世界⼀の⽔と⾳楽のフェスティバル
EDMフェスは世界中に浸透し、その国ならではのフェススタイルが生まれるまでに発展した。
DJブースから大量の水が放水されるEDMフェス『S2O MUSIC FESTIVAL』もそのひとつ。フェスの発祥の地であるタイ、その旧正⽉に行われる⽔掛け祭り「ソンクラーン」から着想を得ている。伝統行事ならではの非日常の喧騒をフェスに持ち込み、水圧で合法的にトリップさせる。
今年も日本で『S2O JAPAN SONGKRAN MUSIC FESTIVAL』が、7月13日(土)14日(日)に開催される。昨年の初開催では、猛暑も相まって2日間で2万人の集客となった。
日本での開催を前にして、タイ本国で2019年4⽉13⽇から15⽇まで開催した「S2O SONGKRAN MUSIC FESTIVAL」をレポートしたい。そして同時期に開催される、フェスの源流となる旧正月の水掛け祭りを体験した。
取材・文:高岡謙太郎
写真:細倉真弓
祝祭感と共に街中が水浸しに
ソンクラーンは、タイにおける旧正月(旧暦の新年)のこと。期間は4月13日から 4月15日で、その間は祝日となる。旧正月の祭りがいたるとことで行われ、日本でいうところの節分の豆撒きのような伝統行事だ。
祭りの期間は、繁華街全体でどこに行っても水を掛けられるのが当たり前の状況となっている。祭りを楽しむ人達は、水鉄砲を片手に街中をうろつく。繁華街の露店も、通行人にホースから放水したり、補給用の水を売ったり。突拍子もないタイミングでスキあらば水をかけようとしてくる。
期間中は観光客相手であっても容赦はない。バンコクの空港からホテルに向かう最中の繁華街で、唐突に水を頭からかぶらされる洗礼を受けた。筆者とカメラマンは、滴るほどの水分補給をたっぷり衣服にしてもらった。もちろん電子機器があれば壊れてしまう。カメラマンは防水カバーが必須だ。とにかく、日本人には理解出来ないその土地ならではの祝祭感にあふれている。
とにかく街中が水と音で騒がしい。バックパッカーが大勢宿泊する観光地、カオサン通りは祭りの中心地のひとつ。現地民はもちろんのこと、この日のために来訪した観光客でごった返した。
雰囲気の近い祭りで言えば、徳島や高円寺の阿波踊りのような状況でもあるが、イギリスのノッティングヒルカーニバルの方が近いだろう。路上のいたるところにスピーカーが置かれ、タイのEDM「サイヨー」やタイディスコなどの陽気なリズムのダンスミュージックを爆音で流しっぱなしにして、踊りながら楽しんでいる。誰もが笑顔だ。
ダンスのスタイルを競い合ったり、DJがアーティスト性を出したり表現に対する欲求を感じられず、単純に騒いでいる。街中でミニマルテクノを流す一角もあったが盛り上があっておらず、地域性や国民性に合ったダンスミュージックが存在することを確認できた。
基本的に誰もがずぶ濡れになることを受け入れている状況。知らない人に迷惑をかけられても許し合うこと、他人を受け入れることを学ばされる祭りのように思えた。ある意味、路上から学ばされる、ストリートカルチャー的な体験であった。
アジアを席巻する巨大フェスへ
さて、本題となる『S2O SONGKRAN MUSIC FESTIVAL』へと向かおう。2015年から2018年まで4年連続チケットはソールドアウト。昨年2018年の開催では6万⼈の動員を記録。この時期に別のフェスが、バンコク市内だけでも数箇所開催されるほどになった。そして今後は日本はもちろんのこと、台湾などアジアを中心に世界各国で行われ、世界的なムーブメントにまで成長している。
今年のヘッドライナーは、誰もが耳にしたことがある各ジャンルのトップDJがトリを務める。初⽇はイギリスからビッグビートの第一人者、Fatboy Slim。翌日はオランダからトランスの帝王、Tiësto。そして最終⽇はアメリカからEDMの盛り上げ大将、Steve Aokiという確実にアガるラインナップ。
会場の「LIVE PARK RAMA9」は、中心地から30分ほどで到着する。日中は35度を超える猛暑ゆえに、会場が満員になるのは日が落ちてから。タイ人は夜行性のようで、夜遊びも一般的のようだ。
会場に入ると、全身ずぶ濡れの若者でひしめき、ファッションを意識した女性が多め。そして、スターDJを拝みに近隣のアジア諸国からオーディエンスが集まるのもEDMフェスならでは。自国の旗を掲げ、タイはもちろんのこと、中国、韓国、ベトナム、マレーシア、そして日本から集い、音楽を軸にして新たなユニティが生まれている。
フロアに近付くと、ステージからのまばゆい光、ワイルドな音響に圧倒される。そして、ステージ上の放水機からとめどなく流れ出る水が会場全体を濡らしていく。誰もがずぶ濡れになり絶叫している光景は痛快だ。また、消防員の衣装を身にまとったスタッフがステージ脇に登場し、ホースから水を高らかに放水したり、水龍を模したコスチュームのスタッフがフロアに大量のビーチボールを投げ込んだり、さまざまな演出によって他にない高揚感をつくりあげる。
昨年日本で体感した際は、曲のドロップとともに放水される印象だった。しかし本国では、水掛け祭りで体感したような突拍子もない放水が特徴だ。少なめに放水されたかと思うと、突如大量に長時間放水されたり、なかなか放水されない焦らしがあったり……。音と水による型にはまりすぎないインタラクティブなコミュニケーションが面白い。そして、街中の水掛け祭りよりも水量が比較にならないほど浴びられる。
最後まで水を浴び続けるオーディエンスで満員のまま、0時頃にパーティは終了。出口はごった返すので、帰りに市内までのタクシーを拾うのが大変だ。タイのタクシーは座席がビニール製なので、濡れた姿でも乗車拒否は起きないが、英語が通じない場合もある。ハメを外しすぎたとしても帰路の余力は残しておこう。
価値観と伝統をアップデートするフェスが7月に日本で開催
まだ浸透しきっていないゆえに初見の方にとっては、「間違いだらけ」のイベントに見えてしまうだろう。しかし、圧倒的に盛り上がった身体感覚を得たオーディエンスたちによって、時間の経過とともに「間違いない」イベントへと意識が変化していくはずだ。10年後のタイではスタンダードなフェスの枠組みになっているだろう。
もともとは家族で仏像に水をかけて清める新年の行事が発展して、街中で水を掛け合うようになり、現在はEDMフェスと融合してしまった。日本でも、伝統文化とダンスミュージックが融合したものがいくつかかあり、近年では盆踊りとDJが融合したイベントも行われるが、集客数や公共性に関して言えば、タイは断然開けている。新旧の文化の融合とは一体なんなのか、新しい文化を受け入れる懐の広さ、それを水圧から体感することになった。まずは快楽に浸るために日本での開催に足を運んでほしい。
Info
S2O JAPAN SONGKRAN MUSIC FESTIVAL 2019 DAY1&DAY2 開催概要
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