2015年6月26日午前10時、オバマ大統領も「アメリカにとっての勝利」(victory for America)と述べた歴史的瞬間が訪れた。それは、連邦最高裁判所の判決により、米国全州で同性婚を憲法上の権利として認められた瞬間であった。米国では、国民の宗教観も様々であるがゆえに13の州において同性婚は認められていなかったが、今後は全ての州において合法となる。
ファッションや芸術と同様に、ダンスミュージックにおいてもLGBT文化は深く根付いている。1977年にゲイ・ディスコ「ウェアハウス」にて花開いたハウス・ミュージックはその最たる例だろう。いわゆる”マイノリティ”とされるゲイたちが夜な夜な集うシーンにおいてハウス・ミュージックは育まれ、Frankie Kuncklesなど数々の偉人を生み出した。ハウス・ミュージックが生まれたシカゴの地を離れ、時が経てもなお、世界中を魅了し続けている。
ハウスの初期シーンを引き継いでもちろん現在のクラブ・ミュージックやポップスシーンにおいても、LGBTの影響力は未だ強い。それを裏付けるように、LGBTの恋愛をテーマにした歌詞やMVが多く作られている。今回はそんなテーマを描いた印象的なMusic Videoを紹介していこう。
Simian Mobile Disco - "Hustler"
2007年、フジロックフェスティバルにて深夜のレッドマーキー(収容人数5000人)を満員に導いたイギリスのテクノ/エレクトロデュオ、Simian Mobile Disco。このPVでは、輪になった女性たちがまるで機械のように伝言ゲームを行う様子を描いているが、いつの間にかキスや愛撫が織り交ざった過激なものに変化していく。Simianの音とシンクロするようにして展開されるダークな「花園」は、異性のみならず同姓の胸を揺さぶる。
Sam Smith - "Lay Me Down"
第57回グラミー賞では最多4部門を獲得したイギリスのシンガーソングライター、Sam Smith。彼は2014年時点で自らゲイであることをカミングアウト。このPVは彼自身が、絶望の淵に立たされた青年であり、一方で幸福の絶頂にある青年として登場している。
歌詞に含まれる“Can I lay by your side, next to you”という愛の溢れた文言は恋人だけではなく、大切な家族・友人にも伝えられることだろう。
ちなみに、イギリスのチャリティーデイである「レッドノーズデイ」をきっかけにして、John Legendとのコラボを実現。より一層、美しくも切ない1曲に仕上がっている。
Avicii - "Addicted To You"
言わずと知れたスーパースターに成長した若き帝王・Aviciiも、女性同士の恋愛を描いたMVをリリースしている。先に挙げたSimianのMVのような内容とは全く異なり、映画のようなストーリーに目が奪われる。
ソウルフルかつ官能的な女性ボーカルと、切なげなギターの音色、そして予想だにしないラストシーン、全て合わさってこそ、Aviciiの芸術とも言えるだろう。
Jennifer Hudson - "I Still Love You"
同性愛を支持するとともに、家族愛の大切さも忘れないMVとして仕上がった「I Still Love You」。Jennifer Hudsonの力強い歌声に合わせたVogueダンスも、たっぷりと披露されている。
同姓愛・家族愛を示唆する歌詞の内容ではないものの、このMVでは全く異なる意味合いを持って「I Still Love You」と叫ばれているところに注目だ。
Macklemore & Ryan Lewis - "Same Love feat Mary Lambert"
インディ・ヒップホップ・デュオであったはずのMACKLEMORE & RYAN LEWISは、いまや2014年にグラミー賞4部門受賞、また、日本の都市型フェス「SUMMER SONIC 2015」に出演するなど、一躍スターダムを駆け上がるアーティストに成長。ヒップホップとはかけ離れた土地で生まれ育った彼らが実直に語る、同性愛への肯定的な言葉に聴き惚れる。
代表的な5つのMVを紹介したが、他にも沢山のアーティストがLGBTを意識した曲やMVをリリースしており、年を追ってダンス・ミュージックは一層深みを増している。
マイノリティとして虐げられる悲しみや怒りが、音楽という形で爪痕を残していた時代と比べ、いまや共感や支持などのポジティブな思いが音楽に表されている。今後のダンスミュージックがどのようなステージに移り変わっていくのか、LGBTと社会を巡る動向をリンクさせながら予想してみるのも良いかもしれない。