アンダーグラウンドなダンスミュージックシーンに数々の伝説と革命をもたらしてきたDJ Harvey。長らく、ミュージックフリークの間で噂される、知る人ぞ知るカルトな存在であったが、2015年に世界最大級のフェス、『Coachella』への出演をはじめ、2016年に20周年を迎えた『Fuji Rock Festival』の大トリ、2019年に『Rainbow Disco Club』10周年のヘッドライナーを飾るなど、その評価と名声は日本を含む全世界で高まり続けている。
文 : 小野田雄
そして、2023年、「DJとして最も神に近い男」と称されるリビングレジェンドが、10月9日(月・祝)に東京お台場の都市型フェスティヴァル『ageHa THE FESTIVAL』3日目に開催される『FATBOY SLIM LOVES JAPAN』にて、Fatboy Slimと"おそらく"世界で初の共演を果たす。
Fatboy SlimことNorman Cookは、The Chemical Brothers、The Prodigyらと共に、90年代後半のクラブシーンで"ビッグビート"ムーブメントを牽引。2002年7月13日に自身が拠点とするイギリス・ブライトンで開催したフリーパーティ『Big Beach Boutique Ⅱ』に25万人以上のパーティフリークを集め、ダンスミュージックシーンの伝説を作ったDJであるが、同じイギリス出身、同じ年齢にして、全く異なる音楽キャリアを歩んできたDJ Harveyが生み出した伝説や革命はいかなるものなのか?
レイヴカルチャー黎明期である80年代末に、パーティークルー、Tonka Sound Systemを率いて、イギリス各地でウェアハウス/野外パーティをオーガナイズしたHarvey。毎週月曜日(!)にブライトンのZap Clubで行っていたレギュラーパーティは午前2時にクラブ営業を終えると、ビーチにサウンドシステムを持ち出し、昼過ぎまでパーティを続け、レイヴカルチャーの自由を謳歌した。その後、レイヴカルチャーが商業化、形骸化し、音楽がよりハードなものになっていくなか、音楽性を深化させ、1991年にロンドンのガーデニング・クラブでイギリス初のディープハウスパーティ『MOIST』をスタート。Larry LevanやFrancois KevorkianといったNYの伝説的なDJが招かれるなど、USのダンスミュージックに共鳴したこのパーティには、Idjut BoysをはじめとするDJ、プロデューサーたちが足繁く通い、のちに彼らは、NU HOUSEと呼ばれる英国産ハウスミュージックの新しい流れを生み出すことになる。
また、この時期、Harveyは、ディスコレジェンドのLarry Levanがダンスフロアでの盛り上がりを誘発するように、既存の楽曲を独自に編集した「リエディット」レコードをプレイする現場を目の当たりにし、忘れ去られ、失われかけていたリエディットの手法を蘇らせるべく、自身のレーベル、Black Cock Recordsを設立。The Dells”Adventure (No Way Back pt2)”を長尺のダンストラックへと引き延ばした"No Way Back"をはじめ、アナログテープの切り貼りによって生み出されたブートレグのレコードの数々は、DTMが一般的になった00年代初頭のエディットブームに大きな影響を与えることとなった。
そして、1994年にロンドン初のメガクラブ『Ministory Of Sound』のレジデントDJを務め、名実ともにトップDJのステータスに登りつめると、2002年にイギリスからアメリカLAのベニスビーチへ移住。ベニスビーチ、通称ドッグタウンはサーファーにして、スケートボーダーでもあるハーヴィーにとっての聖地であり、滞在を楽しむうちに、オーバーステイとなり、グリーンカードを取得する2010年まで、アメリカ国外への出国が出来なくなってしまった。
しかし、その間、図らずしてハーヴィーの評価はますます高まっていった。2001年に発表したミックスCD『Sarcastic Study Masters Vol.2』では、イタリアのDJ、Daniele Baldelliがニューウェイヴやクラウトロック、アフリカ音楽などのレコードをチョップド&スクリュードのようにピッチダウンしてプレイし、80年代に確立した「Cosmic」と呼ばれるDJスタイルに光をあて、2003年に伝説的スケーターであるTony Alvaのエキシヴィジョンのために制作したミックスCD『Mad Dog Chronicles Soundtrack』では、70年代のサイケデッリックかつファンキーなロックをグルーヴィーにつないでみせた。また、この時期、ラジオのミックスショーでは、スペイン・イビサ島でDJ AlfredやDJ Pippiらによって育まれたバレアリックなダンスミュージックをいち早く再評価し、その片鱗は2017年以降、3作がリリースされているコンピレーションアルバム『The Sound Of Mercury Rising』で知ることができる。
そうしたテイストメイカーとしての先見性は、00年代以降のオルタナティブなダンスミュージックに大きな影響を与え、DJとしての評価を高める一方、Harveyはレコードをドラムスティックに持ち替え、バンド形態での音楽制作も行っている。DJを始める以前である14歳の時に、地元ケンブリッジのパンクバンド、ERSATZにドラマーとして参加。BBC Radio 1の名物DJ、John Peelにフックアップされたほか、1992年にはデビュー前夜のJamiroquaiのライブでパーカッションをプレイするなど、プレイヤーとしての才能も併せ持つHarveyは、2007年にMap Of Africa、2014年にはWildest Dreams名義でアルバムを発表。ドラムだけでなく、ボーカルやギターの腕前も披露しながら、サイケデリックかつブルージーなサウンドを具現化してみせるなど、音楽の自由を謳歌するHarveyの表現に限界はなさそうだ。
さて、そんなHarveyとNorman Cookの共演だが、「"おそらく"世界で初の共演」と記載したのは、遥か以前にイビサの『Cafe Del Mar』で共演したような気もするが…と、本人たちの記憶が定かではないからだ。ただし、2015年にVICEのインタビューに答えたNorman Cookは、初めてのセカンド・サマー・オブ・ラブ体験は、1988年、ブライトンで行われたTonka Sound Systemのビーチパーティだったと語っている。その驚きの事実から想像するに、Fatboy Slimの伝説のパーティ『Big Beach Boutique Ⅱ』の根底には、DJ Harveyのパーティが原体験にあったのかもしれない。
最後に、それぞれ長い道のりを歩んできた2人がターンテーブルをシェアする今回のパーティを前に、Norman CookとDJ Harveyが寄せてくれたコメントをご紹介しよう。
「DJ Harveyは最も尊敬するヒーローのひとりだ。DJの中のDJなんだよ。彼のプレイは何度も見てきたけれど、同じパーティでプレイすることはめったにないこともあって、今回の共演は楽しみであり、光栄なことなんだ」(Fatboy Slim aka Norman Cook)
「旧友のNorman Cookから『Fatboy Slim loves Japan』でのプレイを依頼された時、とても興奮したよ。なぜならこれは断れないオファーだったから。今回は僕ら全員にとって信じられないようなショーになると思うよ」(DJ Harvey)
Info
ageHa THE FESTIVAL FATBOY SLIM LOVES JAPAN
日 時:2023年10月9日(月・祝)開場・開演12:00/終演20:30(予定)
会 場:東京・お台場 青海R区画
料 金:前売 8,800円
U-23(23歳以下)7,700円
出 演:
FATBOY SLIM
DJ HARVEY
FRANCESCO DEL GARDA
A.S.F (P-YAN & RYOKEI)
CELTER
CYK
FRAN-KEY
MILLION DOLLAR SOUNDS
MONKEY TIMERS
PIXIE
SAMO
SATOSHI OTSUKI
SISI
YAMARCHY
チケット購入:
https://acid.zaiko.io/e/fbslovesjapan
https://eplus.jp/sf/detail/1326990001
*VVIPをご希望の方は下記までご連絡ください。
ACiD presents FATBOY SLIM LOVES JAPAN TOUR
ageHa THE FESTIVAL
https://www.thefestival.ageha.com
THE FOOD CARNIVAL(入場無料)