杉本博司の手がける小田原文化財団 江之浦測候所にて5月に開催されたKelsey LuのライヴパフォーマンスのアフタームービーがBoiler Roomによる映像プラットフォーム4:3にて公開された。
公開されたアフタームービーでは、ライヴパフォーマンスの様子のほか、会場である小田原文化財団 江之浦測候所の景観、Kelsey Luによる即興ダンスパフォーマンスが収録されている。
また、Yoshiko Kurataによるライヴレポートも公開された。
現代美術作家・杉本博司によって設立された同施設は、杉本氏が「自らの集大成となる作品」と表現する、同氏の記憶や意識の原点を辿り集約させた場所。ケルシー・ルーも同じく、自身の記憶である過去や感情を自己との対話を通して音楽に昇華させる。
強い生命力を放ち前進し続ける両者の表現が、日没の50分間だけにあらわれる海景と共鳴し合う。施設屋外にむき出しに設置された『古代ローマ円形劇場写し観客席』に囲まれる『光学硝子舞台』に降り立ったルーは、日本古来の伝統色で「夕暮れ」を表す「赤色」と「影」を意味する「黒色」の衣装を纏い、自分の居場所を確認するかのように舞台の四隅をチェロが横たわる中央に向けてゆっくりと歩き始める。
前日に施設内で収録した鳥のさえずりや自然の音を鳴らしはじめ、順にチェロの音とともに完全即興のパフォーマンスをはじめた。チェロを弾き続けたまま、歌いはじめた彼女の優しくも強い歌声に呼応するように、次第に森の方から実際に鳥の囀りが聞こえはじめ、自然のハーモニーが生まれる。自身の両親との過去や不安と恐怖に面と向かって生きた末に辿り着いた希望や愛について唄った『Blood』をアカペラで漠たる空に語りかける。時に縦にも横にも体を揺らしながら歌い、片手にチェロを抱きふたりで海を眺めたり、チェロを横に置きひとりで舞台の下に広がる自然に向かって歌い、光学硝子に触れる自分の足音だけを感じ、彼女が起こす静と動の波打ちが光、自然、境界線なく広がる水面と空すべての生命を一体化させる。最後には出だしと同じく、舞台の四隅を歩み、感謝を示すように観客に向かってにこっと笑顔を浮かべ、水面に浮かぶようにみえるチェロと舞台をあとにした。
パフォーマンス後の余韻が残る会場では、日本の伝統的な技法「発酵」を使って生み出す独創的かつ斬新な日本料理とドリンクで高い注目を集めるレストラン『Kabi』による江之浦で採られた野草を使った食事や、みかんを発酵させたコンブチャとナチュラルワインが振る舞われた。
また今回、江之浦測候所でのルー招致の企画を担当したBLISS/NIONがプロデュースする総合アートへの理念に賛同し協賛を決めたアカツキ。エンタメプロデュースとデジタル&リアルの体験設計を得意とする「エクスペリエンスデザインカンパニー」として、「人の心を動かす」をテーマに幅広い領域に進出し注目を集めている。今後もそのビジョン実現への旅を共に歩むアーティスト、クリエイター、プロジェクト、団体とのコラボレーションや支援を今後も積極的に行なっていく予定だ。
日没に向かうたった50分の間で、すべての自然がルーの味方となり、天空へと響く歌声が私たちを漠色の世界へと導く。消える太陽に照らされたチェロは神秘的な光を輝かせ、ルーの歌声に呼応するように鳥がさえずり、地球にあるすべてのものが一体化した一瞬の刻を永遠に感じさせていた。