Steve LacyはThe Internetのメンバーで『Ego Death』やKendrick Lamarの『DAMN.』でグラミー賞にノミネートされたプロデューサー/ギタリストであるが、驚くべきことにこの18歳の若き音楽家はiPod TouchやiPhoneをメインツールとして音楽制作を行ってきたという。そんな彼がTed Talkに登場し、"The Bare Maximum"と題された、「最小限のものから最大限を生み出す」彼の哲学について語った。
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スピーチの中で、Lacyはクリスマスのプレゼントとして、もともとは周りのクリエイティブな人たちの多くが使っていたMacBook Proを4年間連続で希望していたことを明かす。しかし、結局彼に贈られたのはiPod Touchで、彼はそれを使って音楽制作を始めることを心に決める。
「あれは第5世代のiPod Touchだった。僕はiMPC、BeatMaker 2、GarageBandというような音楽制作のアプリを手に入れ、このポケットに入る小さなデバイスで音の世界を探求したんだ。そこで、自分がもともと欲しいと思っていたMacBook Proは実は必要じゃなかったってことに気がついた。そこから色々いじり始めて、最初は本当に全然ダメなビートを作っていたけど、あるときiRig(iPod TouchやiPhoneをギターやベースなどと接続できる機器)の存在を知ったんだ。そこから、ドラムのビートに関する知識をギターやベースの演奏と組み合わせ始めるようになったんだ。」
Lacyは一通り制作の流れを覚えると、高校の放課後にビートを作り始めるようになった。そして、友達を通してバンドのThe Internetと知り合うと、彼らとのスタジオでプロダクションの経験を積んでいくこととなった。結局、2015年の『Ego Death』では、ギタリストとしての加入と同時にアルバムの共同プロデューサーも務めたが、アルバムに収録されている"Gabby"と"Curse"のビートはiPhoneによって制作されたものだという。Lacyはスピーチの中で、「高校生をグラミーのノミネートに導いた曲」として"Curse"のiPhoneのデモを会場でプレイしている。
その後、LacyはGoldlink("Some Girl")やJ.Cole("Foldin Clothes")、Kendrick Lamar("PRIDE.")といったビッグネームたちのビートを作っていくこととなるが、iPhoneは常に彼にとってのメインツールだったという。Kendrick Kamarの"PRIDE."がLacyのiPhoneで制作されたことについてはこちらの記事でも詳しく紹介している。
スピーチの最後には、LacyがiPhoneで作った未発表曲のデモがGarageBandの画面とともに流れるが、そのトラックやサウンド自体のクオリティの高さは改めて驚かされるものだ。
"The Bare Maximum"という哲学を語り、「目の前にある最低限度のツールを最大限に使うこと」に着実に取り組んできた18歳のSteve Lacyは、今やアメリカ音楽シーンにおける重要なプロデューサーの一人だ。高価な機材がなくてもアイデアさえあればiPhone一つで成功を掴むことができる、というこのメッセージは多くの若いミュージシャンたちを勇気付けるだろう。
(辻本秀太郎)