今NBAではゴールデンステイト・ウォーリアーズがクリーブランド・キャバリアーズとNBAでのナンバー1の座を賭けて熱戦を繰り広げている。その最中ウォーリアーズの本拠地オークランド、つまりベイエリアでヒップホップがかなり勢力的な動きをしている。ベイエリアやその周辺の地域を盛り上げている3組のアーティストに、スポットを当てたい。
その前に近年のベイエリアが生んだムーブメントを簡単に振り返っておきたい。
やはり紹介しなければいけないのは2000年代に流行したHyphyであろう。今年40歳を迎えるKeak da sneakが作ったとされる造語でHyperactive(異常に活発なという意)からきている。脳天からつま先まで響き渡る低音に加え体を今すぐに揺らしたくなるような音が特徴だ(伝わりにくかったかもしれない)。一度聴いたらイメージしやすいだろう。
2003年からE-40が解説したベイエリアに注目したラジオE-Feezy RadioやThe Federationの"Hyphy"のヒット、そしてDJ Shadowによるコンピレーション『The Hyphy Movement』などから幅を広げ世界規模となったのである。
またサウンドに類似点が多いことからもLil jonのクランクと並べられて語られることも多く、そういった互換性は多い。現にベイエリアの新人アーティストSOB x RBE(後に紹介する)がLil jon の曲をサンプリングしていることからも明らかである。
Nef the Pharaoh
4月27日にリリースした自身のミックステープ『The Chang Project』。西海岸のアーティストを多くフューチャーし、その完成度の高さから話題を呼んでいるNef the pharaohだ。ドレッドの何本かに黄色、オレンジ、青、緑などを着色したスタイルで個性が強くSoundcloudなどでは絶大な人気を誇っている。ややかすれた声がクセになり一度ハマったら病み付きになってしまうだろう。音も落ち着いたビートで西海岸を想起させる。2つがマッチしたこのミックステープは非常に洗練されている、ぜひミックステープを通して聞いていただきたい。Ty Dolla $ign なども参加している。
彼が有名になったきっかけはベイエリアの重鎮E-40のフックアップ。E-40自身のレーベルであるSick Wid It Recordsと契約を結んでからと言うもの、SNS上でNef the pharaohのレペゼンを毎日のようにしてくれている。
最近の参加曲で注目したいのはSnoop doggの新アルバムに収録されたToss Itで、E-40と並び西海岸の大御所であるToo $hortとともにフィーチャリングされており確実にNef the pharaohには今追い風が吹いている。バースの存在感も素晴らしい。
またXXLのインタビューで比較されるアーティストの一人にMac dre(出身が同じ)と比べられるのをあまりよく思ってないようだ。さらにラッパーになっていなかったら?と質問を受け、「先生になっていたと思う、学ぶことが好きなんだ。そして人に知識を与えることも好きだ。」と答えていた。私はこの受け答えが好きだ。学ぶことを恐れない彼は必ずや人気を得られるだろう。彼のミックステープは以下から聞くことができる。
OMB Peezy
OMB Peezyは今年300 Entertainmentと契約を結んだばかりの期待の新星である。出身地はベイエリアではなくアメリカのアラバマ出身で12歳の頃に母と一緒にサクラメントに移り住んだらしい。サウス地方のサウンドとベイエリアのサウンドでミックスされた独自の音楽が注目を浴びている。Nef the pharaohとともにE-40から猛プッシュを受けていて(NefがE-40と一緒にいるときに、Peezyのスマッシュヒット"Lay Down"を聴き気に入り、すぐE-40につながったそうだ)Instagramでは2人で写真をとっている姿などが上げられている。
2 talented Good brothers @nefthepharaoh @omb_peezy #sickwiditrecords
E40 The Counselorさん(@e40)がシェアした投稿 -
またOMB PeezyのPVに客演でもないのにNef the pharaohが出演することもあり、彼らの中の良さが伺える。
Peezyが注目されるきっかけは先ほどもあげた"Lay Down"のスマッシュヒットがある。ヒップホップライターのnosは同曲のリリックを2017年のベストと絶賛している。
Pigeons&Planesのインタビューによると、今後コラボしてみたいラッパーについてTee Glizzley、NBA Youngboy、Kodak Blackと答えている。
またOMBについては「Only The Brother」の略だと語り、今のリラックスしてスタジオ入りできる状況を端的に「満足している」と述べている点から考察するに、現在にかなり満足しているようだ。Only The Brotherからホーミーを大事にする精神が汲み取れるしあくまで現在はそのラインをクリアしているのだろう。それゆえ自身と同じようなリアルを生きているラッパーに惹かれたと予想できる。ちなみにTee Glizzleyとは既に対面を果たしている画像がインスタグラム上で公開されておりコラボは現実的であるようだ。
We bringin real rap back ???✅ @tee_grizzley ain't it a blessing ?
TOP SHOTTA MOBILE.ALABAMAさん(@omb_peezy)がシェアした投稿 -
SOB x RBE
この個性の強いヒップホップ集団をご存知だろうか。メンバーは4人で構成されていてリーダーで独特なけだるそうなラップの持ち主Slimmy B、メロウパートもこなし多数の客演もこなすYhung TO(彼はあまりラッパーという枠に囚われたくないようである)、寡黙でインタビューなどでもほとんどしゃべらないがマイクを持てば人が変わり、攻撃的なラップをするDaBoii、ハイトーンなラップでグループに多様性をもたらすLul G。このバランスのよさがメンバーを刺激し合い”Anti”は再生回数が伸び続け1000万回再生まであと少しのところまで来ている。この記事の最初で少し述べたがAntiはLil Jon & The East Side BoyzのWho you litをサンプリングしていてメロディアスなビートの中にHyphyを感じられると思う。(この曲では前半のパートをSlimmy Bがラップし、後半をYhung TOがメロウパートでつないでいる)
彼らのキャリアを押し上げる出来事の一つに地元Vallejoの先輩であるSage The Geminiのツアーに呼ばれたのが挙げられる。
4人で盛り上げるステージは迫力がありこれでファンも増えたに違いない。またこのステージで興味深かったのが、Slimmy BとYhung TOはVallejo出身のMac dreの服を着ていて敬意を示すと同時にVallejoという土地への愛着を表している。このVallejoという地区について少し補足をすると、カリフォルニアが注目するほどの治安の悪いところなのである。カリフォルニアの平均と比べVallejoは犯罪率が1.6倍、レイプが2.5倍、殺人率にいたっては3倍以上だ。カリフォルニア州の危険な都市ランキングで不名誉ながら4位にランクインしているところからも顕著である。
そんな地域で育った彼らだからこそ曲に偽りがなくすべてリアルを物語っている。ヒップホップにオーセンティシティを求める声にしっかりと答えている点もまた人気が出た理由の一つだろう。
そんな彼らのアルバムは以下のリンクから聴くことができる。(Yoshito Takahashi)