【インタビュー】Sen Morimoto | 不確定な音楽

88risingからドロップされたMVをきっかけに大きな注目を集め、今年の5月には1stアルバム『Cannonball!』をリリースしたシカゴ在住の日本人アーティストSen Morimoto。

ヒップホップ、ジャズ、ロックなどをミックスしたジャンルレスな音楽性と不安やメンタルヘルスをテーマにした内省的なリリックを特徴としたMorimotoの楽曲は、他には無い独自の世界を描き出している。

今回FNMNLでは、間もなく開催されるSUMMER SONICへの出演も決定している彼にメールインタビューを敢行した。

質問・構成 : 山本輝洋

- あなたの楽曲はジャジーでメロウなものが多いですが、キャリアの最初期、マサチューセッツにいた頃はダークかつハードなビートの上でラップする曲も多かったと思います。どのような経緯で現在のようなスタイルの音楽に変化していったんですか?

Sen Morimoto - 「ダークな」ラップの曲を作っていたとき僕はティーンエイジャーで、ジャズサックスとロックのドラムをプレイしていて、インディーロックバンドで曲を書いて、ジャジーヒップホップのトラックをプロデュースしていたんだ。シカゴに移ったときは一緒に音楽をやるような友達がいなかったから、今までやっていた全てのジャンルを自分で組み合わせたんだよね。それが今みんなが聴いてるものだよ!

- 特に影響を受けたラッパーはいますか?

Sen Morimoto - Outkastには大きな影響を受けているよ。あとはKanye West、Odd Future、Lil Wayne…。そして、僕は初期のBlack Hippiyのテープとレコードに取り憑かれてる。

- あなたの音楽はいくつかのメディアにおいてJazz Rapと呼ばれていることがありますが、そのようなジャンルをご自分で意識して活動しているようなところはありますか?

Sen Morimoto - 音楽を作るときにジャンルを意識することはそんなに無いかな。僕はただ自分が好きなサウンドを探して、それらが可能な限り自然に、そのまま音楽になるようにしたいんだ。「Jazz Rap」という名前はあくまでただそれが広まったからつけられたもので、そういう音楽は「Songwriter Beats」と呼んだ方がいいかな。僕が作る曲は、一つのジャンルに当てはめるにはあまりに不確定な要素が多すぎると思うんだ。まるで散らかってるみたいにね。

- 一人で全ての楽器を演奏し、宅録で楽曲を作っているとお聞きしました。長年サックスをプレイしているそうですが、他の楽器の演奏の技術はどのようにして身につけましたか?

Sen Morimoto - 僕にはサックスを教えてくれた先生が何人かいたんだけど、他は全部独学だよ。曲を書きたいからギターを練習して、Stevie Wonderの曲を弾きたかったからピアノを始めて、ロックもやりたかったからドラムも勉強した。今はバイオリンを練習しているんだけど、とても難しいよ!

- ヒップホップは勿論ジャズやポストロック、フュージョン、LAビートなどの影響も感じさせるあなたの音楽ですが、特に影響を受けたアルバムなどを教えて頂けますか?

Sen Morimoto - Outkastの『Stankonia』はやっぱり僕にとって大きかったかな。違うサウンドやジャンルが一つのアルバムに凝縮されてるところにぶっ飛ばされたんだよね。そして、Wilcoの『Yankee Hotel Foxtrot』を聴いてソングライティングとサウンドのデザインに夢中になった。あのアルバムが、レコーディングスタジオが一つの楽器だってことを僕に教えてくれたんだ。Sly & the Family Stoneの『Fresh』とStevie Wonderの『Music of My Mind』は、豊かで緻密なアルバムを自分自身の手で作ることが出来るってことを教えてくれた。最近はSun Raの『The Antique Blacks』にとても影響を受けてるよ。

- MVやアルバム『Cannonball!』のアートワークなど、あなたの作品はビジュアル面も特徴的です。アルバムのアートワークに使われているジオラマはご自身で作られたと伺いましたが、ビジュアル面でインスパイアされているアーティストや好きな映像作家、画家、写真家などはいますか?

Sen Morimoto - アルバムのジャケットに使ったあのジオラマは、Pete Drakeがテレビで”Forever”って曲を演奏しているライブビデオを基にしてる。僕の親友のIsaacがYouTubeであのビデオを見せてくれて、あのセットの不気味なデザインを気に入ったんだよね。

”How It Is”のMVの一部はミシェル・ゴンドリーの映画にインスパイアされたんだよ。友達の会社「Low Moon Video」と一緒にあのMVを作ったんだけど、僕たち全員がゴンドリーの初期の作品を好きだったからね。”Cannonball”のビデオを作った僕の弟のYuyaが、子どもの頃に彼のDVDを見せてくれて、そのイメージが心に残ったんだ。

- “Canbnonball”や”People Watching”のリリックは不安やパラノイアがテーマとまっています。そのような精神状態は音楽制作にどのように影響しますか?また、そのようなことで悩んでいる読者に何かアドバイスをするとしたらなんと言いますか?

Sen Morimoto - 僕の曲の多くは、決して明るいとは言えないきっかけで出来たものだ。僕たちは大変な時代を生きているから、それが作品に現れるのは自然なことだと思う。君たちが日々の生活の中の辛いことや出来ないことを、作品の中で表現したらいいと思うよ。それが僕からのアドバイスだ。作品を作ることが、君たちが戦っているものが何なのかを明らかにして、それに打ち勝つ手助けをしてくれると思う。

- あなたの周囲にはJoseph ChilliamsやKaina、またQariのような才能のあるアーティストが多くいます。シカゴでのあなたを中心としたコミュニティはどのようにして出来上がりましたか?

Sen Morimoto - シカゴで僕と仕事をしている人たちは、まず第一に僕の友達で、そして僕の作品に協力してくれる存在なんだ。誰かと一緒に自然な作品を作るためには、まずいい関係を築かなきゃいけないんだよ。曲を一緒に作っている途中に快適で楽しいと思えるなら、それは出来上がったものに現れると思う。彼らはライブやレコーディングで繋がったってだけじゃなくて、みんな人生の中でたまたま出会った人たちなんだ。友達は僕にとって宝物だし、彼らともっと沢山の音楽を作ることを楽しみにしているよ。

- あなたは別のインタビューで「音楽は一人でリラックスして、アルバムがまるで一緒に過ごしている友達であるかのような気持ちで聴く」とおっしゃっていましたが、あなたのアルバムを聴く時におすすめの環境やタイミングなどはありますか?

Sen Morimoto - 『Cannonball!』は、心に不安と孤独を感じるような真夜中に聴くのが良いと思う。例えあのアルバムがただ「僕も寂しいんだ」ってことを言ってるだけの物だったとしても、それでみんなが安心してくれたらいいなと願ってる。

- FNMNLはファッションについても扱っているメディアなのですが、あなたはいわゆるヒップホップファッションとは違い、すっきりと落ち着いたコーディネイトが多い印象があります。

Sen Morimoto - 僕はちょっとだけフレアで、フィット感のあるような服が好きなんだ。君が言ってるのはそういうことだと思うよ。好きなブランドは、特には無いかな。

- ご出身は京都ということですが、京都という街や日本という場所があなたの音楽に影響やインスピレーションを与えているというようなことはありますか?また、日本のアーティストでお気に入りの人だったり、チェックしている人はいますか?

Sen Morimoto - 日本には赤ちゃんだった頃に少し住んでいただけだったんだ。アメリカで育って、自分の中のほんのちょっとの日本人の部分を維持するために年に一回ほどの頻度で帰っていたから、沢山の日本の音楽にインスパイアされたよ。家族を通して知った古い演歌のレコードや、友達のバンド「Cyclub」とそのメンバーの「きじは」、あとはYouTubeで見つけたMatura Miki(松原みき?)、Pizzicato Five、佐藤博、YMCKがお気に入りかな。

- ありがとうございました。

Sen Morimoto - こちらこそありがとう!

Info

Sen Morimotoは8/19(日)の11:55からのSUMMER SONIC東京会場で、Billboard Japanステージに登場。翌日8/20(月)に東京・大寒山Space Oddでソロ公演を行う。https://www.creativeman.co.jp/event/sen-morimoto_ss18ex/

東京 8月20日(月) 渋谷・代官山SPACE ODD
OPEN 18:30 / START 19:30
TICKET オールスタンディング¥5,000(税込/別途 1 ドリンク) ※未就学児入場不可
一般プレイガイド発売日:7/14 (土)
<問>クリエイティブマン 03-3499-6669 企画・制作・招聘:クリエイティブマン
◆SUMMER SONIC 8/19(日) Billboard JAPAN ステージ出演 www.summersonic.com

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