2014年ロンドンで結成されたレゲエパンクバンド、Smiley & the Underclass。今年、結成わずか3年にして、イギリス最大級の野外ロックフェスティバル、Glastonbury Festivalにも出演が決定した今最注目バンドである彼らの中から、日本人ドラマーのJay Hiranoにインタビューを敢行した。彼の語る、ロンドンという街でミュージシャンとして、そして日本人として生きることとは。
取材・構成 : 堤香菜
- 今回はロンドンの音楽制作環境についてお聞かせ頂きたいと思っているのですが、その前にJayさんのことをお伺いしたいなと。
Jay Hirano - 18歳で渡英して、語学スクールの初日にまず先生に訊いたのが、「どうやったらイギリスでバンドができるか。」だったんだよね。(笑)そうしたらメンバー募集の載っている雑誌や張り紙が多い場所を教えてくれたんだけど、ぴったり合うバンドってやっぱり簡単に見つからなくて。よしじゃあ自分で作るしかないってことで、ネットで募集をかけたのがロンドンで音楽を始めたタイミングかな。Foo FightersのDave Grohlっているでしょ。それで募集の広告に、”Japanese Dave Grohl Available”って書いたのは今でもよく覚えてるね。それで組んだのが最初のバンド。バンド活動以外にもブルースバーのジャムセッションなんかには毎週叩きに行っていたよ。その後にもいくつもバンドを組んだけど、ロックから始まって、カントリー、ブルース、フォーク、それで今レゲエパンクに辿り着いたって感じかな。
- そして2014年にSmiley & the Underclassを結成される訳ですが、これはどういう経緯で?
Jay Hirano - 俺の経営しているバーではライブもやるんだけど、ある日ボーカルのSmileyが一人でギターを持ってお店に入って来て、「ライブやらせて」って言ってきて。最初はなんだコイツ、って思ったんだけど、いざ弾き語りのライブを観てみたらハンパじゃなくカッコよくて、それで声をかけたのが始まり。それから知り合いのベースとギターを誘って結成したんだけど、今思えばSmileyだけじゃなく、他のメンバーに出会ったのも全部うちのバーがきっかけだったね。
- そして結成約3年目の今年、イギリス最大級の音楽フェスとしても知られるGlastonburyに出演されますが、これは相当早い流れですよね。
Jay Hirano - そうだね。本当にステップアップが早いと思うし、それには何より人との繋がりが決め手になっていると思う。あとはノッティングヒルっていうエリアでバンドを始めたことも大きな要因の一つだよ。The ClashもSex Pistolsもみんなこのエリアに住んでいて、バーにもよく来るんだ。新しいアルバムのレコーディングでもスタジオを使わせてもらったThe ClashのMick Jonesなんて週に一度は必ず会うしね。この街ではそういう人達と自然に関わるチャンスがあって、受け入れてくれる土壌は整っていると思うよ、クソ野郎じゃなければ。(笑)もちろん良い音楽であることは大前提として、そこに人間性が伴っていなければやっぱり受け入れてもらえない。だから俺たちは常に色んな意味で「イイ奴でいようぜ」ってことを意識しているね。こんなに周りから助けてもらえるバンドってなかなかいないと思うよ。
- 音楽活動に限らず、ロンドンでの生活という面についても少しお伺いしたいのですが、メンバーとの出会いの場ともなったバーはJayさんが経営されているんですよね。ミュージシャンとの両立で苦労された部分はありますか。
Jay Hirano - お店を経営するってことはもちろん大変だよ。他のメンバーはフルタイムミュージシャンだから、それに合わせて時間を作ることも難しい時はあるけど、毎週日曜日にバーでジャムセッションをやって定期的に集まったり、それ以外にもできるだけ直接会ってコミュニケーションをとるようにしてる。全員が音楽やバンドを生活の一番大事な部分だと思っているから、大変ではあっても苦ではないね。
- ロンドンと日本の生活や文化面での違いを特に感じる点やエピソードはありますか。
Jay Hirano - ロンドンは、全体的に自分の意見を持っている、且つそれをはっきり言う人が多いかな。あとはもちろんだけど、何より言語はまず乗り越えないといけない違いの一つ。自分のことを知ってもらうには話さないといけないし、いくら意見があっても言わないでいればそれはないのと同じことになる。ロンドンに来た当初は英語も不自由だったから、ファーストフード店でもオーダーができなかったり、バンドメンバーとの連絡も辞書を見ながら必死だったね。単語の聞き取り違いで誤解が生じるなんてことはよくあったし、今でも初めて聞く単語やフレーズはあるから、日々吸収しているよ。英語の上達に関しては、音楽を通して出会った仲間と一緒に住むようになったことがやっぱり一番大きいね。
- 治安や物価の面からはどうですか。
Jay Hirano - 俺が来た2002年から考えると、ロンドンの治安は良くなっているかな。ただ、Brexit以降、人種差別的な犯罪も増えているし、今後気を引き締めないといけないとは思うね。物価で言えば、不動産は日本、食料品ならロンドンの方が安いと思うし、実は外食も今は美味しいものが多いんだよ。
- ロンドンは移民が多数を占める多国籍社会ですが、その中で日本人として意識していることはありますか。
Jay Hirano - こうやって海外で色々な国の人に会っていると、ふと「この人の人生の中で、俺が唯一の日本人になるかもしれない。そうしたら、日本人=俺ってことになるよな」って思うんだ。だから、日本人代表くらいの気持ちは常にあるし、対等に接することや、日本人としての格好良さを考えることは染みついているね。
- 6月にニューアルバムがリリースされますが、これはいつ頃から制作を始められたのですか?
Jay Hirano - 約1年前だね。これはレコーディングを3回に分けて、スタジオも2箇所使っているんだ。一つはレゲエシーンのパイオニアでありプロデューサーのNick Manassehのスタジオ、もう一つはさっき言った通りMick Jonesのスタジオ。クレジットではNICK MANASSEH at the Yard(Nick Manassehの裏庭)と、Mick's Place(Mickの家)って表記にしているところも実は気に入っているんだ。
- 作品のコンセプトについて教えてください。
Jay Hirano - 俺たちは結成からずっと政治や環境問題へのメッセージを込めた楽曲を作って来たけど、今作は特に、そんな社会に対する革命のテーマソングを作るような気持ちで臨んだよ。アルバムの『REVELS OUT THERE(反逆者はどこだ)』というタイトルにもそんな想いを込めてる。アルバムの曲名を見渡しただけでも、イングランドを舞台の中心として、独裁者と反逆者、大都市の陥落、そして真実、といったテーマで物語が構成されていることがわかってもらえると思う。だから曲順には本当にこだわっているね。
- そしてその結果、曲調的な意味でもアルバム全体のバランスが取れていったと。
Jay Hirano - まさにそうなんだ。そうやって作品を考えられることや、楽曲に巡り会えたことは本当に幸せだと思うよ。
- 今回はCDとアナログ盤を同時リリースされますが、ジャケットにもこだわりがありそうですね。
Jay Hirano - 今回ジャケ写を描いてくれたのはイタリア人のRonchというアーティストで、彼が俺たちのライブを観た後に、何か協力させてくれって申し出てくれたことがきっかけなんだ。原画が上がって来た時に、額縁で囲んだデザインにしたらどうかって提案したのはSmileyなんだけど、それ以外にもかなり密にコミュニケーションを取りながら制作を進めたよ。これ、全部無償でやってもらっているんだけどね。(笑)
- こうして自然に引き寄せてきた人間関係だからこそ、受注発注でも、トップダウンでもなく、対等な関係性の中で良いものを作ることだけに集中できる、ということですか。
Jay Hirano - そうだね。いくら無償であっても、いざ一緒に制作をするとなったらもちろん言いたいことはしっかりと伝えているからね。それもハンパじゃなく。(笑)そういうやりとりが作品の完成度にも繋がっていると思うよ。
- レコーディング環境について、日本と異なると感じる点はありますか?レコーディング風景を納めた写真が印象的でした。
Jay Hirano - 全体的にリラックスしている、という感じはあるかな。野外ということもあるし、スタジオレコーディングの風景であんなに開放感のある写真は珍しいと思うよ。レコーディングになるとNickのスタジオ横のガレージのシャッターを閉めて、ドラムセットとマイクを立てて録るんだ。DIYな感じだけど、そこがまた良くて、レゲエをやる人たちはこぞってそのスタジオに録りに来てるよ。そういえばNickとの出会いはかなり衝撃的だったな。フェス出演の為に車で移動中、突然運転していた車のエンジンが火を吹いて(笑)。レスキューの人がその車をうちのガレージに移動させて、俺が楽器を降ろしていたら、それを見ていた人が「お前ミュージシャンか」って声をかけてくれたんだ。それでよく話を聞いてみたらNickのスタジオも隣にあるってことで彼を紹介してくれたんだけど、俺はその時Nickのこと知らなかったの。でも次の日Smileyに「Nick Manassehって知ってる?」って訊いたら、「え、俺のヒーローだけど。」って。それでまたすぐに会いに行って、今では俺たちのライブでDJをしてくれたりもするし、Glastonburyではサウンドエンジニアをやってくれるんだ。車が燃えたことはショックだけど、そのおかげでこの出会いがあるし、メンバーには「Jayの車よくやった!」って言われたね(笑)。
- ここまでお話をお伺いする限り、制作環境は非常に充実していて、メジャーもインディーも関係ないですね。
Jay Hirano - そうだね。関係ないかな。確かにメジャーにいる利点はあると思うけど、それを人の力で打開したいよね。
- 日本の制作環境についてはどう感じますか。
Jay Hirano - とにかく何をやるにも費用が高い印象があるかな。どこでライブをするにもお金がかかるっていうことにも驚いた。レコーディングも然り。このアルバムのスタジオ代だって、一日約2万円だし、5,000円くらいの場合もあったよ。ただそれはもちろん特別価格。あれだけクオリティーの高いスタジオでもこの金額ってなると、値段のつけ方ってもうわからないよね。そう考えると、関係性や想いで請け負ってくれる部分というのが圧倒的に違う気がする。
- 前作ではKickstarterにも参加されていましたよね?新しい試みへの許容や好奇心と、変わらない信念のようなものとのバランス感覚を感じました。
Jay Hirano - そうそう。いろんな人がコミットしてくれたらいいなと思って。結果、世界各国の人たちが協力をしてくれて、自分たちでも驚いたよ。古い新しいという感覚に関しては、俺たちの新しいMVもそうだけど、テクノロジーがなければ表現出来なかったものってたくさんあって、そういう意味では賢く取り入れていくことに抵抗はないね。ただ、デジタルよりもアナログ、CDよりもレコードの方があたたかいとは思っていて、レコーディングのやり方もそう。基本的にはクリックを使わずに、一発録りだから、ライブの空気感を閉じ込められていると思うし、そういう部分は一貫しているかな。
- 今後の活動について聞かせてください。日本での活動にも興味はおありですか。
Jay Hirano - 直近では4月22日にO2 Bristolでライブがあって、6月にヨーロッパツアーでフランス、ドイツ、オランダ、ルクセンブルグを周るよ。日本にも是非行きたいね。今作には収録されていないけど、"Fukushima"という曲もあって、日本で演奏出来たらいいな。
- 非常に充実したロンドンでの制作環境に身を置かれている印象を受けましたが、日本で音楽をやっている人たちに対して、ロンドンはお薦めできる街といえますか。
Jay Hirano - もちろん出来るね。日本でミュージシャンをやっていると、いつかやめないといけない、っていう空気があるように感じるんだけど、ロンドンでは、「お前ミュージシャンなんだ、いいじゃん!」って誰もが受け入れてくれる。一番不思議に思っていることは、ミュージシャンって、歳を重ねる程上手くなっていくし、そのままの熱量さえあれば、音楽って絶対に良くなっていくはずなのに、日本の市場って、今若さばかりが注目され過ぎているように思う。それは、例えば30歳を過ぎたら、とか、3年で芽が出なかったらやめるというみたいに。本当はこれからがバンドとして良くなる時で、実際にロンドンで本当に上手くてカッコイイなって思うバンドってみんな30代だし、そういう人たちの演奏には上手さも説得力もあるんだよね。あとは音楽の需要っていう観点から見ても、ロンドンの方が大きい気がするかな。だから活動の幅も広いし、ミュージシャンとしての活動だけで生活するっていう意味だけにとらわれずに、ミュージシャンとして胸を張って生きていくっていう風に考えたら、ロンドンではいくらでもやりようがあるよ。音楽をやるのに終わりを決める必要なんてないしね。
- Smiley & the Underclassも今後そんなバンドに?
Jay Hirano - どうだろうね(笑)。ツアーに行くときなんかは、俺らは結構別行動をすることもあって。Smileyは地元のレコード屋に、ギターのJamesは楽器屋に行くことが多いんだけど、ベースのRyanだけはいつも何をやっているのかわからなくて、とにかく気付いたら一番最初にいなくなってる。俺はいつも観光してるね。(笑)そんな感じでバランスが取れているから、もうお前たちの顔なんて見飽きたわ、って思うまでは続くかな(笑)。
Info
2017年6月2日リリースアルバム
Smiley & the Underclass
「REBELS OUT THERE」
CD £10.00
VYNYL £15.00
01. IT’S ALL ENGLAND
02. REBELS OUT THERE
03. TRUTH & RIGHTS
04. NOW YOU KNOW
05. ANOTHER KIND OF HUMAN
06. WANT STUFF / MAKE STUFF
07. MACHIAVELLI BLUES
08. BABYLON IS SPIRALLING OUT OF CONTROL
09. NO-ONE’S GETTING THERE
10. JUMP THE BARRIER
Smiley & the Underclass オフィシャルHP
www.smileyandtheunderclass.com
アルバム「REBELS OUT THERE」プレオーダー
https://smileyandtheunderclass.bandcamp.com/album/rebels-out-there