EUの議会にて今年の9月に可決、承認された「著作権新指令案」。現行の著作権法をさらに強化したこの法案は世界中で議論の対象となっているが、これについてYouTube音楽部門の責任者であるLyor CohenがBillboardのインタビューにて警鐘を鳴らしている。
Lyor Cohenは長くDef Jamでプロデューサーを務めていた経歴を持ちヒップホップとの関わりも深い人物だが、そんな彼の視点から見てEUの著作権法改正は「音楽業界に意図せず致命的な結果をもたらす」ことになるそうだ。
彼が特に問題視しているのは著作権法第13条の改正案である。第13条の改正案は「ネットの大手プラットフォームに、アップロードされたコンテンツが著作権法に違反していないかチェックすることを義務付ける」という内容だ。例えば、YouTubeには著作権法に違反しているビデオを自動で削除するシステムの導入が求められる。YouTubeにアップロードされたビデオの中には音楽や映像を著作権者の許可なく使用しているものが数多く存在するが、現在それらは著作権者からの親告があって初めて削除される仕組みとなっている。しかし、問題となっている改正第13条が施行された場合、YouTubeに存在する著作権的にアウトなビデオは全て自動で削除されることになる。当然、YouTube上のブートや非公認のリミックスなども聴けなくなってしまうだろう。
Cohenはこの改正第13条について「クリエイターに悪影響を与え、完全に許容されたアップロードに彼らを縛り付けることになる。著作権者のコンテンツを保護する手段が必要なのはもちろんだが、この改正案は我々の業界に意図せず重大な結果をもたらすことになるだろう」と指摘。YouTubeのCEOであるSusan Wojcickiはこの改正をより問題視しており、「YouTubeやインターネット文化の大部分を占めるファンビデオ、リミックス、ミームを全て殺すことになる」と警告している。
この法律はEUのみに適用されるものだが日本に住む我々にとっても対岸の火事ではなく、対象となる大手プラットフォームがEUの法律を遵守するためのシステムを導入した場合、それは必然的に世界中のユーザーに影響を与えることとなる。
更にはここ日本でも、TPPの発効に伴う著作権法の改正に伴い、12月30日から、著作権法違反の一部が非親告罪化することが決定された。これまでは著作権者の訴えがなければ著作権侵害について罪に問われることはなかったが、今回の改正により著作権者の訴えがなくても検察が起訴できるようになったものだ。しかし、今回の改正はコミケなどの抗議によって二次創作を非親告罪から除外する(原作のまま複製された著作物を著作者に無断で使用し、この使用により、著作者が得ると見込まれる利益を害する場合のみを非親告罪化する。)という文言も付いている。
では音楽の場合の無許可でのサンプリングなどはどうなるのだろうか。弁護士が音楽家からの法律相談に無料で対応する団体『Law and Theory』代表の水口瑛介弁護士は、「この条項は二次創作のコミックだけでなく、音楽にも適用される」とFNMNLの取材に応え、「他人の楽曲をそのままデッドコピーしてアップロードしたり販売するような場合以外」は該当しないと考えられるとコメント。「サンプリングやリミックスなど、いわゆる二次創作の範囲に収まっている場合には、非親告罪として著作権者の告訴なく処罰を受けることはないと考えられる」とも水口弁護士は付け加えている。
また、他方で、水口弁護士は「DJが、他者が著作権を有する楽曲を使用したミックスをSoundCloudなどにアップロードしたり、SNSで配信したりする行為は、楽曲をそのまま使用しているため、著作権者が得ると見込まれる利益を害すると判断されれば、非親告罪として処罰の対象になるとも考え得る」とも述べている。ビートメイカーなどのサンプリングには非親告罪は適用されない可能性が高いが、これにより影響を受ける可能性があるのはDJや、日本の80’sのアンビエント・環境音楽のシーンなどが広まるきっかけの1つとなった、無許可で当時の音源をアップするようなYouTubeチャンネルなどとなる。特にEU圏内では新しい流れの源泉となったこうしたチャンネルに対しての締め付けは厳しくなるのは確実だろう。DJやこうしたチャンネルが著作権者の利益を侵害しようとしてミックスや楽曲をアップロードしているとは、到底考えられないが世界的に著作権法の締め付けが強くなっていることで、アーティストや音楽ファンにとっても辛い時代が来てしまうのだろうか。