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【コラム】Pa Salieu|アイデンティティと向き合うグルーヴ

ガンビアにルーツをもつ、イギリス・コベントリー出身のラッパーPa Salieu。彼は2020年1月にUKラップシーンで人気のYouTubeチャンネル “Mixtape Madness”で“Frontline”をリリースし、一躍注目を集めた。

ビートの不穏さ、染み出すようなローカル感、ドライに歌い上げる独特の雰囲気、「あいつらはブロックの生活を知らない、いまだに狂った最前線」というストレートなライン、そして新人らしからぬ説得力のある出立ちに衝撃を受けた。“Fontline”をリリースした同月には地元コベントリーで車線の車から頭部に銃撃を受け重傷を負ったものの、翌月にはSLを迎えた“Hit the Block” をリリース、「最前線のやつ、俺の頭を撃ち抜いたって、俺は未だ息してるぜ (あいつらはクソだ)」というラインのリアルさ、彼の「恐れを知らない」反抗的なスタイルはラップならではの魅力だ。最近ではPalace Skateboards のプロモーションにも登場し、そのクールネスを披露している。

https://youtu.be/Ml8W4xrm0xc

自身の出自を誇る

ここまでのストーリーであれば、他のUKギャングスタラッパーと大きく変わらないかもしれない。しかし、この後、ルーツである西アフリカ、特にセネガル、ガンビアの音楽に刺激を受けて成長していく。その成長は1st アルバム『Send them to Coventry』(2020年11月リリース)に結実した。収録曲の中でも“B***k”には、繰り返しの言葉が与えるリズムの強さ、メッセージの力強さにまず耳を奪われる。

ミュージックは黒、

肌のトーンは黒、

ライフスタイルは黒、

でもあいつらはその事実を恐れる

「B***k」

Pa Salieuの独特の低い声のフロー、「ブラックネス」の礼賛、イギリスの人種差別的なシステムに反抗するメッセージに独特のトラックが説得力を与える。笛のサンプリングや西アフリカ音楽を解釈したミニマムなドラムパターン、UK的なドラムやベースサウンドのステレオ感、重たいベースといったミクスチャーサウンド。さらに、MVにはアーティストのAbe Odedinaがディレクションに協力し、「イギリスに生まれ育ったアフリカン」の誇りや気迫が立ち現れる。「Black」であることによって生まれる差別や障害は制度的なものであり、歴史的なものである。Pa Saieuがそのブラックであるということを率直に誇り、またリプレゼントしていく姿勢は、UKラップのある種「コンシャス」な流れにも呼応している。

Daveの最新アルバム『All Alone in this Together』では、現在における人種•犯罪•移民•システムに関する深い洞察をラップに落とし込んでいるし、BERWYNも『TAPE 2 / FOMALHAUT』で人種や移民ルーツによって学校でのいじめや強制退去の危機に遭い、そうした排除が生み出す孤独や鬱と向き合っている。 その背景にはイギリスのアフリカ植民地という過去があり、歴史的なイギリスへの移民と苦難の歴史がある。Pa Salieuもまた彼の出自や制度的な差別と向き合ってきた。

もううんざりだ、俺は何者でもないように扱われている

明日、もし俺が死んでいたら、奴らは俺がギャングになったと言うだろう

抱えてきた痛みは、決して快適なものではなかった

しかし、心の力は神の祝福だ 

お前は俺の兄弟だって思い出せ、ファック・スキントーン

心からの言葉だ、兄弟よ、ブラックの音を聞け

「B***k」

彼のキャリアも順風満帆ではない。英政府主催で開催されるカルチャー・フェスティバル「City of Culture」への参加が決まった後、犯罪歴を理由にその参加を取り消されたり、今年11月に予定されていた地元Coventryでのワンマンショーも、警察によってキャンセルされてしまった。そうした障害やシステムに抗し、自分自身を誇り続けるという戦いの中でも、アフリカンであるというアイデンティティは表現の核となっている。

UKとアフリカの融合、そして進化

2021年にリリースされた最新EPとそれに続いた2つのシングルのヒットは、Pa Salieuの表現がアートとしても、またエンターテインメントとしても高いポテンシャルを持っていることをを証明した。“B***k”を発展させたとも捉えられるEP『Afrikan Rebel』では、ナイジェリアのシンガー、Tay IwarとBurna BoyともコラボするラッパーZlatanを迎えた“Shining”ではグライムを感じさせるストリングがユニークであるし、同じくナイジェリアのシンガーObongjayarを迎えた“Style & Fashion”では、南アフリカのダンスミュージックであるGqomやAmapianoを感じさせる緊張感のあるビートも、Pa Salieuのマナーで乗りこなす。“Lit”では、ダブステップとドリルのビートを基調としながら、ギターのリフには西アフリカ音楽の雰囲気を感じさせる。クリエイティブのさまざまなレベルで、彼がUK・アフリカのクリエイティビティを融合し新たな音楽を作るという気概に満ちている。

“Glindin’ feat. slowthai”、“Bad feat. Aitch”という二つのシングルも、UKラップのトップランカーの2人に飲み込まれることなく、終始Pa Salieuのペースで独特な個性を印象付け、MVや音楽からパーティチューンとしての華やかさを感じるのも素晴らしい点だ。一方でアイコニックなサウンドの芯も貫き、パーカッションやスネアをベースにした西アフリカ由来のグルーヴでアーティスト性を確立している。

Pa SalieuのInstagram Liveやvlogでのセッションの風景からも、『Afrikan Rebel』のスピリットを発展させた音楽をリリースしていくだろうと思う。コロナ・パンデミックによる諸々の制限が緩和される中で、より大きなライブの舞台で彼が飛躍し、アフリカンを代表するイギリス発のラッパーとして成長に期待するばかりだ。(米澤慎太朗)

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