【インタビュー】Loyle Carner | 自分の真実に向きあい続ける

昨年リリースしたデビューアルバム『Yesterday's Gone』が、大きな話題となり数々のメディアで年間ベストアルバムに選出されたLoyle Carner。現在のイギリスの新たな音楽の震源地となっているサウス・ロンドン出身の彼は、自らADHDと難読症を告白しADHDを持つ子供たちをサポートする活動に力を入れるなど、音楽同様のポジティブで実直な姿勢も話題となっている。

5月に渋谷WWWで行われた初来日公演はソールドアウトとなり、日本でも高い注目を集めているUKヒップホップシーンの新鋭に、ライブ前に話を聞いた。

取材・構成 : 和田哲郎

写真 : Takayuki Okada

- 日本では初のツアーかと思いますが、印象はいかがですか?

Loyle Carner - 本当に美しいと思うし、すべてがスペシャルだよ。みんな親切だし礼儀正しいし、いい経験をしているよ。

- 昔のサッカー日本代表のユニフォームを着ていますね。

_B7A9841a

Loyle Carner - そうなんだよ、ビンテージのユニフォームが買えるショップで買ったんだよ。サッカーはすごい好きで、去年くらいまで自分でももっとプレイしてたよ、今は忙しくて時間がないんだけど。

- 忙しくなったのはアルバムをリリースしてからだと思いますが、アルバムに多くのリアクションが出ることは予測していましたか?

Loyle Carner - 本当に全く予想していなかったよ、日本にライブで来れるとも一切思ってなかった。自分の音楽がこんなに遠くで聴いてもらえるなんて信じられないよ。

- 元々演劇を学んでいたということですが、演劇を学んでいた経験はラッパーとしてのキャリアに役立っていますか?

Loyle Carner - すごく影響していると思うよ。シェイクスピアを勉強していたんだけど、リリックを書くときにも影響を受けているし、声のメンテナンスの仕方だったり、体のケアの仕方もすごく大きな影響を受けていると思うよ。

- リリックの書き方もストーリーテリングだったり、少しフィクショナルな要素が入ってますよね。シェイクスピアの他に、影響された書籍などはありますか?

Loyle Carner - Benjamin Zephaniahだね。彼は詩人で、僕と同じ難読症で、初めての作家の1人なんだ。自分が影響を受けてるものは、映画でも本でも音楽でも、理由があって書かれているものだと思う。村上春樹も好きなんだけど、書くために何かを考えるんじゃなくて、彼は何か書く理由があって書いていると思うんだ。それが全ての作品に共通している部分だよ。自分も理由があって音楽を作っている、僕の場合は自分のためだよ。自分の頭の中を整理するためだったりもするし、その作業をやらないと気が狂いそうになっちゃうんだよ。

- あとあなたが影響源としてあげているのはお母さんの存在ですよね。

Loyle Carner - 彼女の全てが自分に影響しているよ。美しくて、頭もよくて、良き詩人でもあるし、料理も上手だし。母は作品制作においても重要な存在で、新しい作品を聴かせて、もし母が好きじゃなかったら自分もその曲を好きになれないんだ。

- アルバムカバーにはお母さんや本当の家族だけじゃなくて、あなたにとって家族的な存在の人々が写ってますよね。

Loyle Carner - 家族は自分にとって全てだけど、あの写真は2年前のもので、そこから自分の人生がすごく変化しているんだよ。今はもう全然連絡を取っていない人もいれば、逆に次撮るときは入ってほしい人もいるし、この人はいなくてもよかったなって人もいる。家族的な人たちは自分の人生を表現する人たちだね。今撮るとしたらお母さんと恋人とDJと犬と、それくらいかな。

- あなたがいるサウス・ロンドンのシーンは、Tom Mischもいるし、Cosmo Pykeも最近来日したり盛り上がっているように見えますが、実際のシーンはどのようなものなんですか?

Loyle Carner - サウス・ロンドンは狭いんだよね、それが逆にいいことだと思うんだ。友達じゃなくてもアーティストのことを知ることになるというか、みんながそれぞれのことを把握しているし、例えば好きじゃない人のことでも存在は把握できるんだ。いい意味で競争心があるから、サポートする人はサポートするし濃いシーンになってると思う。Tom Mischと僕は同じようなバイブスだから、友達なんだよね。自分のバイブスがどんな感じかというと、僕はクールになろうとしているんじゃなくて、自分をそのまま出そうとしてる。強くあろうとかも思ったことはないし、自分の姿をそのまま表現することで自分のバイブスが生まれているよ。

_59A9532a

- 強くなろうとしていないという答えは興味深いです。ヒップホップという音楽は強く見せることができる音楽だと思いますが、あなたの思うヒップホップの良さはどういう部分ですか?

Loyle Carner - 僕にとってのヒップホップの魅力は真実を語っているところだよ。アフリカン・アメリカンがすごい辛い環境で過ごしてきた歴史があってできた音楽だよね。そういう人の状況を音楽として表現しているのが素晴らしいと思うし、自身が過ごしてきた環境をリアルに語っているからこそ伝わるんだよね。泣かせることもできるし、笑顔にすることもできるし、怖がらせることもできる。自分たちが持っている本当の怒りを曲にして伝えることができるのが素晴らしいと思うよ。Notorious B.I.G.はそれをやっている1人だと思う。本当にその人が持っているフィーリングを完璧に表現できる人は稀にいるんだよね、それが自分もやりたいことなんだ。J. ColeやKendrick Lamar、同じサウス・ロンドンのBenny Mailsという友達もだし、Oddiseeもそういうアーティストだ。みんなアンダーグラウンドにいるよ、そこから出てしまうと何かを失ってしまう可能性があるんだ。それを持ち続けるためにアンダーグラウンドにいるんだ。

- さっきお母さんに新しい曲を聴かせたと言ってましたけど、新曲はこれまでと変化していますか?

Loyle Carner - 大きな変化はしていないと思うけど、これまでよりも自分の境界線が広がったとは思うよ。いまツアーが18ヶ月続いていて、中々離れていると集中する時間がないから、家に帰ったときに作るようにしているよ。

- あなたはADHDの若者のためのGOMAというクッキングスタジオも運営していますよね。日本で食べて作ってみたい料理はありますか?

Loyle Carner - いつかラーメンを作ってみたいんだ。既に研究は開始していて、鶏ガラを取ったりとか、豚骨スープとかもやってみたけど、やっぱり難しいのでもっと研究を重ねていつか作ってみたいな。でも自分は豚を食べないから、だからラーメンが難しいんだよね、秘密で豚も使っちゃおうかなと思ってるけど(笑)

- 料理をやっていると気がまぎれるんですよね?

Loyle Carner - ADHDの人にとってはそうなんだ、音楽もそうだよ。韓国の女性の僧侶がADHDを持っている人には料理が一番瞑想に近くていいって言っていたんだ。色んなものから、それをまとめていって一つのものを作るっていう料理の過程がいいんだよね。

- ADHDの子供は孤独感を感じることが多いからこそ、クッキングスタジオを作ったのですか?

Loyle Carner - 僕もそうだったけど、学校でのプレッシャーがすごくあるんだよね。学校には理想の生徒像がある、その理想にADHDの子供たちはなれないから辛い思いをする子供が多いんだ。でもだからこそ彼らに自分たちがADHDだからこそできるいいこともあるんだよというのを教えたいんだ。ADHDが悪いことではないというのを証明するのが僕の使命。ADHDや様々な病気などについてみんなが抵抗を感じずに言えるような世の中になってほしいね。

- 最後に今後も作品をリリースしていって、どのようなアーティストになっていきたいですか?

Loyle Carner - 今は何も変わらず自分自身であり続けたいよ。あとになったら全然違うことをやりたくなるかもしれないけど。

_59A9458a

Info

20170310132014

Loyle Carner - 『Yesterday's Gone』

http://hostess.co.jp/releases/2018/04/HSU-10186.html

RELATED

【インタビュー】Cram & Budamunk by ISSUGI | Talk About Beats

今年DOGEAR RECORDSからそれぞれアルバムをリリースしたビートメイカーのCramとBudamunk。世代が違う中でも自身のビートの世界を追求してきた2人に対して、毎月7インチをリリースする前人未到の企画『7INCTREE』にも両者をプロデューサーとして招き入れたISSUGIがインタビューを...

【メールインタビュー】CYK | 若きハウス・コレクティヴが作り出す新しいグルーヴ

活動から2年弱、今旬なアーティストを招聘し続けているハウス・コレクティブ CYK。若手ながらもruralやソウルのローカルラジオ Seoul Community Radioに出演したりと精力的に活動し、常に成長し続ける彼らのパーティーは、世代関係なく東京の新しいダンスミュージックコミュニティーを作り上げている。そして次に彼らがしかけるパーティーは、Baba Stiltz、C'est Quiを迎えた、東京・大阪・韓国のアジアツアーである。

【特集 Red Bull Music Festival Tokyo】ShintaroとMarzyが共謀するオンラインパーティ『PLUG (24 HOURS)』

世界的ターンテーブリストのDJ Shintaro、そしてストリートを賑わせるDJのMarzyは、実はプライベート含めて親密な仲。意外な組み合わせの彼らが中心となった、24時間ブッ続けのパーティが10/6(土)昼12時からRed Bull Music Studios Tokyoで配信されることになった。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。