【クロスレビュー】The Carters 『Everything Is Love』| BeyonceとJay-Z、2人のキャリアから見たThe Carters

アーバンミュージックシーン最大のカップルであるBeyonceとJay-Zが、夫婦ジョイント・ツアー『ORT Ⅱ』開催中に、The Cartersとしてサプライズアルバム『Everything Is Love』をリリースしたのは記憶に新しい。

同作からはルーブル美術館で撮影された"APESHIT"のミュージックビデオも公開されており、『モナリザ』などの作品と共に堂々と立ち振る舞う2人の姿が印象的な内容だった。

ではこの作品は、これまでの2人のキャリアから見て、どのような作品となっているのだろうか。FNMNLではBeyonceサイドを渡辺志保、Jay-Zサイドを池城美菜子とそれぞれのキャリアに造詣が深い書き手によるクロスレビューを掲載する。

渡辺志保

世界でもっとも知名度があり、もっとも稼いでいる夫婦ことCarter夫妻。Beyonceは2016年に『LEMONADE』を、Jay-Zは2017年に『4:44』をリリースし、2018年6月、夫婦でタッグを組んだツアー『ON THE RUN II』を爆走している最中に、本作『EVERYTHING IS LOVE』がシークレット・リリースされた。今年4月に行われた巨大音楽フェス、Coachellaでのステージも話題になったBeyonceだが、『EVERYTHING IS LOVE』では一体どんなBey-losophy(Beyonce哲学、という意味の造語)を展開しているのか、少しばかり紐解いてみたい。

まず、Beyonceと言えば、そのディーヴァ感あふれるアティチュードだ。彼女の威勢の良さは、リード楽曲としても発表された"APESHIT"で確認することが出来る。

Bought him a jet

Shut down Colette

Philippe Patek

Get off my dick

彼にジェット機を買ってあげた

コレット(※2017年末に閉店した、パリの有名セレクト・ショップ)も貸切よ

フィリップ・パテック(※高級腕時計ブランド)も

私のアソコから離れてちょうだい

"APESHIT"より

かつてBeyonceは12年前に発表した"Upgrade U"で「お会計は何でも割りカンで払ってあげるし、(高級時計の)オードマ・ピゲを買ってあげる」と歌っていたのだが、もはやスケールは段違いだ。"APESHIT"には”My body make Jigga go kneel(私のボディには、あのジガもひざまずく)というラインもあり、まるでCarter家の舵はBeyonceが取っているような描写。ちなみに本曲では、Jay-Zによるこんなラインも見られる。

Tell the Grammys fuck that 0-8 shit

グラミーに言ってやれ

あの<0対8>なんてクソだって

"APESHIT"より

アルバム『4:44』が高い評価を得たJay-Z。ご存知の通り、2018年のグラミー賞では、主要3部門を含む8部門にてノミネートを受けたものの、トロフィーは一つも獲得することができなかった。Jay-Zがノミネートされたグラミー賞の各部門は、ほぼ全てBruno MarsとKendrick Lamarによってその冠を奪取されてしまったのだ。このことに対して、表立って発言はしていなかったJay-Zだが、まさかこんな形でリリックに忍ばせるとは意外である…と言うより、やはりJay-Z本人も気にしていたのね、と再認識した次第。Jay-Zは他にも"APESHIT"内で、かねてから噂されていた<スーパーボウルでのハーフタイム・ショウへの出演依頼を断った>というネタにも触れており、こうして(SNS上ではなく)リリック内で自身の思いを綴り、リスナーと世間をぶった切ってくれる様子は昔から変わらないな、とも感じたのだった。

そして、タイトル通りの"BOSS"でのBeyonceも、さすがに歯切れのいいライムを聴かせてくれる。「Tell that bitch I don’t like you」(あのビッチに伝えてよ、あんたのことは嫌いだって)と、かなり思わせぶりなラインを披露しながら次の通りに歌っている。

My great great grandchildren already rich

That’s alotta’ brown children on your Forbes list

Frolicking around the compound on my fortress

すでに玄孫の代までリッチに暮らせる

フォーブスのリストを見れば、ブラウンの肌をした子たちがたくさんいるわ

私が築き上げた要塞の周りで遊んでるのね

"BOSS"より

Carter家の繁栄と資産はすでに二世代先まで約束されたもの。実際に2018年7月に発表された、最新版のフォーブスのリストによると、夫婦二人を合わせた総資産額は100億円以上にも昇るという(さらに、翌年はこの額を更新すると見られている)。資産額のうち、60%強はJay-Zが展開するビジネスに基づく資産だと言われているが、この額は間違いなく音楽業界ではダントツのトップ。昨今のヒップホップ・ブームの事も鑑みると、もう数年経てば、同じフォーブスのリストにも、もっとブラック系のセレブリティの名前がランクインするはずであり、それはもちろんCarter夫妻が築いた軌跡の延長線上にあるものだ。

そしてBeyonceといえば、Jay-Zがニューヨークのブルックリンにその忠誠心を露わにするように、地元であるテキサス州ヒューストンへの愛情を示し続けていることでも知られる。"713"はズバリ、ヒューストンの市外局番。この曲で、なんとBeyonceはDr.DreとSnoop Doggによる名曲"Still D.R.E"の名フックをクオート(引用)しながら、ハスラーやロウライダーに対しても言及。『LEMONADE』でも強調していた、あくまでフッドな雰囲気を忘れないBeyonceを感じ取ることができるのだ。

I’m representin’ for the hustlers all across the world

Still, Still dippin’ in my low lows, girl

Still, I put it down for the 713

And we still got love for the streets

私は世界中のハスラーたちを代表してる

今も、今もローライダーに乗って立ち去るの、ガール

今も、713に根ざしてるわ

今も私たちはストリートを愛してる

"713"より

余談だが、この曲では非常に珍しく、Jay-ZがBeyonceとの馴れ初めについても詳しくラップしている。初デートには自分の友達も帯同させたことなど細かい内容にも触れており、当時からいかにJayがBeyonceにぞっこんだったのか、それもまた、感じ取ることができるのだ…!

そして、もっとも<ポスト『LEMONADE』>らしさを感じるのはこのラインかもしれない。

If I gave two fuck two fucks ‘bout streaming numbers

Would’ve put Lemonade up on Spotify

もし私がストリーミングのセールスなんて少しでも気にしていたら

Spotifyに『LEMONADE』を登録してるわよ

"NICE"より

当初、ケーブルTV局HBOのスペシャル番組として発表された『LEMONADE』。その後、Apple MusicやSpotifyなどの各種ストリーミング・サービスに配信が解禁されるも、徐々に取り下げられていき、現在、そういったサービス上で『LEMONADE』を聴くことができるのはTidalのみだ。いうまでもなく、TidalはJay-Zが所有するサービスでもある。グローバルな展開や会員数から見ても、Apple MusicやSpotifyを無下にすることはアーティストにとって大きな損失になることは間違いない。しかし、Beyonceにとっては、そんなものは取るに足らない数字なのだ。

また、筆者がもっとも仰天したのはBeyonceとJay-Zによる以下のリリックだ。

Move the whole family west

But it’s whatever

In a glass house, still throwing stones

Hova, Beyzus, Watch the throne

だから家族全員で西(ウエスト)へと引っ越した

でもそれはどうでもいいのさ

人を呪わば穴二つ

ホヴァ、ビーザス、王座を見てろよ

"LOVEHAPPINESS"より

まず、「Hova, Beyzus, Watch the throne」の部分。HovaはJay-Zの愛称であり、BeyzusはBeyonce(Beyonce、また彼女の相性はBeyと言う)と神(Jeesus)を掛け合わせた造語だ。そして、「Watch The Throne」と言うフレーズはそのまま、Jay-ZとKanye Westが2011年に発表したコラボアルバムのタイトルと合致する。それに、Kanyeといえば自身を「Yeezus」と呼んでいることでも知られる(その名を冠したアルバムだってあるくらいだ)。このラインを見ると、2011年に相棒としていたKanye Westはすっかりその座をBeyonceにとって代わられたようにも見えるし、その少し前のライン、「Move the whole family west」も、わざわざ「west」というフレーズを用いたのか勘繰りたくなってしまうところ。事実、Carter夫妻はニューヨークからロサンジェルスへと居住地を移している。そして、Jay-ZとKanyeの不仲をめぐるトピックとしては、2016年、Kanyeが『Saint Pablo Tour』の最中に、Jay-ZとBeyonceを揶揄するような発言をし、2018年5月に公開されたCharlamagne Tha Godとのインタヴューにおいても「自分の結婚式にCarter夫妻が来なかったことに傷ついた。家族なのに」と発言している。また、Jay-Z自身、Kanyeとの関係性についてはNetflixのトーク番組『デヴィッド・レターマン: 今日のゲストは大スター』にて「家族みたいなものだから、喧嘩をしても一生仲違いしているというわけではない」との旨を説明している。そこに来て、このラインである。これまでにNasとの壮絶かつ長期にわたるビーフを経てきたJay-Zであるし、現在の彼のポジションを考えるとなおさらこのままKanyeとこじれたまま終わることはないとは思うが、両者のクリエイティヴィティに心酔した身としては、ぜひHovaとBeyzusの間にYeezusも復活させ、また"Lift Off"のような名曲を作って欲しいと願うばかりだ。

『LEMONADE』から『EVERYTHING IS LOVE』の間、Beyonceの人生を大きく変えた出来事といえば、双子の妊娠・出産だろう。インスタグラム上で妊娠を発表し、2017年6月にルミちゃんとサーくんの男女の双子を出産したBeyonce。"LOVEHAPPINESS"でも「Twinning, Blue and Rumi, me and Solo how fitting」(ブルー[長女の名]とルミは双子みたい、私とソロ[Beyonceの実妹、ソランジュ]みたいにそっくりよ)と歌い、同曲ではJay-Zも「 Sir acts just like his dad」(サーはまるでパパみたいに振る舞うのさ)と、息子への愛情を表現している。

また、BeyonceもJay-Zも、これまでに度々長女のブルーの声を自身のアルバム作品に収録しているが(Jay-Zは『4:44』のボーナス・トラックとして、彼女のフリースタイルまで習得していた)、今回も、"BOSS"のアウトロに「ルミとサー、ありがとう。ブルーより愛を込めて」と彼女のメッセージを吹き込んでおり、家族としては最高の形で、このアルバムに意味を持たせている。

さらに、確証はないが、先述した"713"という楽曲に関しても、双子のルミとサーの誕生日は7月13日ということで、Beyonceは地元の市外局番はもちろん、双子の誕生日にも引っ掛けてこのタイトルをつけたのではとも推測されている。

"FRIENDS"でも“I ain’t making no room, I ain’t making no new friends(新しいスペースは作らない、新しい友達なんて作らない)」とBeyonceが歌っている通り、夫婦とごく近しいスタッフで作り上げた本作。現在のヒップホップ・シーンにおいて最も豪奢と言える内容であると同時に、シンプルな夫婦愛、そして家族愛を表現している作品でもある。それぞれのソロ作で、不仲や離婚の危機、配偶者への謝罪から夫婦の再構築を描いた二人は、やはり二人にしか守ることのできない帝国の上に立つことで見事にその座を守り抜いた、というべきか。

"APESHIT"では” Call my girls and put ‘em all on a spaceship, Hang one night with Yoncè I’ll make you famous(マイ・ガールたちを呼んで宇宙船に乗り込むわ、ヨンセ[Beyonceの愛称]と一晩遊んだら、有名になれるわよ)”、”I’m a Martian they wishing they equal(私は火星人、アイツらも私と同じようになりたいと願ってる”とも歌っているBeyonceだが、そろそろ大気圏を突き抜けて、彼女のパワーとフィロソフィーがどこまで届くのが、ファンとして見守りたいところだ。

池城美菜子

6/16、『ORT 2』(On The Run Tour2)のロンドン公演で突如、発表され、その日に発売されたThe Carters名義のジョイント・アルバム『Everything is Love』。「愛だよ、愛」と訳したくなるタイトルの本作が、Beyonce『Lemonade』、Jay-Z『4:44』と続いた「Carter夫妻、危機一発」三部作の締めくくりであるのは周知のこと。『4:44』の続編であるのは間違いないのだけど、果たして本作が引退していた時期を差し引いても20年以上のキャリアがあるJay-Zの15作目かと聞かれると、少し違うかな、と思う。

あ、本稿のお題は、Jay-Z側から解説する『Everything is Love』です。本題に入る前に「Beyonceは大好きだけど、旦那はよく知らないかも」な人たちにどんな人かと解説すると、26才で『Reasonable Doubt(理由ある反抗)』でデビュー以来、Roc-A-Fellaというレーベルを回して自分のキャリアをコントロールし、クロージング・ビジネスも当て、レーベルの親会社だったDef Jamの社長に就任し(この間、RihannaとNe-Yoと契約して売り出した)、お酒やスタジアムに投資し、現在は音楽のストリーミング・サービスTidalを率いている、天才ラッパーだ。

いまの20代以上50才以下のラッパーの大半は、この23年間、Jay-Zの背中を見て育ち、追いかけきたと言っても過言ではないほどの大物。たとえば、ステージで体を少し斜めに後ろに傾け、前に出した片手を左右に振ってラップする姿勢はJay-Zがオリジナル。いまでこそ、型の一つになっているけど、彼以前は両肘を突き出し前のめり姿勢が主流だった。リリックを書き留めないことも有名で、頭の中で組み立て、ヴォーカル・ブースで一気に吐き出すスタイル。要するに、ものすごーく頭がいい。紆余曲折はあっても、基本的に「私、失敗しないんで」な人で、ヒップホップ界のドクターX、大門未知子だと、日本限定の紹介をしておきます。

その彼が、初めて大コケしそうになったのが結婚生活。2002年に結婚したと同時に、Jay-Zの"03  Bonnie & Clyde"、Beyonceの"Crazy in Love"とお互いをフィーチャーした曲を大ヒットさせ、夫婦ビジネスもスタート。00年代のアメリカで、エポック・メイキングな出来事は初の黒人大統領が生まれただけでなく、一番、イケてる夫婦がラッパーとR&B出身のポップ・シンガーだった点だと思う。当時、私はホヴァさん(Jay-Z)のお膝元、ブルックリンに住んでいたから、ちょっぴり過大評価かもしれないけれど、それくらいみんな憧れていたし、二人の一挙一動が話題になっていた。そのまま、Bey-Z(ベイ・Z/BeyonceとJay-Zを指す非公式ニックネーム)は、売上でも影響力でもエンタメ界の頂点に君臨して、現在に至ります。

2011年にBlue Ivyちゃんを授かるものの、不仲説も囁かれるように。2014年にはBeyonceの妹のSolangeがエレベーターの中でJay-Zをぶっ叩き、隣のBeyonceが止めもしない映像が出回って決定的に。これ以上、ゴシップに文字数を使いたくないので詳細は飛ばすけれど、Jay-Zの不貞についてアメリカのファンの反応は、「でしょうね」だった。

ここまでなら、超人気者カップルにありがちな展開。しかし、Bey-Zは一味違った。カップル・セラピーに時間とお金を費やす代わりに、公衆の面前で愛を誓ったり、懺悔したりの公開セラピーに切り替えたのだ。もともと、Jay-Zは1+1を10にするビジネスが得意。2008年にはコアなファンの年齢層がかぶるMary J Bligeと、2010年にはもう一人のリヴィング・レジェンド、Eminemと、そして2013年にはジャンルをまたいでJustine Timberlakeとのジョイント・ツアーを成功させている。ファンの心理を読むことに長けていて、相乗効果をビジネスにできる人なのだ。MJBとEminemとのツアーを観ながら、相手のいいところを引き出すのが本当に上手だな、と強く思ったのは覚えている。

そろそろ、アルバムの話を。ダイハードなJay-Zのファンとして『Everything is Love』を聴くと、奥さんに遠慮しすぎかなぁ、というのが正直な感想だ。出番の比率が3対2で、そもそもこれはBeyonceのアルバムでは? と思いつつ、夫婦の危機を救う術として、奥さんが夫に弟子入り=ラッパー・デビューを果たす、というのは斬新だと感心。Jay-Zは、前作『4:44』が、冒頭の"Kill Jay-Z"で一度、それまでの自分を殺してから、自身を例に黒人男性としての宿命を語る"Story of OJ"に転じ、そのまま名曲、名フレーズを連発していたから期待値が高すぎたかもしれない。

とはいえ、最高峰のふたりのタッグ作、もちろん、聴きどころも多い。「愛だよ」アルバムのおもしろい特徴として、以前のクラシックとトラックやリリックでゆるく繋がっている曲が目立つこと。「夏の海辺で愛しましょう」と歌う"Summer"は、"Drunken Love"(2013年)のヴィデオを合わせても違和感がないし、"APESHIT"はKanye Westとの"N**gas In Paris"(2012年)を彷彿とさせる。"APESHIT"の方は、パリのルーヴル美術館でヴィデオを撮っているから、狙っているかもしれない。"Boss"は、「ブルックリンで勝ち上がった男が好き/彼はお金を3倍に増やすの」と歌ったDestinys Childの"Soldier"(2004年) と地続きで、Beyonceの「ボス=Jey-Z」への気持ちが変わらないことを示していて、グッと来てしまう。"Black Effect"は、Jay-Zの隠れ名曲"Song Cry"(2001年)とトラックが酷似。ただし、前者の"Song Cry"はホヴァさんの過去の恋愛を歌っていて、"Black Effect"は黒人としてのプライドがテーマ。フックの「俺はどこのマーティン・ルーサー・キング通りでも大丈夫」というラインが秀逸だ。60年代の公民権運動の指導者、キング牧師の名を関した通りは、アメリカ中の黒人が多い居住区にある。「どんなに勝ち上がっても、俺は同胞に歓迎されるんだ」と言っているわけで、「誤認逮捕みたいに両手をあげて」とか、黒人に対する警官の当たりのキツさもチクリと刺している。

PharrellやCool&Dreなど、気心が知れたプロデューサーと組んでいるし、全く新しいことをする代わりに、意図的に自分たちの引き出しを全部開けたような作品にしたかったのかもしれない。そのほか、DrakeのキャンプからBoi-1daを、ロック畑からDave Sitakを今作で招いているのが新しく、とくにBoi-1daが指揮を取った"713"と"Friends"は内省的なリリックが目立ち、少々、Drake風味が入っている。

その時、一番流行っているアーティストを招くのもJay-Z流で、今回はMigosのQuevoとOffsetが"APESHIT "に参加。隠し味は"Summer"のイントロでレゲエ風のチャントを聴かせるジャマイカ一のサウンドシステム、Stone Love出身のRolyと、アウトロでモノローグを語るBob Marley家の末っ子Damian Marleyだ。

いつも通りといえば、自分の成功ぶり、持ち物のひけらかしもきっちり行っている。おなじみのヴィトンのほか、フィリップ・パテックの時計やゴヤールのバッグがエントリー。おもしろいところでは、日本のウィスキーの山崎をBeyonceが愛飲していることが明かされた。山崎の12年ものは2015年に権威あるJim Murray's Whisky Bibleで1位になり、New York Timesもほぼ同時に「もっともコスパがいいウィスキー」と書いたことから、北米でずっと品薄状態。夫が後押ししているコニャックのDusseと違うのが強気でお茶目だ。

Jay -Zの強気ラインとしては「(NFLのスーパーボウルが)必要なのは俺、俺はいらない」「グラミーで8つのノミネーションされて無冠とかどうでもいい」("APESHIT")あたり。個人的に好きなのはCommonの名曲「Light」を引いて「これを言うからには特別」 って言っている箇所("713")と、「請求書(インヴォイス)を立てるようになるかでボーイは男になる」("NICE")という、「お、おう」なライン。「アメリカのラッパーをEmojiに例えるとどうなるか」というネタがネットで流行った際、Jay-Zはスーツの絵文字を充てがわれた。「いまの若者にはビジネスマンとしてのイメージが強いのか」と驚いた記憶があるが、『4:44』から本人も狙ったようにビジネス指南をリリックに挟んできたので、やはり一枚も二枚も上手の大人なのだ。

最後に。私はJay-Z のライヴは20回以上観ているし、2010年の本『Decoded』の日本版を出そうと本気を出し、日本の出版社さんを口説くのに成功したものの、部数でアメリカの出版社に門前払いを食った過去がある(これは完全には諦めていません)。Beyonceだって、17歳のときに取材で出会い、あまりのかわいさにボーッとして以来、心の底から応援している。大好きな二人だということを前提に、あえて書く。このBey-Zプロジェクトの「浮気してごめん」「辛かったわ」といった二人の応酬への基本的な反応は、「知らんがな」。

2014年、最初の『On The Run Tourをニュージャージーのスタジアムで見たときに感じた「夫婦喧嘩はベッドルームでやって」という気持ちは、どんな素敵なヴィデオを見せられても心の片隅にあった。念のために書くと、『On The Run Tour』は最初のツアーで109ミリオン(約120億円)、今回のツアーで150ミリオン(約170億円)を叩き出したので、こういう反応は少数派だろう。このトリオロジーが無事に終わって、それぞれが次のステージに行くのが楽しみで仕方ないし、その種がこの『Everything is Love』に埋まっていると信じて、引き続き聴きこむ所存。もう一つ、2006年のJay-Zのインタビューで最後に投げたフォーク・ボールを紹介しよう。「Beyonceの名前は出すな」というお達しがあった中、Jay-Zに比べると完全に足りない頭を絞って繰り出したのが、「世界一のラッパーでいることと、世界一の美女とデートするのはどちらが楽しいですか?」という質問。それに対する答え。「ヒップホップ・ゲームで勝つのは何よりも大事だ。‥でも、それを一緒に喜んでくれる人がいなかったら、意味ないよね?」。そう。Jay-Zはずっと「愛だよ、愛」の人なのだ。

Info

The Carters |ザ・カーターズ
『Everything Is Love|エヴリシング・イズ・ラヴ』
配信中
購入/試聴リンク: https://SonyMusicJapan.lnk.to/TheCartersJP
●収録曲
1. SUMMER / サマー
2. APESHIT / エイプシット
3. BOSS / ボス
4. NICE / ナイス
5. 713 / 713
6. FRIENDS / フレンズ
7. HEARD ABOUT US / ハード・アバウト・アス
8. BLACK EFFECT / ブラック・エフェクト
9. LOVEHAPPY / ラヴハッピー

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