パンデミックによって外出制限を強いられる状況になり、
取材・文:高岡謙太郎
パンデミック下のZINEの海外事情
まずZINEとは、Barnard Collegeによるオンラインzineライブラリーによれば、「利益のためではなく、自己表現の欲求によって動機付けられた、個人で制作した出版物」とのこと。少部数の冊子を購入や交換することで、普段は届くことのなかった、ちいさな声が少しづつ広がっていく。今ならではの声がまとまったZINEも増え始めた。
孤独な状況ならではのZINEをいちはやくリリースしたのが、LAのコミュニティBrain Deadによる『Isolated Community』。イラスト、写真、グラフィックデザイン、ファッションなどの作品が一同に集う多様性に富んだ内容。「私たちは、多くの必要な気晴らしとインスピレーションをもたらすことを願っています」と書かれ、不安な状況を和らげようとするやさしさが創発の起点となっている。
また、クリエイティブな印刷物に関するウェブマガジン『It's Nice That』では、Covid-19がクリエイティブコミュニティに及ぼす影響と、個人が快適さを感じる方法を視覚化する『Indoors Zine』をDropboxと協力して制作。世界中のイラストレーター、写真家、デザイナーを集め、20人のクリエイティブがコラボレーションして、巨大なDropbox Paperドキュメントにアイデアを寄稿した作品。
誰でも参加できる『Quarantine Zine』は、人々が隔離されていることについての自分の考え、感情、欲求不満を表現できるようにする取り組み。作品を規定の枠組みに収めて投稿すると掲載されされる。Instagramアカウントを見ると200件近い投稿があり、かなりの大勢が参加者して賑わっている。
今年は中止になってしまったEDMフェス『Tommorow Land』。定期的に発行しているPDFマガジン『
ZINEだけでなく、数多くのZINEフェアもオンライン化された。LA Zine Fest、Chicago Zine Fest、Glasgow Zine Fest、LA Art Book Fairなどが、開催中止に伴い、オンライン化。ハッシュタグで参加するだけでなく、Zoomに関する講演やワークショップ、Instagram LiveでのZINEショーケースなど、イベントごとに様々な取り組みが行われた。また、Googleのスプレットシートに参加者のリストが並ぶのは、今ならではだろう。
そして、今後開催されるジンフェアのリストもあるので参考にしてもらいたい。今までは海外のZINEイベントへの日本からの参加は難しかったが、オンライン化によって参加できるようになったのは思わぬ出来事だ。
パンデミック下のZINEの国内事情
ZINEカルチャーは日本国内でも親しまれ、今年はZINEの歴史から国内の実践者を紹介した、野中モモによる書籍『野中モモの「ZINE」 小さなわたしのメディアを作る』が刊行されたこともあって、より浸透を見せている。パンデミック以降は、TBSの日比アナウンサーがZINE「外出自粛新聞」を制作したり、Book&Liberty ZINE Collectiveの呼びかけで「#オンラインzine会」というハッシュタグによってZINE愛好家たちがTwitter上に作品を公開するようにもなった。
インディペンデントファッションマガジン『STUDY7.3』
大きな取り組みでは、下北沢の新刊書店「本屋B&B」のオンラインストアでは、現在デジタルリトルプレスのPDF販売が始まった。コロナ禍をテーマにしたものでは『穴のあいた春|void in the spring』がさまざまなジャンルの作家に近況を伺った内容となっている。
そして、ZINEを扱う書店も自粛によって存続の危機に晒されている。それもあって刊行された紙のZINE『#DONATIONZINE 最近の好物100人 2020・春』ではZINEの売上を100%購入した個人書店・独立系書店への寄付するという。いろいろな界隈の100人の方に最近好きな食べ物を聞き、一冊のZINEにまとめた内容となる。
また書店だけでなく、ZINEの印刷で親しまれている印刷会社「レトロ印刷」が、売上が3分の1程度となり、存続の危機となった。クラウドファンド「SAVE THE JAM - 「印刷で遊ぶ。印刷と遊ぶ。」を残したい」が始まり、「印刷と遊ぶ」文化を残そうと取り組んでいる。
変わった企画では、先日オンライン開催された音楽フェス森道市場では、「HOME (STAY) HOME CENTER@森道市場をお茶の間で」という企画から、チーム未完成による「あなたのZINE作ります!」という取り組みも生まれ、ZINEとの関わり方にも多様性が出てきた。
ZINEだけでなく国内の同人誌即売会では、海外のZINEフェアのようにTwitterのハッシュタグを使ってつながっていく取り組みが行われた。コミックマーケットによる「エアコミケ」や、コミティアによる「エアコミティア」が大きなものだろう。集まれる場を補完する今までにない取り組みは、今後も増えていくはずだ。驚くような取り組みに期待したい。
日本のZINE制作者にメールインタビュー
さて、世界的に日常が一変してしまったが、個人の思いを伝えたい人は大勢いる。パンデミック以降に発行されたオンラインZINEの編集者、2名にメールインタビューした。
国内のハウスミュージックコレクティヴCYKのKotsuが声を掛けた『Crossbreed』、関東・関西の若手アーティストを取り上げたグラフィック中心の『close contact』。
現在の困難な状況でコミュニティが再編されている状況が誌面から伝わるはずだ。もちろんインタビューだけでなく、実際にダウンロードしてページを開いてほしい。
Kotsu : 国内のクラブカルチャーの現在を切り取る
- 名前と普段の活動を教えて下さい。
Kotsu - Kotsuです。普段はDJやグラフィックデザインをすることが多いです。ハウス・ミュージック・コレクティブ「CYK」のメンバーの一員でもあります。
- どういった内容のZINEですか?
Kotsu - クラブカルチャーを主軸にその周縁を取り巻く人や場所、文化にフォーカスした文章主体のZINE。コロナ以降の世界線に到達した中で、コロナ以前のことを個人的な目線で早いうちにアーカイブすることに意義を感じ制作しました。
- どういった人が集まっていますか?
Kotsu - 東京や地方、そして海外で活動するDJ/プロデューサーたちや、ファッションや食など音楽以外のフィールドで活動する友達に参加をお願いしました。編集する立場としてより多様な場所やシーンで活動する人々の声を集積した方が、読み手にとって参考になるかなと思ったからです。ただ、個人的なアーカイブという意味で割と親交のある人にお願いしています。
- あなたのオススメのページと制作で苦労した点を教えて下さい。
Kotsu - 「Discussion: ダンスミュージックシーンの現在とサロン文化&ポストパンデミック時代に何が持ち越されるのか」というページです。この論考を書き上げるのには、日々変化する社会の動きやLIVE配信などの新しい動きを注意深く観察する必要がありました。目まぐるしく事態が変化する状況下で何かを断言することは難しく、それは一方で論考としてメッセージがぼやけてしまう危険性があったからです。ただ、一つ議論の叩き台を作るといった意味で絶対に触れておきたいテーマだったので、友達数人に意見を貰いながらブラッシュアップさせました。最終的なメッセージとしては「考えてみよう」という提案でしかありませんが、ぜひ見ていただきたいです。
- 本来オフラインのメディアだったZINEがオンライン上で展開されるようになった変化についてはどう考えていますか?
Kotsu - 個人的にはフィジカルでのリリースも考えているくらいで、フィジカルな価値を無視しているわけではないことを前提に、届けられるスピード感と見せ方的に時代感とフィットしていたからという理由でこの手段でのリリースに至りました。
オンラインでの読み物として近いのはウェブマガジンだと思いますが、それとは異なりZINEの特徴として、ページ数という制約の存在があると思っています。一つのイシューを設け、そのイシューのもとに限られたページ数で完結させることにより、その媒体の意思が濃密にパッケージングされることが強みだと思っています。
そしてウェブマガジンと異なり記事が分散的にアップロードされるワケでも無く、全ての記事がいっぺんにリリースされることも特徴だと思っています。リリースされた時期的なタイミングが明確に分かることは、あの時はどうだったのか?を振り返る時にかなり有用なのではないかなと思っています。上記の強みは、今のような変化が激しい時期にマッチした手法でもあると考えています。
- これからZINEを作る人に対してコメントをください。
Kotsu - タイムラインに残せない独白を綴るノートにも、想いをぶつけるキャンバスにもなるZINEは改めていい媒体だなと思いました。ぜひやってみて下さい。あと、スマホの画面で見る人たちのためにエディトリアルを気をつけると良いと思います…。
- パンデミックに対しての思いを聞かせてください。
Kotsu - 基本的に地獄。
- 今後の活動についてお聞かせください。
Kotsu - 地獄でどうやって生きるのかを考えています。地獄で思いついたアイデアはどんなフォーマットであれ何かしら提案したいなと思っているので、Instagramを中心にチェックしてもらえればと思います。
レパー : 関東と関西の若手アーティスト11組による視覚体験
- 名前と普段の活動を教えて下さい。
レパー - レパーといいます。絵を描いたり、たまに自分が作ったZINEと何かを物々交換したりしています。ZINEの交換は大西くんという作家がZINEと何かを交換しませんかと声をかけてくれたことがきっかけで始めました。
- どういった内容のZINEですか?
レパー - 色々な場所で活動している11人の作家の作品が見れる画集のようなZINEになります。自粛期間中に部屋でいる人達が時間を潰せるようなものが何か作れないかと思ってナカノマサトくんに声をかけて企画しました。
- どういった人が集まっていますか?
レパー - 普段から親交のある友人やSNSでいいなと思った作家を呼んでいます。オンラインだと場所を無視できるので、東京であまり展示していない人に声をかけました。僕とナカノマサトくんは関東在住ですが、二人とも京都精華大学出身ということもあり、関西の美大出身の作家が多いと思います。結果的には関西と関東が半々になり、いい感じにバラけてよかったです。
- あなたのオススメのページと制作で苦労した点を教えて下さい。
レパー - 個人的には天國さんと大学くんのページがオススメです。天國さんは油絵とデジタルの作品がカッコいいのでぜひ見てほしいです。大学くんの送ってきた見開きデータが、「キン肉マン消しゴム」という名前で、意味があるのかないのか考えさせられる所が好きです。
企画から公開まで10日弱という短期間だったので色々と苦労しました。まずPDFファイルやアプリなどをダウンロードすることなく、電子ブックが読めるサイトを探した点です。ツイートのURLをクリックしたらすぐにZINEが読めるという手軽さがないと見てくれないと思っていたので、公開当日に方法が見つかってよかったです。
あと作家をどの順番に並べるかというのも苦労しました。作家から送られてきた作品を見て決めることになったので、『close contact』の公開当日までナカノマサトくんと話していました。
- 本来オフラインのメディアだったZINEがオンライン上で展開されるようになった変化についてはどう考えていますか?
レパー - 電子書籍が登場したときは、紙媒体が良いという意見が多かったように思えましたが、今ではそんな意見も見なくなりました。僕自身20年近く購読していた『週刊少年ジャンプ』を電子媒体で定期購読するようになり、電子書籍の存在を身近に感じています。電子媒体だと場所を取らないし、いつでも読めるので便利です。スマホが無ければ今でも週刊少年ジャンプを紙媒体で購読していたと思います。
スマホの普及が電子書籍の存在を許し、ZINEをオンライン上で展開する変化を生んだんだと改めて感じました。僕自身は紙媒体のZINEが好きなのですが、オンラインだからこそ見れるZINEが今後現れるのではないかと楽しみにしています。
- これからZINEを作る人に対してコメントをください。
レパー - 僕みたいな人間が何か言うのもおこがましいのでノーコメントでお願いします。
- パンデミックに対しての思いを聞かせてください。
レパー - 今回のパンデミックでオンラインに価値が出て、アナログに価値が無くなってきたと感じています。事態が収束した後も、このままオンラインの価値が上がっていくのか気になります。
- 今後の活動についてお聞かせください。
レパー - 5月に予定していた東京での展示が無くなり、8月、9月の展示もどうなるかわかりません。事態が収束するまではSNSに作品をあげていくので、よかったらご覧ください。
Kotsu
https://www.instagram.com/kotsu0830/
レパー
http://leper-kamilah.tumblr.com
https://twitter.com/Leper_kamilah