FNMNL (フェノメナル)

UK発のラップミュージック、グライムの新時代を切り開く3人のMCを紹介する

SkeptaやStormzyの世界的なヒットで再び世界的な認知を得たロンドン発のラップミュージック、グライム。2000年代にはWiley、Dizzee Rascal、Kanoがヒットを飛ばし一時代を築いた。それから時は経ち、2016年も当時の彼らと同じ若い世代がシーンを賑わせている。

 

2000年代後半、グライム冬の時代とも言われていたが、2010年代に入りインターネットラジオ局が台頭し、グライムMCの新時代を後押ししている。UKガラージやグライムにおいて中心的な役割を果たしてきたラジオ局のRinse FMに加え、Radar RadioやMode FM、NTS Radioなどのインターネットラジオ局が、多くの若手MCにチャンスを与え、MCたちは番組内でスキルを披露し、切磋琢磨している。このグライム新世代を代表する3名のMCを紹介する。

文: 米澤慎太朗 (DJ Sinta)

南ロンドン・ルイシャムの雄: Novelist

ロンドン南部のルイシャムに生まれたNovelistは、2014年にリリースされたMumdanceとのコラボレーション”Take Time” でブレイクスルーした。ストリートや自分の周りの人々を、一歩引いた視点でラップする彼のMCはとてもユニークだ。NovelistがMumdanceとコラボレーションした“1Sec”の最初の4小節は、彼の視点をよく示している。

フローでかませてくれ
同時にストリートについても喋らせてくれ
多くのやつが貧乏でお金を欲しがっている
ほとんどのやつらが郵便番号をレペゼンしたがるけど
どうして俺たちが郵便番号が好きなのか分からない

(グライムには郵便番号で自分の生まれ育ったエリアをレペゼンする文化がある)

Let me kill with flows
At the same time let me chat about road
Bare man are broke & wanna get dough
Most of the mandem rep the postcode
But I don’t know why we like the postcode

2016年NovelistはBaauerや Chase & Statusなどメインストリームのアーティストにフィーチャリングされ、グライムシーン以外の、よりポップな音楽ファンの耳に触れる機会も多い。その一方で、自身のオリジナル曲"Tax the MPs"(国会議員に課税しろ) 、"Street Policitian" (ストリートの政治家) など、腐敗したキャメロン政権や警察に対して明確な態度を打ち出した。

いつもポリスはクソだって思ってるぜ
あいつらは俺たちのこと考えちゃいねぇ
誰が犯罪者?俺たちかあいつらか?
あいつらは俺らが嫌い、俺らも我慢ならねぇ

Yo, always thinking fuck these feds
They don't give a damn about the mandem
Who's criminals? Us or them?
They hate us and we can't stand them

MCとしてだけでなくNovelistはトラックも自作するプロデューサーとしても活躍。彼が16才の時にリリースした”Sniper”は808のカウベルが耳に残るインストゥルメンタル・トラック。

今年に入ると地元のMCやプロデューサーたちと一緒にグライムよりさらにアップテンポなサブジャンル”Ruff Sound”を提唱し、MCとトラックメイキングの両面から音楽スタイルの進化を試みている。


photo credit: CARYS HUWS for FACT

美声とテクニックを持つAJ Tracey

Novelistと並んで存在感のあるMCがAJ Traceyだ。トッテナム出身、現在は西ロンドンに住むMCで、4枚のEP『The Front』『Alex Moran』
『Stocking Filler』『Left Back』をリリース。力強い声、ライミングの巧みさでスタイルを確立した。

ロンドンのストリートの不穏さを匂わせるLast JapanのトラックにAJ Traceyのスキルが光る“Ascend”や、2stepガラージのレジェンド MJ Coleとのコラボレーション“The Rumble”は彼のシリアスなラップをより引き立たせている。ZXPH XLLXS(Dot Rotten)プロデュースのトラックを使用した"Naila"は遊戯王から引用したフックがキャッチーなフロアアンセムだ。

リディムの上で爆発する俺はハイパー
リディムの上にキッチリ乗っかるまるでスナイパー
速いラップに、お前は追いつけない (Dodge)、バイパー(Viper)みたいには。
意味がわかるか?そう、Dodge like Viper (Dodge Viper(アメリカのダッジ社が販売するスポーツカーの一つ)

Gassed on the riddim, I’m hyper
Riding the riddim on point like sniper
Sharp bars that you can’t dodge like viper
Get it? Can’t Dodge like Viper

AJ Traceyが「I said」と言って1拍深呼吸を置くと、AJ Traceyのフックを合唱して、フロアはとんでもないことになる。

“I said… Don't Pretend To Miss The Drop Like Me If You See Somebody Do It Shout AJT Cause I Fathered The Flow, Fathered The Stylee ”

「言っただろ、俺みたいにドロップ(小節の一番始め)を逃そうとするなって、もし誰かそうやってるヤツを見たら、AJ Traceyにシャウトしろ、俺が作ったフロー、俺が作ったスタイルだ」

ラジオから彼のラップが聞こえてこない日はない Jammz

Jammz @jammzthemyth at RADAR RADIO @radarradioldn, 2015 by Jun Yokoyama @yokoching

A photo posted by Jun Yokoyama (@yokoching) on

イースト・ロンドン出身のJammzは、ハードとポップなフローを変幻自在に操り、2時間のラジオセット飽きさせない。思わず口ずさみたくなるフックを作ることに長けている。

Ginuwine feat. Aaliyah のR&Bチューン”Final Warning”を再構築したJammzの同名曲は昨年、シーンの注目を集めた。

今年もEP “Underdog Season Vol.1” をリリースする傍ら、トラックメイカーとしても300枚限定のレコード”Keep It Simple/The World”をソールド・アウトさせるなど、インディペンデントな制作を続けている。

This is London living, London Life,
And everyting's moving quick, but I love that, that's what London's like
You might see me about in east with my hat low, Jammz is a London guy
Rolling around the bits but I ain't in rush, I'm moving on London time

これがロンドン・リビング、ロンドン・ライフ
全てが速く流れる、それが好きなのさそれがロンドンらしさ
ハットの俺をイーストで見るだろう、俺はロンドン・ガイ
軽く流しているけど慌てちゃいない、俺はロンドン・タイムで動いてる

もちろんグライムシーンにはSkepta、JME、Stormy、Wileyを擁するBoy Better Knowをはじめとする多くの才能あるMCがシーンを賑わせているが、今日紹介した3人がグライムシーンの中心にいるのは間違いない。

文: 米澤慎太朗 (DJ Sinta)

グライムプロデューサーデュオ「Double Clapperz」のメンバーとして都内を中心として活動中。この夏はソウル、ロンドンの現場で日本発のグライムサウンドを届けるなどグローバルな動きを見せている。

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