2017年12月24日に沖縄・那覇市にあるクラブ・LOVEBALLが閉店した。LOVEBALLはRITTOらが所属するクルー・赤土が運営していたお店。音の鳴り、店の雰囲気、出演するメンバーにこだわりぬいた結果、沖縄の名店として県外にも評判が伝わった。閉店した2017年は年間動員数を更新したものの、クルーは「一店舗のクラブ」では表現しきれないビジョンを思い描くようになっていた。それは音楽、芸術、カルチャーを通じてピースを伝える「場」を沖縄から作るということ。彼らはあえて店舗を閉じて『NAMINOUE Festival』(通称『波フェス』)をスタートさせた。
取材:宮崎敬太
写真:Hikaru Funyu
今年で二回目となる『波フェス』は11月23、24日に沖縄・波の上うみそら公園特設会場/Cozy Beach Clubにて開催された。前日に季節外れの台風が襲来したものの、蓋を開けてみれば当日は27℃の快晴。台風が連れてきた湿気で朝から汗ばむ陽気だった。『波フェス』は波ステージ(波の上うみそら公園特設会場)とCozyステージ(Cozy Beach Club)という2つの有料ステージを中心に進行したが、無料エリアにもローカルアーティストが出演するステージ、フリースタイルのダンスバトルとBMXのショーが開催されたイベントスペース、さらに屋台、バーバーなども並んだ。特に印象的だったのは、ダンスバトルやBMXのショーに小中校生が多数出演していたこと。晴れ舞台の出番を前する子供たちを、お弁当を持った親が波打ち際から見守っていた。
会場の波の上うみそら公園特設会場/Cozy Beach Clubは、那覇空港や国際通りはもちろん、赤土の地元・曙からも程近い。赤土、そして沖縄のストリートカルチャーを知るには絶好のロケーションと言える。イベントは波ステージのDJ HIKARUのプレイからスタートした。こちらの会場となった波の上うみそら公園には野生の猫ちゃんが住み着いている。人が来ても懐くことなく、敵対することもなく、ただそこにいる。そんな猫ちゃんを視界に入れつつ、酒と美味しいつまみとともに音楽を堪能した。ほどなくして、DachamboのAO YOUNG(Vo, G)が中心になって結成されたアオバトラス(笑)も演奏を開始する。メンバーは元(仮)ALBATRUSの越野竜太(G, Vo)とPeace-K(Vo, Dr, Per etc)の三人。まったりとした時間とともに生楽器の美しい音色が、快晴の沖縄の海にグッドミュージックが響き渡った。さらに次に登場したMOOMINもクリアな歌声で常夏の島の午後の海辺を彩った。
一方のCozyステージでは、MC漢 a.k.a. GAMIら主催するMCバトル『KING OF KINGS』の沖縄予選が開催されていた。エントリーしたのは16名のローカルMCたち。一回戦が終了した時点で、ポイントは沖縄を代表するフリースタイラーのD.D.Sを誰が倒すかということになっていた。特に目立っていたのは、MAVEL(604)、ウィンプ、トモタカマザファカ、フォルゴレジア。最終的にはD.D.Sが優勝したものの、準決勝のウィンプ戦、決勝のMAVEL戦は、沖縄ヒップホップの世代間闘争を感じさせる熱気溢れたバトルだった。
MC漢 a.k.a. GAMIのライヴを挟んで、MAVELが所属するクルー・604が登場。明確なキャラクターを持った9人の実力派MCがマイクリレーするパフォーマンスは圧巻だった。また各MCの中でヒップホップとレゲエが混在しているのも面白い。彼らに限らず、『波フェス』に出演していた地元アーティストを観ていて、沖縄ではレゲエとヒップホップが自然に共存していると強く感じた。おそらくそれは沖縄の南国的気候も関係しているような気がする。ちなみに604はあの唾奇を輩出したクルーとしても知られている。
次にステージに立ったWARAJIは大阪出身。彼らもヒップホップとレゲエが融合した音楽性が特徴だ。バンド文化が根付いた土地柄なのか、604と並びで聴くと彼らのルーツレゲエ的な資質がより強く感じられた。WARAJIはBob Marleyの“Out Of Space”にオマージュを捧げた“Shout Of Space”や、“踊る阿呆 (観てる阿呆)”などで大いに盛り上げた。
『波フェス』の夜の始まりを告げたのは田我流だ。Cozyステージに一気に人が集まる。最新作から“Hustle”、“vaporwave”を歌うとボルテージも高まる。“Back In The Day 2”では、テンションが上がった田我流の息子がステージに乱入してしまうハプニングも。これには同じように子供を抱っこしながら見ている観客からも笑みがこぼれた。さらにフロアバンガー“RIDE ON TIME”や、バックDJのMAHBIEもダイブした“やべ~勢いですげー盛り上がる”でがっつりと狂乱を作り、ラストは名曲“ゆれる”、そして新たな代表曲“夢の続き”でマイクをOZworld a.k.a. R’kumaに続けた。
沖縄の新世代ラッパーOZworld a.k.a. R’kumaは『高校生RAP選手権』で一躍その名が広まったとあって、若いファンが圧倒的に多い。とはいえ彼も百花繚乱の様相を呈する沖縄のシーンから出てきただけあってラップスキルはもちろん、声量もパフォーマンスも安定している。今年リリースされた1stアルバムからの人気曲“Peter Son”などに加え、OZworldとWil Make-it、Len Kinjo as Lotusによるクルー・Mr.Freedomの楽曲も披露した。
さらに勢いあるクルーがステージに立つ。ソロアルバム『Peace In Vase』で幅広い音楽性とスキルを示したPEAVISが所属するYelladigosだ。彼らが福岡のシーンでいかに切磋琢磨してきたかは、ステージを観れば一目瞭然。ハイトーンでしっかりと言葉をデリバリーするPEAVIS、固いライミングが特徴のBashi The Bridge、安定したスキルを持ちつつフリーキーなRio。三人の個性が代わるがわるアクセントになる。観客をぐいぐいと自分たちの世界に引き込んでいった。
時計の針が20時を指した頃、日本のイーストコースト・神奈川県藤沢市(MOSS VILLAGE)を拠点に活動するアンダーグラウンドなヒップホップクルー・BLAHRMYが現れた。SHEEF THE 3RDは最初からトップギア。いきなりステージからフロアへ向かい、しっかりとその場の観客の心をがっちりとキャッチする。そしてMILES WORDもパンチのある声でハードにライムしていく。タイトなMCと太いビート。そこから生まれる黒いグルーヴ。「これぞヒップホップのライヴ」とも言うべく貫禄のパフォーマンスを見せた。
そしてCozyステージのトリはゆるふわギャング。夕方にレーベルメイトの田我流がブチ上げたことを受け、NENEは「先輩(田我流)の前でダサいことできないからカマすよ」と絶叫する。“SPEED”、“Palm Tree”、“Fuckin’ Car”など代表曲を次々と投下して、期待に違わぬパフォーマンスを見せつけた。さらに予期せぬアンコールで、フロアからのリクエストに応じて、再び“Fuckin’ Car”をプレイ。熱狂のうちにCozyステージの1日目を締めくくった。
波ステージのトリは犬式(INUSHIKI)。ロック、ヒップホップ、ファンクが一体となったサイケデリックミュージックが沖縄の海に鳴り響いた。三宅洋平は猛烈なエモーションを発散させたかと思えば、Jeff Buckleyを彷彿とさせる繊細な歌声を聴かせるなど、変幻自在の世界を観客に届ける。終盤には赤土からRITTOも参加。三宅の選挙フェスを始め、これまでも数々の舞台を共にしている二人は、いわば盟友とも言える間柄の二人が非常に情熱的なパフォーマンスを繰り広げてこちらのステージも1日目を終えた。
二日目も心地よい快晴。CozyステージではArμ-2。自身のプロデュース曲を中心に海に合うビートミュージックをプレイし、そのまま二番手のJJJのバックDJも務めた。前日と比べて湿度が低く風が優しい。屋根のあるCozyステージにゆったりとした空気が流れた。JJJはそんな雰囲気の中で人気曲“BABE”、“HPN”、“Changes”を歌う。さらにDJ Scratch Niceと制作したという新曲も披露してくれた。続くCampanellaはバックDJのshobbieconzと息のあった絶妙のコンビネーションを見せるライヴ巧者。JJJがプロデュースした“PELNOD feat. 中納良恵”など、自身の持つハードかつ詩的な世界をステージ上で表現してした。
この日、目立っていたのが、『ラップスタア誕生』初代チャンピオンのDAIAだ。彼のライヴは無料エリアで行われ、キッズから音楽好きまで、さまざまな観客を集めていた。聴衆一人ひとりの目を見て歌うスタイルには思わず心を掴まれる。もしかしたら唾奇に次ぐ沖縄のニュースターは彼かもしれない。
そして波ステージでは、山仁の新バンド・GERONIMOが初ライヴをスタートさせていた。メンバーは山仁 a.k.a APACHEMAN(Vo)、柿沼和成 a.k.a PACKY(Dr / 犬式、光風&GREEN MASSIVE)、越野竜太 a.k.a GERO MAN(G /(仮)ALBATRUS、digda)TOMOHIKO a.k.a PORNO(B / ex. SUPER BUTTER DOG)の四人。「一時の気の迷いでいろんな間違いをしたきた自分も、創作をすることでなんとか生きております」というMC通り、彼の情熱がしっかりと込められたパフォーマンスを繰り広げた。
Cozyステージには、沖縄出身のレゲエダンス世界チャンピオンのI-VANが胡坐のちびっこダンサーたちを連れて登場。ステージはおろか、会場のCozy Beach Club全体を使ってパフォーマンスする。I-VANは20歳から30歳までの10年間をジャマイカで過ごし、レゲエダンスを学んだという。そして2012年にジャマイカで開催された世界大会で優勝した。そんな彼のステージは猛烈に楽しい。観客はもちろん、たまたま観にきていたDAIAもダンスに参加させられていた。
気がつけばフェスももう終盤。満を辞してKOJOEがステージに上がる。弟分であるDAIAをフィーチャーした“Memory Lane”、Olive Oilの饒舌なビートとラップが絡み合う“3rd ‘'I''”、Awichのラインをアカペラで歌った“BoSS RuN DeM”などなど、レゲエもヒップホップもソウルもファンクも、さまざまな音楽が混じり合ったグッドミュージックで夕方を彩った。
NORIKIYOはPUNPEEがプロデュースした“終わらない歌を歌おう(REMIX)”からスタート。「みんなが楽しい時間を過ごすための、お酒のおつまみのような存在になれたら」と語り、“仕事しよう”、“一網打尽”(韻踏会組合)、“BEATS & RHYME”(MACCHO, NORIKIYO, 般若 & DABO)、“百千万”(AKLO + NORIKIYO)など人気曲をメドレーで歌い上げた。
そして波ステージでは今年の「波フェス」のハイライトのひとつだった、OLIVE OILのステージが始まっていた。今回は彼がプロデュースし、赤土と縁のあるラッパーたちが一堂に会したのだ。CHICO CALITOの“Orion's belt feat. RITTO”に始まり、MILES WORDとのジョイントアルバムから“SOLDIER’S”、そしてKOJOEとの“HH”。名曲のつるべ打ち。さらに、Jambo Lacquer(WARAJI)との共作曲“TAKE ME”も披露された。ハウス調の四つ打ちビートにJamboの柔らかいヴォーカルが乗るこの曲はOLIVE OILの新境地。夕日で会場がオレンジ色に染まる中、観客のテンションはどんどん上がっていく。さらに「回る」では、KOJOEとRITTOに加え、前日に出演した田我流も駆けつけた。そしてラストは赤土のクルーのTA-DA&AYUKA(HiNaLow)にK-BOMBも交えたマイクリレー。猛烈な期待と興奮で大トリのRITTO×cro-magnonに襷を繋いだ。
今回のフェスで、特に地元沖縄の出演者たちが口にしていたのは「赤土が沖縄のストリートカルチャーを変えた」ということ。赤土は、アンダーグラウンドで時として危険も伴う沖縄のクラブカルチャーを、音楽性やスタンスは変えることなく日の当たる場所へと押し上げた。KOJOEはOLIVE OILのステージで「10年前、まだ誰も俺のことを知らなかった時、赤土はいつも俺を沖縄に呼んでくれた。その頃は5人しかお客さんがいなかったのに、今はこんなにたくさん集まってる! 最高だよ!」と話していた。
大トリのRITTO×cro-magnonにはたくさんの観客が集まっていた。幅広いブラックミュージックをプレイしているという意味でも、両者の相性は最高。大ベテランのcro-magnonは、爆音のベースとタイトなドラム、そしてスペイシーでストレンジなキーボード演奏で、ラップをよりエネルギッシュに際立たせていく。ちなみに、このライヴのために、RITTOは東京・町田にあるcro-magnonのスタジオまで行き、何度もリハーサルをしていたとのこと。
観客はみな酒を片手に泣きながら笑っていた。前述のKOJOEのMCを聞き、そしてRITTOのライヴに涙する観客を見て気づいたことがある。実は、RITTOのリリックには、理想を実現させるための苦悩を赤裸々に綴った曲が多いのだ。「和(本土)のしーじゃー、うちなん(沖縄)のしーじゃー、酒かっくらって人生相談」(“しーじゃー”)、「ここ最近何をするべき、頭カキカキ、しがらみ、良くも悪くも、老いも若きも、それぞれ生きた道を生きるべき」(“国際チャンプルー”)などなど、挙げていくとキリがない。
おそらく地元の人たちはそんなRITTOたちの暗闘を間近で見ていた。それだけに、RITTOのステージはより感動的だったのだろう。そして、その感情の波は県外から来た多くの観客にも伝播していた。RITTOは終盤に604、I-VAN、CHOUJI、D.D.Sら、沖縄の仲間たちの名前をシャウトした。本人なのかクルーの誰かなのかはわからないが、シャウトに合わせて、野太い歓声が上がる。この日はなんとビールが完売したらしい。RITTOがMCでそう話すと酔っ払いたちは幸せそうな歓声でレスポンスする。ラストは“Ningen State of Mind Part. II”。歓楽街の悲喜こもごも歌うこの曲で、大盛況の「波フェス」は幕を閉じた。