現するのは難しいかもしれないが、昨年の『HOT 97 SUMMER JAM TOKYO』のように熱いオーディエンスが集結すれば、同じだけのエナジーを体感できると筆者は信じている。“HUMBLE.”にイライラなどしている場合ではない。来日公演を強く望む!
奧田翔(おくだ・しょう)
1989年3月2日宮城県仙台市出身。会社員。『DAMN.』ツアーを経て同アルバムで一番好きな曲が“LOVE.”になった。
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