『ヒップホップコリア』の著者が語る韓国ヒップホップへの愛と情熱
- いま日本でも韓国のヒップホップの広がり方が変わってきてるじゃないですか
鳥居咲子 - それは『Show Me The Money』の影響ですね。それ以外考えられない。それ以前から徐々に韓国のヒップホップの人気も上がってきてたんですよね。一部のラッパーがアイドルの事務所と契約したり、アイドルとのコラボも増えていって、防弾少年団とかアイドルヒップホップクルーも出てきたり。そこに『Show Me The Money 3』のブレイクで、ドーンときた感じですね。
続けて4と5でK-Popファン層を一気に取り込んだので、売り方も本当に変わってきましたよね。お金が入ってくるようになってCJ E&M(韓国の大手総合エンターテインメント会社、音楽専門チャンネルのMnetなどを運営)とかが関与してきて、ミュージックビデオ1つ1つの制作にもお金をかけますよね。私がみてきた韓国のヒップホップのミュージックビデオの衣装って、ラッパーの普段着でメイクなんて絶対しなかったんですけど、スタイリストがついてメイクもちゃんとやってって変わってきたし、ライブもこれまでは手作り感があったんですけど、段々スタッフ的な人が関与してくるようになってきたりしましたね。
- いまだとラッパーではないですけど、CrushやDeanはアイドルじゃないのにアイドル的な扱いを受けていたりしますよね。
鳥居咲子 - Crushなんかは特にデビューしたときはアイドルっぽい売り出し方をされたんですけど、それはあまりうまくいかなくて、Amoeba Cultureに入った頃はもっとアーティストって感じで入ってたんですけど、人気の歌番組に出たりしたんでそれで一気にポピュラーな存在になりましたよね。Amoeba CultureはSupreme Teamもそうだし、アイドル的に売ろうとするんですよね。この前Crushのショーケースが韓国であったんですけど、行った人の話だとかなりアイドルのファンミーティングみたいだったって聞きましたね。
- そういうアイドル的なアーティストとラッパーとの壁って大きかったりするんですか?
鳥居咲子 - そこはラッパーの間でもかなり意見が分かれていて、アイドルを認められないってラッパーは多いんですけど、それを発言すると炎上しちゃうんで言えないみたいですね。オフレコではみんなわりかし言うんだけど、インタビューとかだとあんまり言わないっていう傾向が。やっぱりとてつもない炎上の仕方をするんで。ただアイドルラッパーの中にも本当にうまいラッパーはいて、Block BのZicoとかはラッパーの間でも本当にうまいって言われているし。
- 鳥居さんが好きなアイドルラッパーはいますか?
鳥居咲子 - 私はいないですね(笑)GD&T.O.Pは私の入り口になった人たちなんですけど、いろんなラップを聞くようになると物足りなさはあったりしますし、ただあの2人の魅力ってラップスキルとかじゃなくてスター性とか見せ方ですよね。表情とか動きが普通のラッパーにはないスター性があるんで、そこは格別だなって思いますね。Zicoもうまいとは思うんですけど、あれくらいならアンダーグラウンドシーンにはゴロゴロいるので、特別うまいなとは個人的には思わないですよね。
- 日本だとアイドルがやるラップとラッパーがやるラッパーは明確に違うと思うんですが、韓国はスタイルの差はないと思うんですよね。
鳥居咲子 - Zicoとかはそういう点では差がないですよね。グループによってはよりアイドル的なラップしかしないグループもあるんですけどメジャーとアンダーグラウンドでシーンが分かれていないっていうのはありますね。2000年代前半とかまではすごく分かれてたんですよ。メジャーで最初にヒップホップが始まって、その後にアンダーグラウンドであれとは違うヒップホップをということでスタートしたんですね。なのでメジャーはTV向けのことをやって、アンダーグラウンドのアーティストはひたすらクラブ向けでって感じだったんですけど、徐々に交流が始まって、最終的に『Show Me The Money』で全部混ざったんですよね。この前『Show Me The Money』で優勝したBewhYなんかは自分で全部ビートも作るしCDの制作や配給も自分でやるけど、チャート上位をとってみたいなことが起こるっていうのは日本じゃ考えにくいですよね。
- 他に韓国のヒップホップでここに注目したら面白いという点はありますか?
鳥居咲子 - 韓国のヒップホップってすごい多様性があるんですよね。ジャジーなシーンもあれば、サウスっぽいシーンもあるし、Loptimistってプロデューサーなんかはラテンやジプシー音楽を取り入れているんですけど、割とポップスと同化しているものも多かったり、EDMとクロスオーバーしてたりとか、音楽的なバラエティーが広いので、ひとくくりに韓国のヒップホップじゃなくて、それぞれの聞き方が楽しめるんですよね。アメリカに比べたらシーンがすごい小さいのに、凝縮されていて多様性があるので、ちょっと聞いただけで判断しないで、いろいろ聞けば必ず自分好みのやつが見つかるんじゃないかなって思います。
歌詞も多様性があって、本のなかでもコラムを書いたんですけど、社会派だったり恋愛物、パーソナルなもの、ストーリーテリング、言葉遊びとかラッパーによって歌詞のスタイルにも特徴があったりして。あと韓国語の音自体も楽しめると思うんで、意味がわからなくても韓国語が紡ぎ出す激しい音だったり、この本のなかでも菊地さんがコラムで書いてたんですけど、韓国語って濃音っていって、パッとかッが入る音があるんですよ。菊地さんがその濃音が入ることによってラップがレイドバックするっていうのを書いていて、それはすごい面白いなと思いました。音の多様性もあるし、スタイルもいろいろあるので、本当に掘り始めると沼なんですよ。
- 本当にラッパーの数が多いですよね。
鳥居咲子 - 人口に比較するとラッパーの数が異常に多いと思います。人口は日本の半分なんですけど、『Show Me The Money』のオーディションに7000~8000人来るんですよ。ラップ人口がすごくて『Show Me The Money』に出てるラッパーは極々一部なんで、『Show Me The Money』きっかけに韓国ヒップホップに出会った人も、いろいろ広げていくといいんじゃないかなって思いますね。逆に韓国のヒップホップはどこが面白いと思いますか?
- 僕は受容のされ方が面白いなと思っていて、日本のアイドルが好きでそこからヒップホップにいきましたっていう人は中々いないと思うんですけど、そこの人の流れ方が面白いなと。K-Pop好きになるとラッパーとかにハマる確率がグッと上がると思うんですよね。
鳥居咲子 - 全然その確率は高いですよね、アイドルヒップホップじゃない、普通のアイドルグループにもラップ担当はいますからね。あと韓国だとラップはクオリティーを追求するっていうのが普通で、日本だとちょっとクオリティー的に甘いものがラップの固定観念として社会的に認知されてるじゃないですか。全然日本のヒップホップを知らない一般の人ってラップに対してまだ抵抗感あると思うんですよね。そうなってくると食わず嫌いになって中々浸透しない。でも最近は良くなってきてると思うんですけど。韓国はラッパー全体のクオリティーが上がっていって、そうなってくるとラップかっこいいじゃんって自然に思いやすくて、ラップに対する抵抗感がないんですよね。
- 鳥居さんが初めて日本でライブを主催したときは周りにファンなんんていないって状況だったわけじゃないですか。
鳥居咲子 - たった3年の間で信じられないくらい状況が変わりましたよね。それこそZion. Tなんて今じゃ大スターですけど、Zion. Tのことを当時blogに書いても無反応だし、その話をする相手もネット上にもいない感じだったんですけど、それがK-Popファンでも知らない人はいないって感じになっているので、こんなに変わっちゃうんだなってくらい変わりましたね。最初の方はどうやって広めたらいいのかなって思って、Twitterで「韓国 ヒップホップ」とかで検索するんですけど誰も呟いてなかったんですよ。いまそれで検索すると1日中ツイートが流れ続けてるし、年齢層も全然若いんですよね。こういう本を出しますってツイートしても、全然知らない人たちが食いついてくれるのが信じられない状況ですよね。8000人のフォロワーにどんだけ宣伝しても無反応だったわけだから(笑)本当に全ては『Show Me The Money』ですね。
- 今後鳥居さんはビジネス的に大きくしていきたいとかはあるんですか?
鳥居咲子 - ないんですよね。好きなことを好きなように続けていきたいなっていう感じなので、ライブは引き続き自分がやりたいライブをやるんですけど、規模感の大きいアーティストをやりたいっていうのは思っていなくて、そういうアーティストはどこかの会社がやってもらいたいです。自分自身がビジネスとして、人を集めてやろうっていう気もなくて、自分の動ける範囲でやっていきたいですね。
個人的な考えで、規模を大きくするとロクなことにならないと思っていて、いろんな人の邪念も入ってくるし、自分の望まない方向にいったりもするし。まあ私自身がすごくアンダーグラウンド志向っていう(笑)自分のやりたいことをマイナスは作らないように地道に着実にやっていきたいって感じですね。『Show Me The Money』のブームもどこかで限界がくると思うので、そのあとも長くシーンに興味を持ってくれる人が増えるよう、こつこつとサイトを更新して、ライブをやっていきたいですね。どんな仕事をしていても、ただ音楽だけで食べていくっていうのは困難だと思うので、生活が辛くなったらまた仕事しながら、マイペースにちょっとしたライブを続けていきたいって思ってますね。
ライブは10/1にまたHi-Liteをやります。OkasianとB-Freeはいなくなっちゃったんですけど、新しく入ったG2とSway Dも来て、スペシャルゲストでHi-LiteをやめたEVOが来ます。私はPaloaltoとEVOのアルバムが誰にでも聴きやすい感じですごく好きで、でもEVOはいなくなってしまったんですけど。今回ゲストとか呼びましょうかってなったときに、EVOなんてどうですかねってなったときにHi-Lite側も同じことを思っていたみたいで、本人に聞いてみようってなって、OKが出てHi-Liteも久しぶりにEVOとできるってことですごい楽しみにしているみたいですね。
ぜひ遊びにきてほしいです。Hi-Liteはアンダーグラウンドでも支持されてるけど、オーバーグラウンドにもフィールできてっていう韓国の今を象徴するレーベルですよね。そろそろこれまでにやっていないアーティストのライブもやりたいんで、いま構想中ですね。これまで来日してなくて誰も呼んでくれないアーティストをやりたいですね。韓国のヒップホップの面白さを自分のペースで伝えていきたいですね。
<Live Info>
Hi-Lite Records: Hi-Life in Tokyo 2016
<出演アーティスト>
Paloalto / Huckleberry P / Reddy / G2 / Sway D / DJ Djanga
Special Guest: Evo
詳細はこちら http://bloomint-music.com/2016/08/05/live-hilite-records-hilife-in-tokyo-2016/
鳥居咲子 :
韓国ヒップホップ情報サイトBLOOMINT MUSICの運営者。幼少期よりピアノと音楽理論を学び、学生時代はロンドンに音楽留学をした。2013年より韓国ヒップホップの来日ライブを手掛けるようになり、以降は韓国ヒップホップに関連した様々な活動をフリーで展開。ブログ『ヴィヴィアンの音楽ヲタブロ。』なども運営。著書に『ヒップホップコリア』。
Twitter : https://twitter.com/sakikovivi