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デトロイトテクノをテーマにした展覧会『Techno City』レポート

ロンドン中心部にある現代アートの複合施設であるICA(Institute of Contemporary Arts )では現在『Techno City』と題したデトロイトテクノをテーマとした展覧会が開かれている。

by 高倉宏司

展覧会は独立系のネットラジオとしてロンドン一の人気を誇るNTSと、音楽誌WIreが協賛しており、オープニングパーティーではギャラリー内のバースペースで、デトロイトのトップDJKirk Degiorgioらがプレイするとあって、ギャラリー前には長蛇の列ができる程の人気となった。

 

 

ロンドンでのテクノ自体の人気は、本家デトロイトやベルリンに比べて劣るものの、ロンドン産のクラブミュージックがデトロイトテクノから得た影響は計り知れない。レイブ時代から現行のFloating Pointsが主宰するレーベルEgroやFunkinevenによるApron Recordsなどからリリースされるエクレクティックなクラブサウンド、さらにMumdanceやLogosといったいわゆる”無重力”グライムのアーティストまでその影響は、広く現在まで及んでいる。

展示ではまずデトロイトの街の歴史が紹介される。自動車産業の発展とその後の衰退による荒廃した町並み、失業者の増加、貧困、ドラッグ、それらの要素が無機質で機械的な独自性をその音楽に与えた事やデトロイトテクノのオリジネーターであるDerrick May、Juan Atkins、Kevin Saundersonらの功績がレコードやパネルなどで展示されている。

 

次のコーナーではデトロイトシーンを支えたレコードのカッティング工場であるNSCについて紹介されている。レコードストアとしてオープンしたNSCに遊びにきたDerrick MayとJuan Atkinsが店の奥にあるカッティングマシーンを見つけて、店主であるRon Murphyにダブプレートのカットを依頼、彼らの周りにはレコード又はダブプレートをカットしたい連中が山ほどいる事を伝える。それを聞いたRonはマシーンのアップグレードを決意し、UR( Underground Resistance )等の地元勢のカッティングを引き受けたことがきっかけで、後にはMoritz Von Oswaldなど遠方から受注を受ける伝説的なカッティング工場になった。

ロンドンでのエキシビジョンという事もあって、イギリスとデトロイトテクノの出会いについても展示内で説明されている。1987年のDerrick Mayの”Strings Of Life”のヒットにより、それ以前はデトロイト産のハウスミュージックとしか認識されてなかったその電子音楽が世界中で紹介され始めた。

イギリスのプロデューサーで音楽ジャーナリストでもあったNeil Rushton が1988年にデトロイトを訪れ、現地のアーティストと共にこのエキシビジョンのイメージ画像にもなったコンピレーションアルバム『Techno! New Dance Sound Of Detroit』を制作。Virgin Records傘下の10 Recordsから88年末に発売されたこのアルバムは、すぐさまUKならびにヨーロッパ内で大ヒットとなり自動車産業の街として認識されていたデトロイトからの新しいクラブミュージックとヨーロッパのオーディエンスを繋げるきっかけとなった。

 

その他、セカンド•ウェーブと言われるURやRichie Hawtinといった第二世代のプロデューサーとレーベルの紹介や、パネル以外ではTB-303, TR-808, TR909等のデトロイトテクノのプロダクションに欠かせない機材の実機展示がされている。モニターでは1998年に制作されたドキュメンタリー『Detroit Blueprint Of Techno』 や先述した伝説のカッティング工場NSCをテーマにした『How Vinyl Record Was Made With Ron Murphy』が放送され、1988年にデトロイトテクノの特集を組んだロンドンの音楽誌FACEなどが展示されている。

展覧会『Techno City』は9月4日までICAで開催されている。

 

https://www.ica.org.uk/whats-on/detroit-techno-city

 

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