FNMNL (フェノメナル)

【Interview】日本一のNirvana Tシャツコレクターに聞く、バンドTシャツの世界

Nirvana

Nirvanaの代表作『Nevermind』は今年2016年でリリースから25年となる。そして来年は故カート・コバーンの生誕50年の年で、バンドにとってのアニバーサリーイヤーが続いている。かたやファッション業界では現在ロックTシャツのブームが続いており、数あるバンドの中でも特にNirvanaの人気はすさまじいという。

そんな中FNMNLに1通の企画のメールが届いた。メールを送ってきたのは都内の古着屋に勤務する門畑明男。彼はNirvanaのTシャツのコレクターで100枚以上のTシャツを保有しており、NirvanaのTシャツコレクションを集めた本を作りたいとメールには書いてあった。ではなぜそこまでNirvanaやそのTシャツに魅了させられたのか、そしてバンドTシャツコレクターの世界とは?門畑に話を聞いた。

取材・構成 : 和田哲郎 撮影 : 横山純

- Tシャツを集めだした、きっかけはなんだったんですか?

門畑明男 - 元々は20歳前とかだと思うんですけど、なんの気なしにNirvanaのTシャツを古着で3000円とかで売っていて、新品もあったんですけどオリジナルで出してたものがよかったので、買ってたんですよね。ほんとに集める気とかなくて、ただNirvanaが好きで着て、別の日に古着屋に行ったら別のNirvanaのTシャツがあって買おうかなってくらいで。自分は20歳から古着屋で働いてるんですけど、そうすると他の店にも遊びに行って、見る機会も多いですよね。そこで買っていくたびに、Nirvanaを好きだっていうのを周りの人たちが認識し出して、「NirvanaのTシャツ入ったよ」とか、店行くだけで「これ入ったけど?」って勧められ、買った方がいいのかなって、それで買っていったんですよね。

当時もロックTブームがあったんですけど、その時はGrateful Deadとか、Rolling Stonesとか60~70年代のバンドが人気で、Nirvanaだと高いのでも5千円くらいだったんですよね。1回当時で7千円くらいのを見たことがあって、その時もそんな出さなくても、もっと安く買えるよとか言われたんですけど、その買ったTシャツは1~2年前に同じやつが知り合いの店に入ったんですけど、8万円になってましたね(笑)。自分がちょこちょこ買ってた10数年前と今で10倍くらい金額が変わってるんですよね。今から集めるのは難しいですけど、当時買っていたので、これくらい持てているって感じです。集めだしたきっかけは、ただバンドが好きで、それで安くて、あと周りの人に勧められたからです。

Nirvanaを好きになったのは高校生のときに、メロコアのブームがあって、山嵐とかBack Drom BombとかHi-Standardが流行ってて、嫌いじゃなかったんですけど、個人的にあまりしっくりこなくて。中学のときにThe BeatlesとかRolling Stonesとかを、父親の影響で聴いてたんですよね。でもパンクまでいかなくても、もっと激しいのが聞きたいなと思って、いろいろ調べてたら、多分タワレコに行ったときに、『Nevermind』っていつでも宣伝されてて、いつでも最高のポップが書いてあるじゃないですか。それとカート・コバーンが亡くなったのって僕が小学校6年生のときで、日本でもニュースになったんですよね。その記憶が、CDを見た瞬間によみがえって、そういえば昔ニュースで見たなって思い出して、買ってみようかなと思ったんですよね。それで初めて聴いて、やっぱり衝撃じゃないですか。ロック好きな人で『Nevermind』聴いた人は、みんな味わってると思うんですけど、そこからですかね。最初に買ったのはあんまり覚えてなくて、多分なんですけど王道のスマイルのTシャツだと思うんですよね。

- 音楽自体はもちろんいろいろ聴かれると思うんですが、TシャツをコレクションしてるのはNIrvanaだけですか?

門畑明男 - 今はそうですね。前はいろいろなバンドのTシャツを集めてて。Nirvanaの出身地であるシアトルのSub Popってレーベルに所属してるバンドのTシャツを集めてたんですよ。あとはカート・コバーンが死んでるので、死んだ人のTシャツを集めようと。ジミヘンだったり、ジョン・レノンだったりとかも集めてたんですけど、例えば自分がジミヘンのTシャツ着て歩いてると、ジミヘン好きなんだなって思われるじゃないですか。

もちろんジミヘンは好きなんですけど、でも心の中だとNirvanaの方が好きだしって葛藤があったんですよね(笑)「ジミヘン好きなんだね」って言われていちいち「Nirvanaの方が好きだけどね」とは言わないんですけど、でもNirvanaのTシャツを着てれば「Nirvana好きなんだ」「そうだよ」で葛藤なく終わるじゃないですか。その葛藤がなんか嫌で、ああ駄目だNirvanaだけにしようって。それで他のは全部手放しましたね。あとSub Popのバンドってマイナーなバンドが多いので、そういうの好きなお店に売っても7千円とかだったんですけど、今はそのバンドでも4~5万円はしますね。Sub PopのバンドTがストリートファッションで人気になってるんですよね。半分以上何のバンドかはわかってないでしょうけど。あくまでグラフィックが、かっこよくて今の時代に合ったデザインなのかなって。

- バンドTシャツブームがキてるなと気づいた瞬間っていつ頃ですか?

門畑明男 - NirvanaのTシャツ自体は、当時のバンドTブームが終わっても一人歩きして高騰していってたんですよね。バンドTシャツにすごい強いお店があって、そこでもNirvanaだけはずっと売れ続けてたんですけど、自分の働いてるお店とかでベタなんですけど、Rolling StonesのベロのTシャツあるじゃないですか。あれを探してる人がいたり、あれが売れたりとかするんですよ。あれってバンドTシャツの教科書みたいなものなので、普通は毛嫌いしたりとか遠ざかったりする人もいると思うんですけど、ここ数年でそういうのがなくなったんですよね。そういうときに、あ、もしかしたらなって思いましたね。

自分が働いてるお店はテイスト的にロックTシャツってあまり置いてなかったんですけど、年代絞って置き出したら、ジミヘンもビートルズも飛ぶように売れて、他のバンドTシャツが強いお店でも、NirvanaのTシャツが気づいたら10何万とかでも売れてるんですよ。芸能人の方が着たりとか、ブランドが作ったりするじゃないですか。海外のファッションスナップとかでもNirvanaじゃないにしろバンドTシャツを着てる写真が載ってたりしてたんで、ここからもう一段階くるのかなという感じはしますね。それに気づいたのが去年で、今年結構人気あって、もうちょっとしたらもっと人気が高まるのかなって。自分が働いてるお店はお客さんの年齢層が高めで、置いているバンドも古いバンドなので、そんなに若いお客さんっていないんですけど、知り合いがやってるお店とかだと、若い人たちが多いですかね。

- バンドTシャツをそのバンドの音楽を知らずに着るかどうかみたいな議論があったりしますが、門畑さん個人的にはいかがですか?

門畑明男 - 自分が20歳くらいの頃は嫌でしたけど、今はしょうがないのかなって感じがしますよね(笑)。例えばですけど、ちゃんとしたブランドのものを、ちゃんとしたブランドのものと知らないで着ている人たちっているじゃないですか。それと同じような感覚だと思うんですよね。僕も10代のときに、Realってスケートブランドを知らないで、ただグラフィックがかっこいいなと思ってTシャツを着てたんですよ。全然知らずに着てたらスケーターの友達から、そのブランドちゃんとあるんだよって聞いて、あそうなんだって、それから着なかったんですよ。でもあくまでグラフィックとしてっていうのでいいのかなと思いますね。

- 100枚ほどコレクションを持たれてて、一番愛着があるTシャツはどれですか?

門畑明男 - ずっと探してたやつは、10年以上探してて、半年以内に買ったんですけど、それはNirvanaのTシャツじゃないんですよ。カート・コバーンが着てたデザインと同じTシャツ。カート・コバーンはいろんなバンドのTシャツを着たりしているので、バンドで探せば結構見つかったりするんですよ、あとはモヘアのセーターだったりとか。僕が探してたTシャツは当時アメリカにあったSound Magazineっていう雑誌のロゴがプリントされた、その雑誌のオリジナルTシャツで、ここ10何年探して1回も見たことがなかったので、正規で売ってないと思ったんですよね。例えば雑誌の付録についてるとか、身内だけに配られてるとか、わからないんですけど多分そういう感じです。

それをずっと探してて、半年くらい前に初めて見つけたんですよ。正直カート・コバーンが着てたのはロンTなんですけど、僕のは半袖なんですよ、でも半袖も見たことなかったんで。Nirvana好きな人は新品で、そのTシャツを作ったりブランドも作ったりしてると思うんですよ。そういうのはちょこちょこ数千円で売ってたりするんですけど、どうしてもオリジナルが欲しくて。金額は15万くらいですね、でも10数年探してたので。カート・コバーンが着てたロンTならもっとするでしょうね。20万くらいかな。

- 他に探してるTシャツはあるんですか?

門畑明男 - 何度か見たりとかしたことはあるんですけど、パスとかキャンセルしたやつは、インディーズ時代の曲で"Blew"って曲があるんですよ。そのジャケットを使ったTシャツとか、結構街中では見たりするんですけど、顔を別人にしてNirvanaのロゴをいれてるTシャツがあるんですね、それもいつか欲しいかな。今で10万円くらいの値段だと思うんですけど、いいタイミングで見つかれば欲しい。昔は安く買ってたんで、なかなかそこまでの金額に踏ん切りがつかないんですよ。その金額でもバンバン売れてますよ。欲しいTシャツが入荷して悩むんですよ、またこんな金額かって。悩んで2日後に行ったら、もうないですね。

- 他にもライバルがたくさんいるんですね。

門畑明男 - NirvanaのTシャツだけを集めてる人はいるかはわからないですけど、NirvanaのTシャツをいっぱい持ってる人はいますね。それはわかってるんですよ、あの人とあの人と、あの人みたいな(笑)

- 今だとロックTシャツコレクターじゃなくて、芸能人とかラッパーも着てるじゃないですか?それについてはどう思われますか?

門畑明男 - 主観ですけど、ラッパーの人がロックT着るのは、見ててかっこいいなと思いますね。ヒップホップとか詳しくないんですけど、NirvanaのロンTを着て歌ってる人とかを見たことがあって、かっこいいなと思いましたね。ロックTって版が大きいんで、どうしても大きくなるんですよ。なのでタイトに着てっていうのが結構難しい。でもヒップホップの人ってそれをちゃんと着れるんですよね。それが様になるなって。あとミスマッチな感じも個人的にはかっこいいかな。芸能界の人もどうなんですかね、好きで着てるのかただ単に着てるのかわからないですけど。似合ってればいいんじゃないですかね。ただ芸能界の人が着ると高くなっちゃうんで、そこは集める側としてはちょっとって感じですね。

- 門畑さんはバンドTシャツをコーディネートするとしたら、どんなコーディネートにしますか?

門畑明男 - やっぱりベタにジーンズですかね。NirvanaのものだったらジーンズにJack Purcellを履いたりだとか、合うんですけどそれだとベタベタすぎるじゃないですか。例えばパンツだけDickiesにしたりとか、1個くらいそれっぽいアイテムを入れてる方がオシャレかどうかは別として、そのバンドが好きだっていうのが伝わってくるかなって。全身やっちゃうと、ちょっと真似になっちゃうので。1個くらい所縁があるアイテム入れるくらいでいいのかなって気がしますけどね。

- NirvanaのTシャツってどれくらいの種類があるのかって分かったりするんですか?

門畑明男 - 正規品でいえば、多分数十枚、30枚くらいだと思うんですよね。アルバムやシングルと、ツアー用とかライブ用で出してるとか考えるとそれくらいだと思いますけど、ロックTが好きな人って、ブートに走るので。どっちが好きかはあれですけど、ブートでも個人で作ってるブートじゃなくて、ちゃんと会社とかが作ってる。言っちゃえば違法だったりするんですけど、数的にはまあまああるのかなって。200くらいですかね、今でも見たことないのでてきますからね。もしかしたら今の方が出てきてるかも。新しく今作られてるのはわかるんですよ、仕事上、ボディーとプリントが合ってないとか、ボディーが古くないとかわかるので。

- バンドTシャツの買い方のアドバイスをお願いします。

門畑明男 - 今着るかずっと着るかですよね。ずっと着るならやっぱり好きなバンドのTシャツに絞ったほうが、年をとって着なくなっても、アイテムとして邪魔にならないですよね。元々はファンのために作られてるんで、ずっと着るならそういう人が着るべきですよね。ファッションとして今だけ着るのであれば、高いものを買うのはもったいないじゃないですか。

これを言うと古着屋的には良くないと思うんですけど、古着って定価がないんですけど、相場があるんですよ。相場よりも高いのか安いのか、ちょうどなのかっていうのを勉強した方がいいですね。例えばこの店だと5千円だけどこの店だと1万円だとか、そういうある程度の相場を知っていたほうが痛い目には合わないですよね。古着はいらなくなったら、お店に売ったりできるので、それも大きいですよね。流行りが完全に終わったりしたら、買った時の金額よりだいぶ安くなってしまいますけど、いいタイミングで売ればいい金額になるでしょうし、そういう感覚で集めている子はいろいろ情報網を張ったほうがいいと思いますね。

情報はお店を巡って、先月この金額だったけど今月はこれくらいに上がってるなとか、半年後行ったら下がってるなとか、急に1種類のTシャツの数がなくなったりもするんですけど、その理由は売れてなくなってるのか、入りにくくなってるのかとか、いろいろタイミングを逃さないことですね。僕も結構そのタイミングで失敗してて、5万円出せないなと思って、止めたら次にそのTシャツが入荷したときは10万円になってたんですよね。そういうのが結構あるんですよ。タイミングは難しいですけどね、でももう4千~5千円の時代にはもう戻らないでしょうね。古着の商品って大体そうなんですけど、ブームが終わって値段が下がっても、その中でも本当に良いやつっていうのは値段が下がらないんですよ。それは絶対高騰していくので。ジーンズも革ジャンも全部そうなんですけど。本当にいいと思ったらお金出して買っておくべきですよね。

- 高くなっていくものっていうのは需要と供給のバランスがあるんですかね?

門畑明男 - そうですね、探してる人が常に一定数以上いるんですよね。ずっと同じような人たちがいて、そこに新しい人が入ってくるかどうかで。今バンドTシャツが高くなっているのは新しい人が入ってきてるからなんですけど、でもこのブームが終わって他のバンドは安くなってもNirvanaはずっと変わらないと思うんですよね。常に一定数以上が探しているので。

- 実際に買ったTシャツは着てるんですか?

門畑明男 - 全く着てないんですよね(笑)20歳くらいの時は着てました。夏はフル回転してましたけど、今は普段は無地かボーダーしか着てないです。たまに今日着てみようかなっていうのが年に1回あるかくらいです。全部タンスに押し込んでて見返すことも、あんまりないかもしれないですね。買って満足しちゃって、あとたまに何を持ってるか忘れるときがありますね。お店で見て、あこれ持ってたかなってなるときは、1日だけ取り置きしてもらって確認します。

- NirvanaのTシャツの魅力はなんですか?

門畑明男 - 僕がただ単にNirvanaが好きだからですね。そのTシャツがかっこ良くてもダサくても関係ない。今は金額がしちゃうので選ぶようにはしてますけど。NirvanaのTシャツとかカート・コバーンのTシャツとか、僕にとってはNirvanaっていうブランドだったんで。いろんな人たちが他のブランドを買うのと同じ感覚でNirvanaのオリジナルのTシャツを買うって感覚だったんです。なんでGucciとかHermesとか高級ブランドが好きな人は大変じゃないですか。でもその人たちが、それを見てるように僕はNirvanaを見てるんですよね。昔は4千~5千円でそれができたんですけど、今はTシャツということで言ったらGucciとかより高額になっているんですけど。

あとバンドTシャツってこれまでバンド自体の人気と値段が比例したことってなかったんですよ。Rollng Stonesは結構高かったですけど、Beatlesは基本安かったんですよね。マニアックで一部好きな人がいたりすると、高騰するっていうのがここ数年の現状ですね。パンクはもともと生産数も少ないので、パンクのTシャツは高いんですよね。Sex Pistols、The Clashもですけど。あとはグランジ、90年代で言えばGreen DayとかRed Hot Chili PeppersのほうがSub Popのバンドよりも全世界的に有名じゃないですか。なのにSub Popのアーティストのほうが高いんですよね。欲しい人が絶対欲しいものなので、そういう人が何人か集まっちゃうと、どうしても高くなっちゃうんですよね。その中で金額と人気が折り合ってるのがNirvanaだと思うんですね。Tシャツのグラフィックも良くて、人気も申し分なくて、有名な人が着たりて、今の状態になったんですよね。飛び抜けてNirvanaがフィーチャーされるのは、そういう理由ですね。このバンド知らないけど高いとか、有名だけど安いとかがないんですよ。魅力というよりはNirvanaのTシャツが特別フィーチャーされる理由ですけどね。

- 例えばコレクションをとんでもない金額で譲ってくれって言われたらどうしますか?

門畑明男 - ちょっとやそっとの金額じゃあれですけど、本当にとんでもない金額なら譲りますよ。正直200~300万で売ってくれって言われても売らないですね。あとこれは決めてるんですけど、売るなら全部売ります。1枚も残したくないです。できれば0か100がいいです(笑)中途半端に残ってたらまた集めたくなるだろうなってのがあるんで、そうなっちゃうとあれなんで、0か100にしますかね。

- 今回最初にコンタクトをもらったのは最終的にコレクションを本にしたいということでしたが、その理由をもう一度教えてもらっていいですか?

門畑明男 - 来年の2月でカート・コバーンが生誕50年というのもあったんで、タイミングじゃないですか。それで自分が持っているのでも持っていないのでもすごいTシャツいとかあって。自分が買わないものはどこ行ったかわからなくなるじゃないですか。ビンテージの洋服は全部そうだと思うんですけど、その時しか見れなかったり、出会ったときに決めないと次がなくてチャンスが巡ってこないことがあるじゃないですか。あと自分の欲で、どれだけあるのか知りたいってのもあったんですよね。細かい違いとか、フロントが一緒でもバックが違うとか色違いとか。コピーライトの年号だけ違うとか、そういうのが結構あったりするんですよね。実際どんくらいあるのかなって気になったんですよね。前から1冊にまとめたいというのがあったんですけど、今はブームもきていて色々重なったと思ったんですよね。知り合いからもコレクションブック作ってくださいよとかも言われて、じゃあ今なのかなって思ったんですよね。ロックT強いお店や他のコレクターの方の協力も仰げそうなので。もし出来たら1冊プレゼントします(笑)

 

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