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【オフィシャルレポート】¥ellow Bucks 『The Show '22』

愛知県常滑市にあるAichi Sky Expo (愛知県国際展示場)で2022年11月6日、¥ellow Bucksがキャリア初となるワンマンライブ『The Show ’22』を開催した。これは、今年7月に発表した2ndアルバム『RIDE 4 LIFE』のリリースツアーファイナルを兼ねたもの。およそ6,500人を収容するという今回の会場は、現在の¥ellow Bucksの活躍を考えれば決して驚くほど大きなサイズではないが、これが初めてのワンマンライブだということを考慮すれば異例の規模感とも言えるだろう。そんな場所で、果たしてどんな“ショウ”を魅せてくれるのか、それを待ちわびるファンたちは16時の開場前から長蛇の列を成していた。

開演は18時過ぎ。“Fillinʼ Up (Intro)”で目を覚ましてベッドから起き上がった¥ellow Bucksは公言通り、 コロナ禍でリリースワンマンライブを中止せざるを得なかった1stアルバム『Jungle』を軸としたセットでスタート。時折フィーチャリングゲストをステージに招き入れながら、テンポよく楽曲をキックしていく。事前のインタビュー取材では、中止となった幻の『Jungle』リリースワンマンについて、「オレはあんまりがっかりしないタイプなんで、それはそれっていう感じ」と語ったが、とはいえそこに思いがないわけではないはずだ。今回のショウの監修を務めたDJ RYOWの手助けもあってか綿密に練り込まれたライブ構成は、“IDWLU”をはじめとしたエモーショナルな楽曲から、“Yessir”といったクラブバンガーまで、巧みにテンションを使い分けたメリハリが印象的だった。

『ラップスタア誕生!Season 3』での優勝、そして1stアルバムのリリースを経たことで、¥ellow Bucksの活躍の場が地元・東海エリアから全国へと一気に広がったことは想像に難くないが、そこで踏んだ数多の場数は間違いなく今回のセットリスト前半で見せた安定感と余裕に繋がっていたはずだ。『Jungle』 リリース当時は、キャパ 1,000人ほどの会場でワンマンを予定していたという¥ellow Bucks。「踏めるなら段階を踏みたかったけど、いい意味でこれがオレに課された試練なのかなって考えてます」という不退転の決意は、ともすれば自らを押し潰すプレッシャーにも成りかねない諸刃の剣ではあったが、持ち前のポジティブシンキングでうまく昇華し、そんな状況すらも楽しんでいるかのように見えた。

そんな¥ellow Bucks が、ラッパーとして自身を見つめ直すきっかけとなった事件を描いた演出を挟んだあと、“Iʼm Back”でショウの後半戦に突入。2ndにして最新アルバムである『RIDE 4 LIFE』が軸となるパートは、アルバムのジャケットにもなった自慢の愛車、1966年式の「Pontiac Catalina “YELLOW BULL”」 でステージに乗り付けるド派手なオープニング。2000年に全米で開催された伝説の「Up In Smoke Tour」 を彷彿とさせる演出にオーディエンスが沸くなか、まずは“Ride With Me”を披露。余談にはなるが、今回のワンマンライブの客席が、「助手席(SS 席)」「後部座席(S 席)」というユニークなネーミングだったのは、ここに由来している。¥ellow Bucksは今作のリリース後に、「『RIDE 4 LIFE』のストーリーはまだ完成していない」とコメントしていたが、自分好みのカスタムでばっちり仕上げた“YELLOW BULL”で乗り付けた今回のショウ後半戦こそが、2ndアルバムの未完成部分であり、作品を深く理解するバックグラウンドとして欠かせない要素だったのである。

「ただ単純に『オレってイケてるだろ?』っていうことだけを提示したってしょうがないと思うんですよ。最初から最後までうまく流れを作って、自分の魅せたかったこと、伝えたかったことをお客さんにちゃんと提示したい。クラブでのライブも含めてそういうのは常に考えてるし、自分はそれがエンターテインメントだと思ってるんで」。本人のこの言葉通り、さらに進化した¥ellow Bucksの現在地をステージ上で表現して見せ付けていく。

自信に満ちあふれたパフォーマンスで盛り上げた“GIOTF”や“Della Waya”はその最たる例とも言えるが、 なにより豪華なフィーチャリングアクトを迎えつつも、あくまで自らを今回の主役としてショウアップした魅せ方は、初めてのワンマンとは思えないものだった。巨大なLEDスクリーンが鎮座するステージセットや映像演出、照明に至るまで、細かな注文をしてこそ完成したショウは、「クラブのライブだけしか盛り上げられないとか、そういうのはやっぱり嫌だし、観てくれたお客さんにはいい気持ちで帰ってもらいたい」という彼のライブポリシーを具現化していた。

セットリストの終盤にかけては、今回のもう一つのテーマとも言うべき¥ellow Bucksを育ててくれた、東海エリアの先達たちやシーンへのリスペクトと愛を存分に滲ませた内容。かつてMr.OZが名古屋の街に捧げたクラシック曲“O FIVE TWO”をサンプリングした“You Made Me”を、地元への感謝を交えたMCとともにショウ最終盤で披露したことがそれを象徴していた。さらに「リスペクトは当然として、そ のうえでなぜ今オレがこれをやっているかを理解してもらいたい」という彼の熱い思いは、続く“Crown”でよりはっきりとする。曲のラストに¥ellow Bucksは、ステージ上に置かれた玉座へと腰掛けたことで、 東海エリアを背負い牽引していく存在としての自覚と決意を表明したのだった。

加えて、¥ellow Bucksはショウの最後にTOKONA-Xへ最大限の敬意を払うことも忘れなかった。奇しくもTOKONA-Xが亡くなった時と同じ26歳を迎えた¥ellow Bucksが、計44曲、約2時間超にも及ぶヒップホップショウを常滑市で開催し、その締めに「トウカイテイオー」を敬したことは、東海エリアのシーンにとって極めて情緒的であったと言えよう。また、名古屋を筆頭とした東海エリアの面々が、地元で生まれたラップスターのさらなる飛躍を後押しするように見えた今回のショウの構図は、ヒップホップのあるべき姿として非常に理想的な光景だった。そんなバックアップのなかで、「ヤングトウカイテイオー」として自身の立ち位置を明確にした¥ellow Bucksは、今回の『The Show ʼ22』を終えた今、すでにその先の未来を見据えて新しい⻘写真を描いているはずだ。(Kazuhiro Yoshihashi)

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