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【インタビュー】ジェフ・ミルズ | パルプ・フィクションの表紙絵に見たSFの原イメージ、低音と宇宙船、若い世代への想い

FEATURED  2017.03.25  Jun Yokoyama

先月末、ジェフ・ミルズが東京フィルハーモニー交響楽団とコラボレーションする来日公演「爆クラ!presents クラシック体感系Ⅱ -宇宙と時間編」が大阪・フェスティバルホール、東京・Bunkamura オーチャードホールにて開催され大盛況のうちに終了した。

Blu-ray(+CD)とCD2枚組の2バージョンで『Planets』をリリースしたジェフ・ミルズに本人に直接インタビューを敢行。オーケストラとのコラボレーション、SFのイメージ、幼少期の体験、若い世代への想いなどをジェフは優しい口調で語ってくれた。

Interview by Jun Yokoyama

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先月デリック・メイに会ったよ。デリック・メイは、ジェフがAxis Recordsの拠点をフロリダ州マイアミに移したことに「違和感を感じざるを得ないだろ(笑)」と言っていたよ。

ジェフ・ミルズ - 全然不思議なことはないよ。人生のステージが進むとみんな北から南に移るんだよ。(笑) もちろんデトロイトやシカゴっていうのは寒いってのもあるけど。音楽ビジネスをする上でフロリダに拠点を置くというのは合理的なんだ。誰もデトロイトやシカゴに音楽ビジネスの話をわざわざしに行かないからね。

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PHOTO:正木万博

大阪と東京の2日間のコンサートを終えてどのような気持ちですか?

ジェフ・ミルズ - とてもエンジョイしたし、このプロジェクトに数年間かけてきているからね。けど日本でこのエレクトロニック・ミュージックとクラシックを融合させて、実現化するのは簡単ではなかった。長い時間ディスカッションを行って、リハーサルをして、ようやく実現できたんだ。

東京での衣装も素敵でしたね。

ジェフ・ミルズ - エレクトロニック・ミュージックやDJっていうのは、見た目ではなくて音楽そのもので何かを語ろうとするでしょう。サウンドそのものや選曲によってコミュニケーションするでしょう。だからダンス・ミュージックというのはどちらか言うとファッションや着ているものでオーディエンスと繋がろうというカルチャーではない。それに比べてクラシック音楽のコンサートはヴィジュアルの側面も非常に大事になってくる。今回も着るものもちゃんとしているのもそういう理由からだし、ライティングのエンジニアもコンサートに導入した。すべての要素が繋がっているんだ。いつも着ているものを着て行くタイプの文化とは違うと思う。それが自分もタキシードを着て演奏した理由だよ。

今日も素敵な黒いシャツを着ていますね。日本に来た時はショッピングなどされるのですか?

ジェフ・ミルズ - 日本に来た時はショッピングするよ。日本だけに限らず世界中をツアーなどで訪れた時はショッピングエリアに行くよ。自分はファッションに興味があるんだけど、色んな人がどのようなファッションに身を包んでいるか、そして特にどのような色を使っているかということにとても興味がある。それは自分の音楽制作に大きくインスピレーションを与えてくれるんだ。90年代、ジル・サンダーやヘルムート・ラングなどのデザイナーがよりミニマリスティックなアプローチをとった。「Less Is More」といったコンセプト、もしくはモノクロームな色使い。それはわたしたちの音楽ーデトロイト・テクノとも共鳴していたんだ。

だから、ショッピングエリアに行って、別にそれをフォローして買ったりしなくても、ただ、さまざまな形のクリエイティビティを観察することで、音楽にもなんらかの方向性を示唆してくれることがあるんだ。

どのようなインスピレーションを受けてアルバム『Planets』を制作したのですか?

ジェフ・ミルズ - 一番大きなインスピレーションは学術的でエデュケショーナルな側面だろうね。それと、これから来る10年、20年後の世界へのイマジネーションから大きなインスピレーションを得たよ。数十年のうちに実現するだろう星間旅行が大きなテーマだ。宇宙旅行というのはどのようなものになるのだろう、そして地球外には何があるのだろう、私たちはどこに行かなくてはいけないのだろう、もしくは私たちはどこから来たのだろう、何と繋がっていくのだろう、そして何と繋がりたいと思うのだろう、何を理解したいと思うのだろう。といった事がインスピレーションの源泉となったんだ。もちろんそれと並行して、科学的に実証されている学術的な事も取り入れている。また同時に、サイエンス・フィクションからも、この世界を学ぶためのインスピレーションを得た。サイエンス・フィクションというのは、もちろんエンターテイメントでもあるんだけど、同時に様々な学びをくれたり、未来を知ることのマテリアルになりえるんだ。映画『オデッセイ』1)監督:リドリー・スコット、主演:マット・デイモン。火星にひとり取り残された宇宙飛行士のサバイバルを緻密な科学描写とともに描いた映画。原作はアンディ・ウィアーのベストセラー小説『The Martian(火星の人)』早川書房から同名の小説が刊行されている。もそのような作品の一つだね。

アルバム『Planets』は、もちろん複雑に宇宙のディティールを描写しているわけでは無いけれども、この100年以内に手が届くであろう宇宙や別世界を描いているんだ。

東京のコンサートで私が驚いたのは、コンサート中に何かロケットやスペースシップの中に乗っているような感覚があったことでした。『Planets』には惑星そのものだけではなく、星間旅行というテーマもあるのではないでしょうか?

ジェフ・ミルズ - まさにその通り。今回の「爆クラ」コンサートで来場者の方に感じてもらおうと考えていたエレメントがある。それは低音なんだ。その低音というのは普通のオーケストラホールでは感じることができない低音だ。もちろんオーケストラのドラムの音はそれに近い音が出ているんだけど、その重低音の周波数が私たちのコンサートの通奏低音になっているんだ。私は電子機器によってその人が感じる振動のような低音を、どのようにオーケストラのサウンドと融合させるのかということ、バランスを保つことにとても苦心した。オーケストラのストリングスの魔法のような音と、ワイドレンジな周波数を感じてもらえるジャンルのマリアージュは、未来のデザインとも言えるだろう。

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PHOTO:正木万博

ジェフ・ミルズ - それには一つエピソードがあって、2016年11月にお台場の日本科学未来館のドームシアターガイアで『Planets』の試聴会を行ったんだけど、その時ジャーニーというコンセプトを理解できた気がするんだ。まさにシアターが船のような感覚だった。

何が起るかがコントロール不能で、その時、未来館の窓が宇宙船の窓のように見えたよ。その時から「トリップ」というコンセプトを意識するようになった。宇宙空間ではすべての出来事が、地球上の最低でも9倍というくらい想像以上のスケールで起こっているんだ。圧倒的な体験なんだろう。

1990年代にわれわれは地球以外に生存可能な惑星を発見すると言われていたが、現在は生存可能な3つの惑星を発見した。そして来年にはSpaceXが何人かを連れて宇宙に旅立つ。もう私たちはすでにスペース・エイジを生きているんだ。そしてこれからの数十年でよりそのスピードは加速していくだろう。今は未来の、そして人類の未来のドアを開けようとしているんだ。

『スター・トレック』、『スター・ウォーズ』などの文学やSFにインスパイアされ『Planets』を制作したとコンサートのトークでお話されていましたが、ホルストの『惑星』以外に音楽からのインスピレーションは得ましたか?

ジェフ・ミルズ - もちろん『2001年宇宙の旅』のジェルジ・リゲティの音楽からは大きなインスピレーションを得たし、もちろん『ブレードランナー』のヴァンゲリスの音楽にも大きな影響を受けたよ。あとは『スターウォーズ』でどのように音楽が使用されているかというのも、自分の幼い頃に受けた影響としてあるんじゃないかな。

子供の頃の話と言えば、これはあまり言わない話なんだけど、本作品を制作するにあたって自分が子供の頃から「自分が買う7インチレコードの詳細」を調べて覚えていたということが重要ではないかと思っている。どこでマスタリングされたか、どこで作られたかなんかをすべて調べていたよ。デトロイトのあまり裕福でない育ちだから、自分たちで何かをやることを作らないといけなかった。男の友達と一緒に「俺のほうがよりレコードについて知っている」っていう風に競争してたんだ。「あいつがこれだけ知ってるなら、おれはもっと知ってやろう」って具合に。幼少期にレコードに夢中になっている時に自分は「どのように分析するか」ということを学んだんだ。普通の目線や分析方法だけではないやり方で。今思い返すと「どのようにリサーチするか」ということをそれを通じて学び、『Planets』の制作にもそれが役に立ったよ。

私はすごくSFが好きというのはもう言ったけど、子供の頃に夢中になっていたSF作品が掲載されていたパルプ・マガジン2)低質な紙が使用され、主にフィクションが扱われていた。三文小説、大衆小説、SFなどが掲載されていた。クエンティン・タランティーノの映画『パルプ・フィクション』はここから取られている。というものがあったんだ。大きな街に出かけるときに駅の売店でそのマガジンを買うんだけど、その表紙のカバー絵こそが自分の中のSFのイメージを形作っている。自分はその作者を探した。ほとんどがNY出身ということが分かった。しかしほとんどの作者はもう亡くなっていた。そこで彼らの配偶者や子供たちを探すと、彼らはフロリダに移住していたんだ。うまくいけば次のブルックリンでのアートフェアでより多くの作品を見つけることができるかもしれないし、より作家について知ることができるかもしれない。SFの世界のミッシング・リンクを埋めることができるかもしれない。彼らは変名を使っていたし、時には黒人もいた。主婦をしていた人も男の名前を使って活動していたし、ユダヤ人もいた。まだまだSFのイメージがどこから来たかというのは知られていないんだ。これは一つの例だけどね。

どうしてコンサートであなた本人がオーケストラと一緒にステージに立ち、オーケストラと一緒に演奏する事を選んだのですか?

ジェフ・ミルズ - それは重要ですね。説明しましょう。そもそもエレクトロニック・ミュージックという音楽自身がほぼ言語的な音楽でない。音楽がどのように鳴っているか、もしくはサウンドの質感そのものからオーディエンスはさまざまなことを感じる。そしてそれ以上に「その曲がどうプレイされるか」、「どのようなコンテクストで演奏されるか」、「他の楽曲とどのような関係を持つか」が、コミュニケーションの上で重要になってくる。

オーケストラとエレクトロニック・ミュージックを融合させるにしろ、さまざまな方法がありえる。そこで私はオーケストラ・ホールの舞台に立つことを選んだ。オーディエンスは私がDJでありコンポーザーでありプロデューサーであることを知ってる。そのオーディエンスに、私がどのように舞台やミュージシャンたちの間に自分の身体をフィットさせているかというのを見てほしかったからだ。私はこれをもう10年間行っているが、昔に比べてずっと普通になった。私は何度も何度もトライして普通にしてきたんだ。そしてそれを見た若い人が興味を持ってくれれば良いと思っているよ。

次のプラン、プロジェクトについて教えてください。

ジェフ・ミルズ - 個人としてのプロジェクトはたくさんあるよ。Axis Recordsの25周年、オーケストラへの曲提供など...。しかし。個人の域を超えたアイディア、永遠のテーマとして「人々をここから、こっちへ連れて行くにはどうすればよいか」ということを考えているんだ。それはどういうことか?それは言い換えると、人々に「昔はあそこにいて、今はここにいる」と信じてもらうことでもある。テクノロジーは急速に進んでいるが、同時にそれは心理学の側面にも関わってくる。どんな状況であれば人々は自発的に移動するのかということだ。それはここからあちらへ行けばより希望が見えると思うことなのかもしれない。

それはアルバムや、1度や2度のDJでなし得ることではない。それは一貫的な考えの元で曲を作り続けて、考え方を表明し続けて、続けて、続けて、続けて、より魅力的な音楽を作ること。そうすれば人々は「あそこに行こう」と願い、行動するようになる。それが今自分の興味関心があることだ。

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(C)Jacob Khrist

あとは実は1ページからなる「レコード・レーベルの作り方」というパンフレットを作ろうと思ってるんだ。とても便利そうだと思わない?もし音楽産業に関わりたかったらコレを読めってね。契約はこうしろ、とかね。笑

日本でも世界でも多くの物事が変化しつつある。特に若い人たちというのは私たちとは全く異なった存在であるということだ。彼らはこの世界に居心地の良さ感じていないだろう。ブッシュやトランプといった大統領の時代に生まれて、テロの恐怖もある。オバマの8年間もその助けにはならないだろう。彼らが望むものというのは私たちが望んでいるものとは全く違ったものなのだろう。私たちは非常に楽観的な世代を生きてきた。彼らは「すべてことがOKになれば、それでだけでいい」と望んでいるに違いない。それはハウス・ミュージックが私たちに与えてくれた暖かさ、祝福の感覚などが彼らにとって遠いものになってしまい、届かなくなってしまうということなのかもしれない。

それは若い人たちが音楽に対して異なった認識を持ち、「私たち」とは異なった価値観を持っていると考えているということですか?

ジェフ・ミルズ - そう。彼らはイラク戦争などの「居心地の悪い」の中で育ってきた。落胆とクレイジーの中で生きてきたんだ。「間違った場所に、間違った時間にいてはいけない」世代なんだ。

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リリース・インフォ

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ジェフ・ミルズ&ポルト・カサダムジカ交響楽団『Planets』
Jeff Mills & Orquestra Sinfónica do Porto Casa da Música - Planets

初回生産限定盤[Blu-ray+CD]
発売日 2017年2月22日
¥3,800(税抜)/ UMA-9090-9091

◯Jeff Millsによるセルフライナー・ノーツ
◯三田格(ele-king)によるライナー・ノーツ 封入

[Blu-ray] <ファイナル・オーケストラ・ヴァージョン>
* 5.1ch、ステレオ音源を切替可能
* 特典インタビュー映像:Jeff Mills 、Sylvain Griotto (アレンジャー)、Christophe Mangou (指揮者)

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通常盤[CD2枚組]
発売日 2017年2月22日
¥2,800(税抜) UMA-1090-1091

◯Jeff Millsによるセルフライナー・ノーツ
◯三田格(ele-king)によるライナー・ノーツ 封入

世界的エレクトロニックミュージックプロデューサー/DJ、ジェフ・ミルズが惑星をテーマに、初めてオーケストレーションを念頭において作曲した本作。それぞれの惑星の構造、素材、サイズ、質量、密度 など科学的データをもとに作曲された楽曲を聴き、太陽系を旅する音楽体験型作品。

ミルズ一人で制作したエレクトロニックVer.とポルトガルのポルト・カサダムジカ交響楽団と共演したオーケストラVer.の2作を収録。

エレクトロニックVer.はオーケストラVer.を制作する為のスケッチであり、当初制作されたままの音源を編集せずにそのままCDに収録。またBlu-rayにはオーケストラVer.を2chステレオとハイレゾ5.1chサラウンドの両フォーマットで収録。

長年にわたる世界各地のオーケストラとの共演(全公演ソールドアウト!)による蓄積のすべてが盛り込まれた大作であり、これまで様々な作品を通して私達の住む“宇宙”というテーマに向き合ってきたジェフ・ミルズの作品史上、最大の野心作!

脚注   [ + ]

1. 監督:リドリー・スコット、主演:マット・デイモン。火星にひとり取り残された宇宙飛行士のサバイバルを緻密な科学描写とともに描いた映画。原作はアンディ・ウィアーのベストセラー小説『The Martian(火星の人)』早川書房から同名の小説が刊行されている。
2. 低質な紙が使用され、主にフィクションが扱われていた。三文小説、大衆小説、SFなどが掲載されていた。クエンティン・タランティーノの映画『パルプ・フィクション』はここから取られている。

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