いよいよ先週末から公開となった今年のアカデミー作品賞を受賞した映画『ムーンライト』。同作をオスカーに導いたバリー・ジェンキンス監督のインタビュー映像が公開された。
バリー・ジェンキンス監督は、原作と出会ったいきさつについて「もともとは(原作者の)タレル・マクレイニーが戯曲として書き始めたものなんだ。当時は知らなかったんだが、タレルも僕もボルシチ映画祭に参加していたんだ。タレルはこの戯曲をA・ヘビバとL・レイヴァに託して、彼らからは僕の元へは「馴染みの世界かも」って言われて渡されたんだ。読んでみて彼らの言っている意味がわかった。実はタレルと僕の生い立ちはとても似通っていて、住んでいた地区も学校も同じだった。そして、2人とも母親がドラッグ中毒だったんだ」と原作との運命的な出会いを語る。
キャストの中で唯一、3部全て主人公の母親役として出演し、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたナオミ・ハリスについては「(各キャストの)役柄の詳細は脚本に書き込んでいた。でも映画全体の要のようなものが必要だったからポーラには3部とも出てもらった。(彼女は)物語の“芯”のような存在だった。科学実験のように3部を通じて見守れる。それがポーラの役だった。ナオミは最初はこの役に抵抗があった。ポーラはすごい闇を抱えた人物だから、負のイメージを作りたくなかったんだ。だがキャスティングした後、崩壊する親子との関係や、僕自身の母親との関係について、彼女と話し合ったんだ。彼女は誠実に取り組み、依存症になる人間の感情移入できる部分を見つけたんだ。依存症の人間を演じるのではなく、その過程を演じようと。考えたポイントを掴んだ彼女は、タレルや僕が育った時代の薬物依存の実態についてリサーチを始めた。熱心に取り組んでくれたんだ」と多大な貢献を果たした女優について振り返っている。
主人公の3人のシャロンのキャスティングについては「同じ俳優で3部を撮るとは思っていなかった。それは無理だからね。環境のプレッシャーに負けてしまった時や、期待の重圧に負けてしまった時に人がどのように大幅に変わっていくのかを描きたかった。そこで、同じ感性を持った3人の俳優を探したんだ。決して外見が似てる俳優である必要はなかった。感性というのは、目を見れば分かるんだ。ウォルター・マーチの「映画の瞬き」にも“心の窓”である目について書かれている。似通った魂を持つ3人を見つけられれば外見だけが似てるよりも醸し出す雰囲気が、目を通して分かる。内面的なもので同一人物だと伝わると思ったんだ」
「この考え方で、まず最初にアッシュトン・サンダース(第2部・少年期)に決めた。彼が最初に決まってから何度も会ってケヴィン役との相性を探ろうとしていたんだ。でもすぐに必要ないと気づいた。キャスティングの際に相性を探るのは無意味だ。だから同じ魂を持つケヴィン、同じ魂を持つシャロンを探した。だがトレヴァンテ・ローズ(第3部・青年期)が現れて、事情は大きく変わった。彼はケヴィン役のオーディションを受けていたが、ケヴィン役はアンドレに決めた。2人ともオーディションの役ではピンと来なかったんだ。トレヴァンテは筋骨隆々のイメージで、とてつもなくマッチョに見えた。それでいて目には繊細さが宿っていた。彼のおかげで僕が抱いていたブラック役の外見が変わったんだ。彼と会った途端に役のイメージが一新された。トレヴァンテとの出会いから信念にもとづいて、より貪欲にキャスティングできた」と主人公を3人にした経緯を話している。
ジェンキンス監督のインタビュー映像はこちらで見ることができる。
Info
『ムーンライト』
TOHOシネマズシャンテ他にて全国公開中
配給・宣伝 お問い合わせ:ファントム・フィルム 03-6276-4035