三浦大知のニューアルバム『HIT』が3/22にリリースされた。三浦大知自身も昨年は「圧倒的にメディアに出させてもらう機会が多かったので、それは本当にありがたいことだなと思っていて、ライブをやっても初めて来てくれる方がすごくいて、今までずっと応援してくださっていた方と作ってきたがどんどん広がっているのを感じるので、その輪がさらに広がっていくように、常に面白がってもらえることを発信し続けられたらいいなと思っています」とFNMNLでのインタビューで答えていたように、今キャリアの中でも三浦の注目度は、これまでにないほど高まっている。
文:和田哲郎
例えば『仮面ライダーエグゼイド』の主題歌となった"EXCITE"や、Red Bull BC One World Final 2016のテーマソングとなった"(RE)PLAY"などはその好例といっていいだろう。
『HIT』(=出会う)というシンプルなタイトルには、現在の三浦大知のパフォーマーとしての自信がみなぎっているように感じられる。しかしこのタイトルはアルバムの最後に収録されている”Hang In There”の頭文字からもきているという。”Hang In There”は「頑張れ・持ち堪えろ」などギリギリの逆境で耐え抜く人にかけられる言葉だ。ここに三浦大知というアーティストの常に満足しない姿勢や、これまで実際どんな状況にも耐え、歌って踊れるアーティストとして自分のものでしかない経験を積み重ねてきた力強いスタンスが示されている。
自身でコンサートのステージのディレクションなども行う三浦大知は、常に自分自身を客観的な視線で捉えている。それを証明するのがインタビューでの受け答えだ。インタビューで三浦大知はたびたび「三浦大知的には〜」や「三浦大知としては〜」などの返答をする。これはアーティストとしての三浦大知を、外側から自分自身が見つめられるからこそできることである。そこでの三浦大知というアーティストに対する視線は、どんな評論家よりも厳しい。
筆者が行ったインタビューで「三浦大知の音楽も世界で広まっていく手応えを感じるか?」という問いに対して、「今の三浦大知の音楽だったら全然まだまだじゃないですか。(中略)自分もまだまだ頑張らなきゃいけないし、日本語だからダメというのはないんだなというのは感じているので。自分はもっとできるという思いがあるので、ライブのパフォーマンスにしても、歌にしても、もっとよくなる、ダンスだってもっとうまくなるって、常に思っています。理想にはなかなか到達できるものではないと思うんです。だからずっとそれを求め続けていくんだろうなって。それがいいんだろうなって思うんですけど」と返答している。
この淡々とした自己分析は、三浦大知が見据えている場所が大きいものだからだろう。常々三浦大知が掲げているグッドミュージックの体現者はマイケル・ジャクソンであり、現在のシーンではブルーノ・マーズなどだといえる。彼らの歌唱力やパフォーマンス力が抜群なのは当然として、三浦大知が重視するグッドミュージックの概念で重要なのはオリジナリティーだ。たとえどんなにトレンドが変化したとしても、常にオリジナルのアーティストとしての特色を出し続けられることのできるアーティスト、ジャンルやカテゴリーという狭い概念に縛られず、常に自分自身の世界を表現できる人間であり続けるということだ。
マイケル・ジャクソンという先駆者の音楽やパフォーマンスに魅了された三浦は、常にアーティスト三浦大知にとってのオリジナリティーは何かを探求し続けている。
今作『HIT』ではそのオリジナリティーは、トレンドの活かし方で発揮されている。EDMがひと段落してから盛り上がってきた、今のトロピカルハウスなどのシーンについて「抜く」感覚が大事だと話してくれた。それは音の隙間だったり、リラックスした肩の力が抜けたムードだったりという形で体現された。
トレンドにそのまま乗っかるということはしない。例えばアルバム序盤に気持ちよい風を吹き込んでくれる爽やかな”Neon Dive”はトロピカル的なテイストで始まったかといえば、80’s的なディスコサウンドがほどよくブレンドされた「抜け」感が三浦大知流に調理された1曲になっている。
またダンス大会のアンセムとなった”(RE)PLAY”では、クラシカルなブレイクビーツを用いつつも、モダンなUKのダンスミュージックと融合させることで、ダンスミュージックが培ってきた歴史を1曲のなかで地続きに表現している。
これも三浦大知というアーティストが持っている稀有なディレクション能力がなせる技だ。さらに そのセンスはアルバムを支える参加アーティストにも生かされている。今作には日本のエレクトロニックミュージックシーンを支える俊英から、現在の最先端のポップスシーンを支えるプロデューサーチームまでが参加しているのだ。
これまで三浦大知のサウンドを作り上げてきたUTAやNao’ ymt、Kanata Okajima、MOMO”mocha”N.などの重要性は言わずもがなだが、今作には昨年アメリカのビートシーン以降を作るレーベルLeaving RecordsからアルバムをリリースしたSeihoや、TREKKIE TRAXの一員としてそのソリッドなサウンドが高く評価されているCarpainterといった若手注目プロデューサーが参加している。またK-Popシーンでヒットチューンを連発してきたロンドンのプロデュースユニットLDN Noiseのピックアップも心憎い。
最先端のサウンドを取り揃えるだけでなく、ルーツといえるサウンドにもしっかり目を向けている。今作ではSOIL&”PIMP”SESSIONSがフィーチャーされた"Rise Up”がそんな1曲だ。すべて生楽器の演奏でダンスミュージックを作ることを考えたとき、ダメ元でSOIL&”PIMP”SESSIONSにオファーしたところ、SOIL側も三浦大知の大ファンだったことから、このコラボは実現。昨年のリオ五輪の閉会式でも披露された楽曲にも参加している、この円熟のジャズバンドは、そんなリオの空気を持ち込むかのようなカーニバルテイストのトラックに華を添えている。
三浦大知のようにトレンドを自分の距離感で解釈できるアーティストは、多くはないだろう。そこには「流行りたくない」という意識がある。「一時的な流行になるのが嫌だ」と先日のインタビューでも話したてくれたように、ソロデビュー以降の三浦大知は自分に手の届く範囲のことを、慎重すぎるほどの姿勢で黙々と続けてきた。だからこそ、千載一遇のチャンスである今でさえも自分はどういったアーティストであるのかを日々探求しながら進んでいる。
ソロデビューから12年をかけて、ライブ動員を着実に増やし続けるアーティストというのは、そう多くはないだろう。どこかでポキっと折れてしまうこともあるだろう。しかし三浦大知というアーティストが、その長く険しい道を進み続けてこられたのは、真っ暗闇の後には必ず夜明けがくることを知っているからである。
この世界に降り注ぐ
朝陽を誰しもが待っている
ひとりでもひとりじゃない
そこにいるのは君ひとりじゃない
Darkest Before Dawn
“Darkest Before Dawn”より
そう、そして三浦大知は決して孤独に進んできたわけじゃない。支えてくれ、信頼を寄せているチームの存在や、もちろんかけがえのないファンが三浦大知を支えている。だからこそ、そのファンたちに向けてポジティブなメッセージを発し続けるのだろう。
Hang in There baby
Hang in There baby
If You wish to find a way
風を切って
前に進んで
三浦大知の6枚目となるアルバム『HIT』、ここには三浦大知が歩んできた道がグッドミュージックとして刻まれている。
Info
三浦大知 - HIT
2017-03-22
CD
01 Darkest Before Dawn
02 EXCITE
03 (RE)PLAY
04 Neon Dive
05 Body Kills
06 Darkroom
07 Can’t Stop Won’t Stop Loving You
08 Rise Up feat. SOIL&”PIMP”SESSIONS
09 Star
10 誰もがダンサー
11 Cry & Fight
12 Hang In There