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Netflixオリジナルドキュメンタリーシリーズ『あなたの知らない卑語の歴史』|ニコラス・ケイジが案内する「Fxxk」「Sxxt」「Bxxxh」の世界

HISTORY OF SWEAR WORDS Nicolas Cage as himself in HISTORY OF SWEAR WORDS. Cr. Adam Rose / Netflix

公の場ではタブーとされているものの、日常的な英会話の中で耳にしない日は無いと言ってよいワード「Fuck」。あらゆる場面で用いられるこの言葉の起源を、あなたはご存知だろうか?

Netflixにて現在公開中のドキュメンタリーシリーズ『あなたの知らない卑語の歴史』は歴史学や言語学、社会学の知見から、いわゆる「Swear words(卑語)」の歴史を丁寧に紐解いてゆく番組。案内人を務めるのは、なんとあのニコラス・ケイジ。「Fuck」や「Shit」、「Bitch」といった言葉を涼しい顔で連発しながら、これらの言葉の歴史を我々視聴者に教えてくれる。

第一回は英語圏で最大のタブーであり、なおかつ最も親しまれている単語の一つとも言える「Fuck」を深掘りしてゆく。本作は卑語を仕事で頻繁に用いるコメディアンから、辞書編集者、認知科学者まで、様々な形で言葉に関わるエキスパートたちが登場する。ご存知の通り「fuck」は本来「性交」を意味する単語だが、コメディアンたちが「fuckは最高の卑語だ」「無人島に卑語を一つだけ持っていけるとしたら、fuckね」と語る通り、この言葉は単なる性的な意味に止まらず、人を罵ることにも、感情の昂りを表現することにも、ショックを表現することにも、友好的なニュアンスを伝えることにも使えるなど、幅広い用途を持つ。

「Fuck」の歴史について、言語を研究する認知学者のベンジャミン・ベルゲン氏は「fuckには5世紀から13世紀までの数千年間、“性交”という意味はありませんでした。それが14世紀の初頭から、性的な意味が加わったのです。しかし禁句ではなく、約400年間は普通に使われていました」と語る。また「fuck」の語源は「王の承認後の性交(Fornication Under Consent of the King)」という成句の頭字語であるという興味深い説も紹介される。中世の人々は結婚後の性交に王の許可を必要としていたことから、合法のセックスを「fuck」と呼んでいたというのだ。なんとも可笑しい説だが、こちらは紹介された後に「まったくのデタラメ」と一蹴されている。

それでは、どこかの誰かがある日と突然「fuck」という言葉を性的な意味で使い始めたとでも言うのだろうか?辞書編集者のコリー・スタンパー氏は「Fuck」は中世のオランダ語において「吹く」「叩く」という意味の動詞として使われていたと語る。これらのニュアンスが、徐々に性的な意味を帯び始めたのが、我々が知る現在の「Fuck」のルーツであるようだ。

作中では人間が卑語を発する際の脳のメカニズムも紹介される。卑語を発すると脳からアドレナリンが出るため、痛みに耐えやすくなり、卑語を用いると握力が5%向上するなど、実際に力も強くなるという。

また、「Fuck」は深く傷ついた際の落胆を表現するためにも使用される。作中ではN.W.A.のクラシック“Fuck The Police”が、「Fuck」を最も詩的に用い、卑語を芸術にまで押し上げた功績を持つ楽曲の一つとして紹介される。彼らは警察を単に罵るのでは無く、自分たちに対する不当な扱いへの落胆と悲しみを表現し、抗議するために用いたのだ。

「Fuck」に限らず、英語圏における卑語はアフリカ系のコミュニティによって長く、頻繁に使われてきた背景を持つ。「Shit」を取り上げる第二回は、単に「排泄物」という意味であったこの言葉が黒人コミュニティによってポジティブかつ汎用性のある言葉に生まれ変わる過程が解説される。それは音楽の世界においても同様で、「過激な歌詞から子供達を守る」ことを目的に設立された団体PMRCの発案により「過激な歌詞」を含むCDに「Parental Advisory Explicit Content」というステッカーを貼ることが義務付けられてからも、このステッカーがヒップホップを始めとする「イケてる音楽」の象徴として受け入れられてゆく様が描かれる。卑語の歴史を知ることは、ネガティブなものがポジティブな力に変わってゆく過程を知ることにも繋がることが分かる。

「卑語は自由に使えるべきだ。創造性への扉であり、主張の表現方法だ。それに、健康的でもある」とニコラス・ケイジは語る。本作の一貫したテーマは、広く使われていながらタブーとされている卑語の存在意義を考え直すことだ。多くの卑語には長い歴史と文化的な背景があり、それぞれに良い面も悪い面もある。「Fuck」を単に人を罵る下品な言葉として扱うことは間違っているし、主張を端的に、強いインパクトを持って伝えることに効果的だ。一方で、「Bitch」を紹介する第三回では、「Fuck」と同じく広く使われる言葉でありながらも、男性が女性を罵る言葉として長く使われてきたために、「男性が女性に使うことが許されてはならない」との強いメッセージが発せられる。しかし「Bitch」は今や女性同士の連帯を表す言葉としても用いられる。言葉は時代と共に変質するものであり、だからこそ、その背景を深く学んでゆくことが必要になるのだろう。

ダンディーなニコラス・ケイジに導かれ、身近に存在し当たり前のように親しんできた言葉の一つ一つに深く思いを馳せることが出来る『あなたの知らない卑語の歴史』。これを見れば、明日から「Fuck」と口にする際に、これまでとは違った感慨を得られるはずだ。(山本輝洋)

Info

Netflixオリジナルシリーズ『あなたの知らない卑語の歴史』独占配信中

https://www.netflix.com/jp/

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