2010年代で最もエキサイティングだった、”ワールド”なインターネットの繋がりから生まれる新しい音楽、交わる文脈、そして浮かび上がる感覚。その先に待ち受けていた次の波は「ローカル」だった。ナショナリズムが再び喚起される中で世界中で「人種」についての闘いは続き、ジェンダーをめぐる問いは加速し、アジア、アフロ、カリヴ、ラテンといったディアスポラは集団的な闘いと共に、個人レベルのアイデンティティの問いを深化させている。
そのような状況の中で生まれる現代のエレクトロニック/ダンス・ミュージックは”音”その物の評価だけに収まらず、これまでにない形で地域性から生まれる文化的な背景を求め、様々なレイヤーが自由に織り交ざりこれまでとはまた違った盛り上がりを見せている。アトランタ発祥の「トラップ」はローカルのレペゼンとして自らを語るヒップホップ/ラップを経由してメインストリームへと、その様式的な音楽形式と共にのし上がり、局地的なローカル・サウンドが世界各地のユースへ器として浸透していった。
渋谷のライブ・スペースWWWを舞台に新しいパーティ『Local World』は本サイトでも紹介してきたジャマイカのEQUIKNOXXをゲストに2016年12月に幕を開けた。インタラクティブなローカルとワールドの新しい現代的な視点を軸に世界各国からエレクトロニック/ダンス・ミュージックの先鋭的なアーティストを招聘し、東京ローカルのDJやプロデューサーを交えWWWβを軸に展開され、第1回から約2年を経てまもなく第10回のアニバーサリーを迎える。
Local 1 World EQUIKNOXX #Kingston
Local 2 World Chino Amobi #Nigeria / #Richmond
Local 3 World RP Boo #Chicago
Local 4 World Elysia Crampton #Aymra / #US
Local 5 World 南蛮渡来 w/ DJ Nigga Fox #Angora / #Lisbon
Local 6 World Klein #Nigeria / #London
Local 7 World Radd Lounge w/ M.E.S.H. #US / #Berlin
Local 8 World Pan Daijing #China / #Berlin
Local 9 World TRAXMAN #Chicago
Local X World ERRORSMITH & Total Freedom #Berlin / #US upcoming
祝宴のゲストにはKelelaやLAのFade To Mind周辺のDJとしても活躍し、相反する文脈やサウンドを織り交ぜ、”脱構築”とも総称された真新しいDJスタイルを生み出したパイオニアTotal Freedom、そして90年代よりベルリンの名店Hardwaxを拠点にキラー・チューンを数多く生み出してきたベルグハインのレジデントFiedelとのユニットMMMやSmith N Hackの一員としても知られる鬼才Errorsmith (エラースミス *Aerosmithを捩って名付けられた)が登場する。
Errorsmithは同じくベルリンのPANから突如リリースした13年ぶりのアルバム『Superlative Fatigue』を発表し、アフロやダンスホールのリズムも取り入れ、これまで以上に過剰とも言えるユーモアもみせる異例のテクノ/エレクトロ作品として絶賛され、昨年の年間ベスト・チャートはもちろん、この1年、シーンやジャンルをまたいで”キラー”としてダンス・フロアをまたしても賑わせている。またDJやプロデューサの音楽制作に欠かせないソフトウェア・シンセのパイオニアNative Insturmentsで働いていたキャリアも持ち、自身のシグネイチャー・サウンドでもあるシンセRAZORの開発者としても知られている。90年代より様々なキャリアを経て、ベルリン・テクノ屈指の鬼才となり、今再び注目を集めるベテランに来日直前のインタビューを試みた。
質問・構成 : 海法進平 [WWWβ / melting bot]
写真 Camille Blake
- こんにちは。インタビュー出来て光栄です。というのも、このパーティの10回目のアニバーサリーは去年の『Superlative Fatigue』をリリースした段階であなたしかいないと思っていました。あの作品がこのパーティでやってきたことを総括しているような気がしています。まず最初に音楽的なバックグランドを教えてください。どういった音楽を聴いていて、どういった経緯でダンス・ミュージックと出会い、作り始めましたか?
Errorsmith - 80年半ばに、それこそニューウェイヴと呼ばれているHuman League、Cabaret Voltaire、Gang Of Four、Siouxsie、The Banshees、あとは定番のKraftwerk, David Bowieを聴いていた。その時、子供の頃は音楽のレッスンを受けていて、ドラムを叩いてる友達とインディな感じの曲を作ってた。80年代の終わりにはハウス、ヒップホップ、ソウルを聴いて、親父がホーム・スタジオを持っていたから、そこで自分のプロダクションでエレクトロニック・ミュージックを作り始めた。91年にベルリンに引っ越してからは、自分の小さなスタジオをこしらえて、ベルグハインのレジデントでもあるFiedelとMMMで96年にレコードを出すまでになった。
- FiedelとのMMMやSmith n Hackでのリリースは当初からピーク・タイムのキラー・トラックとしてプレイされてきましたが、常にフロアを意識して作ってますか?
Errorsmith - ダンス・フロアのために音楽は作っているけど、作っている最中に何か仕込んでるとかはないかな。とにかくトラックを作る時はエキサイトしないとね。ピーク・タイムかどうかはその場で起こることだし。
- 自分が開発に携わったReaktorやAbletonのRazorなどソフトウェアをメインとして曲を作っているとありますが、90年代当時はハードウェアがメインでしたか?どういった機材を使わってましたか?
Errorsmith - 90年代初期の頃は、PCがまずシンセを走らせるほど性能が良くないから、ハードウェアのシンセ、ドラムマシン、Cubaseをアタリで走らせてた。機材は606、808、101とMS20を持ってたかな。90年代半ばからはハードウェアでジャムったやつをPCで切ったり、貼ったり、オーディオの編集をしてた。
- 90年代からずっとベルリンを拠点としていますが、住んでいて何が一番良いところですか?当時と今と比べて何が違いますか?
Errorsmith - 一番良いところは友達が周りにいるところ(笑) 今考えると、もっと空気が良くて自然があるところも良いかなと。90年代初頭は歴史的にも例外的な状況だったよね。壁がなくなって、都市の東の方は使っていないビルがたくさんあった。そういったビルは誰のものかが明確でなかったし、東の方の警察はひどい状態だったから、バー、クラブ、働く場所も、空き家のビルにどんどん出来ていった。住むアパートも簡単に見つけられたし。ただ今だと住宅の環境的にパーティやるのも難しくなってきて、家賃がどんどん上がっていくから、アパートを見つけるのも一苦労するね。
- PANのリリース史上最もセールスが良かったと聞くMark FellとのコラボレーションEP『Protogravity』(PAN 2015)はどういった経緯でリリースの企画が生まれたのでしょうか?
Errorsmith - Markとは2001年に知り合って、お互い好きな音楽が似てたし、2015年に彼がベルリンに何日かいた時に一緒にやろうって言ってくれた。凄くうまく行ったと思う。彼は僕の持ち味と複雑なパターンを上手く引き出してくれて面白いサウンドになったから、良い組み合わせだった。どれくらい売れてるのかは知らないけど。
- これまでは比較的DJやテクノ・ファンの間でカルト的な人気を誇っていましたが、『Superlative Fatigue』のリリース以降、かなり状況が変わったと思います。アルバム制作前から、こういった反応は予期していましたか?今作で一番やりたかったことは何ですか?13年ぶりをどう感じていますか?
Errorsmith - アルバムがこれまでの作品よりも、いろんな人に聴いて貰えるのはなんとなく分かってたね。ただ評判がどうなるかってことより一番重要なのは自分が納得できるものを創り上げられるかだから。よくシンセサイザーの開発で気が散って、実際音楽を作る特に集中できない時があるんだけど、自分が開発したシンセで自分の音楽を作るっていうのは僕の最終的なゴールだから、『Superlative Fatigue』をリリースした時は本当に嬉しかった。
- アルバムの随所に見られるダンスホールやアフロの要素など、ここ数年活発的で面白いビートやサウンドが取り込まれていますが、そういったドレンドの影響は背景にあるのでしょうか?
Errorsmith - ダンスホールは00年代初期から聴いてたし、7インチレコードをいっぱい買ってた。ソカも結構長いこと好きで、そのリズム・パターンはいろんな地域やスタイルに広がっていて、例えばアラビックの音楽にも見つけることが出来る。僕がドラムを叩いたり手でシンセサイザーを弾いたりすると自然に似たようなパターンになることが多いから、前のアルバムではそのパターンを集めて作ったんだけど、今回は前とは違ってもっとリズムで遊びたかったんだ。
- MMMはもちろんですが、今作はよりレイヴ・ミュージックのパワフルさが伝わってきます。若い世代の間ではアート、ダンス、どちらの面でもコンテンポラリーなレイヴの脱構築や再解釈、またモダンへのリヴァイヴァルがこの10年で盛んに行われてきましたが、実際90年代から活動してて、リアルタイムを知ってるあなたはこのトレンドをどう見ていますか?
Errorsmith - ダンス・ミュージックはやんちゃでエネルギーに溢れてる時が最高なんだよ。90年代のレイヴ・ミュージックにはすごい影響を受けていると思う。ただ実際そのエナジーがどこから来てるかとか、いわゆるレイヴと言われているものと関係あるかはどうでもよくて、タンザニアのSingeliを今の音楽として聞くと同じように”レイヴ”を感じるし。
- その話でいうと、ちょうど先日ウガンダで開催されたNyege Nyege Festival 2018に出演されていましたが、反応はどうでしたか?アフリカのアーティストが沢山出ているようで、他のフェスティバルとはかなり雰囲気も環境も違うように見えます。
Errorsmith - ぶっ飛ばされてきたよ。ラインナップも凄いし、ほとんど聞いたことがないアーティストばっかりだった。と言っても24時間ぶっ続けのフェスだったから全部見れたわけじゃないけど。300人以上出演していて、ほとんどが東アフリカの国の人達だね。僕が好きなのはGqom、Singeli、Acholitronixのアクトだったな。”トラディショナル”ステージも最高だった。ブルンジのドラマー8人がデッカい木琴を叩くみたいな、そんな感じ。値段も安かったからローカルの人達でも行けるようになってたし。僕のステージは”ダーク・スター”ステージで、他にも幾つかあったね。電子音楽的な側面もあるけど”アブストラクト”と言うより、より”変”な感じがほとんどで、僕のライブはよくうけてたと思う。ウガンダの人が実際僕のところに来てファンになってくれたしね。
- リリース後はフェスティバルやツアーで様々な場所へ行き、ライブやDJをこの一年で見てきたと思います。ここ最近特に面白かった発見や注目していることは何ですか?
Errorsmith - Slikbackは凄かった。ウガンダに行く前Slikbackを知らなかったんだけどNyege Nygeのプレイは最高だったな。Tutuのモダン・インスティテュートのセットもね。
- あなたの作品に見られるユーモアはどういったところから来てると思いますか?今作でもタイトルに現れています。いつもどこか変で、それでいてシリアスでもあり、今作でもそれが前面に出ていますが、あなたがタイトルでも使った”Superlative”(最大級、誇張)はどこからインスピレーションを受けましたか?
Errorsmith - たぶん、音楽を作る時、楽しくて面白いことをしたいってことに尽きるね。君が言うように、そういった両義性があったりアンビバレッジなものだったりが好きだから。例えば、笑える楽しさもあり、ほろりと感動する瞬間がある時、その独特のテンションが人を惹きつけるわけなんだけど、そこを僕は遊びたくて、両義性のバランスが悪いと安っぽくてつまらないし、『Superlative Fatigue』(最大級の疲労)という表現はトランプ大統領への批判の記事から見つけて、いつかトラックのタイトルに使おうと書き留めていたんだ。アルバムが持つアンビバレンスにピッタリだと思うんだよね。
- 日本でのパーティで特に楽しみにしていることはありますか?また何が、日本的だなと感じますか?食べ物、アート、映画、音楽、カルチャー何でもいいです。例えば僕は最近上海やソウルを訪れ、日本の食べ物はアンビエントだなと感じたりしました。マイルドで、ソフトで、穏やかで。
Errorsmith - アンビエント・フード(笑) 前回来日した時に日本のオーディエンスが素晴らしかっただけに、またそこでプレイ出来ることが楽しみだよ。日本食も楽しみだし、美味しいお茶を飲みたいね。最近コーヒーをやめて煎茶や深蒸し茶を飲んでるんだけど気分が良い!日本の街並みが好きだから、街を歩くだけでも楽しいだろうし。あとは日本ならではの”思いやり”が僕は素晴らしいと思う。これが日本だなって!
Info
WWW & WWW X Anniversaries
Local X World Errorsmith & Total Freedom
2018/10/20 sat at WWW X
OPEN / START 23:30
ADV ¥2,000 @RA + iFLYER / DOOR ¥2,500 / U23 ¥1,500
Errorsmith [PAN | from Berlin] - LIVE
Total Freedom
Foodman
CHANGSIE - Dancehall set -
Mars89 [南蛮渡来]
https://www-shibuya.jp/schedule/009325.php
Newtone Records × Brilliant feat. Errorsmith
2018/10/19 fri at Triangle Osaka
OPEN / START 22:00
ADV ¥3,000 w/ 1D | DOOR ¥3,500 w/1D
LIVE:
Errorsmith [PAN / from Berlin]
Akiko Kiyama [Kebko Music / Nervmusic]
YPY ]birdFriend, goat]
DJ:
YAZI [Black Smoker Records / Twin Peaks]
halptribe / KA4U [MIDI_sai] / SPINNUTS [Modulation Now!] / Koji Sawamura [Factory]
Sound: 最高音響
Food: tamutamucafe