Gucci Maneや A$AP Rockyを手がけたことで知られるベテラン・プロデューサーのDJ Burn Oneが先日、Chance The Rapperがフリーで作品をリリースしたことについて、「彼にとっては素晴らしいことなのだろうが、プロデューサーたちにとってはひどい話だ」とツイートをした。
「アーティストはツアーができるし、スポンサー契約もつくだろう。一方プロデューサーの手元に残るものといえば、ストリーミングから得られるほんの少しの収入だけなのか?」と彼は問う。
ストリーミング・サービスの台頭によって、いま音楽業界の構造は大きく変化しようとしている。プロデューサーたちはこの変化に今後どのように適応していくのか。もちろん、DJ Burn Oneがその答えの全てを持っているわけではない。しかし、彼が直面している問題を知ることは、これを議論をしていくためのはじめの一歩になるだろう。
以下は、NYのwebマガジン・Pigeons & Planesが、先ほどのツイートを受け、DJ Burn Oneにインタビューしたものを抜粋したものである。現代のアメリカのプロデューサーたちが抱える悩みとはどのようなものであろうか。
ー私たちにとってはフリーの音楽はクールだし、アーティストたちが作品以外から収入を得る方法を探っている今の状況は良いように思えます。やはり、プロデューサーたちはこの流れに置いていかれてしまっているのでしょうか、正当な対価が支払われていないと感じていますか?
いま生まれているような新しいモデルのなかで、プロデューサーが上手くやっていくにはどのようにしたらいいかって常に頭を悩ませているところだよ。Chance The Rapperみたいなアーティストは、色々な方法でお金を稼ぐことができるよね。そして、アルバムを売ることを避けるようになった。アーティストたちは多様なあり方を模索している。プロデューサーたちも自分たちなりの方法を見つけていかなくてはいけない時期が来たと思っているよ。
ーこのような状況になった要因として、SoundCloudなどのサービスが一般的になったことで音楽を作って発信することの敷居が低くなったことは考えられると思いますか?いまでは、プロデューサーの多くがその価値を正しく認められていないという印象があります。
昔と比べ、状況は大きく変わったと思う。僕らがスタジオで作業するとき、最近のアーティスト達は最初の2、3時間セッションをしたあと、YouTubeで"Mike Will type beats (Mike Willっぽいビート)"や"Zaytoven type beats"を検索するんだ。そして、それをそのまま使ってレコーディングしてしまうんだ。これは本当に狂っているよね。
プロダクションに重きが置かれるような環境に戻すための方法を僕らは考えなくてはいけない。僕らが若い時は、皆クリエイティブでいなくちゃならなかった。プロデューサーも目立たなくちゃいけなかった。今では、そういうのはあまり見られないね。 Vinylzと同じようなビートを正確に真似したいようなプロデューサーばかりなんだ。
プロデューサーとアーティストが手を組むことで、どのようなダイナミクスが生まれるかっていうのをアーティストたちはあまり理解できていないんだと思う。DreとSnoopはお互いに高め合っていた。だから彼らは伝説的なんだよ。いまのアーティストたちは、プロデューサーが作った何かとそっくりなトラックに「これは良くできているね」とか言ってるだけなんだ。先進的なものを作っている人と、真似をしているだけの人の区別もつけられないんだよ。アルバムにプロデューサーの名前がクレジットされず、それぞれのトラックにどのプロデューサーが携わっているのかが分からないってこともよくあるんだから。
昔なら、プロデューサーになれば自然といい生活を送ることができた。でも、これからはそのよう状況は続いていかない。これからのモデルに適応する方法を、プロデューサーたちが力を合わせて探っていかなくてはならないね。
ープロデューサーが受けるべき正しい評価を受けられていないのですね。また、アーティストからのリスペクトも足りないと。
始めは、誰だって誰かの真似から始めるものだ。自分だって、ビートを作り始めた最初の年はDJ Toompにそっくりなサウンドのものばかり作っていたよ。だって彼は自分の一番のヒーローだったから。でもそれらは、彼の作品の偽物のようなものだった。だからそれらは世に出さず、次の年から自分オリジナルのサウンドを作り始めたんだ。そんなときに、A$AP Rockyがそのいくつか("Houston Old Head"と"Roll One Up")を使った。そして、これはほとんど誰にも言ったことがないんだけど、実はこのA$AP Rockyのトラックのギャラが僕に支払われたことは一度もないんだ。それでも彼は、これらの曲をパフォーマンスしながら世界をツアーで回っていたよ。
プロデューサーがいないと彼らは曲を作れないんだし、僕らも彼らがいないと曲を世に出せない。お互いにリスペクトしていかないといけないんだ。ミュージック・ビデオには必ず監督の名前がクレジットされているし、コラボレーション曲には必ずフィーチャーされたアーティストの名前が入っている。でも、プロデューサーに関してはそうならないのが現状なんだ。もっと対話を重ねていかなくてはならない。プロデューサーのビジネスの優先順位がもう少し高くなることを望むよ。そうしたら僕らはもう少しハッピーになれると思う。
インタビューの元の記事はこちらから。(辻本秀太郎)