国内外のアート・フェスティバルと連携し、東京を舞台に世界と日本を紡ぐアートのプラットフォームとして活動している「AACTOKYO (アークトーキョー: Advanced Art Conference Tokyo)」。彼らが手掛けるプロジェクトの第1弾として、JEFF MILLSによるシネミックス最新作『THE TRIP』の日本プレミア上映会が、2016/11/18(金)東京・築地の浜離宮朝日ホールで開催された。
映像、音楽、そして宇宙――。テクノ・ゴッドJEFF MILLSが追求する新たな表現のかたちとは?イベントの様子についてレポートする。
■サウンドと映像のライブ・ミックス 『THE TRIP』
20年以上にわたり実験的でコンセプチュアルなサウンドを創造し、テクノ界の頂点に君臨するJEFF MILLS。自身の音楽を“サイエンス・フィクション・ミュージック”と称し、宇宙への深い造詣をベースに、これまでに数多くの作品を発表し続けている。2000年からは新たな表現スタイルとして、サウンドと映像をライブ・ミックスする「シネミックス(映像体験作品)」にも取り組んでおり、『THE TRIP』はその最新作にあたる。
ストーリーは「住みづらくなってしまった地球から、新しい世界を探すために地球より遠く離れた場所を開拓していく」というもの。かねてからSF好きを公言するJEFFらしいテーマであるとともに、あたかも人類の未来を暗示するかのようなメッセージを感じ取ることもできる設定だ。今回の上映は日本初となり、構成と演出はJEFF本人が、そして映像共同演出は光と映像を駆使した大規模なアート・インスタレーションに定評のある新進気鋭の映像集団Cosmic Labが担当している。
■ミニマルに展開していく圧巻のパフォーマンス
上映会では冒頭、宇宙服を思わせるシルバーのつなぎを身に纏ったJEFFが登場。舞台中央に設置されたブースは宇宙船のコックピットさながらで、そこにステージ背面のスクリーンと向き合うように立つと、静かにライブ・ミックスがスタートした。
スクリーンには、1920~70年代のオールドSFムービー60作品からサンプリングされたさまざまなシーンが、反復的に映し出されていく。同じ場面や動きを繰り返しながらシームレスに物語が展開していく様子は、あたかも彼の代名詞であるミニマル的手法と同様、じわじわと湧き上がる深い高揚感を観る者にもたらしていく。また、即興的に奏でられる音楽は、ダイナミックなオーケストラサウンドから繊細なピアノリフ、スリリングな電子音楽までと、変幻自在にかたちを変えて空間を丸ごと支配。あらゆるサウンドを取り込んで描かれるサウンドスケープは、無限の拡がりをもって進化する「宇宙」そのものだ。
物語後半には光の演出も加わり、4:3のスクリーンから飛び出す驚きのパフォーマンスがあるなど、文字通り枠に収まらないアートの可能性を表現。約90分にわたる上映は、会場に響きわたる喝采とともに幕を下ろした。
■「今回の作品を通じて、人間の進化を表現したかった」
上映会終了後に行われたアフタースピーチでJEFFは、「今回の作品は、人間が地球から宇宙へと飛び出していく、その旅を表現したコラージュ映像作品です。人間の進化を表現しようと思って作りました。これまで手掛けてきたどの作品とも違うスタイルに挑戦しましたが、たくさんの人に見てもらうことができてとてもうれしいです」と、この日の喜びを語った。
上映会後に行われたアフターパーティーも大盛況のうちに終了し、2017年には自身初となるクラシック・オーケストラのために書き下ろしたという新アルバム『Planets』の発売も控えているJEFF MILLS。新たな表現にチャレンジを続ける彼の旅は、まだまだ終わらない。(Yuuki Yamane)