連載『My Classics』。この企画ではアーティストやデザイナーなどのお気に入りの一品と、これから欲しいアイテムや気になっているものを紹介していく。普通のインタビューでは中々見ることのできないアーティストの嗜好や素顔などが垣間見えるものに。
第11回目となる今回は、ライブアルバム『SUPER EXCITED(LIVE ALBUM)』をリリースしたペトロールズのボーカル・ギターであり、その他にも楽曲提供やプロデュースワークなどシーンの様々な局面で神出鬼没に活躍する長岡亮介をフィーチャー。
取材・構成:和田哲郎
撮影:Cho Ongo
- 以前のインタビューで「メガネは30本ぐらい持ってる」とおっしゃってましたが、それから新しいものを買われたりしましたか?
長岡亮介(以下、長岡) - たしかそれ2年ぐらい前ですよね。それから増えてます(笑)
- 一番最近買われたのはどんなものですか?
長岡 - 今日かけているこれ。「OG」って書いてあるから、Oliver Goldsmith。昔のモチーフらしいです。今は黒縁が欲しいです。カクッとした大きすぎない大きいやつ。
- どういうメガネに惹かれることが多いですか?
長岡 - 以前は作りが独特なものが好きだったんですけど、最近は雰囲気ですかね。昔のものとか。
- 洗練されすぎてない、というか。
長岡 - そうです。可愛げがあって、人間味があるものが好きです。
- 20歳くらいから集めるようになったとのことですが、それまでも普通にかけてはいたんですよね?
長岡 - 目が悪いからね。なんで集めたんだろうね。カッコいいメガネを見たんでしょうね。最初に意識して買ったのはPradaのサングラス(笑)今朝もメガネ選んでるときにそのことを思い出して。そのサングラスはすごく格好良かったです。
- ギターも既にコレクションはしていたんですか?
長岡 - 20歳の頃?コレクションとまではいかなくても一度手に入れたギターを手放すということが無かったから5、6本くらいはあったかもね。
- その時からずっと遊びのあるものが好きだったという感じですか?
長岡 - そうかもしれない。小学校の頃はヤン車が好きでしたね。改造してるぜーって感じが子供心に好きだった。車高をぐっと下げたピックアップトラック、トラッキンっていうんですかね、ああいうのも好きでしたね。四駆も、後はアメ車とか、ビートルのような空冷のワーゲンとか。今は全然違う古いフランス車が好きですが(笑)。その後中学校から始めたギターは人と違う形が好きだったんですが、そういうギターって曲を選ぶので、音楽をやっている父親から「変な物はダメだ」って言われ、欲しかった物とは全然違ったものを買い与えられました。今考えるとそれで良かったと思います。その反動なのか後々変なものが増えていきましたね。高校の時にヨーロッパでVOXの雫型のギターを買ったのが最初の変形ギター。「ビザールギター」ですね。人と違うものが好きなんですよね。
- それで、大学生になりメガネにも興味が出てくるわけですね?
長岡 - そうですね。でも、メガネはまたちょっと違うんだよな…...。クルマやギターと違って身に付けるものじゃないですか。それなのに似合うかどうか、というよりもそれ自体のデザインだけで選んでたからしくじったりして。
- そうですかね?そんなことはないと思いますが。
長岡 - 当時カトラーとかもかけてみたりしたんですけど、しばらくして盛り上がりが過ぎると「あ、似合ってないな......」って(笑)。
- なるほど。プロダクトとして好きなものと、自分に似合うものは違うというか。
長岡 - そうなんですよ。今ならメガネはお店で細かく調整してもらいますが。けどよくありますよね、スーパーカーの類に乗ってる人の服装がアレなパターンとか(笑)。
- それはなんとなくわかります。
長岡 - 意識が車にしかいってないってことなんですかね、人のこと言えないです(笑)。服もそういう傾向がありますね。全体で見ても、「この服ウケる」とか、そっちに行きがち。
- ディテールの方に目がいく、ということですか?
長岡 - ディテールもそうだし、色も。といってそんなに拘りがあるわけじゃないです、そういう服を探しに出かけたりはしないです。オシャレな人間じゃないです。
- いやいや(笑)。でも、そういったアイテムはどうやって見つかることが多いですか?今はSNSとかで買おうと思えばなんでも見つけられるけど、人と違うものって、見つけ出すのが難しいと思うんですよ。
長岡 - 最近だとギターのストラップが欲しくてとにかくずっと見てるんです。e-bayとか。8000件くらい出品されていて、それを最初からずーっと全部見る(笑)。無の時間、何にもならない時間ですけど。後は中古車サイトとか。買いもしないのに。ギターのサイトも。ウェブ上で虱潰しにするんですよ。
- 「効率良く」とか、そういうことでもないと。
長岡 - 効率悪いです(笑)。
- メガネもそういう探し方ですか?
長岡 - プラっと行ったところに良いものがあると、それが良いなって。その時はなんとなく扉が開いてるんじゃないですか?「欲しいな」って思うってことは。
- なんとなく「買おう」っていう気持ちがあると。ギターに対してはもっと狭く偏執的に......。
長岡 - 気持ち悪いっていう(笑)。もう決まってるんですよね。洋服をもっと好きだったら、もっと人気が出たかもしれないです。
- (笑)。例えば20歳ぐらいの時とかって、憧れというか参照にするような人がいるような気がするんですけど。長岡さんのお話を聞いていると、あんまりそういう人がいないのかなと。
長岡 - そうですね。洋服になると本当に無いです。ギターのプレイは憧れた人もいますけど。ファッションと音楽って密接でしょうけど、でも自分は全然違うんですよね(笑)。歪な人間ですね。
- それは自覚されているんですか?
長岡 - 自覚は......してないですね(笑)。カントリーっていうジャンルの音楽をやってたからウエスタンシャツを着てみたんですけど、全然似合わなくて本当に嫌だなと思いました。そういう気持ちはすぐに自覚します(笑)。
- でも取り敢えず試してはみるんですか?
長岡 - 当時、着ろと言われたんですね。それまで汚いパーカーとかでやっていたから、「ちゃんとして」って(笑)。短パンビーサンで怒られたりとか。そういうTPOみたいな意識も、若いから無いんですよね。今もないか(笑)。いつの間にか許されていったんですけどね。
- それは自分が変化したというより、勝手に環境的に許されたってことですか?
長岡 - そうですね。ラッキーな人間だなって。カントリーのお店は、最初の頃は全員ハットを被らなきゃいけなくて。それがまた似合わないんですよ。本当に似合わなくて。胸板無いし肩幅も狭いし、なで肩だし。様にならない。周りはみんなプレスの入ったジーンズをビシッと履いて、それにトニーラマのブーツ、的な人ばかりで。ことごとくやり過ごしてきました。いつのまにか「ニットキャップでも大丈夫です」って(笑)。
- 最初は似合わない物を買ってたとおっしゃってましたよね。
長岡 - 買ってたというか、買い与えられました。
- 本当は「これは自分とは違うなぁ」みたいなことが分かってたんですか?
長岡 - うん。「恥ずかしいな」って思いながら(笑)。でも、それが凄く恥しい服でも、自分が良いと思ってたら良いんですよ。スカート履いたり、そういうのは全然嫌いじゃないんで。ウエスタンシャツは何故か嫌だったんだけど(笑)。
- ウエスタンシャツは、なんというか結びつけられすぎてますよね。
長岡 - そうですね。でも、バチっとしたスーツを着るのは別に嫌じゃないし。なんでしょうね、面倒臭い人間なんですよ。衣装で変な服は沢山着てきてると思いますけど。オシャレになりたいなぁ......(笑)。
- 今のままで良いと思いますけど......(笑)。
長岡 - 洋服を大事に出来ない人間なので、このままで行きます......(笑)。
- そこも多分ギターとかとの意識の差があるってことですよね。
長岡 - ギターは傷ついても恥ずかしく無いんですよね。洋服もそういう物はありますけど、ジーンズでもない限り穴が空いたら悲しいじゃないですか(笑)。ギターも酷いときはカビが生えたりしますけど、また拭いて使えば良いし。車も自転車もそうですね。錆びても良いかな、みたいな。
- メガネについてなんですが、メガネはどれくらいのペースで買っていますか?
長岡 - 数年に一本ぐらいですかね。メガネ屋さんはたまに行きますよ。結構細かく調整してもらったりするんで。困ったらすぐに行きますね。洋物のフレームはやっぱり合わないから、改造してもらったり。
- その時は一応他のメガネも見る感じですか?
長岡 - 見ますね。そこで「うわ、これ良い!」って思ってなくても、何か一つのイメージが残されて。それが積み重なって何か買うんですよ。具体的に何も思ってなくても、段々方向が定まっていく感じ。
- じゃあ、「こういうモデルが欲しい」と思って買いに行く訳ではないんですね。
長岡 - 買いに行くときは決まってるんですよ。「みんなメタルにしてるから、俺はもう嫌だ」とか。どちらかと言うとそういうエネルギーばっかり(笑)「みんながセルかけてるから、俺は細いのにする」とか。そんなことばっかり。
- 確かにメガネもトレンドがありますもんね。
長岡 - そうなんですよ。メガネって凄くアイコニックじゃないですか。なんかハズしたくなりますよね。昔凄く欲しかったフランスの古い車は『ビーチボーイズ』ってドラマで反町隆史さんが運転してて。ブレーキが壊れて「あー!」って言って海に突っ込んでいくシーンを見て「これはもう乗れないな」と思って(笑)。そういう感じです。
- アイコニックな物になると厳しいですよね。
長岡 - 好きな気持ちは良いし、乗りたかったら乗ればいいし。でも真似してるよねとは思われたくないんですよ。ちょっと自意識が過剰なのかな。
- 洋服とかメガネで難しいのは、どれだけ自分がバックグラウンド込みで好きでもパッと見イメージとしては同じじゃないですか。そこから逃げるのが凄く難しい。
長岡 - そうそう、バックグラウンドは関係ないんですよね、見る人からしたら。突き詰めるとがんじがらめになっちゃいますよね。音楽もそうですよね。
- 長岡さん自身も、そういうアイコニックな存在になるのを避けようとするところがあるというか。本当に色々な活動をされていて、もっと前面に出てもおかしくない立ち位置にいらっしゃるじゃないですか。でもそこから凄く上手く逃げているというか......。
長岡 - 目指してもないし逃げてもいないんですけどね(笑)
- 昔はもっと野心的な部分もありましたか?
長岡 - 若い頃って自ずとそういう所があるんじゃないですかね。でもギターヒーローみたいな物に憧れが無かったとは言いませんけど、そういう感じじゃなかったです。例えばひとつのバンドにギタリストが二人いたら、大体花形の人がいるじゃないですか。そっちじゃない方が好き、みたいな。だからそういう意味では今も変わってないかもしれないですね。だから色んな場所にお邪魔させて貰えてるのかもしれないです。ギターはアイコニックなものばっかり使ってるけど。
- 物としてはそういうビザールなものが好きなのは面白いですよね。
長岡 - 人が行ってないラインを行きたい。でも派手だったら何でもいいって訳じゃなくて。オーダーメイドして新しい独自の物を作りたいって訳でもないんですよ。「それがあったか、その手があったね」みたいなのが良いんです。どんなジャンルのものでも、そういうのを探す、っていう。
- 人が見つけてないラインを「こういう物があるよね」って掲示したい、と。
長岡 - そうそう。嫌らしいよね(笑)。ただ、そういうのって一品物よりも洒落てるというか。慎ましいし。
- 一品物ってどうしてもゴツくなっちゃいますよね。
長岡 - それをスコーンって飛ばしていくというか。
- 今日はご用意出来なかったんですけど、好きな食べ物も挙げていただきました。
長岡 - みなさん好きな食べ物はなんて答えてるんですか?
- 結構色々です。カレーの方だったり、行きつけの居酒屋の焼きそばの方だったり。
長岡 - あー、いいですね。俺もそういう人生がよかった。行きつけのお店があったり。
- 行きつけのお店は無いですか?
長岡 - 無いです(笑)。行きつけの寿司屋とかあったら凄くカッコいいですよね。なんか勇気が無いんだよな。もうちょっと大人にならないと。
- でもそれもなんとなく分かります。何回か連続で行くと微妙に話しかけられたりするのが、個人的にそれがなんか嫌で行かなくなったりしますね。
長岡 - なんで?いいじゃん。
- 分かられてきてるというか、お客さんでいたいんですよね(笑)。
長岡 - 分かられたくない?
- そのお店の仲間みたいになりたくないんですよ。距離感を詰めたくないというか、あくまでただ美味しい物を食べにきてるのにそれ以上コミュニケーションを取りたくないというか。こっちも傲慢なのかもしれないですけど。
長岡 - それはちょっと分かりますね。それぞれお店にスタンスがありますよね。
- 長岡さんが行きつけのお店を作るとしたらどんなお店がいいですか?
長岡 - 居酒屋ですかね。夜やってて、うるさくなくて、簡単に美味しいものがある、みたいな。そして良い感じの仲間がそこにいたらいいかも......あんまり思ってないかも(笑)。
- 外食とかもそんなにされないですか?
長岡 - 外食は、家できちっと作れないものを。
- それで一品出していただいたのが、「ホタルイカのしゃぶしゃぶ」と。
長岡 - 凄く美味しかったんですよ。
- やっぱり富山ですか?
長岡 - 兵庫の日本海側で食べました。最高ですよね。ホタルイカが好きです。春は良い時期ですよね。ホタルイカも空豆も菜の花もありますからね。広がらないでしょ?ホタルイカって言われても(笑)。
- そうですね(笑)。
長岡 - ホタルイカはね、寄生虫がいるんで生で食べちゃいけないとのことで。湯通しするだけでなく一回冷凍して、それをしゃぶしゃぶで食べる。でも我慢できずに軽めで行ってしまう(笑)。それがある現場の打ち上げに沢山置いてあって。それをうどんのようにツルツル食べました。具合悪くなるぐらい。
- 他にツアーで回って印象的な食べ物はありましたか?
長岡 - いっぱいあるんですけど、わかめのしゃぶしゃぶも美味しかったです。それは大阪だったかな......。渋いですよね(笑)。
- (笑)。結構淡白なものが好きなんですね。
長岡 - そうなんです。でもジンギスカンも好きです。北海道に行くと必ず食べます。他にも色々と素敵な食べ物あったはずなんだけど、今はパッと出てこないな…...。
- 食べ物は自分の中の比重的には結構小さいですか?
長岡 - 小さくはないと思います。口に入れば何でもいいって訳じゃないですよ。でもくだらない物も美味しいと思うし。好きな野菜買ってきて茹でて食うだけで幸せみたいな(笑)。あんまりやりすぎてないものが好きです。
- やっぱりゴテゴテしすぎているものが嫌なんですか?
長岡 - そうかも。全体的にね。改造車が好きな時代はもう終わった(笑)。シンプルなものが好きです。
- お酒は何を飲まれるんですか?
長岡 - 最近は日本酒を飲んでます。炭酸系のものを飲むと体が凄く冷えてくるんですよ。だから冬は日本酒を飲んでます。食べ物ともよく合うし。グルメの人だったら「〇〇のアレが美味しい」って言えるけど、そういう意欲が無いんだよな......。でも、たまに凄く美味しいものがありますからね。食の比重が小さくはない、とは言ったものの、貪欲ではないかも。
- 自分でサイトを見て行く、みたいな感じではないと。
長岡 - 行列も予約も面倒だし。という意味で言うと、そんなに貪欲さが無いですね。並びたくないですねぇ......(笑)。
- 一回も並んだことないですか?
長岡 - ほとんど並んだことないです。ギター屋さんに並んだことはあるけど。
- オープン前にですか?
長岡 - そうそう学生の頃、セールで(笑)。そこの店に知り合いがいて1979年型のレスポールデラックスをお願いしてみたけど「それは予約はできない」と言われて。それで並んだんですよね。その知り合いが夜に退社して、「もういるの!?」って(笑)。そして次の日に彼が出社するのを見ていました。暇だったんですね。(笑)。
- でも凄く若々しいというか(笑)。
長岡 - ねえ。思い出深いけど、音はあまり良くなかった(笑)。もう売っちゃったけど、それ(笑)。 今は同じデラックスの別のものを持ってますけど(笑)。懐かしいな。
- 個人の興味を貫くことって結構難しくはないですか?
長岡 - 頑固なんですかね。なんか、自分が恥ずかしくなっちゃうんだろうな。「なんか違う」って思うのが嫌なんでしょうね。自分では「貫いてまっせ」って感じでもないんですけどね。
- 貫いてます、という感じだったら「貫いている人」として広告塔みたいな、シンボリックな感じになると思うんですけど。でもそういうことではない。
長岡 - そうなんですよね。
- そういう感じで生きてる人って結構稀な気がしていて。
長岡 - どうしてなんでしょうね。強引な時もあるのかな。稀か......いいですね。
- 「長岡さんみたいになりたい」という若者が来たとしたら、どういうアドバイスをしますか?
長岡 - その子と会わなきゃ分からないかも(笑)。でも、たまにメモ書いてきて、メモを読みながら質問してくる男の子とかいるんですよ。「あの曲のここはどうなってますか?」とか、「このセッティングはなんですか?」とか(笑)。「そういうことじゃないよ」とは言いましたけどね。
- そのディテールを真似したところで、という。
長岡 - そうそう。ありがたいですけどね。でも、真似しなくていいと思いますよ。もしそういう若者が来たら「真似してんじゃねーよ」って言います。抱きしめながら(笑)。
- ありがとうございました。
Info
TITLE:SUPER EXCITED(LIVE ALBUM)
ARTIST:ペトロールズ
LABEL:ENNDISC
品番:ENCD-47
仕様:AUDIO CD
価格:3,000+TAX
収録曲:
1. Fuel,
2. シェイプ,
3. ないものねだり,
4. 誰,
5. アンバー,
6. Not in service,
7. ホロウェイ,
8. Talassa,
9. 止まれ見よ,
10. 雨,
11. Profile,
12. 表現,
13. KAMONE(全13曲)
一般発売日:2020.12.9〜 TOWER RECORDSにて一般販売開始
キャンペーン:2020.12.9〜 リリースを記念してTOWER RECORDS 渋谷店にてレーベルキャンペーン"ENNDISC CORNER"開始