【対談】DJ Mitsu the Beats × 吉田雅史 | 『J・ディラと《ドーナツ》のビート革命』刊行記念トークイベント Vol.1

今日2/10は不世出のビートメイカーJay Dillaの13回目の命日。今なお多くのファンを惹きつけてやまない彼のビートの秘密を探った書籍が『J・ディラと《ドーナツ》のビート革命』だ。Q・ティップ、クエストラヴ、コモンほか盟友たちの証言から、彼のクリエイティビティに迫った同書の刊行を記念したトークイベントが、昨年10/18にJAZZY SPORT SHIMOKITAZAWAで開催された。

登壇者は本書の翻訳者にしてラッパー/ビートメイカー/批評家としても活動する吉田雅史と、J・ディラを音楽人生で最も影響を受けたプロデューサーに挙げるDJ Mitsu the Beats。大ファンであり自身もビートメイカーとして活動する2人だからこそのトピックが飛び出したトークイベントの模様を前後編にわたりFNMNLで公開する。

吉田 - 今日は僕が翻訳を手がけた『J・ディラと《ドーナツ》のビート革命』についてお話を伺うのに誰がいいかと考えたのですが、みなさんも思いつくのはこの人しかいないだろうということで、DJ Mitsu the Beatsさんにお越しいただきました。

Mitsu the Beats - 恐縮です。会場のみなさんと同じようにディラのことは大好きです。その声を代弁して今日はお話しできればと思います。

吉田 - 実はMitsuさんときちんとお会いするのは今日が初めてです。僕は8th wonderというグループで1999年ぐらいから活動していまして、ご一緒する機会はなかったんですが、GAGLEのライブは観ていました。さっきちらっとお話を伺ったら年齢もひとつ違いだったりするので、触れてきたヒップホップの感じも近いのかなと。それでは、まずはディラとの出会いについて伺えますか?

Mitsu the Beats - あまり考えたことなかったんですが、最初はファーサイドのセカンドとか、トライブを意識せず聴いていましたね。ディラのことを認識し始めたのは『Fan-Tas-Tic, Vol.2』。いろんな人から、これヤバいよっていう話が伝わってきて。正式に発売される前に聴いて「なんだこれは?」となったのが98、99年ぐらいです。

吉田 - この本もその辺りの話は詳しいですが、スラム・ヴィレッジの『Fan-Tas-Tic』のヴォリューム……。

Mitsu the Beats - 『2』ですね。

吉田 - これには理由があって、要は正規発売する前にブート盤が出回りすぎて、どのジャケのを持ってる?みたいな感じで、バージョン違いがいくつもありましたよね。

Mitsu the Beats - 自分の持ってるものが正規盤だと思ってたら、誰かにそれブートだよって言われたり、情報が錯綜していた。そんなグダグダしている最中に、実は『Vol.1』もあるということで今度はテープが出てくるじゃないですか。さらにそのテープにはアナログ盤もあって……という感じで、その頃はどれが正規のリリース作品なのかあまりわかっていなかった。

吉田 - 渋谷の宇田川町のレコ屋でも、最初から「これはブートです」とは売ってなくて。そうこうしてる間に「I Don’t Know」とかがちゃんとしたシール付きで出て、これは本物なのかな?みたいな。本の解説では、ディラのキャリアを大まかに4つの時期に分けて書いているんですけど、Mitsuさんと今話していたのは「ディラ流ビートの方程式の確率」と名付けた第1期の、まだ彼がディラではなくジェイ・ディーと呼ばれていた時代です。作品としては、スラム・ヴィレッジのファーストやセカンドが含まれます。Mitsuさんはある時までジェイ・ディーの名前を意識することはなかったということでしたが、スラム・ヴィレッジを聴いて「これジェイ・ディーなんだ、やばい」みたいになった時は、具体的にどこにやられたのでしょうか?

Mitsu the Beats - 言ってしまうと全部なんですけど、しいて挙げるなら、ドラムとベースとフィルターのかかったウワモノですかね。今までのやり方と全然違うけどめちゃめちゃかっこいいし、こんなにスネアはカチっとしていていいんだ、と最初はびっくりしました。その頃は世の中的にピート・ロックとプレミアをみんながこぞって聴いていたと思うんですけど、突如飛び抜けて凄いのが現れたというか。99年の音なのに、今聴いても変わらずかっこいいです。

吉田 - プレミアが使っているのはMPC 60だし、音的にはかなりこもった、ローファイ感があると思うんですね。だから今の曲と混ぜて聴いた時に、これはやっぱりゴールデンエイジのヒップホップだなっていうか、音像がもう今の時代ではない。でもディラはそう言われてみると、確かに今の曲とも完全に混ざる。

Mitsu the Beats - ここ数年ビートシーンも盛り上がっていますけど、そうした楽曲と混ぜても全然違和感ないです。

左 : DJ Mitsu the Beats 右 : 吉田雅史

吉田 - ではここで、スラム・ヴィレッジから1曲選曲をお願いします。

Mitsu the Beats - 自分がビートを作っていて、このプロダクションは凄いなと思ったのは"2U4U"です。

吉田 - キタキター! 何で「キタ」かを言っていいですか? この前TBSラジオさんでディラの話をしたんですけど、その時にスラム・ヴィレッジから1曲かけたのが"2U4U"だったんですよ。やばくないですか、この一致(笑)。この曲はどこにやられましたか?

Mitsu the Beats - やっぱりウワモノのフィルター感というか、そもそもの音使いというか、ネタ使いの仕方と、なんと言ってもドラムの打ち方ですね。

吉田 - クラップを含めたドラムですよね。どのバージョンを聴きましょうか?

Mitsu the Beats - オリジナルにしましょう。バージョンが違うと音も変わってきますか?

吉田 - 『Fantastic, Vol. 2.10』に収録されてる方だとイントロ部分が倍入ってるし、音もクリアで結構違いますね。『Fan-Tas-Tic, Vol.2』の方はノイズが乗っていて、ヴァースの録音も違う。特にT-3はこちらの方が粘っこいフロウだし、音質も全体的にロウなので後者の方が好きですなんですが、前者の方がドラムの打ち方のシーケンスにヴァリエーションがあったりしてどちらも捨てがたい(笑)。ちなみにイントロで少し流れるバージョンがオリジナルで、『Slum Village, Vol.0』に収録されています。とにかくビートの鳴りが素晴らしいですよね、当時まだ新しかったディアンジェロのファーストからオルガンをサンプリングして、フィルター処理をしている。

Mitsu the Beats - 特徴的なのが、ヴァースに入る時に、ずばっと切ったりして一拍目を抜いている。そういうことは誰もやってなかったと思うんです。

吉田 - あー、なるほどね。

Mitsu the Beats - ディラから学んだことは結構多くて、たとえば僕はDJでプレイするということもあり、イントロでフィルインする時は1、2、3、4 というカウントで始めることが多いのですが、ディラは全然それにあってなかったりする。2、3、ドン、みたいな。 本当にDJ 泣かせです。その頭はどうやって入れるんだろう?と悩まされることの多いのがディラでした。

吉田 - それはDJならではの視点ですね。

Mitsu the Beats - わざとずらしてくるというか。

吉田 - たとえばプレミアは「ヌキ」を卓でやってるじゃないですか。サンプラーのシーケンスはワンループで、ミキサー上で各トラックをオン/オフする。ディラの「ヌキ」はシーケンスでプログラムしている感じですよね。

Mitsu the Beats - 結構パソコンも使っていたという話なので、そうかもしれないですね。

吉田 - スラム・ヴィレッジ時代は、実はディラもいろいろ悩みながら機材を試していたようで、一番最初はアンプ・フィドラーのところで触ったSP1200やMPC60から始めたと言っている。自己申告だから本当のところはわからないですけど、いろいろな機材を触ったらしい。

Mitsu the Beats - そもそもアンプ・フィドラーに習っていたのを全然知らなかったのですが、この話はわりと有名なんですか? 本を読んでいて結構衝撃を受けました。

吉田 - ディラは、MPC3000に出会ってからはずっと3000を使っていました。レコーディングにはPro Toolsも導入するし、MPC2000も一応触るんですが、すぐ使わなくなってワジードにあげちゃうっていう。あげちゃうというか、使わずに置いてあったものを譲り受けたらしいんですけど。ところでMitsuさんは最初、MPC2000でしたよね?

Mitsu the Beats - 最初はそうですね。

吉田 - その時って、「出会った感」みたいなものはありましたか?

Mitsu the Beats - 96年に発売された時に広告を見て、これなら何か新しいことができるんじゃないかなと思って買ったのが最初です。

吉田 - 最初に出会って使ったマシンの音質って、キャリアの中でどこか残ることがある気がしていて。自分の美学に関係してくるというか。Mitsuさんの太いんだけど同時にクリーンさもあるサウンドというのは、もしかしたら最初に2000と出会ったことも少し関係してるのかなって。深読みですけど。

Mitsu the Beats - そうですね、音を良くしたいっていう気持ちはずっとありました。でも2000は全然納得いかなかったんですよ。で、新しく出ると同時になぜか小さくなった1000を買って、それも音的に全然駄目で。そのあと3000を手に入れて、通すだけで音が太くなるというか、音質的には独特の味になるのでよかったんですけど、面倒くさいですよね。僕はわりとどんどん作っていきたいタイプなので、3000だとスピードが追い付かなくて、結局通すだけみたいになっちゃった。シーケンサーとかもほとんど使わなくなってしまいました。

吉田 - よく話題になる「SP1200通すだけ問題」みたいな。こんなにでかい箱が部屋にあるのに、右から左に音を通してPCで録音して終わりみたいな使い方になってしまうという。ドラムの素材を、一回SP1200を通してPCに取り込むといった作業をしていると、ほんとこれでいいのかな?みたいな感じになりますよね。

Mitsu the Beats - 僕もSPを含めいろいろ試してみたんですけど、結局PCベースというか、録った音をダイレクトに自分がいいと思う音にできるという点では、やっぱりPro Toolsが一番優れているので、そこに行き着いた感じです。

吉田 - ディラもPro Toolsは使ってますしね。だけど、もし彼が今生きていたらMaschineなんかを使っていたかどうかは気になりますよね。

Mitsu the Beats - 確かにそうですね。

吉田 - ガンガン使い倒してそうな気もするし、でもMPC 3000一本でいってほしいみたいな気もする。ビートメイキングは機材の進化――その時代のサンプラーのスペックで何ができたか――と凄く密接な関係にあるように思います。遡ればドラムマシーンが開発された当時は、それでできることを探ったと。この本にも出てきますが、ラリー・スミスというプロデューサーがラン・DMCの"Sucker MC’s"を打ちこみで作って、ディラはそれを最初に聴いた時に「ドラムのレッスンを受けてるみたいだった」と言っている。彼は最初に影響を受けたプロデューサーとしてラリー・スミスを挙げているんですね。次にマーリー・マール、その次にビート・ロックの名前を挙げています。そこでお聞きしたいのが、ラリー・スミス、マーリー・マール、ピート・ロック、J・ディラという系譜があるとした時に、Mitsuさんだったらどういった並びになりますか? 当然ディラは入ってくるとして。

Mitsu the Beats - 最初はやっぱりピート・ロックでした。自分が好きな曲をピート・ロックが作っていると知り、最初は歌モノからの流れでヘビー・Dなどを聴いて、ラップのかっこよさに気づいたのが"Don’t Curse"。雑貨屋で僕の姉が、BET(ブラック・エンターテインメント・テレビジョン)のテープのブートレッグを買ってきたんです。テープには初期のジェイ・Zが参加してるオリジナル・フレーバーの曲とか、"Don’t Curse"が収録されていて、「ラップって凄いかっこいい」と思ったのを覚えています。

吉田 - "Don’t Curse"のMVを見たら、はまらずにはいられないですよね。クール・G・ラップとケインが共演、さらにQ・ティップとグランド・プーバに、ピート・ロック自身もCLとラップしちゃうという最高のポッセカットで、フロウの違いを楽しめる。カースワードなしというピースフルなヴァイブスがまた最高です。

Mitsu the Beats - それからはそれぞれの作品を聴くことで、あの曲にいたあの人が、こっちではこんなことやってるのか、とかいろいろ気づいていったのですが、その原点がピート・ロックでした。もちろんプレミアも好きでずっと聴いていたので、そのふたりが二大プロデューサーですね。そして次いでジェイ・ディーという感じです。

吉田 - 「ピート・ロック~プレミア問題」というか、別に問題ではないですが(笑)、お前はどっち派なんだ?ということはありますよね。だけどプレミア派の場合、自分のビートメイクにどれだけ彼の影響が出ているかとなると結構難しい。どういうことかと言うと、ピート・ロックやディラからは音楽的な旋律、たとえばベースラインやソウルフルなネタだったり、それから音質の部分ではフィルターのかかったネタやドラムの鳴りだったりという影響を、ある程度自分の中で消化して表現することができると思うんです。でも特にチョップ/フリップ期以降のプレミアの場合は、ビートを組み上げる感性自体を真似するしかないわけだけれど、それは紛れもなく感覚的なものでしかないと思っていて。Mitsuさんのビートには、まずは凄く音楽的なものを追求している側面があると思うんですが、ピート・ロックとディラから影響を受けたというお話を聞いてとても納得しました。でも同時にMitsuさんは、特にラップものだとリズム的にも面白いことをやろうとしているように聴こえます。GAGLEの諸作や『UNIVERSAL FORCE』などのラップものとなる時は、リズム的に今までと違うものに挑戦しようという意識はありましたか?

Mitsu the Beats - そうですね。ただ普段はあまりそういった意識はないです。

吉田 - たとえば鎮座DOPENESSにはこのリズムをぶつけてみよう、とかありませんか? 明らかにほかと違うビートになっている印象を受けます。

Mitsu the Beats - あんまり覚えてないですけど、もしかしたら多少は「この人ならこのビート」という意識があったかな。でもほとんどの場合は、まずはビートありきだったと思います。

吉田 - その話をディラに戻すと、ディラはビートをめちゃくちゃたくさん作ってるじゃないですか。その大量に作ったビート群が亡くなったあともCD3枚組の『The King of Beats』といったシリーズでリリースされている。これは各曲のタイトルが番号になって収録されてるやつです。その番号も0203とか1291といった感じで、1291ってことは1291番目!? 何個あるんだよ!?みたいな(笑)。そういう風に、普段作り貯めたビートを1個ずつミックステープに録音して、それを友達の中で回していた。業界内でも流通していたというか、Q・ティップなんかに渡せば、彼を経由して業界内のラッパーに「これでラップしたい奴はいないか?」みたいな感じで広まっていたみたいです。そうでもしないと、大量にありすぎて管理もできないというか、結局サンプラーの中に眠ったままになってしまう。Mitsuさんはその辺どうでしょうか? 作り貯めたビートはどうしていますか?

Mitsu the Beats - 僕も結構多作な方ではあると思います。ビートを作ってる人はみんなそうだと思うんですけど、1日1曲は最低でも何か作らないと気が済まないというか。どんな夜中になっても、1曲できるまでは倒れそうになりながらも作るみたいな。で、朝起きたら「何この曲? 捨てる」なんてこともしょっちゅうです。そういうのが何百曲とあるんで、ある意味ディラがテープを配ったのと同じだと思うんですけど、僕はそれを救済するつもりで「beats of the month」というコンセプトでバンドキャンプに70~80曲ほどあげている。それも、ただあげるだけではなくて、聴いたビートを欲しいと言ってくれた人には、実際に使ってもらうのも全然ありだと思っています。実際にそういうことも過去にありました。なので、吐き出す場所を探しちゃいますね。依頼だけじゃ全然足りないっていうか。もっともっといい曲があるから出したいなと思っています。

吉田 - それでもアップするということは、一定のクオリティが確保されてるわけじゃないですか。これ聴かれたらマジで死ぬほど恥ずかしい!みたいなのはないですか?(笑)

Mitsu the Beats - 恥ずかしいっていうよりは、16小節しか作ってない曲とかはいっぱいあります。ここから展開させようと思ったまま、やる気がなくなって終わったやつとか、中には出来のいいものもあるんですけど、気分が乗らないと手をつけられない。

吉田 - 細かい話で恐縮なんですが……成功率ってどのくらいですか? 毎日1個ずつ作って何個聴かせられるものなのでしょうか。すいません、僕がビートメイカーとして個人的に聞きたい話みたいになってますが(笑)。

Mitsu the Beats - 週3曲とかは何かしらの形になっています。

吉田 - ヒット率高いなー! 流石ですね。すいません、ディラの話に戻ろうと思います(笑)。

吉田 - では続いて、第2期の話に移りたいと思います。この2000年から2001年にかけては『Welcome 2 Detroit』をリリースし、ソウルクエリアンズの一員としても活躍した時代です。プロダクションに生楽器を導入して、自分でもドラムを叩きつつ、コモンやザ・ルーツ、ディアンジェロなどのアルバムを制作する。この時代のベストを挙げてもらうとなると、『Welcome 2 Detroit』とソウルクエリアンズの活動のどちらが好きかという話になっちゃいますけど、Mitsuさんはいかがでしょうか?

Mitsu the Beats - もちろん両方とも好きなんですけど、インタビューで「人生のトップ10アルバム」を聞かれた時、僕は必ず『Welcome 2 Detroit』を1位にしています。これは揺るぎないです。

吉田 - では、さらにその中から1曲選ぶとしたらどれになりますか? これは悩むなあ(笑)。

Mitsu the Beats - "Think Twice"のインスト版は、もともとドラムの入っていないところにドラムが重なってたり、そういう細かい配慮が好きですね。

吉田 - 別バージョンですからね。

Mitsu the Beats - ザ・ルーツとか、もちろん生楽器でやってる人たちはそれまでもいたと思うんですけど、ディラの場合は、生楽器が本当に生なのか、それともサンプルなのかがわからないギリギリのラインをついてるというか、これはどっちなの?みたいなうまさに特別な能力を感じます。

吉田 - そうなんですよね、めちゃくちゃわかります。

Mitsu the Beats - 自分でも生楽器を取り入れると、やっぱり生っぽくなってしまうのですが、その境界線を楽曲として成立させるすごさを一番感じたのがこのアルバムですね。

吉田 - ステッツァソニックやザ・ルーツは例外としても、やっぱり90年代のMPC60や3000のようなローファイのサンプラーで作るビートに生楽器を入れた瞬間に、当時のヒップホップヘッズからは、ある種の拒否反応に近いぐらい、「コレジャナイ」とか「どうしてそうなった?」みたいな反応がやっぱりあった。ジャングル・ブラザーズのサードアルバム『J Beez Wit the Remedy』が生演奏をフィーチャーして問題作扱いになったりとか。さらにジャズ側からのアプローチも、ジャズミュージシャンがヒップホップのビートの上で生演奏するというやり方に、流行りに便乗しただけの偽物感をリスナーが抱いてしまっていた。US3はセルアウトと見なされたし、マイルスの遺作『Doo Bop』やグレッグ・オズビー、レニー・ホワイト周辺の試みも、評価が高くなかったんですよね。今ロバート・グラスパーらが成立させた両者の蜜月関係とは全然違って、うまくやれる人がいなかった。個人的には、当時の挑戦者たちはヒップホップのサウンドの質感への理解がなかった点が大きかったと思ってるんですが。

Mitsu the Beats - そうですね。なんとなくちょっとダサくなるというか。演奏力とかも関係しているとは思いますが、それが『Welcome 2 Detroit』には全く感じられなくてすごかったですね。生楽器のようだけど、元ネタのレコードをそのままループしているんじゃないかと思ってしまうぐらい調和している。

吉田 - なぜディラは生楽器をこんなにもうまく取り入れられたのか……。ここにはメロディやコードの旋律の問題に加えて、音質も関係してくる。でもひとつ言えるのが、ディラのやり方はヒップホップヘッズにも受け入れられたということ。『Welcome 2 Detroit』で言えば、"B.B.E. (Big Booty Express)"のようなちょっと実験的な曲も含めて、受け入れられていた印象です。何も言わないのと一緒な気もしますが、一言でいえば「センス」ということに尽きるのかもしれない。

Mitsu the Beats - ディラはクエストラブとかにも指示を出してコントロールしていたと聞くので、やっぱり彼のセンスのおかげだったのかもしれませんね。

吉田 - ディラは最初、ニューカマーとしてQ・ティップにフックアップされたけれど、そこからディアンジェロやクエストラブといった、今から思えば錚々たるメンツと仕事をして、コモンのアルバムでも主導権を握ってまとめていたという話もある。実際にはドラマーとして参加しているだけだけれど、全員を指揮しているようなところがあった。だから全然演奏しなくても、そこにいるだけでバンドの演奏を自分色に染めてしまうマイルス・デイヴィスのようでもあり、その演奏を音源としてまとめあげたテオ・マセロのようでもあったんじゃないかと。どんな場面でもどんな編成でも、自分の音像を持っていた人なのかなっていう印象はありますね。

(後編に続く)

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