昨年10月にtofubeatsが新曲"SHOPPINGMALL"をSoundCloudで公開した。翌日にはリリックビデオもYoutubeにアップされた同曲は、tofubeatsがその時に感じていた問題意識やパーソナルな思いをさらけ出した切実であり真摯な楽曲だった。さらに5月にリリースされるニューアルバム『FANTASY CLUB』も、こうしたモードの楽曲が他にも収録されるという。
FNMNLは"SHOPPINGMALL"が重要な楽曲だと思い、どのようにこの楽曲ができたのか、現在tofubeatsというアーティストが何を考えているのかを、同曲をきっかけに辿った。未聴の方はインタビューを読む前に、ぜひ1回歌詞と共に楽曲を聴いてみてほしい。
取材・構成 : 和田哲郎 写真 : 横山純
tofubeats - "SHOPPINGMALL"
何がリアル
何がリアルじゃ無いかそんなことだけでおもしろいか
何がいらなくて何が欲しいか
遊び足りないわけでもないな
あの新譜 auto-tune 意味無くかかっていた
もう良し悪しとかわからないな
君らが数百万回再生した
バンドの曲が流れていた
何かあるようで何も無いな
ショッピングモールを歩いてみた
最近好きなアルバムを聞いた
とくに 話す相手はいない
~~~~~
何がリアル
何がリアルじゃ無いかそんなこと誰にわかるというか
何がいらなくて何が欲しいか
自分でも把握できてないな
あと3つくらいは良い所が欲しいな
良い車よりクラシック作りたい
身近な人喜んだらいいな
適当なこと言う人しかいないな
何かあるようで何も無いな
ショッピングモールを歩いてみな
最近好きなアルバムあるかい?
- "SHOPPINGMALL"はグッとくる、真摯な曲だなと思ったんですよね。消費社会に対する批評性とかも含みつつ、音楽家としての孤独さを歌っている曲だと感じて。そもそもどうして作ろうと思ったんですか?
tofubeats - 単純な動機として、『SEQUENTIAL Prophet-6』ってシンセを買って、それで何か作りたいなと思って作った曲なんですよ。去年の10月にできて、その当時PNLってフランスのラップグループをめちゃくちゃ聴いてたから、そういう感じでやりたいなと思って作ったら、いい感じにできたんで、勢いで家でビデオを撮って作ったっていうのが一連の流れで。アイディアとして、僕はラッパーじゃなくてラップは嗜む程度ですって言うようにしてるんですよ。なんでかって言うと、ラップっていうのはほんまのことを言わなあかん、嘘でもいいんですけど、自分にとってこれを言うことが正しいこと、一本筋が通ってないとダメだと思ってるんですよ。そんなことってあんまりない、だからそんなにラップできなくて、年に1~2回、これはいけそうだってときにラップするんですよ。今回はテーマも積み重なって、いい感じに機材とかのタイミングもあってできたんですね。
- すごい複合的な理由で。
tofubeats - 「最近の若いラッパーの多くは、言いたいことがそんなに無いんじゃないか」って話をマネージャーの杉生さんと去年よくしてて、それに対してどう向き合っていくかの答えって感じなんですね。言いすぎるとカッコ悪いですけど、ショッピングモールを揶揄してるように聞こえる曲じゃないですか。でも自分はショッピングモールで育ってるんですよ。最近、僕スタバとかによく行くんですけど、スタバがオシャレとかそんなんじゃなくて、チェーン店の方が落ち着くからなんですよ。個人経営の喫茶店とか行っても落ち着かないんですよ。それぞれ違うおもてなしの感じが逆に無理で、画一化されていた方が実は楽なんですよね。というのを曲にできないかなという感じだったんですよね。自分は人と違ってちゃんとやってるって言いたいけど、ちゃんとした素養を持ってるのかっていう問いみたいなことって言いにくいじゃないですか。だから曲になったって感じです。
- 僕がメディアをやっているからかもしれないですけど、メディアに対して言ってると聴こえる部分もあって。
tofubeats - 「適当なこと言う人しかいないな」でしょ?
- そこもだし「何かあるようで何もないな」って箇所も、メディアって何もない状態にもかかわらず、何かあるように言わなきゃいけないといけなかったりするわけで、そういう構造を使って、アーティストでも最初からすごい何かあるように見せるのが上手い、理論武装をしっかりして出てくるアーティストが多いじゃないですか。
tofubeats - 理論武装した上で何かを持っていればいいんですけど、っていうだけの話だと思います。"SHOPPINGMALL"とかさっきの話は「自分は本当に何かを持ってるのか?」っていう問いじゃないですか。そういう前段があるかってことなんですよね。何も言いたいことが無かったとしても、音楽を作る以上それを何かに変えていかなきゃいけないわけじゃないですか。先に理論武装だけしてるようなアーティストというのは、そういう問いをすっとばしてカマしの部分しか無いっていう人たちのことなんじゃないでしょうか。ただ「そういう人たちと自分が違うんだ」って証明出来るの?って言われると出来ないんですよ。それが曲に出てきた感じですね。
- ちなみに歌詞で、「最近好きなアルバムを聞いた」と歌っていますが、実際に聴いていたアルバムがあるんですか?
tofubeats - あれはSolangeの『A Seat At The Table』ですね。ビデオもすごい良くて感動したんですけど、まあこの感動は他でないな、こんなに胸がすくような納得は中々ないなって思ったんですよね。"Cranes In The Sky"とか曲も良ければビデオも良くて、しかも制作に4年かかってて、実際良いし。そうやんなあと思って。ちゃんとやってないのに、ちゃんとしたものなんてないとは思うんですけど、身の回りをみるとそうでもないように感じるし。本当はちゃんとしてるのかもしれないですよ、でもそれがわからない。
tofubeats - Solangeの良さは、個人の見える範囲の誠実さと向き合ったところだと思っていて。Beyonceは声と力の大きい人が、その大きい力を利用して政治をするって感じたんですけど、Solangeはそうじゃないと思ったから、しっくりきて。結構ベタなことですけど「落ちてるゴミがを見つけた時に、それを拾うか拾わないか」というような問いと近い。全然自分と関係のない人が捨てたゴミがあって、それを自分は拾えるかどうかという問いがあるじゃないですか。それをみんながやったらキレイになるよねっていう。そういう想像力がめっちゃあるアルバムやなって。しかもそこにいくまでには、以前は無闇にお金を使ったけど無理だったっていう自省もあって、人間らしいところと、それをどうにか理性とか知恵で、どうにかできひんかっていうのが全編に渡ってあって、それが良かったなって感じですね。
- パーソナルな範囲の中でやれることをやる。
tofubeats - 自分が問題に直面したときに、どうするか。ロマンも持たせて、雄大なんだけど自分のハンドリングできる範囲で扱ってるのが良かったなって。
- tofubeatsさんが前にmikikiでやってた連載のある回のタイトルが『荒野の時代』だったり、ファーストアルバムも『Lost Decade』じゃないですか。そしてポスト消費社会的情景の"SHOPPINGMALL"もあって、自分がいる環境が荒野だなっていう意識は常にあるんですか?
tofubeats - 言葉で説明しにくい部分ではあるんですが、まず自分のやっていることが世間から大歓迎されているとも思えないし、自分にとって嬉しいニュースがたくさん飛び込んでくる世の中ではないように思います。だから基本的にポジティブではないですよね、要素としては。悪いところが目につくというか、減点法なんで。そういうものに直面したときにどうするかっていうのが、時々によって違う。2016年はポジティブに振舞ってみるとか、でも年が変わって今は違うなって感じで。
- あと今って音楽自体がメディアで語られることって少ないじゃないですか、音楽をめぐる環境論とかはたくさんあるんですけど。音楽自体ではなくて方法論でしか評価されてなかったりするなって。
tofubeats - ジャーナリズムってそういうことなのかって。そういう役割も重要かもしれないですけど。ミュージシャンも結構そうじゃないですか。音楽で世の中を変えたい!とか言う人たくさんいますけど一体どういう奥行きでそういうことを考えられてるのか、いまいちしっくり来ないことのほうが多い気がします。別に自分がそこまで世間を変えてやろう!みたいな意思を持ってるわけでもないですけど。歓迎されていないと感じる話にも繋がるんですけど、僕がほんまに好きなものって、日本でそんなに元々歓迎されてないから。それを自分がもしポップな曲を書いて承認されたら、そういう自分が好きなものの間口になるんじゃないかって思ってた節もあるんですけど。今年からモードが変わって次のアルバムも"SHOPPINGMALL"みたいな曲が増えて、それはポップなことをやって間口を広げるってやり方は1回方向転換してみて、もうちょっと自分からポッと出てきたものに近いものを、やってみたらどうなるんだろうっていうのがテーマで。アルバム『Lost Decade』はそういうやり方でやってたんですけど、ずっとそのやり方自体も試行錯誤してますよね。
- ちなみにPNLとかフランスのラップだとMHDとかも好きなんですよね?フランスのそういう音楽に魅かれるのって?
tofubeats - MHDの"Afro Trap"を去年聴いて、ノリがやっぱりヨーロッパぽいというか、トラップってなった時に踊れる方にいくんやって。アフロっぽいパーカッションが入ってるトラップじゃなくて、トラップぽい音色でアフロっぽいリズムの方に重きが置かれてて、そっちかっていうのが良くて。昔もフランスのヒップホップチャートを追ってるときがあって、TTCとか結構好きだったんで、やっぱりPara Oneは心の大師匠なんですよね。そういうのがあって、またチャートを見てみたら面白かったんで。フロウの感じも子音が多いから面白いんですよね。あとアメリカのラップと違ってカラッとしてないのが肌に合ってて。僕はやっぱり湿度が高めな感じの方が好きなんで。それはすごいよかったですね。
- "SHOPPINGMALL"は無機質的な感じもするんですが。
tofubeats - めちゃくちゃウェットなものを意識して作ってますね、アナログシンセだし。トラップぽい感じのオケなんですけど、鳴ってる音のリリースが長いし。硬いインタビューになってますね(笑)
杉生(tofubeatsマネージャー) - "SHOPPINGMALL"はいきなり曲が送られてきて、何これ?と思ったけど、すごい良い曲だったし、今思っていることが全部出た曲になってたね。
tofubeats - 僕は悲しんでるんですよ(笑)
杉生 - 悲しみたい性格だしね。僕は割と苦手だけど、tofuはニュータウンの物悲しい雰囲気が好きだし。
tofubeats - チェーン店の話もそうだし、やっぱりそれしか摂取して育ってないから。懐かしさがチェーン店にしかないんですよ。喫茶店とかは大人になってから行くようになったからレジャーって感じなんですよね。
杉生 - 「ショッピングモール」って言葉を好意的に捉えるか否定的に捉えるかは人によっても違くて。
tofubeats - 今は中心部に出てきて、小さいお店とかのことを、僕も個人商店でやってることもあって、やっと分かってきましたけど、昔は、人はいっぱいいるけど人気はないショッピングモールが全てだったんで。大人になったらあの雰囲気はヤバい部分もあるんだなってわかるんですけど、どこかであれを求めてる部分があるんですよ。僕は例えば官公庁の近くとかのような場所じゃないと住めなくて。パキっとしたところ、整備されたところが好きなんですよね。それには抗えないものがあるんですよね。
- ショッピングモールが自然ってことですよね。
tofubeats - 僕にとっては変えがたい風景っていうか、それと家しかないんで。
- あと2010年代ってショッピングモールが音楽的に消費されたじゃないですか、Vapor Wave的なものだったりとか。でもあれはフィクションの要素がありますけど、今回のショッピングモールはすごい切実なものとして出てきてますよね。
tofubeats - tomad社長が指摘してるんですけど、Macintosh Plusが『Floral Shoppe』をリリースする2ヶ月前に『スローモーション(ひみつの)』ってEPをリリースしてるんですよ。社長に言われて気づいたんですけど、Vapor Waveが始まる前にスクリューネタのハウスでEPを作ってたんですよね、カセットでサンプリングしたやつを。そういうVaporなノリって僕は身につきすぎてて、だから『Floral Shoppe』が出たとき感動したんですけど。自分には元からあるもんだから、ああいう想像力を働かせてショッピングモールと対峙するのは不要なんですよね。あれはもっと海外のなんもないところの人だったりとかで、違って然るべきかなと。アメリカ人だと思いきやブラジル人とかだったりする場合もあるわけじゃないですか。でも僕のは自分が実際に体験したショッピングモールですね。あとこの曲を作ったらKOHHっぽいとか、この曲こそがtofubeatsの本心だ!とか書かれるんだろうなとは思ってましたね。
- 車のくだりとかもそうですよね。
tofubeats - そうそう、車欲しいですけどね。でもあの後KOHHが"Mitsuoka"出して上がりましたね。でも車欲しいっていうのは良いなと思って。車を買っても人生が変わらんってことに自覚的じゃないですか。その感じがめっちゃ良くて。買って人生変わらなくても買っとくかって人と、変わらないなら買わへんわって積極的な解決と消極的な解決をする2タイプあるじゃないですか。でも思ってることは近い、みたいな。欲しいって気持ちを取るか取らないかだけっていうのに、めっちゃいいなと僕は思って。KOHHの曲で"Mitsuoka"が一番くらいに好きなんですよね。あとフロウですごいチャレンジしてるじゃないですか。KOHHっぽいものをKOHH自身が超えてきたときに、それを承認できないとしたら勿体無いですよね。それでいったらSolangeとかも前作に比べてめっちゃ意外やったんで。前はリズムも強めだったじゃないですか。
- リスナーが投影してるアーティスト像にフォーカスする場合もあるじゃないですか、"SHOPPINGMALL"はそこを明確に裏切ってきていて。
tofubeats - あと話してて思い出したんですけど、”SHOPPINGMALL”を作ったきっかけとしてCDショップに行ったっていうのがあるんですよ。たくさんCDがあるのに欲しいCDはないし。自分が欲しいようなCDは元の在庫が全然なくて、CDショップの中でネットで注文するみたいな。そういう置き場のない気持ちをどうするのっていうのが最初のきっかけであったりしますね。小さいレコード屋が面白いから余計際立つんですよね。
- 大きいCDショップは大きい流れしか追えてないですよね。あんまり自分たちの判断がないというか。
tofubeats - 客が仕分けきれないものを判断して並べていくのがお店の役割じゃないですか。でもそんなこと言いつつ、僕もセブンプレミアムばっかり食べてるというのもあって。そういう話なんですよね。その矛盾はどうやっても乗り越えられないなっていう。
- 矛盾に向き合うのって危険って思われがちだったりするじゃないですか。
tofubeats - でもそれが誠実さだと思うんで。その矛盾に日本で真摯に向き合ってるラッパーってECDさんとか、A.K.I.productionsだと思ってて。理解しづらい部分もあるんですが、めっちゃ好きなんですよ、A.K.I.さんのテキストとか何回も読んでて。B-BOYって何かっていうのを考えすぎて、ああなっていったみたいな。自分に対する誠実さを貫いた結果、ポップではないけど、誰も見たことのないものに到達してるんで。それは見習わなあかんなっていうのは、めっちゃ思うんで。お客さんに対する誠実さって、何から生まれてくんのかっていうとこでもあると思うんですよ。バランスでしか結局はないんですけど、それがメジャー入ってからずっと悩みですね。僕が最近出してる曲は、そういうものに対する回答の1つって感じですね。
- ニーズって問題ですよね。
tofubeats - そうそうWiredのあの記事が全てをね。「"SHOPPINGMALL"はこれ読んでくれたら大体わかるんで」って。でも僕はニーズも必要だと思ってるんですよね。ニーズがあるから消費が生まれるっていうのは経済学部出身としての偽らざる気持ちなんで。でも本音はああでありたいってことじゃないですか、だから僕はそこが良かったですね。ニーズの問題ってどこにでもあるじゃないですか。芸術って福祉の側面もあるんで、そこを重視するっていうことですよね。音楽の捉え方の問題で、音楽をビジネスの道具と考えると経済活動一本でいけるじゃないですか。我々みたいにそれだけじゃない部分があるって思う層は、それは難しいですよね。芸術があるっていうのは経済以外の意味もあると思ってるので。
- 無機質な環境の中でも音楽があることで、そこが生きれる場になったりするということですよね。
tofubeats - あった方がないよりはいいってことなんですよね。でも無かったところで衣食住のように身体にすぐには響かないので。あった方がいいって思ってる人と、なくていいと思ってる人の差は難しいですよね。ニーズに合わせないのが腹立つのはわかるんですよね。注文住宅を建てて、勝手にキッチンつけられたら腹立つじゃないですか。ジャストミートあててあげないといけないユーザーも多分にいるっていうか。未だに「"水星"みたいな曲出ないんですか」ってめちゃ言われますもん。
杉生 - J-Pop的なものを聴きたい人は当然そうだと思うし、こんな小難しい話も聞きたいと思ってないと思うんですよね。こういう側面のtofubeatsは見たくないと思うかもしれない。 「POPでキャッチーな曲」をやるtofubeatsが見たい人は、それでいいし、それもtofuの役割でもあったから。
tofubeats - 専門的な話をするっていうのも、ある意味ニーズに応えてることだと思うんで。"SHOPPINGMALL"は『Lost Decade』に入っててもおかしくない曲で、今回のアルバムは僕の中で根が詰まってなくてすごい良いんですよ。でもこれが世間に良いって言ってもらえるかっていうと、そんな自信は全然ない。
- tofuさんが作り始めたときは宛先がなかったですもんね。
tofubeats - そうそう、でも作りたいし、聴いてもらいたいからどうするかっていうことで、それを聴いてもらえる環境から作っていこうっていうのがMaltineだったと思うんで。日本にネットレーベルを欲してる人は、昔はほとんどいなかったけど、作ったらどうなるだろうってことから始まってリキッドルームでイベントするところまでいったわけじゃないですか。そういう発展のさせ方が自分の作った曲に対して誠実な方法だと思うんですけど。承認ありきとか人気商売ありきで物事を進められるのは、すごいなとは思いますけどね。全部の物作りに言えることですけど、初めに現物ありきなんですよね。先に楽曲なり商品があってしかるべきで。
- "SHOPPINGMALL"は俯瞰してるわけでもないじゃないですか。すごい個人的なのに普遍的なところがあるなと。
tofubeats - そうですね、ど主観。アルバムのジャケットのディレクションでも言ったんですけど、めっちゃ今現在のことを言った方が普遍的になると思うんですよね。すごい今っぽい方が未来に聴けるとは思ってるんで、それは毎回意識してますね。でも個人的な話なのに誰かが自分のことだって思うのがポップスだと思うんで。
tofubeats - やっぱり自分が恵まれた環境で育ったことに対しても向き合わなきゃいけないのがラップだと思うんですよね。そこで嘘つくのは全然ダメだと思うんですよね。僕が思ってることと違ってもいいから、最後まで筋が通ってると感じたいんですよ。自分もストリート育ちじゃなくて10年間私立の学校に通ってたことに対して誠実でいなきゃいけないんですよね。オタクであることとかも生理的なもので、変わらないからそこでウソつくのは絶対あかんと思ってるんですよね。かっこつけるにも限度がある、ただでもメジャーアーティストだから、汚い格好はできないし。いろいろ加味してたら、ラップするのが難しいんですよね。だから年に2回なんですよ。
- tofuさんにとってラップと実生活の発言は地続きであるっていうことが大事なんですね。
杉生 - tofubeatsという名前が世間に出てきた時に、インターネットの寵児的な書かれ方をして、インタビューで今まで誰も言わなかったようなことを言ったりしてたから、言葉に関しては人一倍敏感かもしれないですよね。
tofubeats - 言ったことは残るので。
- 今日『First Album』を出したときのele-kingのインタビューを読んだんですが、言ってること変わらないですもんね。
tofubeats - 僕インタビューと藤井美菜に関してはずっと言ってること同じなので(笑)。その二本柱だけは。ただインタビューとかって政治的なことを言わそうとしたり音楽に込めたメッセージとかをドラマチックに言わせようとするものが多いですよね。そこを直接聞くんじゃなくて、引き出すのがライターの仕事だと思うんですけど。だからインタビューとかでもすごい赤入れるんですね。そういう事があって自分で文章を書いてサイト作って・・・みたいになってくるし、ある意味では "SHOPPINGMALL"もそういうことなんですよね。自分で歌うの嫌だけど、下手に無理するよりかは良いかも、って。消去法なんですよね。『First Album』と『POSITIVE』はセールスがだいたい一緒だったんですよ。なのでそういう今あるニーズに売り込むのは、今ならこの感じなのかな、ってなりますよね、なので今回は視点を変えて本当のファーストアルバムである『Lost Decade』の時みたいに0からニーズを作り出す方法を考えるしかないんですよね。『Lost Decade』は何もないところから売ってるんで。
杉生 - tofuの精神衛生上、今回みたいなアルバムを作った方が良いと思うし、それを許可してくれたレーベルには感謝しています。もし仮に今作が売れなかったとしても、色々と精査して『FANTASY CLUB』の次のアルバムの方向性をじっくり考えてやりましょう、ってなるだけです。僕らもレーベルからお金や宣伝面含め、色々とサポートをしてもらってやってる意識もありますし。
tofubeats - この形で10年くらい頑張ってみないと、まとまって見えてこない気がするんですよね。だとすれば10年頑張るためにどうすればいいのか。今って大きな流れがリスナーから見えづらいじゃないですか、だからミュージシャンの方が流れを見せてあげないといけないんですよね。流れがあるからこそ音楽って好きになるじゃないですか。それを作るのは自分1人だけの力だと難しい。音楽も1つあるだけだと飽きちゃって楽しめなくなるから、それじゃダメなんですよね。その処方箋が何かっていうのを考えてるんですけど、中々浮かばないんですよね。
DJを楽しめないお客さんが増えたのも、そこと繋がるんですよね。お客さんの中には数時間我慢してでも一瞬だけ知ってる曲がかかって、それをInstagramにあげることができれば満足で、流れで楽しまなくてもOKになってる人が出てきた。もちろんこちらの力不足もあるんですが、クラブや音楽の概念が変わってきてるんですよね。それはさすがに僕も追いつけないなって。新しく階層が分かれたと思うんですよね。パソコンを持ってる層と、スマホにしか触れてなくてパソコンを持ってない層とは、めっちゃリテラシーの隔たりがあるんで。僕らはインターネット世代と言うよりかは最後のパソコン世代。大学生でもスマホしか持ってない人も居るじゃないですか。そういう意味だとよりファストになっていくのかな、もしくはここからなんか出てくるのかな、出てきたら良いなとは思ってますけどね。
- 流れを無理やり作ろうとする人もいるし。
tofubeats - 流れに対する憧れは醸成されてると思うんですよね。待ってればそれなりにはなると思うんですけど、大半の人は流れを望んでないから。アーティストグッズと音楽の関係も不思議で、服は着てるのにそのアーティストの曲は聴いてないとかもあるじゃないですか。それってすごい形骸的じゃないですか。イベントも人は入ってるのにクラブとしての風体はなしてないものが多いなって。ファッションに関してもブランド着るって1つの意見表明じゃないですか、意味とかどうでもいいならば、ファストファッションでいいじゃないですか。高い金払って買うわりには、物自体には興味ないってすごいなって。
- 高い金を払うのが快感なんですよね。
tofubeats - 良いものをどうやって判断するのかっていうのをネットに委ねちゃってるから、そういう価値観が生まれるんですよね。だからどうしようもないなって。今音楽をやってる25~6歳くらいの人が、この状況をわかってないとしたらそれは大問題ですね。ほんと飲まれちゃってるなと。ネットがもしなかったときに、どうやって価値判断していくんだってときに必要なのが、自分の得てきた知識だったり教養じゃないですか。今は即物的に反応をもらえるから、とりあえずはそういうものが必要ない状態で過ごせるんですよね。
- SNSのいいねで安心感をもらえますからね。
tofubeats - でも僕はそういった安心感は人間を遠くに連れて行ってくれないと思うんですよね。
- 安心してしまうから、安心という点だけで満足しちゃって、その後ろにある流れを想像できない。
tofubeats - そうです、でもそれが作る側だったら点だけじゃなくて1年後くらいの流れが見えないとダメなんですよね。つまりは未来をどうでもいいと思ってることと一緒だと思うんで。それは全部自分のやったことに跳ね返って来ることじゃないですか。良いものには良いと言っていかないと、良いものが残っていかないし、悪いものを批判するだけだとダメなんですよね。別に嫌いなものがあっても良いんですよ、方針がちゃんと定まってたら。誰かに任せてるんじゃなくて、ちゃんと基準があって言ってるならいいんです。好みじゃないものを言えない風土っていうのもどうかと思いますね。でもそういう状況に対して、どうすればいいかわからないから"SHOPPINGMALL"ができたのが正直なところですよね。僕もいずれは適当なおっさんDJになると思うので、やる気のある間にどうにかなるといいなって。メジャーで活動する意味は自分の持ってるものを広げることだと思うんで、自分から広げる方でありたいですよね。
-『Hard-Off Beats』もやりますもんね。
tofubeats - 『Hard-Off Beats』は趣味ですね。地方に行けるし。レコードを買うっていう趣味があるからHard-Offに出かけられるじゃないですか。趣味っていいよねくらいのところから始めたいんですよね。自分が持ってるものを把握して、どう使うかなんで。Hard-Off Beatsもやってることは普段と変わらないんだけど、撮ることによって見方が変わってきて、奥行きが生まれてきたり、音楽でも録音することによって全然変わってくるので。録音して人に聴かせることで、何かが変わるのが面白いわけで。だから、"SHOPPINGMALL"は外向きの曲なんですよね。
Info
tofubeats 『FANTASY CLUB』トラックリスト
1. CHANT #1
2. SHOPPINGMALL (FOR FANTASY CLUB)
3. LONELY NIGHTS
4. CALLIN
5. OPEN YOUR HEART
6. FANTASY CLUB
7. STOP
8. WHAT YOU GOT
9. WYG(REPRISE)
10. THIS CITY
11. YUUKI
12. BABY
13. CHANT #2 (FOR FANTASY CLUB)
ワーナーミュージック・ジャパンより5/24にリリース。