8/11に新木場STUDIO COASTを舞台にしたイベントcero Presents 『Traffic』が開催された。主催のceroをはじめ、クレイジーケンバンド、OMSB & Hi’Spec、ランタンパレード、Seihoと強い個性をもったアーティストがメインフロアのライブアクトとして顔を揃えた。そしてサブフロアでもXTALやDorian、STUTSがライブをおこない、MUROやMOODMAN、COMPUMAなどの凄腕DJがプレイ。
まさにceroの髙城晶平が開催前に発表していたコメントのように「クロスオーヴァーな、曖昧な音楽や感覚」を自由に楽しめるイベントだった、1日を写真と共に振り返っていこう。
写真 : 横山純 取材・構成 : 和田哲郎
気持ちのいい夏晴れとなった8/11、新木場STUDIO COASTの会場入りすると、バーステージで心地のいいブレイクビーツをSTUTSがプレイしていた。会場はメインステージのライブが始まる前にも関わらず、すでに満員に近い状態。今日のイベントに対する来場者の期待感が表れている。
クレイジーケンバンド
定刻きっかりに、オープニングアクトのクレイジーケンバンドのライブがスタート。オープニングチューンを経て、いきなり"タイガー&ドラゴン"を披露し、フロアの空気を一気にもっていく。その後もジャジーな"あるレーサーの死"や夏日にぴったりな爽快なポップチューン"タオル"など、バンドとしての成熟度をみせつける。ファンキーでエレガントさもある大人の余裕とそれぞれのメンバーのソロを織り交ぜつつの遊び心があるステージングはさすがだ。
ボーカルの横山剣はMCで「ceroのファンでCDは全部もってるから、今日呼んでもらってうれしい」と話し、横山剣デビュー35周年である今年リリースされたアニバーサリー・アルバム『香港的士- Hong Kong Taxi -』からタイトル曲"香港的士"をプレイ。最後にムーディーな"ガールフレンド"で50分間のステージを華麗に締めくくった。
Dorian ~ Seiho
クレイジーケンバンドのライブが終わるとDorianがバーステージでライブを開始。ドライブするグルーヴとパワフルだけど抜けのいいボトムのサウンドがとても心地よく午後の新木場を満たす。この日のバーステージには、終始程よいグルーヴがキープされていて、「このバーステージに出演するメンツだけでもパーティーに遊びに行きたい」と思わせるほど、すてきなメンバーが「Traffic」の脇を固めていた。
続いてのメインフロアのアクトはSeiho。アルバム『Collapse』のリリースパーティーで初お披露目となった、キーボードにKan Sano、ドラムに松下マサナオを迎えたバンドセットでの登場。エレクトロニック・ミュージックのアーティストが生楽器のメンバーを加えたライブをする場合、自身のサウンドを補完する役割になっているだけの場合も多いのだが、Seihoはバンドメンバーと緊張感あるセッションを行いつつ、自身の曲を壊しては新しい推進力を加えていた。Seihoらはそのスリリングさを楽しんでいるかのようなパフォーマンスが印象的だった。聞きなれていたはずの代表曲"Plastic"の不穏なまでのダイナミックさや、ジャズ的なアプローチがとられた楽曲まで、斬新なアプローチに挑み続けたライブとなった。そして曲間の和やかなMCで笑いをしっかりとり、Seihoは多彩な顔を見せた。
恒例となっている花瓶に注がれた牛乳を飲むパフォーマンスも。ライブ中、牛乳の平然と置かれていた生け花の異物感も、それらはSeihoがバンド・セットで試みしようとしているアプローチと同期して見えた。
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COMPUMA ~ ランタンパレード
その後バーステージではCOMPUMAのDJタイム。ダビーでフラットなハウスやディスコでメインフロアの熱気をうまくクールダウンさせ、ダンスモードにスムースに移行できるようなプレイだった。
会場の外ではceroの髙城晶平がスタッフを務める阿佐ヶ谷の「roji」や「えるえふる」がフードブースを出店。両店舗のフードはすぐ完売になるなど、来場者はバーステージから流れる音を楽しみつつ、思い思いにリラックスした時間を過ごしていた。
そうこうしているうちにメインステージでは清水民尋によるソロユニットランタンパレードのライブがスタートしていた。曲間のMCも最低限に小気味いいピッチで清涼感のある演奏を繰り広げていく。清水民尋の抑制がききつつも、かすかに感情がもれてくるようなボーカルとレイドバックしたサウンドのバランスが絶妙。
"時のかおり"などの名曲を披露し、ラストの"甲州街道はもう夏なのさ"では演者のテンションは変わらぬまま、フロアはヒートアップ。夏の休日を慈しむような晴れ晴れとしたパーティー空間が出現したかのようだった。
JxJx ~ XTAL ~ OMSB & Hi’Spec
YOUR SONG IS GOODのJxJxによる祝祭感のあるディスコDJのあと、バーステージではXTALのライブセットが。新曲なども含めたメロディックなものから硬質なトラックまで、さすがの奥行きのあるセットでフロアのお客さんもガンガン踊っている。
OMSB & Hi’Specが続いてのメインステージでのアクトだ。先ほどのランタンパレードとは対照的な暴れ馬のようなタフなビートと、ビートを抑え込むのではなくより、パワフルに乗りこなしていくOMSBのフロウは圧倒的な包容力で、フロア全体の熱量を否応なしに上げていく。
「いいとこに連れてきてもらった」とOMSB自身も語っていたように、大きなステージをものともせず、お客さんの頭を振らせ続ける。盟友Hi’Specのアルバム『Zama City Making 35』に収録されているフッド・チューン"Goin Back To Zama City"でのダイナミックさ、2ndソロアルバムのタイトル曲でもある"Think Good"を「おれの一番好きな曲、とにかく揺れてくれ」と披露すると、本当にフロア全体が波打つようになっていたのはまだ目に焼き付いている。
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MURO
OMSB & Hi’Specのライブと並行してバーステージではMUROがその膨大なレコードコレクションから厳選されたディスコチューンをプレイ。それまでのエレクトロニックなサウンドともうまく溶け込みつつも、自分のグルーヴに引き寄せていくキングの名にふさわしいプレイだった。
cero
そして『Traffic』の主催ceroがメインステージに立つ。超満員のフロアは髙城晶平、荒内佑、橋本翼の3人とバンドメンバーを暖かく迎え入れた。ceroはリラックスしつつも渾身の演奏で答える。"C.E.R.O."ではじまり、続いての"Yellow Magus"でフロアはこの日最高の盛り上がり。そして続く"Summer Soul"でサプライズゲストが登場。12inchアナログのみでリリースされた同曲のリミックスに参加していたOMSBが「この日のために書いた」という新しいリリックを携えて登場しスペシャル・セッションを披露。そのまま立て続けに"Orphans"を披露し、この日の主役として申し分ない形で序盤をスタートさせる。
MCで髙城晶平は「長丁場のフェス 最後まで踊り明かしましょう」と述べ「出演アーティストは3人が単純に好きな人を集めた。今日はお客さんとして楽しんだけど、次があるならお酒も飲みたいので、トリじゃなくてトップバッターがいい」と本音を語る。
後半ではフジロックでも披露したVIDEOTAPEMUSICとのコラボも。"わたしのすがた"や"Elephant Ghost"でVIDEOTAPEMUSICの映像とともに一気にサイケデリックで陶酔的な世界へ引きずり込んでいく。そしてメンバー紹介を含めた"Contemporary Tokyo Cruise"のあとに"街の報せ"で本編を締めくくった。当然観客はアンコールを要求。アンコールには"FALLIN′"で答えた。高城は「最後にMOODMANのDJで踊って乾杯しましょう」とお客さんをバーステージに誘い、メインステージを去った。
MOODMAN ~ Last
大トリのMOODMANがファンキーなディープハウスからアフロハウスで満員になったバーステージのオーディエンスを踊らせていると、ライブを終えたばかりのceroのメンバーもフロアに登場。お客さんと一緒に記念撮影などに応じながら、MOODMANの作り出す安定感のあるグルーヴを楽しんでいる。そしてceroが所属するレーベルのカクバリズムの角張社長がメンバーをブースに呼び寄せ、マイクを握らせ髙城晶平に乾杯の音頭をとらせ、イベントのテンションは再度最高潮へ。残ったお客さんたちと出演者は一体となって最後まで踊り続け、MINODAとMOODMANの1曲だけのB2Bで『Traffic』は幕を閉じた。
MCでも髙城晶平が言っていたように『Traffic』はまさにceroにしかできない切り込み方をしたイベントだった。この個性の強いアーティストたちはceroの呼びかけだからこそ集まったのだろうし、そのテーマは一見「曖昧」かもしれないが、統一感が生まれていたのだろう。往来での偶然の出会いのように、『Traffic』は新しい発見や出会いを来場者にもたらす、そして曖昧なものへ踏み込んでいくエネルギーに満ちたアーティストが集結した、グッドイベントだった。
そして11月にはceroのワンマンツアーがスタートする。『MODERN STEPS TOUR』と名付けられたこのツアーで新しい場所に踏み込んでいくceroをぜひ発見してほしい。
<Tour Info>
cero 『MODERN STEPS TOUR』
11月3日(祝・木) 宮城 仙台Darwin
11月4日(金) 岩手 盛岡change WAVE
11月6日(日) 北海道 札幌PENNY LANE24
11月17日(木) 京都 磔磔
11月23日(祝・水) 石川 金沢AZ
11月25日(金) 福岡 BEAT STATION
11月27日(日) 広島 CLUB QUATTRO
12月2日(金) 東京 新木場スタジオコースト
12月9日(金) 愛知 名古屋ダイアモンドホール
12月11日(日) 大阪 なんばHATCH