変態紳士クラブが平成から時代が変わる3日間に名古屋、大阪、東京で『変態紳士舞踏会TOUR 2019 " 東名阪クアトロツアー “』を開催した。そのツアーのファイナルが5月2日に東京・渋谷クラブクアトロで行われた。
2017年に結成された変態紳士クラブのメンバーはAnarchyが代表を務める1%所属のラッパー・WILYWNKA、新世代のレゲエ・ディージェイとして注目されているVIGORMAN、関西を拠点に活動するプロデューサーGeGの3人。EP『ZIP ROCK STAR』をリリースすると、その音楽性の高さからすぐに注目を集める存在となる。そんな彼らにとって、今回のクアトロツアーは現時点における集大成。もちろんチケットは前売りの段階で全会場完売した。
渋谷クラブクアトロは開演前からかなり賑わっていた。観客の男女比はだいたい半々程度。年齢はおそらくアーティストと同年代か、やや下くらい。比較的若い世代に支持されている。変態紳士クラブと観客の良好な関係性を象徴するエピソードがある。今回のツアーは観客による撮影が禁止されていた。メンバーがこのツアーの模様をなんらかの形で発表しようと考えていたからだ。近年はスマホでライヴを撮影することが当たり前になっているが、ここまで名古屋、大阪とライブを終えた段階でこの約束を破った人は一人もいなかったという。SNSなどに写真や映像は出回っていない。
このツアーの大きな特徴はGeG率いるバンド編成ということ。WILYWNKA、VIGORMAN、GeGに加え、ギター2人、ベース、ドラム、サックス、キーボードら、Soulflex、Showmore、YARD VIBESなどからGeGが選び抜いた今のシーンでも最高のミュージシャン6人がメンバーを支えた。彼らのテクニックは言わずもながら、さらにバイブスも素晴らしい。それは1曲目の"ZIP ROCK STAR"を聴けばすぐにわかった。まず音がデカい。あまりの爆音の迫力に、最初は観客も驚いていた。
続いて2曲目はVIGORMANのソロ曲"DANKNOVA"。さらにWILYWNKAが「火を点ける準備はできてっか」と煽って"UGHHHH"に突入。その勢いのままWILYWNKAのソロ曲"EVERDAY"まで一気に駆け抜けた。この段階でアーティストも観客もすでに汗だく。6曲目の"WAKE UP"演奏後にWILYWNKAが「東京、調子どう? 俺、紳士やからいつもハンカチ持ってんだ」とポケットからハンカチを出して汗を拭く。さらに「今日来てくれたお客さんたちは、みんな変態紳士クラブの会員だから男の汗が染み込んだハンカチを欲しがるっていう、すごい性癖を持ってんねん」と話して、ハンカチを客席に投げ込んだ。グッドバイブスが充満しすぎて会場はサウナのようになっていた。
WILYWNKAとVIGORMANはトークの掛け合いが軽妙だ。WILYWNKAが「俺らはヒップホップとレゲエをうまいことジョインさせたハイブリッド型のクルーなんですよ」と言うと、VIGORMANが「“ジャンルレスユニット”っていうセコい言葉使ってて」とかぶせる。それを受けてWILYが「だから俺らなんでもあり。ルールはなんにもないから、今日はみんなもはっちゃけてくれよな」と話すと客席からとんでもなく大きな歓声が上がる。二人はそれぞれのソロ曲"BAD LADY"、"Rapper's Flow"を歌って、ヒップホップとレゲエのジョイントを強く印象づけた。
さらに次はメロウな新曲"HOME"を披露する。WILYWNKAは「俺らをこのステージに連れてきてくれたのは新幹線でもタクシーでもなく、この音楽なんだ。これから何年か経って、お前らの言うことや考えることが変わったとしても、俺らはいつもアホみたいな顔して、アホみたいなやつらと、アホみたいな曲を、このステージでアホみたいに歌ってるから。もしお前たちが人生の道に迷ったとしたら、ここが『HOME』だと思って帰ってきてくれ。もし良かったら、この音楽で俺らをお前らの人生に連れてってくれよ」と、熱いメッセージを届けた。
クアトロのテンションはどんどん高まっていった。WILYWNKAが「俺も一緒にいる仲間も、みんな中途半端なブチ上がり方ができないんですよ。でもブチ上がりすぎちゃうことが……」と言うなり、客席からぶわっと歓声が上がった。すると、WILYWNKAがアカペラで「Oh real… Just on my way もうどうでもいいけど良くないかな…」と歌ったらステージにいない人間の声で「お前が思ってるだけだって人の目気にしてもやしな」と続ける。そう、ゲストは唾奇。彼が登場すると、女子の黄色い声と男の野太い声が入り混じって"TAKE IT EASY"の大合唱が巻き起こった。そしてもう一つのサプライズ。なんと“大阪のパイセン”BASIが登場し、自身の人気曲"愛のままに feat. 唾奇"を歌唱した。
スペシャルゲストがステージを後にしても、会場は少しざわついていた。そこに畳み掛けるように演奏されたのが、ダイナミックにアレンジされた"湾岸TWILIGHT NIGHT"だった。オリジナルはクールなダンスナンバーだが、ライブバージョンはよりファンキーでソウルフル。さらに2MCの迫力あるパフォーマンスが楽曲のエネルギーが何倍にも増幅した。またこの曲ではPAも素晴らしさも際立った。ベースの強烈な低音は維持しつつ、フェンダーローズの繊細な音色や、ギターソロの高音もしっかりとコントロール。チームが一体となって、変態紳士クラブのライブアクトを作っていると感じられるパフォーマンスだった。
後半は変態紳士クラブの個性を表現した楽曲が続いた。まずはそれぞれのルーツを表現したソロ曲を披露する。VIGORMANは信頼できる少しの仲間の大切さをテーマにした新曲"A Few"、WILYWNKAは音楽によって自分の人生がポジティヴに更新されていくことを歌った"Soul One"を届ける。続くVIGORMANの"大人が言う"は、二人のアティテュードを表現したかのような“クソガキ”ソング。「革命よりも失敗を恐れ、踏み出すってまた大人が言うのさ」「価値を下げて、ハイ完成、言うぐらいなら構わない大器晩成」などは、若くしてさまざまな経験をしてきた彼らだからこそ聴き手の心に響く言葉だ。この曲を受けてWILYWNKAも「俺たちは音楽でもカッコつけずに等身大。いつも通りが良い。だからクルーの名も“変態紳士クラブ”にした。この名前は頭に残るしね」と笑う。そして順風満帆じゃなかった10代を振り返った"オレンジ"を歌った。
クライマックスは新曲"MerryGoRound feat. BASI"。BASIの美しいフロウが特徴のナンバーだ。これはGeG名義の楽曲で、2019年中に発表されるという。またWILYWNKA、VIGORMANもそれぞれ年内にソロ作をリリースすることが決まっているとのことだ。変態紳士クラブの三人にとって、2019年はこの曲のようにめくるめく進むことになりそうだ。ラストの1曲はWILYの"See You Later"。VIGORMANがサビをアカペラで歌うと会場も歌い始める。そして最後の1ヴァースまで観客と一緒に歌いきって本編の幕を閉じた。
当然ものすごい勢いのアンコールがかかる。再び登場した変態紳士クラブが本当に最後の1曲として選んだのは"すきにやる"。さらにこの曲には、唾奇とBASIも「俺らの歌いたいな〜」と飛び入り参加する。演者も観客も、みんなが自由に好き勝手に楽しんで、東名阪クアトロツアーのラストを締めくくった。最後に「俺ら、変態紳士クラブは3人とも中卒で、まともな青春時代なんてまったくなかった。だからいまの俺らはその青春時代の忘れ物を取り戻している最中なんです。集合写真とかも撮ったことないからさ、いまここで撮っていい?」と話して、メンバーと観客で記念撮影。感動的にツアーの幕を下ろした。
変態紳士クラブ「変態紳士舞踏会TOUR 2019 " 東名阪クアトロツアー "」
2019年5月2日(木・祝)東京都 渋谷クラブクアトロ01. INTRO ~変態紳士舞踏会~
02. ZIP ROCK STAR
03. DANKNOVA(VIGORMAN)
04. UGHHHH
05. EVERDAY(WILYWNKA)
06. WAKE UP(WILYWNKA)
07. WAVY
08. BAD LADY(VIGORMAN)
09. Rapper's Flow(WILYWNKA)
10. HOME/GeG(新曲)
11. TAKE IT EASY feat. 唾奇(WILYWNKA)
12. 愛のままに feat. 唾奇/BASI
13. 湾岸TWILIGHT NIGHT
14. A Few(VIGORMAN)
15. Soul One(WILYWNKA)
16. 大人が言う(VIGORMAN)
17. オレンジ
18. MerryGoRound feat. BASI/GeG(新曲)
19. See you Later(WILYWNKA)
<アンコール>
20. すきにやる feat. 唾奇, BASI