Koji Nakamuraの"地図にないルート"(VOLVO 公式コラボレーションソング)は、音楽作品を手掛けるのは初となる直木賞作家・唯川 恵氏を作詞に迎え、Koji Nakamuraとタッグを組んで制作した楽曲。ナカコーとの異色タッグでブランドの世界観を表現。ナカコーのストリーミングオンリーのプロジェクト”Epitaph(エピタフ)”の一曲としてプレイリストにも並べられている。本作品を映像作品へと昇華した山田智和監督に制作についてのインタビューを行った。
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唯川 恵さんの歌詞からインスピレーションを映像に反映させたポイントや映像化のキーとなる歌詞などはありますか?
歌詞はコンセプトを決める上でとても大きなヒントを与えてくれます。
『地図にないルート』は単なる物理的な旅や移動ではなく、精神的な旅や変化を表しているのだと捉えました。歌詞は外向きへの膨張と同時に、内宇宙へ向かっていくことに確信的に作られています。
撮影現場について。部屋、お風呂、映画館のシーンなど文字通りシネマティックな感じですが、撮影で大変なことだったり、こだわったポイントはありますか?
性格上の問題だと思いますが、撮影は始まってしまえば大変と思うことはないのです。こだわったのは、現場で起きる最大限の美しい瞬間を逃さないということです。それは演者の一瞬の俯きだったり、チラッと反射した何気ない外光だったり、ガラスの写り込みだったり、水の波紋だったりします。その瞬間に順応に反応していくこと、これが一番現場でこだわっているのかもしれません。
あとは、予算がとても限られている中で、ロケ地や、キャスト、スタッフィングの精度を上げるということです。現にカメラマンの近藤哲也さんとの出会いはとても大きな選択肢を僕にくれています。
同い年の太田莉菜さんに関してもそうです。彼女のような一流の役者と仕事することが今の自分には意味があることなのです。予算がなくてもそういう人たちをきちんと説得することが一番大切だと思います。そのためにたくさん準備をしてなくてはいけないので。 照明や美術、スタイリスト、ヘアメイクさん全てに言えることです。
ザラザラっとしたシンセが特長的なナカコーさんのサウンドの質感と、監督のフィルムっぽい色使いと粒子の質感がシンクロ率が高かったように見え、聞こえました。そこは意識した部分でしょうか?映像と音楽の質感みたいなものは意識的にシンクロさせようとしているのでしょうか?
映像を作る時は音に対して合わせにいくことが大半で、たまにその反対もあるのですが、今回は楽曲と、歌詞のイメージが質感としてしっかりとフィットしたと思います。これは映像云々の前に、楽曲が持つ力強さに影響されています。ナカコーさんの楽曲の素晴らしさに映像が乗っかているし、いい意味で映像が前に出てきたりの繰り返しが、気持ちのいい作用を起こしています。
また女優の肌、メイク、花、キスシーンなどをクロースアップでの肌感、質感の美を追求されたと思います。シネマグラファー、カラリスト、メイクアップ、照明の方とどのような打ち合わせをして、どのようなイメージを持って撮影に望み、映像として完成させていきましたか?
実はいわゆる絵コンテと呼ばれるものがなかったんですね。文字でカットリストが膨大にあったのですが、特にこれじゃなきゃいけないというものに向かうのではなく、現在進行で現場でビジュアルを探っていく感覚があります。
あらかじめ決められたものを再現だけすることに、個人的に全く興味がないと言っていいかもしれません。それは許される現場とそうでない現場が映像業界のシステム上あるし、どちらがいいかなんて一概には言えないですが、その分スタッフとのコミュニケーションがとても大事になります。 その際の言葉選びだったり、説明する力が今の自分に足りているのか常に疑問に思いながらも、 現場で一つの方向に向かっていく感覚はとても幸福です。 僕も絵コンテを切って撮影に臨むこともよくあります。 ただ今回はより自由な発想やイマジネーションを持って撮影に臨めました。
フィルムで上映されたと思わしき映画のシーンで女性2人が走る姿は撮り下ろしですか?2人はどんな映画を見ていたのでしょうか?もし監督があのシーンを含む映画を撮るならどんな映画にしますか?
やはり、何かを打ち壊そうと模索し、走り続ける人は美しいです。誰にもでもあらゆる障害や境界がレイヤーに重なって、壁のようにそびえ立つ現実があります。そこから脱しようとしたり、逃げてみたり、超えていく人を僕は「美しい」と思っていて、そういう人間をしっかりと捉え続けたい、描き続けたいと思っています。
もし他にユニークなエピソードなれば教えてください。
僕の青春時代はスーパーカーを聞いて育ってきたので、今回ナカコーさん楽曲の映像を作れると聞いて、とても嬉かったし、緊張もしました。もし、僕が今、音楽的な感覚を持っているとすれば、それは学生時代にナカコーさんを追いかけたらかもしれません。まだご本人にはちゃんと会えていないのですが、いつかしっかりとお話ししたいと思っています。そして次はもっとフラットな直接的な関係でご一緒できたら幸いです。ラブレターみたいで気持ちが悪いですが、、、尊敬するアーティストであり続けるのだと思います。
山田智和
映画監督、映像作家。東京都出身。
クリエイティブチームTokyo Filmを主宰、2015年よりCAVIARに所属。2013年、WIRED Creative Huck Awardにてグランプリ受賞、 2014年、ニューヨークフェスティバルにて銀賞受賞。
水曜日のカンパネラやサカナクションらの人気アーティストの映像作品を監督し、映画やTVCM、ドラマと多岐にわたって演出を手がける。シネマティックな演出と現代都市論をモチーフとした映像表現が特色。