6月25日(日)まで東京・六本木ヒルズ展望台 東京シティビューで『マーベル展 時代が創造したヒーローの世界』 が開催中だ。マーベルといえば、現在公開中の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』をはじめ、スパイダーマンやアイアンマンなど様々なヒーローを創り上げ、巨大な世界を築き上げた。
1939年に設立されたマーベルは時代背景・社会情勢を作品に反映させ、絶えず変化を起こしながら、常に新しい驚きとエンターテインメントを生み出すことで、常にファンを楽しませ続け、その世界へ引きこんできた。今回の『マーベル展』ではアベンジャーズやスパイダーマンなど、おなじみの作品やキャラクターをはじめ、日本初公開となる貴重な資料、衣裳や小道具など約200点を展示。その世界観を余すことなく伝えている。
そして展覧会にあわせマーベル編集者として、マーベルの主要なキャラクターが登場する作品ほぼ全てに関わっているトム・ブリ―ヴォートが来日。展覧会のプレビューイベントのアフターパーティーでDJもつとめたマーベルフリークのTJOが、トム氏にマーベルの世界について、また、ヒーローがどのような思いから生まれているのか話を聞いた。
TJO - 昨夜は素晴らしい夜でした。僕もDJをしましたが、今朝起きた時に思わず「昨日に戻りたい!」という気持ちになりました。
トム・ブリーヴォート -昨日来場した多くの方々も非常に良い時間を過ごされたのだと思います。エネルギーに満ちた、この勢いが展覧会期間中ずっと続くことを願います。
TJO -コスプレをしている人たちを含め、本当にマーベル作品が愛されているなと感じました。マーベルは時代毎に社会を反映した作品を出してきましたよね。では今現在の社会では、どのような部分を反映させたいと思っていますか?
トム・ブリーヴォート - それを知るには来週出るコミックを読まないといけないですね(笑)マーベルのストーリーは、私たちの「窓の外の世界」というのが基本的なテーマになっています。みんなが感じている社会の問題や、社会の状況をマーベルのストーリーに登場するキャラクターも感じている、というのが非常に重要なポイントです。だから、人々が感じているようなことを上手く取り入れたストーリー展開になるのです。「(特定の)1つの問題を必ず入れる」というものではなく、多くの人々が感じているいくつかの問題を散りばめて、なおかつスーパーヒーローの目から見た状況を反映しようとしています。人々が心配に思うことは、彼らも心配に思っているのです。例えば、私たちに身近な問題を1つ挙げるとすれば、駐車場が足りていないという現象があったりしますが、まあ、それをいろいろなところで使うわけにもいきませんから、どこかで題材として取り上げ、でも他のコミックスでは別の問題を取り上げて・・・といった感じになります。
TJO - 実際に関係者が集まって、時事ネタを話し合う時間などはあるんですか?
トム・ブリーヴォート - まず1年に3~4回主要なクリエイター・エディターが参加する会議があります。この会議ではそれ以降の1年から1年半くらい、どのようにマーベルを展開させていくかについて、アイディアを出すのです。ストーリーのアイディアや、こういう問題にはこのキャラクターのストーリーが良いのではないかというような話もしますね。その会議の後にはどの時点で、何をやるか、何月に大体こういう風にしていこうなどという、将来を見据えたロードマップを描いておきます。けれど社会に絡む時事問題は予測不能でいろいろなことが起きますから、都度取り入れる話題について微調整しながら、ストーリーの中に反映していきます。エディターは1週間に1回、会議をしていて、そこではストーリーだけではなくてビジネス全体の話もしますよ。また、同じ頻度でトレーニングとしてマーベルの朗読会も行っていて、ストーリーを読んだ上でそのストーリーについて、自分たちの意見を交換したりもします。
TJO - なるほど。根本的なところに戻るのですが、マーベルのヒーローは人間的な葛藤を抱えることで、ファンからの共感を得ていると思います。ズバリ、マーベルにとってヒーローのあり方とは何でしょうか?
トム・ブリーヴォート - マーベルのヒーローは、表向きは非常にカラフルで様々なパワーを持ったスーパーヒーローなのですが、実際はヒーローコスチュームを脱げば中身は私たちと変わらない人間であるという点ですね。だから『アイアンマン』ではアイアンマンがトニー・スタークというわけではなくて、トニー・スタークがスーツを身につけることでアイアンマンになるのです。スーツを脱げばトニー・スタークは私たちと同じようにさまざまな悩みを持っている1人の人間だということが、読者が彼に自己投影し、なおかつ共感を持つために非常に重要なポイントになっているのです。
TJO - 昨日のトークイベントで特に印象的だったのは、「映画、ドラマ、グッズは体のパーツでマーベルの心臓はコミックス」という言葉でした。マーベルは意欲的に活動領域を広げていますが、原点であるコミックスから変わらない、マーベルの作品に共通している価値観は何だと思われますか?
トム・ブリーヴォート - マーベルのキャラクターは人ありきで、ヒーローは二の次です。これはマーベルが築かれたときから、ずっとストーリーの根底にあったものですね。マーベルスタジオが作られる前は、マーベルのキャラクターがライセンス化されて他の会社が映画化したりしたこともあって、それが上手くいったものもあれば、あまり上手くいかなかったものもありました。キャラクターの特徴を1番知っているのは、やはり私たちなのですね。だから私たちが映画を作ったほうが、誰かに依頼するよりも確実に適切な形で、忠実にキャラクターを反映することができるということでマーベルスタジオができたのです。それによって映画でもアニメーションでも、ベストな形でキャラクター像を反映することができるようになりました。「コミックスは心臓部分」という意味は、心臓は身体中に血液を循環させ、血液は最終的には心臓に戻って来る。そして、血液が身体中を回っていく中で、様々なアイディアが吸収されていって、戻って来た時点で心臓部であるコミックスにそのアイディアが反映されていく。こういったように、すべては一方通行ではなく相互的に作用していくものだと考えています。コミックスは種のようなもので、それが色々な経験、思いを持って成長していくのです。
TJO - 現在マーベルは映画やドラマなど様々なタッチポイントを持っていますが、僕自身がDJということもあるので、音楽についても質問させてください。例えば『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は映画とサウンドトラックが見事に結びついて、映画における通常の音楽以上の価値を生み出していますよね。そういったところも踏まえてマーベルと音楽の関係性、また今後音楽ビジネスへの展開などは考えていらっしゃいますか?
トム・ブリーヴォート - 音楽が重要な役割を担うのは、その通りだと思います。特に『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』はマーベルスタジオでも、ジェームズ・ガン(監督・脚本)やケヴィン・ファイギ(プロデューサー)といった主要なメンバーも、音楽が作品の世界を創る上でも重要だと考えています。ただ私自身はコミックスの人間で、あまり音楽の展開については詳しくはなく…。でもマーベルのどこかの部門で、音楽についてどうやって展開していくか真剣に検討しているかもしれません。例えば、Marvel.comのウェブサイトではマーベルに影響を受けたミュージシャンやアーティストがマーベルについて語ってもらっている記事も出ています。今後も反応がよければさらに展開していくことになると思います。
TJO - 最近ではキャプテン・アメリカがヒドラの一員だったという衝撃的な事実が明かされ、大きな話題になっていますよね。これまでにも色々な作品でインパクトのあるストーリーが展開されてきたと思いますが、そうした大きな変化を恐れずにチャレンジできる理由について教えて欲しいです。
トム・ブリーヴォート - マーベルには、長年生き続けているキャラクターが数多くいます。そして、彼らがさらに長く生き続けていくためにはどのような新しい要素を加えるべきか、考えていく必要があります。「どういったアングルでキャラクターを捉えていくと、より生き生きするか」ということは常に大きなテーマなのです。担当者であるジョー・ケサダは、マーベルはオモチャ箱みたいなものだとよく言っています。「オモチャに傷一つつけたくない」と思っていると、棚の上に置いておくしかなくなり、いずれはホコリをかぶった役に立たないものになってしまいます。でもオモチャ箱に入れて、壊してでもいいからガチャガチャと遊ぶと、そのオモチャの印象が強く残り、そしてそのオモチャがずっと生き続けることにも繋がると思うのです。だから多少壊れてもいいから、思い切り遊ぶということが必要なのだと考えています。
トム・ブレヴォート - だから私たちも恐れずに、思いもよらぬ出来事を起こしていくのです。それによって読者の冒険心が刺激されて、次の回も読みたいという思いにさせることができます。特にキャプテン・アメリカは70年位前から存在して、浮き沈みも経験しているから結構打たれ強いのです (笑)ストーリーに飽きさせないために、どうやって毎月の楽しみを生み出すかが、非常に重要ですね。
TJO - 最後に、トムさん自身が思うマーベルを象徴するキャラクターを教えてください。
トム・ブリーヴォート - 色々なキャラクターがいるから1つというのは本当に難しいですね…。あえて言うならばスパイダーマンでしょうか。スパイダーマンはマーベルの世界で昔から活躍しています。また、若者がある日突然強力なパワーを持ち、最初はそのパワーを利己的な目的で使ったことで痛手を被り、その後も“個人としての自分”と“スーパーヒーローになった時の自分”とのバランスについて悩み続けるというストーリーを持ったキャラクターです。こういった話はマーベルのヒーローが持っている典型的なストーリーの1つで、自由な力を持つというのは非常に大きな責任を持つのだということを読者に教えてくれます。そういう意味では、スパイダーマンはマーベルを象徴するキャラクターだと思います。『スパイダーマン:ホームカミング』の公開も間近なので、ぜひスパイダーマンの世界に浸ってみてほしいなと思います。
TJO - ありがとうございました。
『スパイダーマン:ホームカミング』は8月11日(祝・金)に日本公開。
公開を記念して、5月29日(月)から六本木ヒルズ ヒルサイド 2Fでは「スパイダーマンカフェ」が期間限定オープンする。また、『マーベル展』会場に隣接するマーベル・カフェも同日からfeat.スパイダーマン:ホームカミングバージョンに。映画公開の一足先に、スパイダーマンの世界を体感しよう。
TJO
プロフィール
ジャンルを縦横無尽にプレイするミスター・オープンフォーマットDJ。日本、イギリス、タイ人の血を引きパリに生まれる。
東京を中心に日本各地でのクラブ・レジデントパーティーを抱える他、近年では世界中の多様な大型フェスに出演。
また、ラジオ・パーソナリティーとしての人気も高く”block.fm”では彼のトークを随時楽しめる。冠番組としてはファッション・ブランド “EMPORIO ARMANI”とTJOのタイアップ番組が好評OA中である。
音楽プロデュースでは、国内外を問わず多岐に渡るアーティストに楽曲を提供。
楽曲制作の他、DJ MIX作品では、2016年に世界最高峰のダンス・レーベル "ULTRA MUSIC” から日本人初となるMIXCDリリースを実現したことがシーンに衝撃を与えた。
Info
マーベル展 時代が創造したヒーローの世界 東京展 開催概要
会期 :2017 年 4 月 7 日(金)~6 月 25 日(日)※会期中無休 10 時~22 時(入館は閉館の 30 分前まで)
会場 :六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー(六本木ヒルズ 森タワー52 階)
主催 :東京シティビュー、NHK プロモーション
特別協力 :ウォルト・ディズニー・ジャパン
入場料 :一般 1,800 円、高校生・大学生 1,200 円、4 歳~中学生 600 円、シニア(65 歳以上)1,500 円
※展望台、森美術館入館料を含む 公式サイト:www.tokyocityview.com/marvel-exhibition 問い合わせ:03-6406-6652