音楽とアートが越境し、交差するバカルディ主催のフリーイベント『BACARDÍ “Over The Border”』が、11/5(月)に東京・渋谷のニュースポット渋谷ストリームホールで開催された。
取材・構成 : 和田哲郎
写真 : (表記のないもの) Masanori Naruse
ライヴやDJでラインナップされていたのはロンドンのラッパーLittle Simz、ウガンダのアーティストコレクティヴNyege Nyegeのコアメンバーで、新しい流れがとめどなく出てきているアフリカのシーンの今を象徴するKampire、さらに圧倒的なテクニックとそのたゆまぬディグの精神でBボーイの精神を体現するDJ KOCO a.k.a. Shimokita、さらにモダンなメロウサウンドを追求するSoulectionのYukibebがメインフロアに登場。
サブフロアではUKのインターネットラジオ番組でレギュラーを持つLIL MOFOや、ヒップホップを軸に幅広い活動を行っているDJ SARASA、モダンなダンスミュージックを追求するYOSA & TARRといった、こちらも多彩なDJがプレイ。また会場内には今回のイベントのメインビジュアルも手がけたアーティストJoe Cruzによる女性同士がキスをする巨大な壁面アートをはじめとして、音楽・ファッション・アートと越境しつつ自身の表現を行うKosuke KawamuraやJun Inoueの作品が展示されている。
LIL MOFOがテクノからガラージまで芯の通ったプレイを4Fフロアで見せる中、多数のミラーボールが飾られた6FのホールではYukibebが彼女らしいメロウなグルーヴで場を暖めていた。最新のヒットチューンから、R&Bクラシックスをスローかつ踊れるプレイでトップバッターの大役を果たした。
その後に登場したのはDJ KOCO a.k.a. ShimokitaとJun Inoueとのコラボレーションプレイ。Inoueが描く大胆かつ繊細な線に合わせて、KOCOは得意とするヒップホップクラシックスから強力なドラムブレイクが織り込まれたラテンやボッサを奔放かつ正確無比なプレイで織り交ぜつつもAnderson .Paakなどのアーバンミュージックの真正性を今に受け継ぐ楽曲もプレイし、フロアの熱を一気に上げていく。アメリカのヒップホップシーンでは世代間の断絶が言われて久しいが、この日のKOCOのプレイは、KOCOの中でのヒップホップの歴史の連なりを感じさせる、まさに越境者にふさわしいものだった。
特製のモヒートを楽しみつつ、4Fに戻るとDJ SARASAが現在の音楽シーンの越境のシンボルとなっているダンスホールなどをカラフルにプレイ、腰にくるグルーヴを紡いでいる。
6Fでは同じ時間帯に初来日となるウガンダのアーティストコレクティヴNyege NyegeのメンバーであるKampireが新しいアフリカのダンスミュージックシーンの1つの形を圧倒的にタフでエッジーなプレイで披露。アフリカというと、今はR&Bやヒップホップも昇華しグライムなどとも融合したアフロスイングなどが代表的だが、Kampireのプレイする楽曲はもっとダークでテクノと言っていいほどのソリッドさを持つ。サウンドの原型は日本でも大きな人気を誇ったポルトガル・リスボンのBuraka Som Systemaに代表されるジャンルのクドゥロと近いといえるが、Burakaのサウンドが朗らかな祝祭性を持っていたとしたら、そうしたカーニバル的な明るさを剥いでタフなダークで狂熱的なグルーヴを残したものがKampireがプレイしていた今の東アフリカのサウンドだと言えるだろう。
Kampireはアフリカのアーティストであり、この日も自身を表現する楽曲をプレイしていたが、しかしその中にすでに越境的な痕跡を残しているのだ。そもそもクドゥロはポルトガルの植民地だったアンゴラで生まれたサウンドであり、それを旧宗主国のポルトガル・リスボンのBuraka Som Systemaなどが発展させたものだ。それをさらにミニマルやインダストリアルテクノからの影響を感じ取れるものへと昇華させたKampireのプレイ。ここにはインターネットやフィジカルでの接触を介した大陸間の相互影響の印がしっかりと刻み込まれていて、既成概念に囚われないアーティストの強さを感じ取ることができた。個人的にはXXXTentacionの”Look At Me”にも使用されているMalaのダブステップクラシック”Changes”を不穏に用いたリミックスがとりわけ印象的だった。
その後Kampireのダークなプレイから一転、YOSAとTARRによる開放感にあふれたハウスマナーのプレイを4Fで一通り楽しんだ後に、6FではラストのアクトとなったLittle Simzのパフォーマンスがスタート。バックDJがSheck Wesによるアンセム”Mo Bamba”でプレイをスタートすると、一気に会場のヴォルテージがあがる。
その後も数曲DJがプレイし、呼び込みと共にLittle Simzが最初からフルスロットルのパフォーマンスをスタート。今年のXXL Freshmenに選出されたStefflon Donなどグローバルな活躍をみせるUKのフィメール・ラッパーの中でも、Kendrick Lamarにも賞賛されるLittle Simzのライヴは圧巻だった。ナイジェリアをルーツに持つ彼女は激しいトラップビートではグライムからの影響を感じさせるファストなフロウを鬼気迫るテンションで披露、かと思えばブーンバップ的なヒップホップトラックの上ではメロウなヴォーカルを響かせる。マルチ・カルチュラルなロンドンの中でも移民として生まれ育った彼女に流れ込む、様々な文化的影響に自然とオーディエンスを巻き込んでいくようなパフォーマンス。後半では現在制作中という新作からの新曲を連続してパフォーマンス。「セルフィッシュであれ」とフロアにも合唱を促した”Selfish”は、様々なカルチャーが流れ込む中で自分自身の音楽を獲得していった彼女らしい1曲として深く刻まれた。
「Over The Border=既存の概念に捉われない越境者」をコンセプトに定期的に魅力的なイベントを開催しているBacardi。今回は世界各地から、様々な壁を乗り越え自身の表現を探求するアーティストが出揃ったものとなった。次はどんな越境者に出会えるチャンスを作ってくれるのだろうか。
名 称:
BACARDÍ “Over The Border” 2018日 時:
2018年11月5日(月)19:00-23:00会 場:
SHIBUYA STREAM Hall住 所:
東京都渋谷区渋谷3-21-3 渋谷ストリーム ホール
http://stream-hall.jp/access/LIVE:
Little Simz (from UK)DJ:
Kampire (from Uganda)
YukibebDJ+LIVE PAINGTING:
DJ KOCO a.k.a. Shimokita × JUN INOUEART INSTALLATION:
YARART EXHIBITION:
Hiroyasu Tsuri a.k.a. TWOONE (from Berlin)
JOE CRUZ (from UK)
JUN INOUE
KOSUKE KAWAMURA
Naohiro YakoDECORATION:
MIRRORBOWLER
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