コミックの表現を使って実験を行い、象徴的なポップ・アートという系譜から、コミックを解放することに試みる「Comic Abstraction」。2007年にMoMAで開催された『Comic Abstraction』展に由来するこのムーヴメントを牽引する2人のアーティストRussell MauriceとAntwan Horfeeによるユニット展が、東京・西麻布のCALM & PUNK GALLERYで開催される。
2人のユニット展はこれで3回目。1回目は2014年にオーストラリアの メルボルン、シドニーの2箇所で開催し、2回目は2017年にHorfeeの故郷であるパリで開催されてきた。今回の展示ではHorfeeによる新作のアニメーションと、Mauriceによるスカルプチャー、テック・コラージュ、絵画が融合した形式を採用。
また、両アーティストによる本展限定モデルのハンドメイドレジンスカルプチャーセットを限定販売。スカルプチャー作品は4種類の各10体限定となる。
膨大な製作時間を費やしたHorfeeのアイロニカルな短編アニメーションは、あらゆる形状、サイズの生物がパレードを繰り広げる、さながら混沌たる百鬼夜行絵巻のようであり、この縦横無尽に闊歩する生物たちで占領される超現実的宇宙を通して、視る者は自己のインナースペースへと導かれている。
Mauriceによるパステルカラーで彩られたアポカリプティックな2D絵画・コラージュ・3D作品には、ヴィンテージ・アニメ ーションに際立った明快さと、サイケデリックで鬱屈とした難解なイメージとが一貫して混在している。
コミックをこれまでの文脈から逸脱させる両者の試みをぜひ体感してほしい。
Pathetic Bubble
熱狂と幻想が渦巻く地下壕で、HorféeとMauriceの世界が交差する。 Horféeのグラフィティを纏った列車やトラックがパリの線路や大通りを走り抜ける。彼が創造する人ともマシンともつかぬ異形の生命体がはびこるメトロポリスが、液化したオズの魔女や痘痕面の月たちがさざめく隔絶されたMauriceの孤島と対峙する。
そして村上春樹が書いたように―「混沌が形を変えるのだ」 グラフィティという境界線を突破しようと、Horféeの超次元空間が研ぎ澄まされる。彼は描画に注ぐエネルギーや緊張感を持続させながら、ディテールを極限まで削ぎ落とし、エッセンスを凝縮したMaurice のコミック・キャラクターのミニマルさへと近づけてゆく。 両者は、表現手法は異なれど、共にウィンザー・マッケイやポール・グリモーといったアニメーター界の巨匠から多くの影響 を受け、そして共鳴しあっている。
彼らの共作によって、明らかにアニメーションという表現の純度が高められた。
MauriceとHorféeは、従来のアナログ・アニメーション制作における古典的手法のセル画を彼らのレイヤー作品に取り入れている。Mauriceの作品においては、廃城やうろつくホーボーなど謎めいたモノが文脈から離れ存在し、まるでかつてJames Boadenが語ったところの「ストーリーという呪縛から解き放たれる」ような結果をもたらしている。 しかしながら、彼らの作品は単に“メタモルフォーゼ(変質作用)”という言葉だけで表せるものではない。Horféeがグラフィティの境界線を超え、あらゆる場所でペイントしていくように、Mauriceはコミックの”本”というフォーマットを取り払い、平面でしかなかったキャラクターたちを立体化してこの現実世界に出現させたのだ。このMauriceの"彫刻化/立体化”するアプローチは、コミックのサブ・アートとしての位置づけを覆すものであり、Horféeの 創造的破壊活動に共鳴するものである。Pathetic Bubbleにおいて、彼らが何を言わんとしているのか、作品群の裏側に潜む意味をぜひ読み取っていただきたい。
Info
名 称 - Pathetic Bubble iii - Bats in the cave
会 期 - 05.18(土) - 06.08(土)12:00 - 19:00 * 日曜日、月曜日、祝日休廊
入場-無料
会 場 - CALM & PUNK GALLERY 東京都港区西麻布 1-15-15 浅井ビル 1F
http://calmandpunk.com/