日本大学芸術学部映画学科3年映像表現・理論コース映画ビジネスゼミが、ユーロスペースにて学生主催の『ジェンダー・ギャップ映画祭』を開催。12月4日(土)〜10日(金)の1週間、全15作品が上映される。
今年3月に「日本の男女平等指数が世界で120位」というニュースが発表され、2月にはJOC森前会⻑による「性差別発言」もあるなど、無意識な差別や偏見、特に男女差別が根強く残る日本。2017年にアメリカの映画界で始まった#MeToo運動も日本では拡散が弱いという現状の中、まさに「ジェンダー・ギャップ」の歴史を辿ってきた映画を通し、ジェンダーギャップという問題に今一度、映画を通じて改めて向き合うべく企画された映画祭となる。古今東⻄の映画15本から、いかに女性たちが戦ってきたのか、そして社会はそれをどう阻んできたのか、ジェンダーをめぐる価値観がどう変わっていったのか、国によってどう違うのかなどを考えることを目的としている。
本映画祭では、主に性差に疑問や悩みを持ち、行動してきた「女性」を描いた作品が取り上げられる。中国の蔡楚生監督『新女性』と溝口健二監督『浪華悲歌』は、製作国こそ違えど同時代の作品であり、どちらの主人公も女性であるが故に苦しい選択を迫られる。そして女性監督の筆頭であるアニエス・ヴァルダからは『5時から7時までのクレオ』を選出。また、家庭や学校での性差に悩む少女の繊細な心情を捉えたキム・ボラ監督の『はちどり』は、スタッフ全員一致で選ばれたとのこと。
日藝映画祭で初選出となるアニメーションは、遊女であるリンの生き方が更に深く描かれた片渕須直監督『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』。また、『RBG 最強の85才』や『この星は、私の星じゃない』のように、男女平等の道を切り拓いてきた女性のドキュメンタリー作品にも注目。そして、2020年東京国際映画祭コンペティション出品作の舩橋淳監督による『ある職場』は本映画祭でプレミア上映として公開される。
「自分の目の黒いうちに、区別が差別に昇格した」と名言を残したのは、女性学の大先輩、駒尺喜美さん。映画は社会の状況を反映する。おんなとおとこの 「あたりまえ」がどうやって「あたりまえ」になったか、そして「あたりまえ」でなくなっていったかを知るためには映画は最高の歴史資料。ううむ、へええ、まさ か、やっぱり、と驚きと感動の連続であることを請け合います!
上野千鶴子 (社会学者、認定NPO法人 ウィメンズアクションネットワーク理事長)
「ジェンダー・ギャップ」は何も特別な概念ではない。政治家や識者が議論するポリティカル・イシューでも、ジャーナリストが新聞やネットの記事に書くための専門用語でもない。それはわたしたちの足元につねに蹲っていて、この社会を生きる一人一人の暮らしの中に浸み出しているものだ。その影響を受けているのは女性だけではないから、すべての性の人々が考えるべき問題でもある。1本の映画が、自分の生活の中にもあった不可視化された差別や格差について気づくきっかけになることがある。気づいてしまった後に何をするかは、あなた次第だ。
ブレイディみかこ (ライター・コラムニスト)
両性のあいだにはどうしても相違があってしまい、それゆえに理解が難しいのであるなら、それを乗り越えさせるものこそ「想像力」ではないか。かつて自作 『アリーテ姫』(2000)で語ろうとしたことです。『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(2019)の主人公もアリーテ姫と同じ魔法にかけられてしまい、やはりもともとの名前や、それまで携えてきたアイデンティティを失わされます。そして、そこからの解決がもたらされない、というのは現実の負の面を反映しているから。両映画の間の20年近くの時間はなんだったのでしょう。
片渕須直 (アニメーション映画監督)
Info
「ジェンダー・ギャップ」映画祭 開催概要
主催:日本大学芸術学部映画学科映像表現・理論コース映画ビジネスゼミ、ユーロスペース
上映協力:アニモプロデュース/アルバトロス・フィルム/ギャガ/国立映画アーカイブ/ザジフィルムズ/松竹/松竹大谷図書 館/セテラ・インターナショナル/タイムフライズ/東京テアトル/東宝/日活/パンドラ/ファインフィルムズ
会期:2021年12月4日(土)〜12月10日(金)
会場/一般のお問い合わせ:ユーロスペース(東京都渋谷区円山町1-5KINOHAUS3F TEL:03-3461-0211)
公式ホームページ: http://nichigei-eigasai.com/
Twitter: https://twitter.com/nua_eigasai2021
Instagram: https://www.instagram.com/nichigei.eigasai/
<上映作品一覧>※制作年順
『新女性』(蔡楚生/1935)
『浪華悲歌』(溝口健二/1936)
『赤線基地』(谷口千吉/1953)
『月は上りぬ』(田中絹代/1955)
『女が階段を上る時』(成瀬巳喜男/1960)
『5時から7時までのクレオ』(アニエス・ヴァルダ/1961)
『叫びとささやき』(イングマール・ベルイマン/1972)
『百万円と苦虫女』(タナダユキ/2008)
『ハンナ・アーレント』(マルガレーテ・フォン・トロッタ/2013)
『少女は自転車にのって』(ハイファ・アル=マンスール/2013)
『はちどり』(キム・ボラ/2018)
『RBG 最強の85才』(ジュリー・コーエン,ベッツィ・ウェスト/2018)
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(片渕須直/2019)
『この星は、私の星じゃない』(吉峯美和/2019)
『ある職場』(舩橋淳/2020)
『新女性』(1935/蔡楚生)は、国立映画アーカイブ収蔵のプリントで、活弁と生伴奏付きの上映となります!
★弁士:山内菜々子さん 三味線:宮澤やすみさん
【トークゲスト】
・『ある職場』(2020年/舩橋淳)★舩橋淳監督、平井早紀さん(主演)
・『この星は、私の星じゃない』(2019/吉峰美和)★田中美津さん(登場人物、鍼灸師)
・『ハンナ・アーレント』(2013年/マルガレーテ・フォン・トロッタ)★矢野久美子さん(フェリス女学院大学教授)
・『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(2019/片渕須直)★片渕須直監督