連載『My Classics』。この企画ではアーティストやデザイナーなどのお気に入りの一品と、これから欲しいアイテムや気になっているものを紹介していく。普通のインタビューでは中々見ることのできないアーティストの嗜好や素顔などが垣間見えるものに。
第5回目は、PATHやBistro Rojiuraなどのレストランを経営しつつ、自ら現場に立ち続けるシェフ・原太一をフィーチャー。今回は、彼が今年新しく白金台にオープンした多国籍料理店 LIKEにてインタビュー。店はライブスペース兼DJブースを設け、音楽イベントも行われたりA$AP Rockyなど著名アーティストも訪れたりなど、音楽とも関わりが深い場所となっている。店を通してフードだけではなく空間や音楽などカルチャーを提案し続け、東京だけでなく世界から注目を集める彼のクラシックに迫った。
取材・構成:島田舞
写真:Cho Ongo
原太一のMy Classics アイテム編 : JBL4344のカスタムスピーカー
- 今回の企画は、アーティストやクリエイターのお気に入りを伺うものになっています。事前に挙げて頂いたお気に入りのアイテムはJBL4344のカスタムスピーカーとのことですが、これを選んだ理由は?
原太一 - ここでお店をやるにあたって、良い音響設備で音楽を聴けたら良いなと思って。あのスピーカー自体は元々知ってて、でもめちゃめちゃ良いやつだから高いし絶対買わないと思ってたんだけど、お店をそういうコンセプトでやりたいと思ってたから、思い切って買ったって感じで。元々JBLのスピーカーは形とか色やデザインが好きで、さらに日本のケンリックサウンドって会社がカスタムしてて。元々ヴィンテージのJBLをカスタムして、もっと良い音になるっていうやり方で。
- プレーンな形じゃないですよね。
原太一 - プレーンじゃない。元々ヴィンテージを改造してるから、ほぼほぼカスタムって感じです。
- 見た目も違うのでしょうか。
原太一 - いや、見た目はほぼ一緒。本当は別の色に塗っても良いかって聞かれたんだけど、俺はあの色が好きで買ったから「いや、そういう色はちょっと...そのままが良いです。」って(笑)黒に塗ろうとしてたみたいで、それはそれでめっちゃカッコいいんだけど、JBL感が無くなっちゃうから。
- サウンドの特徴はありますか。
原太一 - 一応DJも出来るようにしようと思って、DJセットもあるしライブのセットもあるから。DJも出来る仕様で一番良い音、クリアで重くない音を注文してて。バランスを見てもらって、本当だったら真空管アンプを入れるともっと柔らかい音になるんだけど、そうするとDJイベントでハウスやエレクトロみたいな音楽が合わなくなるから。そういうのにも対応して、何にでも対応できる音作りでお願いしました。
- 原さんが好きな音楽のジャンルは何ですか?
原太一 - ジャンルはもうほんと、何でも聴くけど。インディーバンドっぽいのも好きだし、最近自分がDJイベントをやるようになって、そういう時はハウスっぽいのも買ってるし。ジャズも好きだし、割りと何でもですかね。
- DJイベントは原さんが主催ですか?
原太一 - 僕と、ALLEGEっていうブランドをやってる友達の亮くんと渋谷の翠月でやってます。
- 翠月は洗練された空間ですよね。イベントに来る方もアパレル系の方が多いですか?
原太一 - 二ヶ月に一回ってことで、まだ一度やっただけなんだけど。その時は周りの友達とか、アパレルの人も多いし、飲食関係の人とか、色んな人が来てくれたけど。一応僕が絡んでるイベントだから、うちの店は3店舗全部ナチュラルワインを出してるので、そういうのを自分のイベントでは出したいから、「クラブでナチュラルワイン飲みながら踊れたら超楽しいと思う」って言ったら先方はOKしてくれて、そういうのを出したらみんなめっちゃ飲んでくれて。
- スポンサーではなく持ち込みで出したんですね!珍しいですね。
原太一 - 翠月の人たちもフレキシブルに対応してくれて。クラブに行く時に好きなお酒があったら良いなとずっと思ってたから。この店をやった理由の一つにもそれがある。良い音楽と、好きなご飯と、好きなお酒っていう。そのイベントも、そういう気持ちがあってやってる部分があります。
- 自分のイベント以外で最近行ったイベントはありますか?
原太一 - WWWのRejjie Snowに行った。ヒップホップもそんなに詳しい訳じゃないけど、普通にみんなが知ってるやつは何となく聴いてると思う。
- ヒップホップはやはり外国のアーティストが多いですか。
原太一 - 外国の人が多いですかね。日本のも5lackとかあの辺は好きです。
- ジャンル問わず、好きなアーティストや最近チェックしているアーティストはいますか?
原太一 - 元々音楽に入ったのはパンクで、中学生で聴き始めてから音楽の世界に入って。70年代のパンクのアーティストが元々ずっと好きで。ジャンルも色々跨いできてるけど、最近は何だろうな...。色々レコードを買いすぎて、好きなアーティストが沢山いすぎて。
- 音楽をチェックするのは基本的にアナログで。
原太一 - そうですね。もちろんネットでチェックして、アナログを買いに行くっていうのが。基本的にアナログしか持ってないから。まあ、もちろん家ではSpotifyで聴いてるけど。Spotifyは関連アーティストが結構良いとこ突いてくるし、勝手に俺が好きそうなプレイリストを作ってくれるから。
- レコードを買うときはどのお店に?
原太一 - 原宿のBIG LOVE RECORDSには週に一回は行ってる。後はJet SetやNewtoneの通販でもたまに買ってます。
- それはお店用に?
原太一 - 自分の家にあるレコードは全部店に持って来てるから、兼用というか。お店用に買おうというよりは自分が欲しくて買って、職場にいる時間が一日の中で一番長いから、そこで好きな音楽を聴きながら仕事出来る感じ。
- 話題が変わりますが、LIKEのコンセプトを教えてください。
原太一 - 音楽とご飯っていうのもあるけど、料理は多国籍料理を謳ってて。3店舗ある中の最初の2店舗はカジュアルなフレンチってスタイルでやってて、もう1店舗やるって時に同じことやっても面白くないし、フレンチは2店舗の方で追求して行きたくて、また新しい面白いことを、ってときにずっとアイデアがあったのが多国籍料理で。じゃあ新店舗でやろうって。元々エスニックや中華、和食が好きだから、そういうのを自分で作ってみたくて。僕は別に中華や和食を勉強したことはないけど、フレンチってフィルターを通して中華や和食、エスニックに向き合ったらどんな料理が出来るかな、っていう実験でもあるし。単純に自分の料理の幅とか、何にもとらわれず作ってみたいっていう衝動でそういうスタイルになった感じです。
- このお店の下の階はBIOTOPですよね。お店をここでやろうと思ったきっかけは何でしょうか。
原太一 - このLIKEの物件には元々BIOTOPが運営してるカフェがあったんだけど、BIOTOPの事業部長の人が友達で、その人が声かけてくれて「ここでやらないか」って話を貰って。そういう話は実は色んなところから貰ってたんだけどずっと断ってて。なぜならBISTRO ROJIURAとPATHの2店舗が超忙しくて。でもこの物件を見た時、ライブスペースも作れるし、こんな素敵な空間は自分で探すことが出来ないから、これはチャンスと思って。ライブスペースを作るのは一生出来ないと思ってた夢だったから。それからBIOTOPさん側と話を詰めて行って、そしたら向こうも自由にやらせてくれる感じだったから、「ありがとうございます」って感じで。
- オープンしたのは今年の3月ですよね。もう半年経ってますが、続けてみてどうですか。
原太一 - 忙しくはあるけどお店自体はまだまだ暇だから、もっとお客さんに来てもらえるようにしなきゃいけないんだけど。でも、楽しくはやれてますかね。良い音響で音楽を聴くだけで結構上がってるぐらいだから(笑)
- ちなみに、今までお店でやってきたイベントはどんなものですか?
原太一 - 一回やったのは、Nick Hakimっていうブルックリンのアーティストと、The Onyx CollectiveっていうSupremeからサポートされてたジャズバンドのコラボ。二回目がCIBO MATTOの羽鳥美保さんがソロでレコードを出したから、そのタイミングでやってくれたのと。一番最近やったのはAlien Tangoっていうロンドンのアーティストがたまたま来てて、「やれるとこないか」って共通の知り合いに話が行って、「原くんの所が良いんじゃない」って繋いでくれてやった。後はMonkey GinっていうGinのイベントをやったこともあるし。でも、まだそれくらいかな。
- 今後やっていきたいイベントは?
原太一 - 例えば土日の昼とか夕方くらいからチルアウトっぽいDJを入れて、ゆるーくずっとBGMみたいな感じでやりたいかも(笑)昔イビザ島のカフェに行った時にずっとDJがやってて、みんなサンセットを見ながらポケーっとしてて。あの感じをやれたらって。あまり激しいと近隣の迷惑になるから出来ないんですよね。結構音は絞らなきゃいけなくて、後は夜の8時半にはライブを終わらせて。スピーカーから出る音は意外とクレーム来たことが無いんだけど、生音って外に凄い響いちゃうから。だから生音は8時半まで。一回9時までやってクレーム来たから、僕の気持ちで30分だけ早めた(笑)
- Instagramなどを見るとLIKEに結構著名なアーティストの方が来ていますが、これまでにはどのような方が?
原太一 - Nick HakimとThe Onyx Collectiveの時はA$AP Rockyが来てくれた。その時に凄かったのは、入り口がステージの横だからみんな見えちゃって「A$AP Rocky来た」ってなるんだけど、誰も「わー」とか言わない。「日本人って超しっかりしてんな」みたいな(笑)
- きっと良識ある方が来るお店なんでしょうね(笑)
原太一 - そうだったら良いんだけど。みんな「A$AP Rockyじゃね?」とか小さい声で言ってて(笑)客層自体は良いから誰が来てもギャアギャア騒ぐ人もいないし。
- ちなみにA$AP Rockyは何を食べたのですか?
原太一 - ハーブティーしか飲まなかった(笑)マジでタバコも吸わないんですって。タバコもお酒もやらないらしい。A$AP Rockyに「食べて」とも言えないし(笑)
- Kelsey Luもお店に来ていましたよね。
原太一 - Luは友達が呼んでて、フラっと来てくれて。ライブにも行った。
- これからどんどんそういうお店になったら良いですね。
原太一 - なんならジャムセッションが始まっちゃったりとかね。そういうアーティストが来てて、「ちょっと触らせてよ」とか言って始まったらめっちゃカッコ良いなって(笑)
原太一のMy Classics フード編 : TRENCHのカクテル
原太一のお気に入りのお店が恵比寿にあるバーにあるときき、LIKEから場所を移動してBar TRENCHにて取材を続けた。
- このお店に初めて来たのはいつでしょうか。
原太一 - 7年ぐらい前。ROJIURAをやった年ぐらいだから、30歳のときかな。その時ROJIURAに来てくれたお客さんにここの場所を教えて貰って、来たんだよね。その前にバーとかほとんど行ったことが無かったんだけど、そこで頼んだMonkey Ginのカクテルを飲んだらめっちゃ美味くて、「ジントニックってこんなに美味いんだ」って思って、そこからカクテルを飲むようになった。
- それまでは何を飲まれてたんですか?
原太一 - ほぼビールとかワインとか(笑)後はハイボールとか、居酒屋だったらレモンサワーとかだけど、ほぼビールとワインしか飲まなかった。「こんなにカクテルって美味しいんだ」って思ったのがこのお店で。モンキージンも今でこそ結構色んなところにあるけど、当時僕は初めて見て。
- ジントニックがお好きなんですか?
原太一 - うん。でもここは色んなカクテルがあって、どれも本当に美味しい。アブサンっていう香草系のリキュールも充実してて、僕も色々飲ませてもらったりとか。
- お酒は毎日飲みますか?
原太一 - はい(笑)仕事柄、仕事終わった後に絶対スタッフとお疲れ一杯するんですよ。締め作業してお疲れ一杯して、サクッと帰るときもあれば「もう一杯だけ飲む?」とか言ってワイン一本空けて最後にビールで締めて、帰るのが3時とか4時のときもあるけど(笑)
- 一人でもこういうお店は来たりしますか?
原太一 - 一人では滅多に無いかな。人と行くことが多い。どこかでご飯食べた後とか、逆にどこかに行く前とか。
- LIKEでもBar TRENCHにカクテルをプロデュースして貰ってるんですよね。
原太一 - ずっと好きだったお店にお願い出来て、だからLIKEのカクテルには思い入れがある。6種類作って貰ってます。
- 普段からリサーチも兼ねて色々なお店に行くことはありますか?
原太一 - いや、僕個人で新しいお店探すことはあまりやらなくて。昔は凄いやってたけど、最近は自分で行くお店が毎回決まって、ルーティンで何回も行くって感じで。周りの友達が連れ出してくれるから、「今度飲みに行こう」って言ってお店決めて貰ったりして
開拓してる感じです。
原太一のこれから欲しいアイテム : Snow Peakのテント
- これから欲しいアイテムがSnow Peakのテントとのことですが、これはどうして?
原太一 - 可愛くない?(笑)ずっとキャンプやりたいと思ってて、一応コットとか寝袋とかコップは持ってるんだけど、テント無いなと思って。テント買ったら本気でやらないとダメになるけど、やりたいと思ってたから、テントとか買ったら本格的にやってみようかと。
- もうテント以外は持ってるんですね。
原太一 - ある程度はね。後は椅子とかも買いたいな。
- キャンプをしたいと思ったのはどうしてですか?
原太一 - ここ一年ぐらいずっと友達とキャンプ行こう行こうって言ってて、毎回流れちゃうの。みんな忙しいし、予定も合わないし。最近海外旅行とか行っても全部都市部で街中に行っちゃうから、自然に触れてリラックス出来る場所を求めてて。小学生や中学生の頃は年に何回かキャンプに行くようなアウトドア系の家だったから、そういうのもあって「またやりたいな」みたいな。テントを買ったら今度はそれも揃えたくなっちゃうけど(笑)超便利な椅子とか、超軽いのに良い椅子とかあるじゃん。薄いけど暖かいジャケットとか。そういうのが楽しそうだなって段階で、行くとかは決めてないけど。
- 行くとしたらどこに行きたいですか?
原太一 - それも全然決めてないけど、自然のあるところでゆっくりするってことを年に何回か組み込んで行けたら良いかな。普段はなんか忙しいし。ちゃんと休みも取れてるんだけど、やることが常にあって、ずっと期末試験の前の宿題が残ってるみたいな状態が続いてるから、それを完全にオフにしたくて。都内にいるとメールを確認したら返さなきゃいけないし。キャンプに行ったら携帯を置いて、気持ち的にもフリーになれるから。とか言ってインスタとかに上げちゃうんだろうけどね(笑)
info
LIKE
http://likelike.jp/
https://www.instagram.com/like_restaurant_
Bar TRENCH
http://small-axe.net/
https://www.instagram.com/bartrench/?hl=ja
原太一
https://www.instagram.com/taichihara/
1981年、東京都生まれ。学生の頃、音楽やデザインなどを総合したカフェ・カルチャーに影響を受ける。その空気感とレストラン・レベルの料理を出す店を持ちたいと、大学卒業後、レストラン、ビストロなどを経て、キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロで研鑽を積む。2011年にBistro Rojiuraをオープン。ミシュランガイド、ビブグルマンに6年連続で選出される。引き続き、15年にPATHを後藤シェフパティシエと共同でオープン。19年にBIOTOPに多国籍料理店LIKEをオープン。