先日行われた『2017 BET Hip Hop Awards』では、Eminemが話題をかっさらった。“Bodak Yellow”が大ヒット中のCardi Bが新人賞を含む4部門で受賞したほか、Kendrick Lamarのアルバム『DAMN.』がAlbum of the Yearを獲得、さらには昨年の『Major Key』に続き今年もアルバム『Grateful』をリリースするなど精力的に活動を続けるDJ KhaledがMVPを獲得したが、Eminemのフリースタイルはそれら以上のインパクトを残したといっていい。トランプ大統領の支持者がファン層の少なくない部分を占める彼は、このフリースタイルで同大統領を痛烈に批判し、その後のVince Staplesのコメント等もあり、多くの反響を呼んだ。
一方で、その裏で行われたサイファーでも秀逸なヴァースを蹴っていたラッパーがいたことを知るファンはそう多くない。本記事では、筆者の独断と偏見により、主にリリックに焦点を当て、『2017 BET Hip Hop Awards』における秀逸なヴァースを一部紹介する。もちろん、ここで紹介する以外にも素晴らしいヴァースが多く蹴られていたので、これを機にお気に入りのヴァースを探してみてほしい。
Axel Leon (名前をクリックでサイファーの映像にジャンプ)
Jim Jonesの“Bando”に客演したことで脚光を浴び始めたブロンクス出身のAxel Leonは、6lackらとともにサイファーに登場し、巧みなワードプレイを見せつけている。例えば、次のリリック。
I wanted them to [be] thankful for havin’ me but I’m pissed off
That I ain’t take it serious then, and it took me this long
I pissed on everything I ain’t doing number two on
What is you on? I'm heroine, I’ve traveled here in a brick form
(俺がいることに感謝してほしかったけどムカついてるよ
当時は真面目にやってなくてこんなに掛かっちまったんだ
ディスらなかったものすべてにションベンを掛けたさ
何のドラッグやってんだ? 俺はヘロイン、ブリックの形でやってきた)
1行目に“pissed off”(ムカついて)というスラングが登場し、これが3行目につながっている。“number two”は日本語でいえば「(トイレの)大きいほう」であり、“shit”と言い換えられる。つまり、3行目は「“shit on”(ディスる)しなかった全てに対し“piss”(小便する)した」という意味であり、見事な意味上の関連が生まれている。なお、4行目に出てくる「ヘロイン」は“dope”というスラングで表されることもあり、自分がいかにドープなラッパーであるかを表現している。
ニューヨーク出身の覆面アーティストLeikeli47は、Rapsodyを筆頭とするフィーメイルMCとともにサイファーし、いかに自分が底辺から這い上がってきたかを誇らしくスピットしている。
I remember when your army tried to step on me
They ain’t know I was a landmine, you swing first, I land mind
Your baby-father on my landline
(あんたの軍が私に酷いことしようとした時のこと、憶えてるわ
奴らは私が地雷だって知らず、あんたは先にヤったけど、私は心を奪った
あんたのベイビー・ファーザーも私の固定電話にいる)
“step on A”は「Aに酷い仕打ちをする」の意味だが、“step”にはご存知のとおり「踏む」の意味もあり、それが2行目の「地雷」につながっている。結果としてLeikeli47は、ある男性に先に体を許した「あんた」のベイビー・ファーザー(子供の父親)を勝ち取ることとなったようだ。彼女は自身のヴァースについて最後で「バッド・ギャル・チューン」と称している。
ロンドン出身のMCが4人集まったサイファーで、Abelinoは最後にヴァースを蹴り、以下のようにラップし始める。
First off, we don’t get no second chance
On the bright side they won’t ever get this dark
(まず言うが、俺らに2度目のチャンスは無い
良い面を挙げれば、奴らはここまでダークになれない)
“first off”(第一に)も“second chance”(2度目のチャンス)もこれといって特別な表現ではないが、これらが同一のラインにあることで、やはり“first”と“second”の縁語が生まれている。2行目の“bright”と“dark”も同様である。さらに、セルフ・ボーストも他のラッパーとは一味違い、様々な国名を挙げながら以下のような言葉遊びを展開している。
Now I’m in a German French kissin’ on a Perusian
Only thing I’m tired of tying is my Italian shoelace
(今じゃ俺はドイツ車に乗りペルシャ人とフレンチ・キスしてる
俺が結ぶのに飽きたのはイタリア製の靴紐だけ)
フェニックス出身の若手Ali Tomineekは格闘技が好きなのだろうか、J. Cole率いるDreamville Recordsの新鋭であるCozzとJ.I.D、Lil Yachty率いるSailing Teamに所属するKodie Shaneといった若手MCに囲まれ、以下のようにラップしている。
I ain’t sorry for the way I came into this ring
Enter the Dragon, Bruce Lee[’s] how I’m kicking this thing
Check the name; it’s Ali, never miss when I swing
Anything I spit acquaint, stick with the stickiest stings
(こんなふうにリングに入ったのを悪く思っちゃいないぜ
燃えよドラゴン、ブルース・リーみたいにこのヴァースを蹴る
名前を見な、俺はアリ、俺が揺れるのを見逃すな
俺が吐く言葉は全部くっつく、ベタベタした針で刺すんだ)
「俺が吐く言葉は全部くっつく」というその言葉どおり、上に記した4行は同じ「格闘技」というテーマで関連している。なお、Aliはこのヴァース後段で跪き、国歌斉唱時に同じく跪いたコリン・キャパニックにリスペクトを示している。
最後にマイアミ出身の若手ラッパー4人が一堂に会したサイファーにおけるZoey Dollazのヴァースを紹介しよう。彼はまず以下のような言葉遊びでヴァースを始める。
I’m ‘bout to hit this beat raw, somebody get a Plan B
(このビートでありのままにラップするから、誰かプランBを持ってこい)
“raw”には「生の」以外に「剥き出しの」といった意味があり、“hit this beat raw”では後者の意味で用いられているが、後に前者の意味を持たせ、「プランB(避妊用のピル)を持ってこい」というリリックにつなげている。
My clip a ladder, I make them bullets go climb up your cheeks
It‘s never about how you fall, it’s always about the hand that catches ya
You can catch 3 to your head like you Chance The Rapper
(俺の銃弾はラダー、俺はそいつらにお前の頬を登らせる
お前がどう倒れるかじゃない、問題はお前が誰の手で倒れるかだ
お前はChance The Rapperみたいに3を頭に受けるかもな)
“ladder”は「(梯子状に連なった)銃弾」のことであり、これをZoeyは文字どおり梯子に喩え、その銃弾が「お前の頬を登る」としている。さらに、相手はChance The Rapperが被るキャップのように「3」、つまり3発の銃弾を受けることになるという。なお、このサイファーは、多くのラッパーをシャウトアウトするBall Greezy、特徴的なフロウが耳を離れないSki Mask The Slump God、そして正統派にラップが上手いDenzel Curryと、四者四様のヴァースを楽しむことができ、筆者のフェイヴァリットである。
奧田翔(おくだ・しょう)
1989年3月2日宮城県仙台市出身。会社員。ヒップホップを聴き始めたきっかけはキックボクシングのジムでかかっていた音楽。
https://twitter.com/vegashokuda