Keith Apeによる”It G Ma”がリリースされた2015年1月1日以降、アジアのラッパーたちへの注目は年を追うごとに大きくなってきている。発端である”It G Ma”のMVは3500万回再生を誇り、A$AP FergやWaka Flocka Flameが参加したリミックスでも話題を呼んだ。
アジア勢躍進の立役者には、Keith ApeやKOHH、Rich Chiggaだけでなく、再三FNMNLでも取り上げてきた88risingの存在がある。
メディアプラットフォーム88risingは、Keith ApeやRich ChiggaのMVの公開から、USのメインストリームで活躍するラッパーに彼らの動画を見せる企画まで、アジアとUSのヒップホップシーンの橋渡しとなるような動きを見せている(実際、”Dat $tick”はRich Chiggaを面白がったGhostface Killahらが参加したリミックスも作られた)。88risingはKeith ApeやDumbfoundead、Rich Chiggaのマネジメントを行う会社CXSHXNLYの代表Sean Miyashiroが運営している。
Miyashiroは「カルチャーが移動するとき、そのカルチャーというものは自然と発展していくものだ。そして東洋と西洋は互いに大きく文化的に影響をし合っていて、クリエイティブなことを表現するのにもはや国境はない。カルチャーは海を越えて、それが歓迎される場所に自然と動いていき、そこでの関心や興味が情熱に火をつけ、それが次なる才能を刺激するんだ」と以前話しており、88risingをその交流のための場所として、新たな才能を次々に発掘していっている。
88risingがいま最もプッシュしているのが、中国四川省の成都(せいと/チャンドゥ)出身のグループHigher Brothersである。马思唯(MaSiWei)、丁震(DZ)、杨俊逸(Psy.P)、谢宇杰(Melo)の4人はトラップ直系の重心の低いビート上を、ユーモラスで軽い足取りのラップで乗りこなしてみせる。
藤子不二雄作品に出てきそうなビジュアルはズッコケ感を漂わせつつ、ハード目な演出が馴染む謎の説得力を持っている。
オリエンタルな響きのワンループの上でのマイクリレーは、彼らのオーセンティックなスキルの高さも感じさせる。
現在Higher Brothersは88risingによってポストされる一連の楽曲群をOver The Wallと銘打ったプロジェクトとして展開している。彼らは中国における情報統制の中で国外の音楽に触れることの難しさとそれを越えていこうとする意志を語っているが、そうした状況下で現在進行形のUSヒップホップシーンに勝負していけるだけの実力を備えていることは特筆に値するし、むしろそうしたUSとの距離感によって、彼らのUSとアジアのハイブリッドなバランス感覚が培われたのかもしれない。
一方でUSのHipHopリスナーからは彼らをただのアメリカ南部シーンのモノマネだと批判する声も上がっている。これは、Keith Apeの”It G Ma”がアトランタのラッパーOG Macoの”U Guessed It”との類似性をリスナーから指摘され、OG MacoがTwitter上で不満を漏らした時の構図と似ている。
ただ結果的にKeith ApeとOG Macoが和解し、先述の”It G Ma Remix (feat. A$AP Ferg, Father, Waka Flocka Flame & Dumbfoundead)”でUSのシーンとコミットすることができたように、Higher Brothersも徐々に受け入れられていくだろう。ヒップホップシーンは全米各地のラッパー同士で互いに影響を与え合ってトレンドを形作ってきたが、そこに各国のラッパーが参入していくのが自然な時代に少しづつ変わりつつある。
すでに、Higher Brothersは2017年初頭に”Black Cab EP”をリリースするとアナウンスしている。彼らを始めアジア勢の挑戦は、ヒップホップ史上に刻まれるムーブメントへと成長しようとしている。