Blooming Indigoは想像以上にクセになる女性だった。作品が放つ思考の奥行きの深さは、このインタビューを通じて本物だったのだと実感する。 現在は主にグラフィティやラッパーの人物像を描いているBlooming Indigoだが、そんな彼女を知ったのは3年以上前、Instagramにあげられたトリッキーな絵からであった。これまたトリッキーな文章とともに投稿されていたその絵は、彼女がおすすめしていた煙たいヒップホップとよく似合っていた。そんな、どことなく妖しさを醸し出す趣味嗜好に惹かれたのを覚えている。きっと男女問わず彼女にハマってしまう理由はそこにあり、もっと知りたいと思わせる人物なのは今でも変わらない。
そんな彼女が描く作品はどんどん進化を遂げ、着実にファンを増やしている。アートワークの技術はもちろん、感性や知識にも磨きをかけ続ける彼女からは大きな可能性を感じ、皆、ときめきを覚えるのだ。
着々と活動の場を広げ、挑戦を続けるBlooming Indigoとはどんな人物なのか、紐解いていこう。
取材・構成:山口 宇海
描くときはその人物を知ることから始まると語るその貪欲さは、音楽知識の幅広さと、この日も何度かshazam(曲名検索アプリ)を開いていたことから伺えた。
「デジタル化が進む社会で、アナログの温かみを感じてほしい。」と手書きにこだわった絵はコピックで描かれており、数冊のノートは鮮やかに埋められていた。そこには Bahamadia、Yasiin Bey (a.k.a. Mos Def) 、Pate Rockなど著名アーティストも描かれている。
尊敬している人たちを描くのが自分のスタイル。ヒップホップシーンには特にそういった人たちが多い。
カルチャーについて考えることが多いという彼女は、ラッパーのバッググラウンドまで調べ尽くす。作品の説明をするその朗々とした口調からは、ヒップホップシーンへのリスペクトを感じると同時に、男性が多い界隈へ対しての虎視眈々とした姿勢を感じた。
ブラックミュージックに触れると対峙しなければならない問題が多く見えてくる。彼女もまたそこに、様々な思考を膨らませているようだった。
じゃあ黒歴史っていうけど、「黒」ってなんで悪いイメージなんだろうって。まあ陰と陽の関係があるけど、寝てる時って真っ暗で、その時間は何が起こってるか分からないから自分を守れない。だからたぶん、怖いとか、嫌なものって認識になったのかなって。で、白い生物って自然の中で外敵に見つかりやすいから、繁殖をあまりしなくて珍しい。だから特別なものって認識になったのかなって。それを肌の色にも当てはめちゃったのかな。無意識のうちに、優劣や上下をつけてしまうのが人間だから、その認識を感じないように人生をかけて修行が必要で。だから私も修行中。
そう話す彼女はとても慎重で、何度か言葉を言い換えたりもしていた。きっとアーティストを描こうとするたびに直面してきたのだろう。そして自分に置き換え、修行が必要だと認めている。このインタビューで、彼女からは幾度となく「自分を認め、自分を信じる力」を感じた。そんな彼女の愛を含んで、出来上がっている作品であることだけは伝えておきたい。
彼女には女性のファンも多い。そこには強く美しい、けれどどこか脆さを抱えた女性が多く描かれているのも理由の一つだろう。その中でもお気に入りだという作品『no title』についてこう語った。
当時の彼氏と全くうまくいってなかった時、うちに彼氏が腕時計を忘れていって、それを走って追いかけて渡したんだけど。帰ってきてから、返さなかったら次に会う口実になったのになんで返しちゃったんだろうって。私何やってんだろうって時に描いたのがこの作品(笑)ハマナス(紅紫色の花)は次々に花を咲かせるけど、一輪一輪はたった一日で寿命を迎えちゃう。私の名前の桜(本名・咲藍)もすごく短命だから同じでしょ。嘆いている女性と、煙草を吸う女性も私の心境を表していて。ハートと剣はタトゥでよく使われる、「恋」とか「失恋」、「裏切り」って意味がある。この作品は当時の私そのものって感じ。
マイナスな状態から生まれる作品が多いという彼女は、以前の自分を「欲深く、意志が弱い」と言った。実際に聞いたエピソードでも、多くは当時のパートナーや友人から影響されていた印象を受けた。人の目を気にしていた過去や、好きな人に近づくための努力、女性ならではの悩み。普通だったら隠したがるような赤裸々なエピソードも淡々と話す。 話していてどことなく安心してしまったのは、論理よりも情緒で判断する、人間らしさが溢れていたからかもしれない。
描きたくなった時、ここにこの色足してみようかな、とかを繰り返していった先で自分がどう思っていたか知ることが多い。メンヘラって、マイナスの状態が心地良いからプラスに変えないで終わる。マイナスをプラスに変えたら、それはメンヘラじゃない。その表現方法こそ全部アートじゃないかなって。
そう話す彼女のノートには、たくさんの落書きとともに文字も書かれている。そこには喜怒哀楽、すべての感情が入り混じっていた。見ていいものなのかと尻込みするほどに、愚直な気持ちが散りばめられている。それでも躊躇なく見せてくれた彼女から「プラス」の要素を感じたからか、そのページは「アート」作品にしか見えなかった。
Tシャツのデザインやジャケット写真のアートワークも手がけるが、しかし過去には提供したにも関わらず、提示した金額が支払われず音信不通になったこともあったと話す。ブロックした、と屈託ない笑顔を見せ、彼女は続けた。
きっとまだ熟成されてないんだと思う。ワインもそう、熟成すれば美味しくなる。角が取れる。人間も『角が取れて丸くなる』って言うじゃん。それを最初に思った人ってすごいよね。自然の中で、色んなところにぶつかって丸くなった石を見て、人間も同じ状態で丸くなってるなって思ったんだと思う。地球も脳みそも、川を流れる石も、全部丸で出来てる。
マイナスをプラスに変換するために「描く」という手法を使い続けた彼女は、すでに脳内で、その作業を完結できるようになっているのかもしれない。
アウトプットとして描いた自身の作品から、インスピレーションを受けているのもまた自身なのだろう。その循環もまた丸く、どこまでも彼女を熟成させていくに違いない。
最近は新たな画材や技法にも挑戦し、スニーカーやTシャツのデザインも試みているという。
アートのみならず、ヒップホップリスナーとしてコアな一面をもつBlooming Indigo。「弱さを知る強さ」をもつ女性が出す作品に、感化される人々はこれからも増え続けるだろう。見えない未来に、溺れそうな現実に、噛みつきたい過去に。彼女の”アート”がどこかで染み渡っていくのを想像した。
やりたいことはたくさんある。表舞台って裏舞台があるから輝くけど、その裏舞台って美しくて。優雅な作品は必死に努力した結果。その気持ちはいつも忘れないでいたい。
Info
Blooming Indigo
グラフィティやラッパーの人物画を主とする絵画アーティストで1997年生まれ。静岡県で東京都在住、幼い頃から少女漫画やディズニーアニメーションに魅了され、独学で絵を描き始めたという。高校卒業後、美容専門学校へ入学しメイクアップ技術を学ぶ中で、ヒップホップに魅了され、今のスタイルを確立。メイク法から学んだ知識を生かし、手書きにこだわった人物画を描き、2019年には原宿で個展『Sakuraruka2 first Exhivition』を開催した。
https://www.instagram.com/_sakurarukas_/
山口宇海