FNMNL (フェノメナル)

【ライヴレポート】Awich×唾奇 | 嵐を呼ぶパフォーマンスで日本全土を圧倒

Awichと唾奇のジョイントツアー「Awich×唾奇 Supported by Reebok CLASSIC」の東京公演が、6月29日に東京・LIQUIDROOMで開催された。名古屋、大阪での公演を終えた二人は地元・沖縄で行われるファイナルを前に、この東京公演にのぞんだ。会場は超満員。性別や年齢を問わずさまざまな人たちが集まっていた。

開演前から場内は凄まじい熱気に包まれていた。トップバッターは唾奇。颯爽とステージに登場すると「はいさい。遊んでいきましょう」と挨拶する。観客が一斉にスマホを掲げるのもすでにおなじみの光景。まずはMPCプレイヤー/トラックメイカーとしても知られるhokutoがバックDJに入り、1MC1DJのスタイルで"Cheep Sunday"を歌う。これはhokutoのアルバム『AMATEUR RHYTHM』の冒頭を飾ったナンバーだ。2曲目の"Made my day"では、1ヴァースだけ歌うと、音を止めて「一発だけ全員の声を聞かせてください。東京。LIQUIDROOM。調子はどう?」と声援を求める。そして2ヴァース目を続けると早くも大合唱が巻き起こる。その流れからNujabesのクラシック"Luv(sic)"をビートジャックした"ThankS LuvSick(seba Blend)"へ。美しい旋律のピアノサンプリングで、地獄のような内容をラップするこの世界観は、唾奇ならでは。ストーリーテラーとしての実力をまざまざと見せつけた。

さらに唾奇はBASIの"あなたには"をカバー。続いて自身が客演として参加したBASIの"愛のままに"を歌った。この曲でも大合唱。ピースな雰囲気が一気に会場を包む。そして「俺の音楽も、そして今日ここにいる一人ひとりのお客さんの価値も、誰かに値札つけられるもんじゃなくて。お前の価値はお前が決めるんだぜ」というMCから"Go Crazy"へ。続く"all green"では、消えない悲しみとそこからの再生を歌った。

ここでバンドが登場。メンバーは荒田洸(D / WONK)、井上幹(B / WONK)、安藤康平(Sax, Fluto / MELRAW)、George(Key / MOP of HEAD)、小川翔(G)、Disk Nagataki(MPC)。Sweet Williamメイドの"Just thing"、"街から街"をスムースなバンドアレンジでパフォーマンスした。"Alright¥"ではSaxやKeyが楽曲をドラマチックに演出。唾奇が「Alright / 俺は大丈夫」「お前らだって大丈夫だぜ」と歌うと観客からは大きな歓声があがった。

唾奇は自身のルーツをテーマにした曲を歌う前に、MCで祖母への思いを吐露した。「俺と姉ちゃんはおばあに育ててもらったんだけど、最近は体もすごく小さくなっちゃってね。心臓にも病気が見つかって、大動脈も狭くなってるみたい。おばあは13人も子供産んで、昔はすごく元気だった。おばあは俺の中で最強の人類だった。だから弱っていく姿を見たくなかった。俺は音楽を始めて『忙しい』と言い訳して、おばあに会いに行かなかったんだ。でも俺は自分の欲にかまけて、大切なものを見失ってた。だから最近会いに行ったんだ。そしたら『なんで会いに来なかった』って何度も何度も言われた。おばあは戦争も経験しているから、俺らと『平和』の概念が違う。何が大切かをよくわかってたんだ。誰かが死んでからそれを学ぶのは良くない。だからみんなも大切な人への感謝の気持ちを忘れないでほしい。ありがとう。LIQUIDROOM」。そしてプレイされた"kikuzato"、"Walkin"では、観客もしばしスマホを下ろして音楽を聴き入った。

「自分のMCのせいだけど、この空気は耐えられません……」と笑って話すと、会場は再び陽気なムードに。アルバム「Jasmine」の中でもひときわ軽快な"Let Me"、そして"Good Enough"ではkiki vivi lilyがゲストヴォーカルとして登場する。畳み掛けるように限定アルバム『glitsmotel』から"Black&Blue"のヴァースをアカペラで歌うと、今度はHANGがすごい勢いでステージに登場。観客も一緒にみんなで"ame。"を歌った。「この曲が歌いたかった。最後は力と声を貸してくれますか?」と、唾奇の原点とも言える"道 -TAO-"をロマンチックにアレンジでプレイし、ステージを降りた。

少しすると、Awichのバンドメンバーが現れて続々と配置につく。SOIL&“PIMP”SESSIONSから丈青(P)、 秋田ゴールドマン(B)、みどりん(D)、社長(Manipulator)。そこに小林うてな(Per / Black Boboi)、Meg&綿引京子(Cho)が加わる。荘厳なオープニングの段階で、バンドは異常な演奏力を見せつける。期待が高まる中でAwichが荘厳な雰囲気をまとって登場。"Remember"のイントロが演奏されると大歓迎が。Awichはそれを小さな体で受け止め、フックで「歌って!」と観客を煽った。クールさにエモーションを詰め込んだ唾奇とは対照的に、Awichは全身からエネルギーを発散させる。

最初からトップスピードで動き回ったAwichは、ツアーのポスタービジュアルで着用したブルーのジャケットを「暑い」と早々に脱ぎ捨てた。ジャケット同様にReebokが特別製作したセクシーなセットアップを纏い、"BoSS RuN DeMをアカペラで歌う。1ヴァースを終えたところでKOJOEメイドのフォークロアなヴォーカルサンプリングが響き渡った。そのあまりの迫力に、観客は棒立ちになる。バンドはそのままダビーにアレンジされた"Come Again"へ。強烈に低音を響かせたバンドのプレイにAwichは、蛇のように体をなまめかしく動かす。さらにそこからダブクラシックであるDawn Pennの"You Don't Love Me (No No No)"のカバーへ。観客はAwichのディープな世界に誘われた。

ハードボイルドなギターフレーズをサンプリングした"Move Way"も、タイトなバンド演奏で再現。そのあまりの気持ち良さにAwichは「マザファカーーーーーー!」と絶叫する。MCでも「最高です」と満足げ。するとバンドはEGO-WRAPPIN'の代表曲"色彩のブルース"の演奏を始める。Awichが1コーラス歌うと、今度は"色彩のブルース"をサンプリングした"紙飛行機"のイントロ。「『紙飛行機』っていうのはメールの送信ボタンのこと」と説明してから歌を届けた。

Awichのパフォーマンス時は特に女性の声援が多かった。ふとした仕草を見た女性の観客から「かわいい」と声が上がると、Awichも反応して少女のような愛嬌を振りまく。一方で、セクシーさもあり、同時に女王のような威厳も表現した。その型にはまらない多面性も彼女の魅力の一つなのだろう。

次は"Heaven on Earth"。この曲ではAwichがアメリカで妊娠していた時のことを歌っている。初めての妊娠にも関わらず、そこは異国の地で、夫は収監中だった。とても心細かったが、同時に愛の大切さもより強く感じたという。この曲では、タブゾンビ(Tr / SOIL&“PIMP”SESSIONS)も参加した。歌い終わるとAwichは再び話し始める。娘が生まれて幸せな時間も少しだけあったものの、夫は殺されてしまう。彼は生前「自分が死んだら埋めないで遺灰を散骨してほしい」と話していた。次の"Ashes"は、娘と二人で沖縄の無人島で散骨した時のことを歌ったナンバー。

タブゾンビのミュートしたトランペットが鳴き、歌いながら感情が高ぶったAwichは少しだけ声を詰まらせた。

Awichは当時を回想して「まじツラかったし、すべてがダルかったし、押しつぶされそうになった。でもそんな時、プレッシャーがないと石ころはダイヤになれない、ということを思い出しました。プレッシャーがあったから、私は今ここに立っている。プレッシャーを感じた時こそ、自分を信じて、逃げずに足を踏ん張って、受け止めようと思っています」。次の曲は"Pressure"。蠱惑的なマリンバのループとトライバルなビートが軸になりバンドの演奏は徐々に熱を帯びていく。Awichも自分を解放して激しく踊った。テンションが最高潮に達した時、繰り出されたのは、「お前誰?」という強烈なパンチライン。フロアバンガー"WHORU?"だ。Awichが1ヴァースが歌い終わると、フードを被った男がステージに登場する。「街の喧嘩小僧」と歌い始めたその男は、もちろんANARCHY。観客は一斉にスマホで撮影を始めた。がっつりと盛り上げたANARCHYがステージを去ると、みどりんの強烈なドラムソロから"NEBUTA"へ。この曲ではYENTOWNからkZmが登場。阿吽の呼吸でライヴをぶち上げる。そして最後の曲はピースなソウルチューン"Love Me Up"。フックを歌う際に胸にハートマークを作るパフォーマンスがかわいい。Awichは、kZmとの出会いからYENTOWNに加入したこと、Chaki Zuluからのサポートにリスペクトと感謝に言葉を送り、さらに「人生って何が起こるかわからないし、信じていればどれだけでも素敵になれるってことを今日この場所で実感してます」と話した。

猛烈なアンコールに応えてAwichとバンドは再びステージに。JP THE WAVYの"Cho Wavy De Gomenne"のジャジーなカバーを歌って観客を驚かせた。「どうですか? わたしバージョン。もっと聴きたい? 曲にしちゃいます?」と話して騒つく観客を期待させた。そして最後の最後に歌ったのは、Awichと唾奇が一緒に作った新曲"Deigo"。当然、唾奇もステージに登場。タイトルは「咲くと嵐が来る」と言われている沖縄の花・デイゴから。まさに今の二人にぴったりだ。重くファンキーなビートで、二人の視点から沖縄を歌う。

WONKのメンバーを中心に若手の実力派ミュージシャンたちと自身の苛烈なストーリーをラッパーとしてしっかり観客に伝えた唾奇。そして日本を代表するベテランバンドを完全にコントロールし、パフォーマーとしてもレベルアップし続けているAwich。両者は間違いなく今後日本の音楽シーンの中心になるだろう。その時、デイゴの花は大きく咲いているはずだ。

取材・構成 : 宮崎啓太

写真 : Ryohei Anbo

Recap

「Awich×唾奇 Supported by Reebok CLASSIC」

2019年6月29日(土)東京都 LIQUIDROOM

■唾奇

01. Cheep Sunday / hokuto

02. Made my day~SpEEde

03. ThankS LuvSick(seba Blend)

04. あなたには / BASI(カバー)

05. 愛のままに / BASI

06. Go Crazy / YMG

07. all green / DJ RYOW

08. Just Thing

09. 街から街

10. Alright

11. kikuzato

12. Walkin

13. Let Me

14. Good Enough feat. kiki vivi lily

15. シャウト(Black & Blue)

16. Ame feat. HANG

17. 道 -TAO-

■Awich

01. Intro

02. Remember

03. Boss Rum Dem / KOJOE

04. Come Again

05. You Don't Love Me (No No No)  / Dawn Penn(カバー)

06. Move Way

07. 色彩のブルース / EGO-WRAPPIN'(カバー)

08. 紙飛行機

09. Heaven on Earth / SOIL&“PIMP”SESSIONS

10. Ashes

11. Pressure

12. WHORU? feat. ANARCHY

13. NEBUTA feat. kZm

14. Love Me Up

<アンコール>

15. Cho Wavy De Gomenne / JP THE WAVY(カバー)

16. Deigo feat. 唾奇

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