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José James 『Love In a Time Of Madness』 Interview | 狂気の時代に愛を歌う

Jose James

現代ジャズ・シーンの旗手であるシンガーのJosé James(ホセ・ジェイムズ)が、2/15(水)にリリースした約3年ぶりのオリジナルアルバム『Love In a Time Of Madness』。これまでのジャジーなサウンドから一転、よりR&B/ファンク色を強く打ち出すなど、ポジティブかつチャレンジングな作品に仕上がっている。アルバムの発売日には渋谷Contactにて『APPLEBUM x BLUE NOTE present BLUE LOUNGE JOSÉ JAMES // LOVE IN A TIME OF MADNESS Release Party』が開催され、多くのクラウドを熱狂させた。

アルバムのテーマは「愛」。作品に込めた愛の意味や、同郷であるプリンスへの愛、さらに親日家であるJoséの深い日本に対する考えも聞くことができた。

取材 : 和田哲郎  構成 : Yuuki Yamane

- ニューアルバムのリリースおめでとうございます。今回のアルバムではまたスタイルが変わっていて、若いアルバムになった印象なんですが、サウンド面でなぜこのようなスタイルに変えたのか教えてください。

José James - なぜそうなったのかは分からないんだ。特に考えてやっているわけではないし、常にインスピレーションを追っていくだけだから。ただ自分が高校時代だった頃、Erykah BaduやThe Rootsみたいな、ヒップホップやR&Bを混ぜてその後ネオソウルと呼ばれるようになった、あのムーブメントに近いものを今感じていて、それは例えばAnderson .PaakからBeyoncéに至るまで、メジャーな人からまだまだこれからという人も含めてみんながエクスペリメンタルになってきていると思う。その流れの中に自分も参加したいという気持ちだった。

- SydとかKehlaniといった、若い女性R&Bシンガーのサウンドに近いと感じました。

José James - まさにその通り。Drakeはあんなことになってしまったけど、ラップとボーカルの半々みたいな、彼のスタイルを少し複雑にしたようなイメージだね。ただ、複雑とか簡単と言うとDrakeをディスってるみたいに思われるけど、そういうことじゃないよ(笑)

- 今作では愛について語った曲が多いですが、例えばウォーミングなものだったり、一緒に薬をやってキメようみたいな、ちょっとクレイジーなものだったり、そういった多様な愛の形を歌おうと思ったのはなぜ?

José James - 実はもともとラブ(愛)とマッドネス(狂気)の2枚組アルバムにしようと思っていたんだ。でも、実際の現実世界があまりにもマッドネスで、毎日のニュースも聞けば聞くほど気が滅入ってくる。自分がアルバムを作るときは、制作からツアーまで含めて4年くらいの周期で考えているから、もしマッドな曲を毎回ツアーで歌うとなると、たくさんの人に滅入る気持ちを与えることになるよね。僕のファンは頭のいいスマートな人が多いから、当然ニュースも毎日チェックしているし、僕に言われなくても分かるはず。だったら気持ちをアップさせるような曲の方がいいと思って。

 

 - トランプへのカウンターというか、そういったアクションという側面もある?

José James - きっとみんな社会の中でそれぞれの役割があって、リーダーになるにしてもいろんななり方があると思う。Saul WilliamsやKRS-One、あるいはKendrick LamarやChance The Rapperみたいな形で事実を伝えることもできるし、もしくはBeyoncéみたいに、気持ちをアップリフトするようなアーティストもいる。その中で今回は後者のほう、マッドネスじゃなくてラブにフォーカスした作品にしたんだ。タイトルもすごく気に入っているよ。ニュースやインターネット、Facebookを見ていると「世も終わりだな」って思うかもしれないけど、それでも何とかうまくやっていけば「こんな時代でも乗り越えていけるよ」っていうメッセージを込めたんだ。

- アメリカに住んでいる僕の知人も「トランプの時代になってすごく変わってしまった」と言っています。そうした変化を感じることはありますか?

José James - こんなことを言ったらみんなに嫌われるかもしれないけど、Chris Rockもスタンダップ・コメディーの中で言っていたよ。「今までのアメリカ、つまりオバマがちょっと特殊だっただけで、今また普通のアメリカに戻っただけだ」って。いつの時代も警察が黒人を虐げることはあったし、女性の平等を考えても結局は今だって男性ほどの賃金をもらえるようになったわけじゃない。つまり、たまたま見た目が素敵なかっこいい黒人がアメリカの顔として大統領の座にいただけで、トランプになったことで本当のアメリカの醜さが目に見える形になったってだけなんだ。だからこそ、新しい変化をこれから見つめなおしていかなければならないと思う。

(C)Ryota Mori

José James - それに、少しきついことを言うと、そうは言いつつも若い世代の半分も投票していないわけだから、文句を言うなら「君は本当に選挙に参加しているの?地元のことにちゃんとかかわっているの?」と聞きたいね。それをしないで「あれが嫌いこれが嫌い」とツイートしているだけじゃ、意味がないんだ。

- 厳しい時代をサバイブするための愛を語ったアルバムであると同時に、地元の先輩であるPrinceへの愛も込められているように感じました。その辺について教えてください。

José James - Daft PunkやBruno Marsの流れで、自分のホームタウンであるミネアポリスのサウンドが見直されているのは、すごくうれしいよ。レガシーを忘れないというのは、とても大切な美しいことだと思う。ただPrinceについて語るには、まだ彼の死を受け入れられないところもあって。David BowieやMichael Jackson、Whitney Houston、そんな神みたいな人たちがいなくなったこと自体が信じられないという気持ちだよ。

- 個人的なPrinceの思い出は何かありますか?

José James - 8歳の時に初めて手にしたアルバムが『Purple Rain』だった。その時は子供だったし特に意識していなかったけど、自分のキャリアでこれだけいろんなことをやってきているのは、もしかしたら彼の影響かもしれないね。彼もジャズ、ファンク、ソウル、ポップス、R&Bといろいろやっていたし。残念ながら一度もステージを見たことがなくて、後悔しているんだ。

- あなたが作品ごとにサウンドのスタイルを変えるのは、先ほど言っていたインスピレーションがどこかから来て、新しいものを作りたいという思いにつき動かされるから?

José James - やるとなったらこれ以上できないくらいベストを尽くすタイプだから、それが終われば次のものを探したくなる。もともとそういう性格なんだと思う。良いと思えるものがあれば、ディテールにはこだわらないしね。日本のものが好きな理由はそこにあって。例えば、日本の陶器は一つ一つ手作りで、自然が作り出すものだからこそそれぞれにユニークさが生まれる。それをつき詰めると、人間だって一人一人が違うよねってことになるんだ。頭で考えるコンセプトではなく、感じるものだと思う。

 - 日本が好きだということですが、プライベートでもよく来るんですか?

José James - それができるようになるのが夢だね。実は、ショーがあるときはいつも数日前から来ているんだよ。これを言っちゃうとプロモーションを詰め込まれちゃうから、言うんじゃなかったな(笑)5年前のMcCoy Tynerとのツアーでも1週間早く来て、一人で京都の旅館に泊まったんだ。刺身や伊勢海老、精進料理のような日本食も大好きだし、毎日でも構わないよ。

今回の来日時の様子

 - そういったところから制作へのインスピレーションを受けることも?

José James - 日本人は案外、信仰に関係なくお寺や神社に行くよね?いわゆる地元の地域の人たちにとってのコミュニティーセンターというか、進学や昇進といった人生の節々にそこへ行ってお祈りをする感じ。僕も同じで、伊勢神宮にも行ったときにはパワースポットを歩いて、出てきたらなんだか夢が叶うような気がして、そのときに神社の信者になったような気がするよ。

- 深い考察ですね。他に日本でしてみたいことは?

José James - 日本の音楽シーンをもっと知りたい。ミュージシャンやDJに日本の知り合いがたくさんいるから、そういう人に新しいもの教えてもらったりはするけど、もっと知りたいと思う。

- 昨日のライブにはWONKが参加していましたが、どうでしたか?

José James - スーパークールだったよ。新しいことをしようとしている姿勢もすごくいいし、演奏のレベルも高い。それに自信をすごく感じた。日本のミュージシャンに友達がいるから分かるけど、少し前だと西洋的な音楽をやっている日本のミュージシャンは自信を持つのが難しかったと思う。だけど彼らからは自信を感じるし、特にドラマーが良かったね。新世代な感じがした。会場では他にもいろいろ若い世代のミュージシャンと会ったけど、インターネットのおかげでNYのキッズたちに遅れることなく、いろんなものを聞いて吸収していると思うよ。

 

- 昨日のライブ・セットは基本的にPCでやっていましたが、この先今回のアルバムの曲をバンドで展開する予定は?

José James - 昨日は本当にショーケース用だったけど、今後のライブでは生のドラム、Nate Smith(ネイト・スミス)かRichard Spaven(リチャード・スペイヴン)のどちらかでやるつもりだよ。また嫌われることを言うかもしれないけど、『BLACKMAGIC』を作った時にいろんなビートを試して、それをバンドで再現しようとしたんだけど、なかなか同じようにはできなかったんだ。だから今回プロデューサーのTarioと、Abletonを使ったライブ・セッションのようなプログラムでやって、クラブでもアルバムをそのまま再現しようと思った。普段ジャズをやっている人たちでアルバムを再現しようとすると、彼らがクリエイティブすぎるからどんどん違うものになって、最後には原曲が何なのか分からなくなる(笑)。これはよくRobert Glasperとも話すことだけど、ジャズやロック、ファンクを一緒にしようとするときの難しさだね。

- このアルバムがブルーノートからリリースされることに、ジャズ・シーン自体が変わってきていると感じたのですが?

José James - Don Was(ドン・ウォズ)は本当にすばらしいリーダーで、実は彼がブルーノートで初めて契約したアーティストが僕なんだ。彼はブルーノートというブランドをどこに持っていきたいかしっかり考えていて、しかもプロデューサーでありベーシストでもあるから、とにかく彼の前でごまかしは通用しない。決してBilly Eckstine(ビリー・エクスタイン)やNat King Cole(ナット・キング・コール)みたいにしようというわけではなく、初めから「君は君のままでいいからそのやり方を貫け」と言ってくれていて、とても恵まれていたと思う。

(C)Ryota Mori

José James - だいたい、ヒップホップやラップが新しい音楽だと思うこと自体、もう間違っているよね。ロックやポップスのレジェンドたちと同じように、今はヒップホップやラップのレジェンドも死んでいる時代。ジャズの人にしてみたら新しいかもしれないけど、最低20年は経っているんだから。……今日は嫌われそうな発言ばかりだね(笑)

- 最後に、今回のアルバムをどんな人に届けたいですか?

José James - 今回は、今までのどのアルバムよりもフィメール・フレンドリーな作品にしたかったんだ。というのも、自分のために作品を作ったことはあったけど、本当に最初の頃からサポートしてくれているような、女性のファンのみんなが楽しんでくれるアルバムを作ったことがなかったら、そういうのを作りたくて。だから必要以上に複雑で数学的なものにはしないで、いかにコネクトできるかを考えた。例えば“Live Your Fantasy”はすごく気持ちの良くなるような3分間半で、ああいったシンプルな曲は意外とやったことなかったから、その良さがあらためて分かったし、すごくフレッシュに感じているよ。

 

Info

ホセ・ジェイムズ 『ラヴ・イン・ア・タイム・オブ・マッドネス』
José James “Love In A Time Of Madnessf”
2017年2月15日日本先行発売発売(海外発売2月24日)
SHM-CD: UCCQ-1068 \2,808 (tax in) BLUE NOTE

・収録曲
1. オールウェイズ・ゼア  Always There
2. ホワット・グッド・イズ・ラヴ  What Good Is Love
3. レット・イット・フォール feat. マリ・ミュージック  Let It Fall
4. ラスト・ナイト  Last Night
5. リメンバー・アワ・ラヴ  Remember Our Love
6. リヴ・ユア・ファンタジー  Live Your Fantasy リード・トラック
7. レイディース・マン  Ladies Man
8. トゥ・ビー・ウィズ・ユー  To Be With You
9. ユー・ノウ・アイ・ノウ  You Know I Know
10. ブレイクスルー  Breakthrough
11. クローサー  Closer
12. アイム・ユアーズ  I'm Yours
13. トラブル (タリオ・リミックス)*
14. リヴ・ユア・ファンタジー (WONKリミックス)*
*日本盤ボーナス・トラック

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