とあるユーザーがYouTubeにアップロードしたホワイトノイズの動画が、他ユーザーから著作権侵害の申告を受け、YouTubeから5つの異なる侵害を指摘されたとDigital Music Newsが伝えている。しかし、ホワイトノイズにおける著作権とは一体何を指すのだろう。そもそも、ホワイトノイズ動画とは何だろう。
音響技術者で大学教授でもあるSebastian Tomczak氏がアップロードした、10時間に渡りただホワイトノイズが流れ続けるだけのこの動画は、2年間で1500回再生されている。
しかしながら、先日この動画は異なる4つのユーザーから5つもの著作権侵害を主張されたというのだ。ところで、そもそもホワイトノイズ動画とは何のためにあるのだろう。
YouTubeにアップされている多くのホワイトノイズ動画の中でも、再生回数が多く200万回以上を誇る"Brown Noise"という下の動画。このキャプションを見ると、「リラックスや勉強、睡眠、また耳鳴りを打ち消す際などに最適である」と書かれている。ホワイトノイズには実用的な効果があるようだ。さらに、他の動画を参照してみると「防音」や「赤ちゃんが泣き止む」といったものもあり、ホワイトノイズには様々な用途や音のバリエーションがあることがわかる。「ホワイトノイズ」という単語に検索にヒットする動画の数は膨大である。知る人ぞ知るホワイトノイズ動画のシーンがYouTubeには広がっているのだ。
そして、これらホワイトノイズの動画のキャプションに注目すると有料mp3音源のダウンロードリンクなどが添えているものが多いことがわかる。オフラインで常にホワイトノイズを流し続けたいという需要がこれらを収益に繋がるコンテンツにしているようだ。このことから、今回のTomczak氏への著作権侵害の訴えは、一部のユーザーたちが自らの金銭的な利益を守るために起こしたものであったということがわかる。
事実、Tomczak氏によると彼に著作権侵害を訴えたユーザーたちは「動画の削除」ではなく、Tomczak氏の動画からの「広告収入」を要求をしてきたという。
ここで、一般的な著作権について考えみよう。例えば、Ed Sheeranの楽曲を誰かが勝手に動画の中で使用している場合、Ed Sheeranはその動画からの収入を得ることができる、という理屈は至って自然だ。しかし、ホワイトノイズのような雑音の著作権に対してはどのような考え方が適応されるのだろう。
Tomczak氏は、この動画はオープソースのソフトウェアによって一から作られたものであるという。彼は動画について以下のように話している。
「私はこの動画を自分で"作って"アップロードしました。このオーディオの作成にはフリーの波形編集ソフトAudacity、そして内蔵のノイズジェネレーターを使いました。そして私はこれにScreenFlowを使って文章を足し、動画として完成させたのです。」
彼の証言によれば、この動画はTomczak氏によって一から作られたものだと言える。したがって著作権の考え方に則れば、このオーディオと動画は「著作権の侵害」にはならないように思える。しかし、Tomczak氏は実際、YouTubeにより5つの項目において著作権侵害を通告されている。
音楽の著作権の定義についてはこれまでも議論が繰り返されてきた。音楽やテクノロジーの進歩に伴って、著作権に関するルールは常にアップデートされていく必要がある。今回、Tomczak氏の動画は著作権侵害を受けることとなってしまったが、「ノイズにおける著作権侵害が認められた」この事例が腑に落ちないというのは自然な感覚だろう。旋律やリズムを持たないノイズの著作権について考えることは、音楽そのものの定義を問い直すことにもつながっていく。
現在、YouTubeにおける著作権の問題の対応については、YouTube社が一任しているような状況である。今後ますます複雑化していくであろう動画の著作権問題について、彼らがどのように対応していくのかは興味深い。
ちなみに現在のところ、ホワイトノイズに対する見解についてYouTubeからのコメント等は出ていないということだ。
(辻本秀太郎)