ヒットソングのひろがりかたはこれまでは例えば映画やドラマの主題歌などのタイアップであるとか、ラジオでのパワープレイがきっかけだったり、マスメディアに取り上げられることが必要条件だった。しかし以前よりマスメディアの影響力も弱まり、様々なメディアが登場してきている今ではヒットチューンの出来上がり方も多様化してきている。
「when you bout to leave the club and hear offset say "say know…"」というミームを使ってヒットしたMigosの"Bad&Boujee"。
それに対しRae Sremmurdの"Black Beatles"は#マネキンチャレンジで使用され、大学生からミュージシャン、ヒラリー・クリントンまでSNSに投稿し、Billboardシングルチャート1位を獲得した。今はまだ少ないものの、今後こういった新しいヒットチューンのあり方が自然になっていくのは間違い無いだろう。
MigosやRae Sremmurdの場合は、そのプロモーションに一役買ったのがTwitter有名人であったり、ファッションブランドであり、音楽業界の内部ではなかったように、既存のプロモーションの枠を超えた新しい方法で、今のヒットチューンは作られつつあるのだ。
その新たなプロモーションの担い手として今注目されているのが、ダンサーだ。
アトランタのSheLovesMeechieことMeechieと、TheRealYvngQuanとして知られるToosiは新しいダンサーの代表格といっていいだろう。挙げた腕をUの字にし、他方の腕を下ろして、Uの字にし、最後に"yahh"と掛け声で終わるダンス「Hit Dem Folks」を広めた、この2人はインターネットで知り合い、彼らが好きな楽曲の歌詞にあわせたジェスチャーを取り込んだダンスムービーをYoutubeやInstagramにアップし、注目を集めるようになった。
Silentóの"Watch Me (Whip/Nae Nae)"が流行った2015年に彼らは注目を集め始めた。彼らは「Hit Dem Folks」の動きをアップデートしたビデオを投稿するようになった。彼らのダンスは本流の「Hit Dem Folks」の動きとは違うため、批判されることもあるというが、それは全く意に介してないとFaderのインタビューで語っている。その理由は彼らにはダンスでその曲が持つストーリーを表現したいという意思があるためだ。それぞれの曲のリリックにあわせ、ユーモラスな動きを発明する2人のダンスは受け、一躍人気ユニットになった。
彼らのムービーはロケーションや設定が凝っているものも多く、Drakeの自宅の裏庭で踊っているものや、DJ Escoのシングル"Too Much Sauce"ではご本人が登場するなど、アーティストも彼らの力を借りるケースも多くなっている。
またFutureのツアーに帯同したり、最近でもMetro BoominがBoiler Roomで行ったDJセットでゲストダンサーとして登場もしている。Metro Boominは彼らをスタジオに呼び、ビートを聴かせ彼らが反応した曲はヒットすると考えるくらい信用しているようだ。実際彼らが踊った曲は前述の"Too Much Sauce"や21 Savageの"X"など、大きなプロモーションはされていなかったにもかかわらず、徐々に広まっていきヒットしたという実績もあり、トレンドセッターとしても間違いない力を発揮している。
MeechieとToosi以外にも新しいダンサーの形として注目されているのが兄弟ユニットでマスクが特徴的なAyo & Teoだ。自室などで踊ったビデオを投稿し、YoutubeやInstagramなどにアップしていた2人はTHE REVERSEという動きを発明、その動きを使用し"Nae Nae"を踊ったビデオはなんとInstagram上で1億5000万回以上再生された。
その後2人はダンス動画をアップしつつも、新しい展開をスタート。なんとアーティストとして曲をリリースし始めたのだ。
MeechieとTooshiと同じくビートに対するセンスは秀でている2人が、今年リリースしたセカンド・シングル"Rolex"はYoutubeで1000万回以上の再生回数となっており、ヒップホップチャートの上位に進出している。Instagramで#rolexchallengeと検索するとこの曲で、踊っている動画を大量に発見することができ、ダンスの広まり方の大きさを実感することができる。
他にもB Nard、Retro Spectro、Casey LawrenceによるダンスクルーLean Squadなども人気がある。彼らは主にインスタグラムやVine、Youtubeにムービーを投稿し、Mixtapeもリリースしている。旧譜や新譜をバックに流行の振り付けも取り入れたダンスムービーも投稿しているが、ギャグの要素が強く、自作のコントなども投稿している。最近では、Lil Yachty"1 Night"やGoldlink"Fall In Love ft.Ciscero"のMVに出演している。
このように新世代のダンサーたちは、そのユニークなパフォーマンス力で、インディペンデントのまま大きな影響力を持ち、アーティストとの共演を果たしたり自身もアーティストになっている。ダンスのシーンが巨大なアメリカのヒップホップカルチャーを支え続けているのは間違いないだろう。